日本の労働時間が世界と比べて長い理由とは? リスクや対策方法を解説

From: 働き方改革ラボ

2022年10月27日 07:00

この記事に書いてあること

働き方改革が推進され、2019年4月には時間外労働の上限規制が設けられました。しかし、それでも過労死や労働環境の悪化などの問題はいまだになくなりません。なぜそのようなことが起こってしまうのでしょうか。

今回の記事では、世界の労働時間と比較しながら、日本の労働を見直し、改善策を考えていきましょう。

※2021年6月に公開した記事を更新しました

世界と比べた日本の労働時間

はじめに、OECD(経済協力開発機構)発表の統計データをもとに、世界主要国と日本の労働時間を比較していきましょう。

日本の労働時間は世界28位

OECD(経済協力開発機構)発表の統計データより作成

OECDの2021年度の労働時間ランキングによると、日本の年間労働時間は世界28位の1,607時間でした。

世界1位のメキシコ(年間2,128時間)と比較すると、415時間も少なくなっていることがわかります。また、隣国の韓国は世界3位で年間1,915時間と、日本と比べておよそ1.2倍も長くなっています。

2016年度の労働時間ランキングでは、日本は22位の1,713時間だったため、5年間で100時間ほど削減されていることがわかります。

しかし、上記のランキングには短時間労働者や非正規雇用なども含まれているほか、サービス残業は計上されていないことに注意が必要です。グラフを見ると日本の労働時間は減少傾向にあるように見えますが、果たして本当に問題はないのでしょうか?

労働時間減少の理由は「短時間労働者」の急増

OECDの2021年の調査によると、全就業者のうちの短時間労働者の割合は、日本の場合、世界3位の25.6%であることがわかりました。この調査結果から、日本は、世界的に見ても短時間労働者の占める割合が高いと考えられます。

OECD(経済協力開発機構)発表の統計データより作成

また、日本経済団体連合が2020年に発表した『2020年 労働時間等実際調査』によると、フルタイムの一般労働者の実労働時間は年間平均2,000時間でした。一方、同年に総務省が発表した『毎月勤労統計調査 令和2年分結果確報』によると、短時間労働者の総実労働時間は平均で年間951時間と、一般労働者と短時間労働者の年間平均労働時間の差は約1,049時間であることがわかります。

さらに、2022年6月の労働力調査によると、雇用者の総数とされる6,048万人のうち短時間労働者と考えられるアルバイト・パート労働者の総数は1,466万人と、およそ4分の1を占めています。このことからも、短時間労働者が近年で急増したことによって日本の労働時間が少なく計算されるようになったと考えられるのです。

労働時間あたりのGDPは上昇している

次に、労働時間あたりのGDPについて見ていきましょう。

労働者ひとりあたりの付加価値を全労働者の労働時間で割り、労働生産性をあらわした『労働時間あたりのGDP』によると、2008年の日本は92.6ドルだったのに対して、2021年には103.9ドルと、10ドルほど増えていることがわかりました。

世界各国の平均値よりは下回ってはいますが、労働生産性が上がっていることが反映されています。よって、たとえ少ない労働時間であっても、時間内に成果を出す労働者が増えており、効率を重視した働き方に移行していることが考えられます。

女性は無償労働時間が長い傾向にある

次に、無償労働時間のデータを見ていきましょう。無償労働時間には、家事や育児、介護などが含まれます。

OCED発表の2020年度の世界の無償労働時間を見ると、男性が136分なのに対し女性は262分と、各国でも男女間で差が開いていることがわかりました。日本の場合、2014年には女性の無償労働時間が世界の平均以上だったのに対し2020年には224分と平均を下回っており、その分女性の有償労働時間が増えていると考えられます。

ただし、現在においてもパートタイム労働者の約7割を女性が占めており、雇用形態における男女差はいまだに問題となっています。働き方改革や、後述する時間外労働の上限規制などが進んでも、男女の雇用形態の不平等さに関する課題はまだ解決されていないといえるでしょう。

日本の労働時間が長い2つの理由とその対策方法

年々減少しているとはいえ、世界と比べると日本の労働時間は長い傾向にあると考えられます。それでは、なぜ日本の労働時間は長くなってしまうのか、解説していきます。

一人ひとりの業務量が多い

そもそも従業員一人ひとりの業務量が多い場合、労働時間が長引いてしまうのは当然のことです。従業員の能力に見合わない、または、労働時間内に業務を終えられない原因は、マネジメントにあります。個人の能力とかけられる時間に見合った仕事を割り振りましょう。

新型コロナウィルス対策におけるテレワーク導入によって柔軟な働き方が可能になった反面、私生活とのメリハリをつけづらくなったことで業務効率が下がっている企業もあるでしょう。業務が期間内に終わらないのは業務量の問題なのか、従業員の自己管理能力の問題なのか、見極める必要があります。

残業代を目当てに働いている人もいる

消費税の増額や物価の上昇によって経済状況が圧迫し、残業代を生活費の足しにする人がいるのも事実です。本来であれば法定労働時間内に終わる業務を、あえて時間をかけることで残業代をもらおうとしているのです。

その理由として、残業代の割増率が高いことが考えられます。残業代の割増率は25%で、深夜に及ぶとさらに25%、つまり合計50%割増されます。

労働時間が長引くのは、先述したようにマネジメント不足なのか、残業代を目当てにしているのか、見極めることが必要です。

長時間労働がもたらす2つのリスク

次に、長時間労働がもたらす危険性について解説します。

過労死の危険性が増える

まずは、過労死発生の危険性が考えられます。長時間労働によって心身に負担がかかり、病気になってしまったり、自ら命をたってしまったりするケースが後を絶ちません。

厚生労働省発表の令和3年度『過労死等の労災補償状況』によると、過労死等に関する請求件数は3,099件と、前年度と比べて264件も増加し、そのうち801件が支給決定対象として認められていることがわかりました。

ここで言う「過労死等」は、過労死等防止対策推進法第2条によって「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする脂肪若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは精神障害」と定義されています。

801件の支給決定件数のうち、過労死や自殺未遂件数は136件となっています。

厚生労働省の『過重労働による健康障害を防ぐために』では、時間外労働が月100時間超、または2~6ヶ月平均で80時間を超えると健康障害リスクが高くなると言われています。従業員を守るためには、労働時間の削減が求められます。

ただし、過労死の原因すべてを労働時間のせいにしてはいけません。労働時間が減少している一方で過労死の件数が増えていることを見ると、従業員が心身の不調をきたす原因は長時間に及ぶ労働に限らないことがわかります。ハラスメントなどの対策も検討しましょう。

離職率があがる

長時間労働によって従業員に負担がかかり離職率があがることも、企業存続にとって大きなリスクになります。

厚生労働省発表の令和3年度『過労死等の労災補償状況』によると、精神障害による労災請求件数は2,346件で、前年度に比べて295件も増加しています。支給決定件数のなかには、上司などからのパワーハラスメント、業務内容・業務量の変化などが多く、職場の環境に問題があったと捉えられます。

これらが原因となり離職率があがると、残った従業員が業務を補填しなければならなくなり、新たな負担を生んでしまいます。労働時間を減らすことはもちろん、従業員のメンタルケアや働きやすい環境づくりが求められます。

日本の長時間労働を削減するための法改正の概要

2019年4月には、長時間労働を削減するために時間外労働の上限規制が設けられました。具体的にどのような改正が行なわれたのか、見ていきましょう。

長時間労働の目安は1日8時間以上

労働基準法では、法定労働時間を1日8時間・1週間で40時間と定めています。そのため、長時間労働の目安は法定労働時間を超えた場合と見なすことができます。

とはいえ、繁忙期や職種によっては法定労働時間を守るのが厳しい場合があります。そのため、多くの企業が、労使での合意のもと時間外労働が認められる『時間外・休日労働に関する協定届』に則って業務を進めています。

時間外労働の上限規制

『時間外・休日労働に関する協定届』は一般的には『36(サブロク)協定』と呼ばれており、以前は届出をしていれば時間外労働が無制限に認められていました。しかし、2019年4月の法改正により、たとえ届出をしたとしても上限規制を守らなければいけなくなりました。

具体的には、「時間外労働が年間720時間以内」「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満」「時間外労働と休日労働の合計が、年間2~6ヵ月、月平均80時間以内」「月45時間を超えることができるのは年間6ヵ月まで」という制限を守る必要があります。

2019年4月からは大企業が、2020年4月からは中小企業にも適用されているため、労働時間はさらに減ると考えられます。

日本の労働時間を減らすための3つの対策

たとえ法改正によって時間外労働時間が規制されたとしても、サービス残業の削減や労働環境の改善には直結しません。企業内で労働時間を減らすためには積極的な取り組みが求められます。

そこで、日本の労働時間を減らすための3つの対策方法をご紹介します。

労働時間を管理する

長時間労働を削減するためにもっとも有効なのが、労働時間を管理する方法です。自己申告では把握しきれない労働時間を可視化することで、現状を見直すことができます。

その際に有効なのが、勤怠管理システムの導入です。勤怠管理システムでは、従業員ごとの労働時間を可視化できるだけではなく、休暇の申請・承認、スマートフォンからの打刻など、多様な機能が付いています。

システムのなかには、時間外労働に関するアラート機能がついているもの、業務形態に応じて自社に合わせたカスタマイズができるものなどもあります。

まず労働時間を認識しなければ、問題点の発見・改善はできません。自己申告制に頼らず、正確な労働時間を測りましょう。

経営トップが発信する

労働時間を削減するためには、経営者や上司が積極的に行動しなければなりません。企業によっては、毎日の朝礼で共有する、上司から声かけするといった対策を講じています。上司にあたる存在が労働時間を削減する姿勢を見せることで、部下にあたる従業員にも浸透していくのです。

また、マネジメント職の研修を行なうことも有効です。従業員の能力に応じて仕事を割り振ることで業務効率化もできるほか、働きやすい環境づくりにもつながります。

ストレスチェックを行なう

従業員が現在受けているストレスを可視化する、ストレスチェックも有効です。

長時間労働が恒常化した環境では、従業員本人も自身のストレスに無自覚なまま溜め込んでいる可能性が考えられます。そのため、アンケート形式の検査で従業員がどのくらいストレス受けているのか確認し、労働時間と見比べながら業務の改善を行なうことが必要です。

ただし、先述したように、従業員の負担につながるのは長時間労働だけとは限りません。人間関係や働きがいなど、考えられるさまざまな要因を踏まえて労働環境を改善していきましょう。

企業の労働時間削減のための取り組み事例

最後に、労働時間削減のための取り組み事例をご紹介します。

システムの開発で生産性が向上

新潟県で金属屋根部品の製造を担っている株式会社サカタ製作所では、とある講演会で長時間労働による弊害について指摘されたことをきっかけに、働き方を見直すようになりました。

具体的には、新しいシステムを開発し見積もりの時間を削減したほか、根幹となる業務を管理するためのシステムを刷新することで、受注状況を確認しながら生産計画の作成が行なえるようにしました。

結果、これまで3日かかっていた業務時間が5分に短縮され、平均残業時間が17時間削減されました。

プランを絞ったことで業務を効率化

広島県で建設業を営む株式会社マエダハウジングは、顧客へのプランや見積書の作成に時間がかかり、社員の時間外労働が前提となっていたことが課題となっていました。

そこで業務内容を見直し、まずはリフォームのプランを5つに絞ることを決意。プランごとにモデルルームを用意することで完成後のイメージが湧きやすくなり、顧客の満足度も維持できました。

プランが限定されたことで見積書作成が簡略化され、業務の効率化が向上した結果、平均残業時間を40%削減できました。

人手不足を解消するために、業務を平準化

鳥取県でハウジング工事などを担当している馬野建設株式会社は、若年層の入社希望が少なく、人手不足に問題意識を持っており、業務体制を見直すことを決めました。

まずは業務の平準化を目指そうと、従業員に残業計画表の提出するよう義務化。見込み残業時間が月60時間を超えそうであれば、人員を新たに投入し、労働時間に偏りがないよう意識しています。

2年で残業時間が14時間ほど削減できた上に、従業員の働き方への意識も向上し、年次有給休暇の取得率は約20%向上しました。

まとめ

業務の生産性が向上することで、労働時間は減っていくはずです。まずは残業時間の長さが評価に繋がる環境の改善が必要といえるでしょう。業務の流れを可視化し、現状を把握することが、働きやすさや従業員の定着率向上にもつながります。

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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