ワーク・ライフ・バランスはもう古い? 定義や現状をわかりやすく解説

From: 働き方改革ラボ

2023年08月04日 07:00

この記事に書いてあること

「働き方改革」とともに耳にすることの多い、「ワーク・ライフ・バランス」。仕事と生活の両立を充実させる働き方を意味する言葉ですが、昨今では新たな価値観も広まっており、最新の情報を取り入れることが求められます。

ワーク・ライフ・バランスの定義や現状について今一度見直してみるとともに、現在注目を集めている「ワーク・ライフ・インテグレーション」「ワーク・イン・ライフ」の考え方についてもご紹介します。ワーク・ライフ・バランスとの違いやそれぞれの特徴を知ることで、是非自社の働き方改革に役立ててください。

※2022年12月に公開した記事を更新しました。

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ワーク・ライフ・バランスとは

日本語で「仕事と生活の調和」を意味する、ワーク・ライフ・バランス。政府広報オンラインでは、ワーク・ライフ・バランスとは「働くすべての方々が、『仕事』と育児や介護、趣味や学習、休養、地域活動といった『仕事以外の生活』との調和をとり、その両方を充実させる働き方・生き方」と定義されています。

ワーク・ライフ・バランスの意味・定義

ワーク・ライフ・バランスというと、なかには仕事と生活の時間比率を揃えること、女性支援のための施策であるといった誤解をされがちですが、本来は年齢や性別を問わず、働く人すべてに関係する考え方です。

2007年に内閣府が定めた「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」によると、ワーク・ライフ・バランスが実現した社会とは、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」と定められています。

仕事がうまくいくことで私生活でも心のゆとりを持つことができる、私生活が充実することで仕事のパフォーマンスも向上するなど、相乗効果が期待できるのです。

ワーク・ライフ・バランスの歴史

ワーク・ライフ・バランスの概念は、1980年代後半にアメリカで生まれたといわれています。当初は働く女性のための保育支援が中心でしたが、1990年代になると、子どものいない女性や男性にも重要な概念と考えられるようになり、施策の対象が拡大。介護支援や生涯学習支援など取り組みが広がりました。

日本でワーク・ライフ・バランスが意識されるようになったのは1990年代以降です。雇用環境の悪化や少子高齢化、男女雇用機会均等法の考え方の浸透などに伴い、労働者の働き方に対する価値観が多様化したことがきっかけと言えるでしょう。

近年では、労働者が自分に合った働き方を見つけ、仕事と生活のバランスをとることが重要視されつつあります。また、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」の発表や、「働き方改革」による労働環境の見直しなど、行政によるワーク・ライフ・バランス支援も進んでいます。

ワーク・ライフ・バランス憲章と行動指針とは

先述した「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」は、「仕事と生活の調和推進のための行動指針」とともに2007年12月に策定されました。

仕事と生活の調和を推進するための大きな方向性を提示する「憲章」では仕事と生活の調和の必要性や調和が実現した社会の姿が、必要な取り組みや施策の方向性を示した「行動指針」では実現のためにできる取り組みや実現度を測るための指標が挙げられています。

「憲章」で概要を把握したのち、「行動指針」に沿って導入することで、仕事と生活の調和実現を図ることができます。

「仕事と生活の調和が実現した社会」に必要とされる3つの条件

内閣府 男女共同参画局では「仕事と生活の調和が実現した社会」に必要とされる条件として「就労による経済的自立が可能な社会」、「健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会」、「多様な働き方・生き方が選択できる社会」の3つを挙げています。

まず「就労による経済的自立が可能な社会」では、経済的自立を必要とする者のなかでもとくに“若者”に焦点を当て、結婚や子育てなどの暮らしのために経済的基盤が確保できる姿を理想としています。

次に「健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会」では、働く人々が仕事以外の生活も豊かに過ごせる姿が、さらに「多様な働き方・生き方が選択できる社会」では、誰もがさまざまな働き方や生き方に挑戦できる機会が提供されており、かつ、子育てや介護などの状況に応じて選択できる姿が理想として挙げられています。

ライフ・ワーク・バランス実現のための目標数値

さらに内閣府は、ライフ・ワーク・バランスを実現するための目標指標と数値を設けています。これは2007年の行動指針策定時に、2020年に実現される姿を想定して目標に決められたもので、設定後も定期的に振り返りが行われてきました。

具体的な指標としては、就業率や時間当たり労働生産性の伸び率、年次有給休暇取得率、男性の育児休業取得率などが挙げられます。

企業がワーク・ライフ・バランスを実現させるための取り組み

ワーク・ライフ・バランスを実現させるために、企業では下記のような取り組みが求められています。育児・介護休暇制度やフレックスタイム制の導入、短時間勤務制度、長時間労働の削減、年次有給休暇の取得促進、テレワークの導入、その他の福利厚生の充実など、そのどれもが仕事と生活にメリハリをつけるために必要なものになっています。

ワーク・ライフ・バランスを推進する2つのメリット

ワーク・ライフ・バランスを推進することは、労働者のみならず企業にも大きなメリットがあります。この章では、企業でワーク・ライフ・バランスを推進するメリットを紹介します。

雇用獲得へのよい影響

1. 求職者へのアピールになる 

ワーク・ライフ・バランスを実現することでもたらされる企業のメリットとしてまず挙げられるのは、採用活動時の求職者へのアピールになるということです。労働環境を改善し、働きやすい企業だとアピールすることで雇用獲得の促進ができます。

厚生労働省発表の「平成30年若年者雇用実態調査の概況」によると、15歳〜34歳の若年正社員は、自身の職業生活の満足度向上にあたって、雇用の安定性、福利厚生に次いで、労働時間・休日等の労働条件を重視していることがわかりました。

また、正社員以外の若年労働者は、職場の人間関係・コミュニケーションに次いで労働時間・休日等の労働条件が満足度に貢献すると考えており、仕事よりも生活に重きをおいている労働者が多いことが伺えます。

このことから、雇用者側がワーク・ライフ・バランスを意識することによって、「労働環境が整っている」とアピールでき、雇用の獲得につながると考えられます。

2. 離職率の低下が期待できる

従業員一人ひとりのワーク・ライフ・バランスの実現により、新たな雇用獲得だけでなく、現在働いている社員の従業員満足を高め、離職率を下げることができることも大きなメリットと言えるでしょう。

終身雇用制度が過去のものになりつつあり、どの企業も人材確保に必死になっています。働きやすい職場づくりに取り組んでいることをアピールすることで、人材の流出を防ぐことができるのもメリットです。

例えば東京都では、仕事と生活を両立できる職場づくりをしている中小企業を対象に、ライフ・ワーク・バランス認定企業制度も実施されています。各自治体が実施している制度を活用しながらワーク・ライフ・バランスを整えていくのもよいでしょう。

図表で見るワーク・ライフ・バランスの現状

ワーク・ライフ・バランス憲章・行動指針が発表された2007年から、20年弱が経ちました。目標数値に達しているのか、働き方はどのように変化しているのか、グラフで見ていきましょう。

理想と現実のギャップ

2023年5月に株式会社ライボ(Job総研)が発表した『2023年 ワークライフ実態調査』によると、ワーク・ライフ・バランスについて、理想としては7割を超える人が「プライベートを重視」すると回答しています。一方で、実際のワーク・ライフ・バランスでは、「プライベートを重視」することは4割となっており、理想と現実に差があることがわかりました。

ワーク・ライフ・バランスの理想と現実は年代によってさらにばらつきがある

また、年代にわけると「理想」と「現実」のワーク・ライフ・バランスにはさらに大きなばらつきがあることがわかりました。

下記のグラフによると、「理想的な」ワーク・ライフ・バランスにおいて「仕事を重視」している層は20代と50代では10%以上差があり、20代が「理想」においても「現実」においても「プライベートを重視」している一方で、50代がもっとも「仕事を重視」していることがわかります。

さらに、「理想」と「実際」のワーク・ライフ・バランスでもっとも差があるのは、30代だということも明らかになりました。

しかし「理想」のワーク・ライフ・バランスにおいては、年代関係なく、プライベートの時間を重視したいと考えている人が一定数いるため、ワーク・ライフ・バランスを整えることは企業にとって必要な判断だといえるでしょう。

また、同調査では、プライベートの時間に仕事の連絡がくると答えた人は40%いることもわかっています。たとえば休日にもかかわらず上司から業務連絡が来ると、部下が「休みたい」と考えていたとしても対応せざるを得なくなり、ストレスや不満にもつながります。プライベート時の仕事対応については、仕事重視と考える割合が多い年配層と、プライベートを重視する若年層といった、ワーク・ライフ・バランスに対する世代間の意識の違いに課題があり、このギャップを理解し埋める必要があると考えられます。

ワーク・ライフ・バランスの企業事例

続いて、ワーク・ライフ・バランスの実現に取り組んでいる企業の事例を解説していきます。ワーク・ライフ・バランスの企業事例をみることで、具体的にどのような取り組みをすればいいのか参考になるでしょう。

1. 日本郵政グループ

日本郵政グループは、女性の活躍推進や高齢者の就業促進など多様性に向けたさまざまな取り組みを進めています。

さらに「従業員がそれぞれのライフステージに応じて多様な働き方の選択ができる」ことを目的に、ワーク・ライフ・バランスの推進にも力を入れています。具体的には、育児休業取得率100%を目指し、育児休業の取得期間を最長3年、育児部分休業を最長9年、介護休業を最長1年と設定。また、育児休業の一部有給化や不妊治療にかかる休暇など、仕事と育児(生活)の両立を促しています。

2. 株式会社資生堂

株式会社資生堂は、従業員の多様な働き方を尊重するために、フレックスタイム制度や在宅勤務制度などを整えているほか、保育サービスや保育費・教育費の補助などを行なっています。

資生堂は「社員一人ひとりがワーク・ライフ・バランスを実現できると、新たに生み出される時間を使い社員が社会でも活躍できる」と考えており、育児や介護などのライフイベントに影響を受けずにキャリアアップできる制度を整えています。

ワーク・ライフ・バランスはもう古い?

現在の日本では、「働き方改革」を中心にワーク・ライフ・バランスを実現させようという動きが加速しています。しかし、その“手段”にばかり気を取られ、従業員自らが働き方を選択できる環境を整えるという本来の“目的”が見えなくなってしまっている場合もあります。

昨今では、ワーク・ライフ・バランスから発展した概念として、「ワーク・ライフ・インテグレーション」「ワーク・イン・ライフ」という言葉も誕生しており、価値観のアップデートが求められています。

新しい考え方「ワーク・ライフ・インテグレーション」・「ワーク・イン・ライフ」とは

「ワーク・ライフ・インテグレーション」とは

「ワーク・ライフ・インテグレーション」とは、ワーク(仕事)とライフ(生活)を対立するものと考え、短い期間で時間的バランスをとるために調整することではなく、それぞれを人生の一部として統合(integration)して捉える概念のことを指します。

例えば「ワーク・ライフ・バランス」は出産・育児、介護のため一時的な期間、仕事と生活のバランスを変更するといった意味で使われます。

「ワーク・ライフ・インテグレーション」では、若い期間にプライベートを充実させることが経験となり、その経験が仕事面でもマネジメントなどに生かされ、その後の人生にも良い影響を与えるといった、人生のより良い過ごし方として提唱されています。

「ワーク・イン・ライフ」とは

「ワーク・イン・ライフ」とは、ライフ(人生)のなかにワーク(仕事)があると考え、人生を第一に置いています。「自分らしい生き方の中に、自分らしい働き方がある」、という考え方です。

2021年8月に総務省が発表した「ポストコロナの働き方『日本型テレワーク』の実現」では、「今後は、人生のなかに仕事があるという『ワーク・イン・ライフ』という言葉の方が馴染むという意見もあった」と述べています。コロナ禍で多くの人がテレワークという過ごし方を経験したことで、人生の一部としての仕事を認識し、実感を持って受け入れられていると考えられます。

ワーク・ライフ・バランスとの違い

ワーク・ライフ・バランスが仕事と生活を切り離す 「仕事中心の考え方」である一方で、ワーク・ライフ・インテグレーションはそれらの垣根がなく、どちらも大切な“人生”の一部として見做します。ワーク・イン・ライフはさらに“人生”に重きを置いていると捉えるとわかりやすいでしょう。

ワーク・ライフ・バランスは仕事と生活を切り離すがゆえに、仕事に偏ってしまうこともあります。

ワーク・ライフ・インテグレーションやワーク・イン・ライフは人生の充実を最重視しているため、ワーク・ライフ・バランス憲章でも提唱された「就労による経済的自立が可能な社会」、「健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会」、「多様な働き方・生き方が選択できる社会」の実現にも近づくことが期待できます。

新しい考え方に注目が 集まっている

厚生労働省が2019年に働き方改革に関する法案を発表したことで、仕事と生活を切り離さず、どちらも大切な“人生”であるとする「ワーク・ライフ・インテグレーション」や人生のなかに仕事があるとする「ワーク・イン・ライフ」に注目が集まっています。

「ワーク・ライフ・インテグレーション」がすでに定着している一部企業や海外諸国などの影響を受け、今後さらに多様化が見込まれると考えられているほか、そこからさらに“人生”の充実を図る「ワーク・イン・ライフ」の浸透が考えられます。

「ワーク・ライフ・インテグレーション」の具体的な取り組みとしては、時短勤務やテレワーク、フレックス制度、リエントリー制度の導入などが挙げられます。また、「ワーク・イン・ライフ」は人生に重きを置いているため、働く場所や時間を管理されない働き方、生活に仕事を合わせる働き方を遂行するための取り組みが進んでいます。

しかし、どちらも実現に際しては、評価制度の見直しや従業員との信頼関係の構築を迫られる場合が多く、留意したいところです。

まとめ

現在、「ワーク・ライフ・バランス」や「ワーク・ライフ・インテグレーション」「ワーク・イン・ライフ」など、さまざまな角度から働く環境を整えるための施策や法整備が進んでいます。これらに取り組むことが目的となってしまわないよう、社員のために取り組むべきことを再確認し、対策を進めてはいかがでしょうか。

参考・出典

仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章 – 「仕事と生活の調和」推進サイト│内閣府男女共同参画局
よくわかる講座 :3. ワーク・ライフ・バランスの歩み・歴史│『日本の人事部』
仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に向けた我が国の取組|内閣府 男女共同参画局
仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート2020|内閣府 男女共同参画局
平成19年版男女共同参画白書|内閣府 男女共同参画局
少子化と男女共同参画に関する専門調査会 | 内閣府男女共同参画局
Job総研による『2023年 ワークライフ実態調査』を実施 理想はプライベート重視7割 実際は仕事に偏りギャップ顕著|株式会社ライボ
21 世紀の新しい働き方「ワーク&ライフ インテグレーション」を目指して|社団法人 経 済 同 友 会
ポストコロナの働き方『日本型テレワーク』の実現|総務省
働き方改革|日本郵政グループ
働きがいのある職場の実現|株式会社資生堂

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