意識の改革、「千本桜」の横展開/大嶽充弘氏
2019年08月08日 07:00
この記事に書いてあること
ひとくちに働き方改革と言っても、課題の性質は千差万別。日本の経済を支える製造業ではどのような課題があり、どのような取り組みを行ってきたのか。NECグループのものづくりを一手に担う、NECプラットフォームズ株式会社 大嶽充弘氏が自社での経験をもとに働き方改革の本質に迫ります。
第1回では災害をきかっけに、全社的なシステムやプロセスの統一の重要性を学び、One Factoryという旗印の誕生についてご紹介いただきました。
お客様との共創による社員の意識変
2012年、お客様との共創(コラボレーション)活動を始めることにしました。それまでは、社外に公開することがなかったNECグループ内で実践してきたものづくりの経験やノウハウを、社外の目で評価していただき、更に飛躍したいと思ったのです。
生産革新やグローバルサプライチェーン改革推進に必要なノウハウやアセットを提供する「NEC ものづくり共創プログラム」を開始しました。そのコンセプトに共感頂き、研究グループに参加頂いている会員は3,847名(2019年6月末時点)に上っています。
こうした活動の結果、お客さまに当社の工場を見学いただく機会が劇的に増加し、ものづくりに従事する社員の意識も大きく変化しました。挨拶が徹底され、説明力が飛躍的に向上しました。
時々、私自身も海外からのお客様をお連れするのですが、持ち場を分担しながら、英語で説明している各担当者の姿に眩しさを感じます。
B to B事業においては、工場や社員も商品の一部だということを徹底しており、お客様の期待を超える現場作りが事業拡大の重要な要素なのです。
2015年からは、工場内IoTの実証活動に取り組み、翌年から、私共の中で蓄えた各種ソリューション「NEC Industrial IoT」の提供を開始しています。
2018年にはデジタルトランスフォーメーションをベースにした未来のものづくり工場の姿を提唱し、現在、多くのお客様と議論を交わしております。工場のIoT化は、こうした流れを意識して推進し、自社のノウハウとして日々蓄積し続けています。
実証活動がソリューションになるまで
そうした取り組みの中でも、特に印象に残っているのは、VoiceDoと呼ばれる音声ガイドによる検査結果の実績収集システムです。私たちの工場では、多くの検査工程で紙シートが使用されていました。作業者は、通常、検査が終わるとチェックマークします。
VoiceDoでは、テキスト化された検査項目をサーバに記憶させ、音声サーバが作業者にメッセージを伝えるのです。レシーバとマイクロフォンを実装している作業者は、その工程が終わると、マイクロフォンに向かってOK or NGを言って音声でスタンプを残します。
その結果、多くの紙シートが、音声を介したデジタルデータに置き換わりました。IT技術の進歩は素晴らしく、作業者の音声が残した結果で1日の作業結果の分析や、複数の作業者間での生産性の比較などが可能になりました。
これもものづくり現場における働き方改革の一つでしょうが、それを実現するための技術を現場に実装するのは容易ではありません。
VoiceDoを現場に適用した当初、工場内の騒音で、作業者の音声認識率はとても低かったのです。工場内のノイズを除去するために、ソフトウエアを開発していたエンジニアが約1年間、工場に住み込み、機械の音と人間の声を分け、前者をノイズとして除去しました。そうした努力の結果、VoiceDoが利用可能なソリューションになったのです。
2017年には、いくつかの技術が追加されました。生産現場に沢山のセンサーが付けられ、センサーを介した情報がクラウド層に上がって、現場管理ダッシュボードになりました。2018年には、プラスチック成形品の成形最適条件を探るために異種混合学習が適用され、更に、みずすましを無人搬送車(AGV)に置き換えて構内物流を効率化する活動が進みました。こうしたソリューションをフルに活用したモデルラインでは、2014年比で、生産性が約50%向上しています。
今後も継続的にこうした施策を積み増していきます。
「千本桜」活動の広がり
組織統合前の2015年から福島事業所で始まったのが、各部門のKPI進捗を一面に表現した「千本桜」です。この千本桜は、改善施策ごとに着手から完了まで段階的に色分けし、施策完了時点以降を桃色(桜)で表示、効果の刈取り期間を桃色の面積で表現しました。この活動を通じ、「千本の桜を早く満開にしよう!」と部門・社員の目標達成に向けた意識が変わりました。
2017年に現NECプラットフォームズが発足した時、生産を統括する横軸の本部を設置しました。各事業所の幹部が施策点検をした際、全員の目に止まったのがこの「千本桜」です。早速、全事業所へ横展開することを決め、その年度の下期には完了していました。2019年、国内7事業所合計で8,600本を超える施策、海外の3現地法人を加えると、10,000本を超える施策が立案され、全員参加でその全てを満開にする活動を進めています。
全員一体となってやりがいを生み出す
VoiceDoのような最新技術の適用や「千本桜」に代表されるボトムアップの改善活動の取り組みの動機は様々ですが、結局、全員でやりがいのあるものづくりに従事したいという思いが底流にありました。マネジメント層が変革のきっかけを作ったイベントもありましたが、社員の本気度が無ければ、このような成果は得られませんでした。トップ、ミドル、現場が一体になれば真のやりがいを生むことができる。組織統合に伴う様々な横串活動を通じて、そう確信しました。
< 第一回 ものづくり統合会社の誕生、One Factoryを旗印に
> 第三回 「品質問題予防集会、過去の失敗を将来の成功の教訓に」
記事執筆
大嶽 充弘(おおだけ のぶひろ)
1982年4月、日本電気株式会社入社。NECパーソナルプロダクツの資材部長、日本電気のソフトウエア資材部長を歴任し、2012年4月に同社執行役員(サプライチェーン統括ユニット担当)に就任。その後同社執行役員常務(サプライチェーン統括ユニット長)を経て2018年、NECプラットフォームズ取締役執行役員専務に就任し現在に至る。
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