ものづくり統合会社の誕生、One Factoryを旗印に/大嶽充弘氏

From: 働き方改革ラボ

2019年07月04日 07:00

この記事に書いてあること

ひとくちに働き方改革と言っても、課題の性質は千差万別。日本の経済を支える製造業ではどのような課題があり、どのような取り組みを行ってきたのか。NECグループのものづくりを一手に担う、NECプラットフォームズ株式会社 大嶽充弘氏が自社での経験をもとに働き方改革の本質に迫ります。

2017年4月、NECグループのものづくり会社3社と関係2部門をNECプラットフォームズ株式会社に組織統合しました。この結果、NECグループのハードウエア製品の開発・生産機能の過半を超える組織が統合され、工場は国内9拠点、海外3拠点を持つ従業員数9,000人を超える大所帯となりました。長い道のりでしたが、長年、抱えていた個別課題を解決し、未来志向でものづくり事業に取り組める経営環境がようやく整いました。

昨今、あらゆる事業領域での働き方改革が叫ばれ、ホワイトカラーについては、ITツールの活用、テレワークといった新たな手段の導入に脚光が当たっていますが、その本質は、やりがいのある仕事に打ち込む環境を経営が準備し、社員がその環境をフルに活用して実践する風土造りだと思っています。今回の連載で、これまでの経緯を整理し、ものづくり企業における意識と働き方改革の本質を考えてみたいと思います。

災害から学んだシステム・プロセス標準化の重要性

NECグループのハードウエア製品は、長く、IT事業、ネットワーク事業、コンポーネント事業の3領域に分かれて開発・生産されてきましたが、2000年前半にコンポーネント事業を分離し、2010年前半には、IT・ネットワーク領域のB to B領域に注力する経営判断をしました。この意思決定で、ものづくりの開発・生産プロセスが標準化しやすくなったのですが、開発・生産の組織は縦割りで、グループ内連携という域を超えることが出来できませんでした。

IT、ネットワークという事業の垣根を超えて組織統合しようと気運が高まったきっかけは、2011年3月の東日本大震災と同年11月のタイの水害でした。共に、該当地域の工場が被災し、事業継続計画(BCP)を実践するなかで、様々な課題に直面しました。被災した工場の製品を他工場で生産したくても、BOMの構造や生産システムが異なっており、短期間での移管が困難でした。あの時、システムやプロセスの標準化の重要性を痛いほど実感しました。

「One Factory」の誕生

この教訓を契機に、生産プロセスの標準化と組織統合が加速します。2011年、ネットワーク製品の生産3拠点、2014年にはIT製品の開発・生産4拠点を統合しました。また、2工場の生産を終息し、製品を他拠点にシフトしました。残った関係4組織を最終的に統合して誕生したのが現在のNECプラットフォームズです。計画的かつ段階的に統合してきたとはいえ、個々の組織が持つ縦割りの歴史は、意識や行動に大きなギャップとなって顕在化しました。

開発・生産や品質管理に関する用語は同じでも、理解が異なっており、戸惑う場面が多々ありました。そんな事態は一刻も早く解消せねばなりません。そこで社内に向けて掲げることにした旗印が「One Factory」です。全工場のリソースを柔軟に活用して全体最適を目指そうという思いで生まれたコンセプトです。国内外の開発、生産拠点があたかも1つの工場のように振る舞い、常に顧客の困りごとの解決を志向した製品やサービスを提供するという方針を掲げました。

全製品の生産類型を標準化

1つの工場のようにといっても、生産の対象製品は多岐にわたり、生産数量、作り方、必要な設備などは異なります。人工衛星に使用される装置のような一品モノから、ルーターやサーバといった量産品まで幅広いのです。

そこで、全製品の生産類型を作り、分類と標準化を進めました。生産方式をI~IV類に分類し、量産品として生産しているものはI類、一品モノはIV類としました。I類の中で、一部カスタムなどが入るものについてはII類とし、IV類の中で生産に共通部分が含まれるものをIII類と位置付けています。

こうした考え方で、製品を4つに類型化し、I類から?類までの共通点や相違点を理解しながら、標準を作っていきました。標準ができれば、製品によって自在に作る工場を振り分ける、いわゆるロケーションフリーなものづくりができるようになります。

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全工場のシステムを統一

グローバルOne Factoryの実現には、工場間のシステム統一が不可欠です。2014年度からシステム統一の社内プロジェクトを推進してきましたが、2018年5月には国内の基幹系ITシステムを、QMS(品質マネジメントシステム)についても11月に統合を完了しました。仕組みが共有され、リモートでも現場を見る環境ができたので、各工場の実態がわかるようになりました。

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これまで、多岐にわたる類型のものづくりを個々の生産工場主体で進めてきたことから、生産工場に固有の文化が生まれ、同じ用語を使っていても定義や認識が異なっている場合がありました。このような違いを吸収し、NECグループとして統一されたものづくり文化を創らねばなりません。その為に、生産革新活動では、各拠点を横断した横串ワーキンググループ(WG)を作って活動しました。

モジュール(SMT:表面実装技術)WGや物流WGなどそれぞれの工場の持つ生産革新のノウハウをテーマごとにすり合わせて、それぞれの生産性改善につなげる等、言語や基準の共通化による効果が出始めています。

顧客価値軸ですべては決まる

ものづくりの目的は顧客価値の創造です。その実現に向け、3つの軸を意識しています。1つ目は「生産革新(現場)軸」、2つ目は「デジタル(情報)軸」、そして3つ目は「顧客価値軸」です。工場は基本的に生産革新(現場)軸、デジタル(情報)軸の2つの軸で動いています。現場の継続的な改善はこの生産革新軸であり、工場の基本的な能力です。

一方、IoTやAIなどの新しいデジタル技術が発展し、生産革新軸とデジタル軸を組みあわせ、大きな効果を生めるようになってきました。デジタル軸を活用することで、現場の暗黙知が形式知化され、経営陣にも現場の課題が定量的に見えるようになります。ただ、デジタル技術のフル活用が究極のゴールではありません。少量多品種で段取り替えを頻繁に行う製品もあれば、同じものを一定量作るような製品もあります。それぞれで活用するデジタル技術は変わります。

そこで、そもそも、「何のためにデジタル化を進めるのか」を考えたとき、3つ目の軸、顧客価値軸が大変重要と考えます。これらの取り組みは、全て顧客の求める価値を実現するためのものです。顧客価値軸を念頭に置き、それぞれの顧客の求めるQCD(品質、コスト、納期)水準を考えると、自ずと、必要なデジタル技術の中身が決まってくるのです。

One Factoryという旗印の下で

NECプラットフォームズが誕生した背景を説明しましたが、会社全体のパワーを最大化したいという思いが経営層にあっても、現場で働く社員やパートナー企業社員の腹落ちがなければ真の効果は生まれません。One Factory方針に至るまでの試行錯誤や、我々がどんな悩みを抱え、どう解決してきたかという軌跡を次回以降に書き進めていきます。

第2回 意識の改革、「千本桜」の横展開

記事執筆

大嶽 充弘(おおだけ のぶひろ)

1982年4月、日本電気株式会社入社。NECパーソナルプロダクツの資材部長、日本電気のソフトウエア資材部長を歴任し、2012年4月に同社執行役員(サプライチェーン統括ユニット担当)に就任。その後同社執行役員常務(サプライチェーン統括ユニット長)を経て2018年、NECプラットフォームズ取締役執行役員専務に就任し現在に至る。

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