日本経済のトレンドと働き方改革「人生100年時代」/伊藤元重氏

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ライフステージから働き方を考える

人生100年時代が目の前に迫っている。

そう言われても実感がわかない人も多いかもしれないが、自分の周りを見回してもそうした時代が近づいていることが良くわかる。年末に届く喪中の案内を見ても、90代でお亡くなりになる方が結構多い。

より多くの人が元気に長生きできることは素晴らしい。しかし経済的なことを考えると、色々と難しい問題が見えてくる。平均寿命が70歳前後の時であれば、60歳ぐらいまで働き、残りの10年は余生として過ごせた。現役時代の蓄えと退職金と年金で、老後の生活資金の心配はない。

しかし、95歳まで生きることになると、経済的には難しい。23歳から65歳まで働くとすると、42年働くことになる。その蓄えと年金だけで95歳までの30年間の生活費をカバーできるのか覚束ない。年金で生活できれば良いが、少子高齢化に伴い年金の支給額は先細りになる可能性が大きい。政府が進めようとしている年金のマクロ経済スライドは、現役と年金受給者の人口比に応じて年金支給額を調整していくという仕組みである。少子高齢化によって年金支給額が頭打ちになることを意味する。

そこで、65歳で完全に引退するのではなく、70歳ぐらいまでは働き続けるということを考える人が増える。現実にも、70歳ぐらいまで仕事を続ける人は増える傾向にある。働く期間を42年から47年に増やし、老後の引退の期間を30年から25年に減らせば、老後の生活費のやりくりは随分楽になるだろう。それでも老後のための十分な蓄えができるか覚束ないところがある。

何歳まで働くのかということは、人生の中で重要な選択事項である。もちろん健康でなければ働き続けることは難しいだろうから、健康を維持することの重要性は増してくる。働き続ける方が健康を維持しやすいという考え方もある。健康なうちは働くというライフスタイルもあるかもしれない。

何歳まで働くのかということは、個々人の選択の問題である。ただ、そうした個々人の選択が好ましい形で行われる上でも、もっと働き続けたいという国民のニーズに社会や経済が対応できるのかが問われる。

人生100年時代の働き方改革

高齢化による人材不足ということもあり、65歳を超えても雇用機会を提供しようという企業が出てきている。これは結構なことだと思うが、日本の終身雇用・年功賃金の下では、こうした対応だけでは難しい面が多い。現実問題としても、雇用は保証しながら、55歳とか60歳という一定の年齢になると、再雇用などの形で賃金を大幅に下げる対応をする企業が多い。

これは、旧来の雇用制度の上で、高齢化に合わせた対応を無理矢理に行なっている結果だ。個々の企業が既存の枠組みの中で高齢者の雇用機会を提供しようとすることは重要なことだが、企業の対応を超えたもっと社会全体の高齢者雇用への取り組みが必要なはずだ。

一つは、労働者のスキル確保の問題だ。日々変化する技術や経済環境に対応するためには、仕事を持ってからも学び続けるリカレント教育が必要となるが、これは65歳を超えても労働者としての市場価値を持ち続ける上でも非常に重要なことである。

65歳を超えても元気でいる人が増える社会であるとすれば、65歳を超えても社会が求める能力をもち続ける人が増える社会でなくてはいけない。高年齢に達する前の時点で、技能の習得機会を持ち続けることが重要となる。

もう一つは、多様な働き方を広げて行くということだ。上で述べたように、旧来の年功賃金の仕組みの中だけに限定されると、高齢者の働く機会は限定されることになる。ワークシェアリング、テレワーク、兼業の拡大など柔軟な働き方の拡大は日本の労働市場全体の改革にとって大きな課題だが、高齢者の雇用機会確保という点においても重要な意味を持つのだ。

この連載を通じて、働き方改革の様々な側面を取り上げてきた。そこで提示した様々な論点は、人生100年時代の働き方にもそのまま当てはまる。別の言い方をすれば、旧来の働き方に固執していては、100年時代に対応できないのだ。

団塊の世代が70歳のラインを越えようとしている。労働市場での高齢化は今まさにピークとなっている。だからこそ、人生100年時代に向けた雇用改革は待った無しの応対なのである。今改革を進めていくことが、これから100年時代を迎える現役世代にとっても、重要なステップとなるはずだ。

個人的なことを書いて恐縮だが、この原稿を書いている現在、私は67歳の誕生日を迎えた。世間的に見れば微妙な年齢の高齢労働者だ。ただ、他の多くの同年代の方と同じで、老けているわけではない。いまの70歳前後の人は20年前の60歳前後の人と同じくらいのスピードで歩くそうだが、明らかに健康年齢は若返っている。

経済学の研究者という仕事のおかげで、働くことにも不自由は感じていない。自分の職業人生をみると、兼業やテレワークは当たり前だし、学問に追いついて行くために常に新しい知識を吸収してきた。裁量労働で自分の労働時間を自分で管理してきた。要するに今働き方改革で問われている動きは、私の職業の世界では昔から当たり前のように受け入れられてきた。働き方改革を進めて行けば、より多くの高齢者が意欲的に働くことができる社会になれるはずだ。

< 第7回 多様な働き方

> 第9回  外国人労働

著者プロフィール

伊藤元重(いとう もとしげ)

現職 
東京大学 名誉教授
学習院大学 国際社会科学部 教授

税制調査会委員、復興推進委員会委員長、経済財政諮問会議議員、社会保障制度改革推進会議委員、公正取引委員会独占禁止懇話会会長などの要職を務める。
著書に、『入門経済学』(日本評論社、1版1988年、2版2001年、3版2009年、4版2015年)、『ゼミナール国際経済入門』(日本経済新聞出版社、1版1989年、2版1996年、3版2005年)、『ビジネス・エコノミクス』(日本経済新聞出版社、2004年)、『ゼミナール現代経済入門』(日本経済新聞出版社、2011年)など多数。

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