時間外労働に罰則付きの上限規制が導入。その対応策とは?
2018年10月19日 07:00
この記事に書いてあること
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時間外労働の罰則付き上限規制の導入
働き方改革関連法の成立により、時間外労働について、罰則付きの上限規制が導入されました。これは、時間外労働規制をより厳格にし、長時間労働を是正することを目的としたものです(施行期日は2019年4月1日(中小事業主は2020年4月1日)です)。
時間外労働の罰則付き上限規制の具体的な内容は、以下のとおりです。
従来は、いわゆる過労死基準を大幅に超えるような時間外労働を可能とする特別条項(例えば、「月170時間(年6回まで)、年1000時間」の時間外労働を可能とする特別条項)付きの36協定の届出も可能でしたが、法改正後は、このような36協定の締結・届出を行うことはできなくなります。
また、改正法の上限規制に違反した場合には、罰則(6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が企業に科されます。
企業の対応策
従前から、労働時間を適切に管理し、長時間労働を是正していくことが企業に求められていました。企業がこれを怠った場合には、労働者からの未払い残業代請求や安全配慮義務違反の損害賠償請求などの法的リスクが顕在化し、企業が多大な負担を負うことになります。
法改正後はこれまでの法的リスクに加え、上限規制違反による罰則が科される可能性がありますので、今後、企業には、より一層、適切に労働時間管理をし、長時間労働を是正するための必要な対応策を講じることが求められます。
(1) 労働時間管理方法の見直し
そもそも、毎月どのくらいの時間外労働を労働者が行っているかを企業が把握していなければ、法律上の上限規制に違反しているかどうかを確認することすらできません。
そのため、現時点においてタイムカード等の客観的記録に基づく労働時間管理を行っていないということであれば、早急に労働時間管理方法の見直しをすべきです。
労働時間管理方法の見直しをするにあたっては、「パソコンの使用時間」についても注意をする必要があります。
厚生労働省のガイドラインにおいては、「パソコンの使用時間」が労働時間に関する記録として重要視されています。また労基署が違法な時間外労働の有無を調査するにあたっては、タイムカードのみならず「パソコンの使用時間」の記録の提出を求めてくることがあります。
そのため、企業はタイムカードによる労働時間管理方法を採用している場合であっても、タイムカード上の労働者の入退室の記録と、「パソコンの使用時間」の記録とに齟齬がないかを把握することが望ましいといえます(この意味では、「パソコンの使用時間」と連動した勤怠管理システムの導入も一考に値します)。
(2) 36協定の見直し
現時点において、改正法の上限規制に抵触する内容の36協定の届出をしている場合には、施行期日までにこれを見直す必要があります(厚生労働省のホームページには、法改正後の上限規制に対応した36協定のサンプルが掲載されています)。
なお、36協定の見直しとともに、人員や人事配置についても見直しを行い、改正法上の上限規制の範囲内に収まることができるような体制を整備していくことも重要です。
(3) 時間外労働の抑止方法
企業が、労働時間管理方法の見直し及び36協定の見直しを行っても、労働者の意識が変わらなければ、これまでと同じように長時間労働を行ってしまい、法律上の上限規制に違反してしまう可能性は否めません。
そのような事態を防ぐための方法として、まずは企業の経営者等が、時間外労働を削減していく旨の通知文を出すなどの方法により、長時間労働是正に向けた正しいメッセージを社内に周知していくべきです。
長時間労働の是正のための具体的な方法としては、時間外労働を行う場合のルールを厳格化することが考えられます。例えば、これまで時間外労働に関して事後届出制を採用していたのであれば、これを事前許可制に変更し、上司による適正な管理の下、不必要な時間外労働を削減していくべきです。
このような対応策を講じても、労働者が長時間労働を行ってしまう場合、個別に残業禁止命令を出すことも考えられます。
最後に
働き方改革を踏まえた労働時間管理の見直し等が企業にとって負担増の側面を有することは否定できません。しかし、これを前向きに捉えれば、無駄を省き、かつ限りある人的資源を重要な事業分野に集中させる絶好の好機ともいえるのではないでしょうか。
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記事執筆
田村裕一郎(たむら ゆういちろう)
多湖・岩田・田村法律事務所 パートナー。弁護士、ニューヨーク州弁護士。第一東京弁護士会(元)労働法制委員会委員。
著書に、「未払残業代請求への解決策と予防策」(労働調査会)、「裁判例を踏まえた病院・診療所の労務トラブル解決の実務」(日本法令)などがある。
柴田政樹(しばた まさき)
多湖・岩田・田村法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会所属)。
労働訴訟、労働審判手続、団体交渉等の労働案件を多数担当。
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