2018年アメリカの職場で議論されている5つの課題

From: 働き方改革ラボ

2018年05月30日 07:00

この記事に書いてあること

日本の働き方改革には、多くのテーマが包含されていますが、海外ではどのようなテーマが課題になっているのでしょうか。今回は、アメリカの職場で2018年話題になっている5つのテーマについてご紹介します。 *当記事はFASTCOMPANYの記事を翻訳・補足したものです。

話題1.賃金格差

企業経営の透明性は多くの企業が行動指針としており、オバマ政権下では賃金格差是正のための給与データのオープン化に関する取り組みが進められていた。しかしトランプ政権になり、雇用機会均等委員会(EEOC)の関連法案が下院によって棄却されるなど、前政権とは逆の方向への取り組みが目立つ。 人種、民族、性別ごとの賃金データを報告することを100人以上の従業員を雇用する企業に求めるオバマ政権時代の指令が2018年に3月に期限を迎えるが、EEOCのVictoria Lipnic議長は、もし委員会が共和党系の二人の候補者を任命するならば、企業はこれらの対策する必要がなくなると示唆している(2017年12月時点の情報)。 もちろん賃金格差は州、役職、人種、その他の要因によって度合いは異なるものの、一例としてあげると、女性の財務アドバイザー職の給料は男性の同業種の収入の55%にとどまることが、フィンテック企業SmartAsset社の分析結果から明らかになっている。 賃金格差是正の努力は続けられており、フィラデルフィア、ニューヨーク、サンフランシスコの各市、また、マサチューセッツ州、デラウェア州、オレゴン州の各州で、雇用主が求職者の前職の給与について質問することは違法とする法律を可決している。 2018年には、賃金格差はさらに広範な影響をもたらすだろう。先述のSmartAsset社のA.J.Smith氏(財務教育担当ヴァイスプレジデント)は、住宅のようなものに関しては、女性の置かれている立場はさらに深刻な可能性があると指摘している。 同氏は「我々が分析した100都市中、女性の平均所得額が、住居費(賃貸料など)支払が重荷にならないレベルに達していたのは、たった7つの都市だけだった。一方で、63の都市では、男性は収入の30%以下で家賃支払ができている。」と語っている。 米国上下両院合同経済委員会(U.S. Congress Joint Economic Committee)の報告書によれば、賃金格差を縮めれば何兆ドルもの経済効果が出る可能性があるが、現在の変化率でそこに到達するには、42年かかると推定されている。 また、アドバイザリー企業CEBのMonique McCloud-Manley氏(トータル・リワード・プラクティスリーダー)は、もし企業が賃金の平等性を達成すれば、短期に利益を獲得するだろうと述べる。また、現在格差是正に取り組んでいる組織は、行動を起こすことを保留している企業よりも賃金の支払いは少なくて済み、そして、平均的な格差是正費用は、毎年43.9万ドルずつ増加していく、とも指摘している。

話題2.職場のハラスメント

2017年は多くの著名な男性の経営陣、有名人、そして政治家がハラスメント問題で辞任・解雇された年だった。 しかしセクシャル・ハラスメントの保護に関する状況は、州により異なる。特に中小企業に雇われている者がハラスメントを報告する場合、米国内の多くの人々は依然として法的手段を持っていないのが実情であり、告発に対する反発や自身のブラックリスト化を恐れ続けている。 セクシュアル・ハラスメントを経験した人の約70%が上司に仕事を話していないとEEOCが報告しているのは不思議ではない。 このような現状を背景に、働く人々は彼らのリーダーが職場の価値観や方針を改めて提示することを期待している。 HRテック企業Glint社のJim Barnett氏(CEO)は、これまでの問いは「この事態がどのようにして起こったのか?」であったが、今後は「私たちはそれに対して何ができるのか?」という問いに変わるだろうと述べている。 「HRテクノロジーなどを活用し、リーダー達がより深く、多様な人材が対等に、個々のスキルや特性が活用される企業風土の醸成に取り組むことが期待されるとともに、組織全体でこれらの問題に継続的に対応する必要がある」と同氏は語っている。 PR企業SSPR社のGeri Johnson氏(イノベーション担当ヴァイスプレジデント)は、この1年の嵐のようなハラスメントの告発が人々と企業をけん引し、そして、企業がこれらの問題に対し教育や対応を実施してきたことにより、新しい時代が切り開かれてきたと言う。一方で、長期的には、女性のメンターの存在の役割が重要になってくるとも指摘している。つまり、「女性メンターの存在は、2018年にピークを迎えるであろう包括的なハラスメントの問題を解決はしないかもしれないが、彼女らの存在は、誰が変化に関心を持ち成熟したリーダーになろうとしているのか、また多様性に価値観を置いているのは誰か、を働く人々に示すことになるだろう。」と同氏は指摘する。

話題3.多世代の一体化(インクルージョン)

2017年は、Z世代(1995年以降生まれ)の大卒者がフルタイムの雇用者として労働市場に参入した初めての年となった。 人材採用関連事業を行う企業Harvey Nash Professional Recruitment社のAndrew Heyes氏(マネージングディレクター)が紹介する同社の調査によると、大学からの奨学金ローンを抱えている人が多いにも関わらず、18歳から24歳の人々の64%が、新しいスキルを身に付けるため、無料の学習コースや読書をしていると回答したという。なお30歳から35歳で同様の学習を行っていると回答したのは56%にとどまっている。 また、Z世代は「2008年の経済危機を通ってきた世代で、ジョブホッパーの呼び声高いミレニアル世代(1980年代~95年頃生まれ)の人々よりも、仕事の安定性に興味がある。」と、学生支援や企業と学生の仲介などを手掛ける企業Door of Clubs社のPranam Lipinski氏(CEO兼共同設立者)は語る。同氏は、雇用主は彼らの会社への忠誠を維持するためには、賃上げよりも成長機会を拡大することを考えるべきとも、指摘している。 伝統主義者世代(1928年~45年頃生まれ)とベビーブーマー世代(1946年~64年頃生まれ)がアドバイザー的なポジションに移行する中、X世代(1965年~79年 生まれ)とミレニアル世代のリードにより、多世代マネジメントは組織のトップそして、組織全体に及ぶだろう。「ベビーブーマー世代の人々が、透明性を持ち、変化に対してオープンで、慣例に対して最善の方法を検討し、迅速に行動する限り、下の世代は様々な経済環境のなかで組織のゴールに向かって戦略を描ける経験豊かなアドバイザーとして彼らを求めるだろう。」と、キャリアマネジメントのサポート企業Keystone Partners社のElaine Varelas氏(マネージングパートナー)は語る。 先述のHarvey Nash Professional Recruitment社のHeyes氏が、今後増えていくであろう若手の教育についてトレーニングを受けた雇用者に注目している一方で、オンライン学習プラットフォーム提供企業Udemy社のDarren Shimkus氏(ヴァイスプレジデント)によれば、より多くの雇用者が、従業員のスキル向上のニーズを支援することにプレッシャーを感じているという。 同氏は、異なる4世代のすべての人が同時に生産人口として働く現場にある今、オンデマンドのモバイルラーニングなど、テクノロジーの利用により学習やチーム開発がもっと柔軟で創造性のあるものになることを期待すると語っている。

話題4.様々な働き方(フレキシブル、リモート、フリーランス)

2017年に本メディアが今年見たほとんどすべての調査が、就業中の人々、そして求職中の人々双方にとって、フレキシブルな働き方の重要性を強調していた。 オフィス用品通販企業Staples社の最近の調査によれば、今年、就業時間のすべてをオフィスで行った働く人は32%のみであり、また、全回答者のうち43%の人々がリモートワークは必要なものであると回答している。 オンライン出版企業FitSmallBusiness.com社のLaura Handrick氏(人事アナリスト)は、リサーチ・コンサルティング企業Gallup社他によるグローバル職場調査のデータから、やはり在宅勤務が増えていると分析する。「私たちはまた、コワーキングスペース提供企業のWeWork社や共同生活スペース提供企業のWeLive社といったこのトレンドをリードする企業が手掛けるハイブリットコワーキングスペースに、投資家がより多くの投資を行い、コワーキングスペースの賃貸市場が過去7年間で25%成長していることも把握している。」と語る。同氏は今後、より多くの企業がリモートワーカーに投資するだけでなく、オフィスで働くワーカーを求める企業が、リラックスして仕事のできる環境作りを積極的に行っていくだろうと予測している。 フリーランサーと企業を結ぶプラットフォーム提供企業Upwork社とFreelancers Unionによる「Freelancing in America」(FIA) 調査によると、フリーランス労働力は、全米労働力の3倍以上の速さで増加しており、過去3年間で8.1%急増の5,730万人に達した。そして36%のフリーランサーが年間7万5千ドル以上の収入を得ているという。 また、フリーランサーは企業によって雇用されている同業種の人々よりも、積極的にスキルを養成している実態もある。仕事とスキルの向上が、キャリア開発の上で最も求めていることである、と答えた人の割合は、フリーランサーが65%であったのに対し、企業に雇われて働く人々は45%にとどまった。

話題5.ロボットとAI

コンサルティングファームのMcKinsey社が発表した今後の仕事に関する最新の報告書によると、今の仕事の60%が、あるいは少なくとも1/3の仕事が自動化可能であるため、世界で約3.8億人もの労働者が今後職業を変え、新しいスキルを学ぶ必要があるという。 ただし、自動化により完全になくなる仕事はたった5%であり、自動化の流れを恐れる必要はない。報告書は、今後起こる変化に対して、我々は準備しておく必要があるという事実を指摘している。 Amazon社のAIスピーカー「Alexa」から、スマートホームデバイスやクラウドコンピューティングプラットフォームにいたるまで、AIが多くのテクノロジーに採用されている。このような動きはAI関連のスキルのある労働者の需要をさらに増やすことになると、就転職支援企業Paysa社のChris Bolte氏(共同設立者兼CEO)は指摘する。 同氏によれば、2017年下半期だけで13.5億ドルと、AIへの投資が大幅に増加しているという。Amazon社やApple社といった大手テクノロジー企業、Uber社やFord Motors社などの自動車関連企業、JPMorgan Chase社やWells Fargo社といった金融サービス企業など、多種多様な企業がAIへの投資を行っている。 確かに2017年は、労働者がよい仕事を見つけるのを容易にするAIを組み込んだアプリやプラットフォームに事欠くことがなかった。 しかしながら、 AIを使ったアプリケーション開発企業MrOwl社のArvind Raichu氏(CEO)は、ソーシャルメディアで現在起こっている「フィルターバブル」(インターネットの検索サイトがトラッキングによりユーザーが好むと推定される情報を表示することが、自分の見たい情報のみ囲まれる状態を引き起こすこと)が、採用活動における候補者選びの際に起こることを指摘し、AIに頼りすぎている特定のアプリケーションに警告を鳴らしている。

さいごに

アメリカでの注目の話題を並べて見ていると、アメリカでも、日本でも、働く現場が大きく変わる過渡期にいることがよく分かります。そして今後は、その変化の速度がこれまで以上に速く、環境が変化していくのでしょう。 3年後、5年後に、自分の働く現場はどのようになっているのか、そして、自分はどのようにその変化に適応していくのか、考えてみる必要がありそうです。

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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