柔軟な勤務形態とは? 雇用形態との違い、メリットや事例を解説

From: 働き方改革ラボ

2023年02月02日 07:00

この記事に書いてあること

働き方改革や新型コロナウイルスの影響によって、テレワークや時差出勤制などさまざまな勤務形態を導入する企業が増えています。しかし、なかには柔軟な働き方を用意することで、勤務時間の管理や社内への浸透など負担が増えるのではないかと感じる人もいるのではないでしょうか。

柔軟な勤務形態を整えることでどのような効果があるのか認識した上で、適切に導入することが大切です。この記事では、似た用語である「雇用形態」との違いやメリットを解説。あわせて事例も解説するので、ぜひご参照ください。

勤務形態(体系)とは? 雇用形態との違い

代表的な勤務形態をご紹介する前に、まずは勤務形態(体系)と雇用形態の違いから解説します。

勤務形態(体系)とは

勤務形態(体系)の定義は、勤務する日程や時間帯・頻度といった従業員の「働き方」です。具体的には、固定時間制なのかシフト制なのか、常勤なのか非常勤なのかなど、企業において従業員がどのような働き方を選択できるのかをあらわします。

また、とくに決まりはありませんが、似た用語である「雇用形態」との区別をつけるために「勤務体系」と呼ばれることもあります。

勤務形態制度の変遷

勤務形態は、どのような変遷を辿っているのでしょうか。

古くから日本で広くみられる勤務形態の制度といえば、固定勤務制度です。一方、季節などで繁閑の差がある企業では、労働時間を調整できる変形労働時間制が設けられている場合もあります。また、労働時間の把握が難しい業務や、専門性が高く流動的な労働環境で働く業務に対しては、裁量労働制(みなし労働時間制)という制度もあります。

昨今ワーク・ライフ・バランスを見直す機運が高まっていることから、フレックスタイムや時差出勤といった柔軟な制度も登場しています。さらに育児・介護休業法によって、育児休暇や短時間勤務などの制度が義務付けられるなど、日本では現在、勤務形態の多様化が急速に進んでいます。

勤務形態と雇用形態の違い

一方、雇用形態は会社と労働者間での「雇用契約」に関する用語です。雇用形態には、正社員や契約社員、アルバイトなどが含まれます。勤務形態と雇用形態は似た用語なので混同してしまいがちですが、定義が異なるので注意しましょう。

勤務形態(体系)と雇用形態の違いの図

雇用形態はおもに2種類

雇用形態は大きく分けると「正社員」と「非正規社員」の2種類があります。

1.    正社員

まず1つ目が、正社員です。正社員は企業と直接「正規雇用」契約を結んだ社員のことをいい、原則として雇用期間の定めがないフルタイム勤務の雇用形態を指します。ここでいうフルタイムとは、1日8時間、1週間に5日間の勤務時間を意味することが多いです。また、近年では正規雇用で短時間の勤務を選択できる契約も誕生しており、そのような場合は「短時間社員」と呼ばれます。

2. 非正規社員

2つ目は、非正規社員です。非正規社員は、正社員以外の雇用形態をあらわし、具体的には、契約社員、派遣社員、パート・アルバイトが該当します。一般的に、パートは主婦層、アルバイトは学生と考える人が多いかもしれませんが、パートとアルバイトは法律上では同じ意味です。正社員が月給で計算されることの多い一方で、非正規社員は時給で契約することが多いのも非正規社員の特徴といえるでしょう。

代表的な勤務形態とは? メリットと注意点

続いてこの章では、代表的な勤務時間制度について紹介します。勤務形態と雇用形態との違いを明確にした上で、勤務形態にはどのようなものがあるか理解することで、自社にあった働き方を用意する一歩につながります。

1. 固定時間制

1つ目が、固定時間制です。固定時間制は、労働基準法で定められている働き方で、勤務時間の原則が設けられています。具体的には、1日8時間、週40時間の法定時間が規定されており、一週間で1日以上、または4週(一ヶ月)に4日以上の休日を与えなければなりません。いわゆる正社員に該当することが多い働き方です。

固定時間制はあらかじめ給与計算がしやすいというメリットがある一方で、残業代には割増賃金を支払わなければならず、季節によって繁忙期とそうでない場合に置いても給与の計算方法をコントロールできない点に注意が必要です。

2. 変形労働時間制

2つ目が、変形労働時間制です。変形労働時間制とは、繁忙期や閑散期によって労働時間をコントロールできる制度で、具体的には、一週間・一ヶ月・一年間での労働時間の平均値を算出し、法定の1日8時間、かつ週40時間の範囲内であれば、ある日やある週にこれを超えても、残業代は生じません。

この制度では、そこまで時間に捉われることなく働けるので、時期によって忙しさに差がある企業にメリットがあります。また、労働者にとってもメリハリのある働き方が実現できる制度といえるでしょう。

3. フレックスタイム制

3つ目が、フレックスタイム制です。フレックスタイム制とは、あらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者自らが毎日の始業、終業時刻を調整できる制度のことをいいます。

この制度は、勤務時間内に必ず働かなければいけない時間帯(コアタイム)を設ける「フレックス制」と、コアタイムがなく全て自由に出退勤を決める「完全フレックス」の2つのタイプに分かれます。

フレックスタイム制は、エンジニアやWebデザイナーといったクリエイティブな業種に適用されることが多く、時間に縛られずパフォーマンスが発揮できるのがメリットです。ただし、自己管理が不得手な労働者の場合、この制度がモチベーションや集中力の低下につながるというリスクも。制度の適用は、業務の内容に加え、それぞれの適性も加味して判断するのが妥当でしょう。

4. 裁量労働制(みなし労働時間制)

4つ目が、裁量労働制です。裁量労働制は、フレックスタイム制と混同しがちですが、契約締結時に労使協定や労使委員会の決議によって定めた一定時間を労働時間とみなすところに違いがあります。

裁量労働制には、事業所の外で働く営業職の労働者などを対象とした「事業場外みなし労働時間制」と、特定の専門職の労働者に適用される「専門業務型裁量労働制」、企業経営など中核を担う部門での「企画業務型労働裁量制」の3種類があり、それぞれの適用には職種などによる判断基準が存在します。

厚生労働省が行なった「裁量労働制等に関するアンケート調査」によると、導入によって「効率よく仕事を進めるように従業員の意欲が変わった」「従業員のモチベーションが向上した」などのメリットがあることがわかりました。

裁量労働制を導入した結果についてのアンケート結果の表

自身の能力を使う職種だからこそ、成果が出やすい日とそうでない日に違いも出てくるので、このような働き方は双方にとってメリットがあると考えられます。ただし、適用できる職種が限られていること、導入に事務手続きが必要なことに注意しましょう。

5. 時差出勤制

5つ目は、時差出勤制です。時差出勤制もフレックスタイム制と似た制度になりますが、企業側が1日あたりの実労働時間を設定し、その時間を守る範囲で労働者が出退勤時間を選ぶ点が違いになります。

時差出勤制は通勤ラッシュを避ける目的で設けられるもので、複数の候補から適した勤務時間帯を選びます。フレックスタイム制とは異なり労働時間を毎日変えることはできませんが、出勤時の心身の負担を和らげる制度といえるでしょう。ただし、出勤・退勤の時差があるため、他の従業員との連携をとりづらい点は注意が必要です。

6. 育児短時間勤務

6つ目は、育児短時間勤務です。育児短時間勤務は、2009年の育児・介護休業法の改正により企業に導入が義務付けられた制度で、1日の所定労働時間が6時間に定められ、仕事と子育ての両立を目指すものです。原則3歳に満たない子を養育する労働者が対象ですが、就学前の6歳までに延長することが努力義務とされています。

育児短時間勤務を導入することによって従業員のワーク・ライフ・バランスの実現に近づき、人材定着の効果も期待できますが、従業員のなかには不平等に感じる人がいるかもしれません。

7. テレワーク

7つ目は、テレワークです。ここまでは労働時間に関する制度でしたが、こちらは働く場所に関わる制度です。新型コロナウイルスの影響で導入する企業が増えており、出社とテレワークを併用するところもあります。柔軟な働き方のひとつとしてもっとも注目を集めている制度といえるでしょう。

東京都産業労働局の「多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)」によると、テレワークのメリットとして、感染症対策はもちろんのこと、通勤時間・移動時間の削減、業務への集中力の向上が挙げられました。

デスクワークのメリットについての回答

しかし一方で、テレワークでは出勤がなく、直接コミュニケーションが取れないため、テキストコミュニケーションや電話など工夫し、連携をとる姿勢が求められます。

企業が柔軟な勤務形態制度を用意する3つのメリット

ご紹介したように、勤務形態はさまざまです。それぞれの違いを明確にし、自社の職種にあった制度を導入することが大切といえます。

とはいえ、特定の勤務時間に慣れている企業のなかには、さまざまな制度を用意するメリットを感じられない人もいるかもしれません。そこでこの章では、企業が柔軟な勤務形態(体型)制度を用意する3つのメリットを解説します。

1.     業務効率化につながる

1つ目のメリットが、業務効率化につながることです。

職種や生活スタイルによっては、特定の勤務形態だけではワーク・ライフ・バランスを維持できず、集中力が持続しないことも考えられます。そのため、決められた時間にきっかり拘束されてしまう固定時間制よりは、裁量労働制やテレワークのようにメリハリをつけられるほうが集中力も増し、業務効率化につながるといえるでしょう。

具体的には、移動時間を削減でき私生活とのメリハリをつけられる、自分のタスクをコントロールしなければならないので自己管理能力が上がり、効率よく仕事を続けられるなどのメリットを得られます。

2.     働き方改革が推進される

2つ目のメリットが、働き方改革が推進されることです。

2018年6月に策定された「働き方改革法案」によって、企業に長時間労働の見直しや職場環境の改善が求められるようになりました。柔軟な勤務形態を整えることで働き方改革が推進される上に、働き方改革に積極的に取り組んでいるとアピールすることで人材の確保につながるというメリットも得られるのです。

3.     さまざまな人材を採用できる

3つ目のメリットは、さまざまな人材の採用につながることです。2つ目のメリットで述べた働き方改革の影響もあり、仕事を選ぶときに勤務形態をチェックする就職希望者が増えています。柔軟な働き方を選択できることはワーク・ライフ・バランスの維持にもつながるため、積極的にアピールすることで人材の確保に効果があるといえるでしょう。

また、フレックスタイム制や裁量労働制で働くには、従業員の自己管理能力が求められます。自己管理に自信がある、優秀な人材と出会える可能性が上がるのもメリットです。

企業が勤務形態制度を増やすときの2つの注意点

続いて、企業が勤務形態制度を増やす際に気をつけたい注意点を解説します。複数の勤務形態を用意することで得られるメリットはたくさんありますが、同時に注意点もあります。これからご紹介する注意点を念頭に置きながら導入することで、リスクを避けられるかもしれません。

1.     労働時間をしっかり管理する

1つ目の注意点が、労働時間をしっかり管理することです。たとえば、社員Aが固定労働時間制を導入、社員Bが裁量労働制を導入している場合、契約も違えば、実際の勤務時間も変わります。それぞれを混同したり、管理漏れが起きたりしないよう、勤怠管理システムを導入する等対策を練ることが大切です。

2.     導入にあたって社内の浸透に時間がかかる

2つ目の注意点として、導入するにあたって社内の浸透に時間がかかることが挙げられます。さまざまな働き方を用意するメリットはたくさんある一方、管理に手間がかかるのは負担になります。そのため、社内のなかには導入を懸念する人がいるかもしれません。

導入にあたって理解を得るためにも、先述したメリットを説明したり、数値的なデータを根拠として提示したりすることが大切です。また、職種によって必要な勤務形態も変わるため、いきなりたくさんの制度を整えるのではなく、必要だと感じられるものから試験的に導入し、見直していくことが必要といえるでしょう。

企業が柔軟な勤務形態を実現した事例

これまで、勤務形態を用意するメリットや注意点を解説してきました。では実際に、企業はどのように導入し、柔軟な働き方を実現してきたのでしょうか。最後に、企業が柔軟な勤務形態を実現した事例を紹介します。ぜひ参考にしてみてください。

ダイヤモンドメディア株式会社

不動産企業向けITシステムの開発を手掛けるダイヤモンドメディア株式会社は、意思決定の権限が個々に分散した自走可能な組織を実現させる「ホラクラシー(分散型・非階層型)」体制を採用しています。上下関係やマネジメントが存在せず、全員がフラットな関係で仕事をするための体制ですが、働く時間に関しても労働者に全決定権があり、柔軟な勤務形態を実現しています。

日本航空株式会社(JAL)

日本航空では、仕事(work)と休暇(vacation)を組み合わせた造語「ワーケーション」制度を採用しています。これは、国内外のリゾート地や帰省先、地方でのテレワークを推奨するもの。実際に仕事をする環境を変えることでリフレッシュできるという声も。家族や友人と旅行の機会を得られることから、従業員の満足度向上にもつながっているそうです。

リコージャパン株式会社

リコージャパン株式会社では、正社員の育児休業に関する時短勤務期間を小学3年の学年末まで適用。男性社員の育児休業も推奨しています。また、出産・育児・介護・配偶者の転勤などを理由にやむを得ず退職した場合、希望があれば再雇用の機会を提供する制度など、あらゆる社員のライフスタイルに合わせた制度を生み出しています。

まとめ

一昔前までは選択の余地がなかった勤務形態や制度ですが、現在では個々の状況に応じて働き方を柔軟に選べる時代にシフトしつつあります。一人ひとりのワーク・ライフ・バランスを実現させ、ひいては会社全体の生産性を向上するためにも、自社にとって最適な勤務形態を考えてみてはいかがでしょうか。

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

「働き方改革ラボ」は、”働き方改革”が他人ゴトから自分ゴトになるきっかけ『!』を発信するメディアサイトです。
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