日本経済のトレンドと働き方改革「外国人労働」/伊藤元重氏

From: 働き方改革ラボ

2019年02月08日 07:00

この記事に書いてあること

増え続ける外国人労働者

私たちの周りを見ると、外国人労働者が増えていることを実感する。外食産業やコンビニは留学生のアルバイトなしには機能しない。建設現場や農林水産業の作業は、技能実習生の労働力に頼っている面が大きい。昨年の時点で126万人の外国人労働者が日本国内で働いているという。実際の外国人労働者の数はもっと多いはずだ。

今回、政府は新たな外国人労働の導入の制度を作った。介護や農林水産や建設など、限定された分野での外国人労働者の活用の道を拓こうというのだ。こうした動きに対して、すでにいろいろな問題が出ている外国人労働の利用をさらに広げることは好ましくないというような意見も。

日本の国内で働いている外国人労働は主に4つのチャネルで入ってきている。第1は高度な技能を持つ労働者である。この労働力については日本は積極的に受け入れてきた。大学での教員や高度な技術者などである。このタイプの労働者が日本に入ってくることは一般的に好ましいことである。ただ、高度な技能を持った人は世界中で取り合いであり、日本にやってくる数は限られたものである。

?第2のチャネルは、ブラジルやペルーなどの日系移民の子孫である。こうした人たちが日本で働くことを例外的に認めてきた。一時は自動車関連産業などで多くの日系移民の子孫が働いていたが、最近はその数も頭打ちのようだ。

第3のチャネルは留学生だ。留学生のビザで来た外国人は週に28時間働くことを認められている。それはよいとしても、現実には日本で働くために学生ビザを申請する人も少なくないようだ。

第4のチャネルは技能実習生の制度を利用した外国人労働者の活用だ。この制度の目的は、日本で実習経験を積むことで、技能を身に付けて国に帰ってもらうというものだ。ただ、現実的にはこの制度を悪用して、外国人労働を低賃金で搾取するような事例が少なからず見られるようだ。

最近の外国人労働の増加は、第3と第4のチャネルを通じてのものが多い。しかし、働くために学生ビザを取得するとか、あるいは低賃金で働くための外国人労働者が増えることは好ましいことではない。留学生や実習生のチャネルでの外国人労働者の利用については、抑制的な運用が求められる。

アクセルとブレーキ

少子高齢化が進む中で景気が拡大し、日本の有効求人倍率はかつてないほど高い水準となっている。多くの企業が人手不足で苦しんでおり、外国人労働者を利用したいと考える企業は多い。結果的に、留学生や実習生の制度を利用した外国人労働者の増加が続く結果となった。

こうした実情についてブレーキをかける必要があるだろう。留学生がアルバイトをしたり、日本で技能実習を受ける制度は、それ自体は意味のあるものだ。ただ、それが悪用されて無秩序に外国人労働が入ってくることを抑制する必要がある。

ただ、他方で国内の労働力ではまかないきれない労働については、外国人労働の利用の拡大を進める必要がある。アクセルを踏む必要があるということだ。日本は高い技能を持った労働力については積極的に受け入れてきた。この高い技能を持つ労働者というのを拡大解釈して、日本国内では十分に確保できないが日本に必要な労働力と解釈することだ。

大学の教授のような高度技能人材が入ってくることも日本の利益となるが、深刻な人手不足で十分なサービスが提供できないでいる介護の分野で外国人人材を確保できることの意義も大きい。ここで受け入れるべき人材は、すでに介護などで経験を積んだ人材だろう。その意味で技能を持った労働者だ。日本語の能力で過度な要求をして人材の活用を妨げてはいけない。

日本人の外国人材利用の大きな鍵となるのが、どこまでアクセルを踏むのかという点だ。安易に外国人労働を増やすと、日本人の労働者の賃金上昇を妨げる。労働生産性をひきあげようという企業のインセンティブをも弱める。人手不足については可能な範囲で情報化やロボット化などを進め、労働生産性をあげることを基本として、介護や農業など早急な対応が難しい分野にかぎった外国人労働力の利用とすべきだろう。

最後になったが、以上の議論はすべて外国人労働の利用の話だ。移民政策については、まったく別次元の議論が必要となるが、今回はスペースの制約で、この問題はとりあげないことにする。

< 第8回 人生100年時代

> 第10回  同一労働・同一賃金が目指すもの

記事執筆

伊藤元重(いとう もとしげ)

東京大学 名誉教授
学習院大学 国際社会科学部 教授

税制調査会委員、復興推進委員会委員長、経済財政諮問会議議員、社会保障制度改革推進会議委員、公正取引委員会独占禁止懇話会会長などの要職を務める。
著書に、『入門経済学』(日本評論社、1版1988年、2版2001年、3版2009年、4版2015年)、『ゼミナール国際経済入門』(日本経済新聞出版社、1版1989年、2版1996年、3版2005年)、『ビジネス・エコノミクス』(日本経済新聞出版社、2004年)、『ゼミナール現代経済入門』(日本経済新聞出版社、2011年)など多数。

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