全国転勤制度のメリット・デメリットとは?実態や企業の対応を紹介
2024年04月16日 07:00
この記事に書いてあること
大手企業や総合職で働く人のあいだで、転勤制度は長く浸透してきました。引っ越しを余儀なくされる転勤は、本人だけでなくパートナーや子どもの生活にも影響を及ぼすため、働く人にとって負担が大きいと捉える意見もあります。その一方で、若い世代は半数以上が転勤制度を支持しているという調査結果も発表されています。
今回は、転勤の多い職種や少ない職種、転勤制度のメリット・デメリットを紹介します。転勤制度のあり方を検討している企業のヒントになる情報をお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。
日本に転勤制度が定着した2つの背景
はじめに、日本に転勤制度が定着した2つの背景を解説します。
1.終身雇用制度との関係のため
日本では、定年退職までひとつの企業で、会社に命じられたポジションで働くという「メンバーシップ型」の雇用スタイルが浸透してきました。
それに対し、欧米の多くの企業が採用しているのが、職務内容を限定してポジションや職務に人を振り分ける「ジョブ型」です。「ジョブ型」では、仕事内容や勤務地を決めて雇用するため、転勤がありません。日本の転勤制度の一般化には、終身雇用を保障する代わりに、働く人が人事権を企業に委ねてきたという背景があります。
また、転勤制度によって不正防止の効果も得られるため、継続に至っていることが考えられます。たとえば金融機関に務める従業員は、日常的に預貯金口座や印鑑などの個人情報に触れる機会があります。これらの情報を利用したり、持ち出したりすることがないよう、定期的に転勤をさせることで、不正防止の効果が期待できます。
2.人材育成のため
2つ目が、人材育成のためです。日本の高度経済成長に伴い、学生を大量に一括採用して人材を確保してから企業内で人員を調整するという人材供給スタイルが確立し、転勤制度が定着したと言われています。
日本企業では、とくに若手の間は、ジョブローテーションによってキャリアを積ませて人材を育成するという考え方が根付いています。本社などの中心的拠点だけでなく、地方の支店や工場での勤務を経験することで、会社の業務の流れを理解させるという意図があることも、転勤制度が浸透した理由のひとつです。
日本の転勤制度の実態とは
では、日本の転勤制度の実態はどのようになっているのでしょうか。独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った2017年の調査をもとに解説していきます。
独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った2017年の調査によると、正社員(総合職)のほとんどに転勤の可能性があるという企業は33.7%で、転勤をする者の範囲が限られている企業は27.5%。転勤がほとんどないと答えた企業は27.1%でした。
会社の規模が大きくなるほど総合職が転勤をする可能性が高く、1,000人以上の正社員を雇う企業の50.9%が、正社員(総合職)のほとんどに転勤の可能性があると回答しています。
また、リクルートワークス研究所が行った全国就業実態パネル調査(2019年)によると、2018年の1年間に引っ越しを伴う異動を経験した20~59歳までの会社員は、77万人。そのなかで、家族を帯同したのは31万人で、単身赴任をしたのは47万人でした。
就活生の考える全国転勤の印象とは
2023年4月にマイナビが発表した『転勤がある企業に「就職したくない」割合は?』の調査結果によると、転勤がある企業に「就職したくない」と答えた2024年卒の学生は13.4%、「できるだけ避けたい」と答えた学生は21.7%になり、合計35.1%と3年連続で増加しました。
その一方で、「様々なところで生活してみたいので転職があってもよい」「希望する地域の中なら転勤があってもよい」「キャリアアップにつながるなら転勤があってもよい」と回答した学生はあわせて57.7%おり、前年と比較すると減少傾向にはあるものの、半数程度は悪印象ではないとも考えられます。
全国転勤が多い職種と少ない職種
続いて、全国転勤が多い職種と少ない職種をご紹介します。
全国転勤が多い職種
はじめに、全国転勤が多いと言われている職種から解説していきます。
1.国家公務員
国家公務員は、全国に画一された行政サービスを届けなければならないため、転勤が多いと言われています。一般職と比較すると、総合職のほうが転勤の規模が多いとされており、最短では1年で転勤を命じられます。
2.銀行員
銀行員は、先述したように不正防止の観点から、2年〜3年で転勤をすることが多いとされています。短いサイクルで転勤させることによって、地域に根付いた企業や人物との癒着を防止する効果を期待されています。とくに新入社員はサイクルが早いと言われています。
3.保険会社
保険会社も、金融業界のため転勤が多いと言われています。しかし、なかには転勤先の地域を限定したり、希望のエリアを選択できたりするように工夫している企業も増えています。
4.商社
商社は、国内にとどまらず、海外の事業会社への転勤の可能性もあります。また取り扱う商材によっては、全国での経験がスキルアップに活用できると考えられます。
5.大手メーカー
大手メーカーは、国内外にさまざまな拠点があるため、転勤が多いとされています。しかし、近年は、従業員の育児や介護、病気などの状況によっては強制をしない企業も増えていると言われています。
全国転勤が少ない職種
続いて、全国転勤が少ない職種をご紹介します。
1.地方公務員
地方公務員は、都道府県庁の場合はその都道府県内に従事するため、転勤は少ないとされています。
2.IT企業
IT企業は、パソコンを持っていれば在宅でも仕事ができるため、転勤はほとんどないと言われています。ただ、営業職など職種によっては転勤の可能性もあるでしょう。
3.出版・マスコミ業界
出版・マスコミ業界は、基本的に転勤がないと言われています。しかし、テレビ局や大手出版社などグループ会社がある規模となると、全国に支社があることもあり、転勤も考えられます。
4.エンタメ業界
エンタメに関わる企業は、東京に本社があることが多いため、転勤が少ないと言われています。しかし、出版・マスコミ業界と同じく、グループ会社への出向などで転勤になる可能性も考えられます。
5.コンサルティング業
コンサルティング業は、出張は多いとされているものの、本社が東京にあることも多く、転勤が少ない業種です。しかし、外資系コンサルティングの場合は海外に転勤することも考えられます。
全国転勤制度のメリット
では、転勤制度が働く人や企業のメリットとしてはどのようなものがあるのでしょうか。従業員と企業の視点に分けてご紹介します。
従業員にとっての5つのメリット
まず、従業員にとってのメリットです。
1.新しい環境での刺激が本人の成長や成果につながる
1つ目が、新しい環境での刺激が本人の成長や成果につながることです。転勤によって新しいエリアや拠点で仕事をすることが、働く人にとっての刺激になります。さまざまな勤務地で働いて得た経験が、将来的な本人の成長や成果につながります。
2.視野が広がり仕事の可能性も広がる
2つ目が、視野が広がり仕事の可能性が広がることです。同じ仕事を続けることで凝り固まっていた思考や仕事の進め方が、転勤によって変化し、仕事の可能性が広がります。また、ひとつの勤務地にとどまり続けるのではなく、さまざまな場所へ移り経験を積むことで視野が広がることも考えられます。
3.転勤先のエリアの実情を知ることができる
3つ目が、転勤先のエリアの実情を知ることができることです。転勤先で一定期間働くことで、それぞれのエリアの実情を肌で感じることができます。本部や大規模な支店だけでなく、営業所や工場などで働くことも、販売や生産の現場を知るという経験につながります。
4.社内での人脈が広がる
4つ目が、社内での人脈が広がることです。さまざまな場所で仕事をすることで、社内の人脈が広がります。ひとつの会社で長く働きキャリアアップしていきたいという人にとっては、頼れる人やかつての上司や同僚が社内に多くいる状況を作れることはメリットといえます。
5.新しい場所で人間関係の構築ができる
5つ目が、新しい場所で人間関係の構築ができることです。転勤によって、それまで縁がなかった地域での出会いが生まれます。ひとつの拠点で働いているだけでは得られなかった人間関係を築くことができるのも、転勤のメリットです。
企業にとっての5つのメリット
次に、企業にとってのメリットです。
1.キャリアを積ませて人材を育成できる
1つ目が、キャリアを積ませて人材を育成できるという点です。転勤により異なる環境や職務を経験させることでスキルアップを促します。
2.部署に新しい価値観が加わる
2つ目が、部署に新しい価値観が加わることです。転勤は、異動してきた社員を受け入れる側にも良い影響を与えます。同じメンバーで長い間仕事をしてきた部署やチームにとっては、他のエリアや職種から配属された社員の新しい価値観が加わることが刺激になり、仕事内容やチームの雰囲気を変えるきっかけにもつながります。
3.人員の偏りを均一にできる
3つ目が、人員の偏りを均一にできることです。社員の昇進や退職によって、ひとつの拠点の中でポジションの重なりや不足が生じることもあります。転勤によって人員の偏りを均一にして、生産性の高い組織になるよう調整できることは企業にとっての大きなメリットです。
4.人間関係のトラブルがリセットされる
4つ目が、人間関係のトラブルがリセットされることです。同じ部署やチーム内で人間関係にトラブルがある場合は、転勤によって社員を入れ替えることで問題を解決できる可能性が考えられます。
5.不正の防止
5つ目が、不正の防止です。金融機関に限らず営業所を各地に持つ企業にとっては、定期的な転勤で特定の社員と顧客の癒着を防ぐという目的もあります。
全国転勤制度の3つのデメリット
続いて、全国転勤制度のデメリットを従業員側・企業側に分けて解説していきます。
従業員にとってのデメリット
1.家族の負担が増加する
1つ目が、家族の負担が増加することです。転勤により単身赴任となる場合、パートナーで分担していた家事をそれぞれが行う事になり負担が増えるケースがあります。特に子どもがいる場合、育児をパートナーに頼ることができなくなり、ワンオペ育児に陥るリスクが考えられます。
また転勤に帯同する場合も、パートナーが仕事を辞めざるを得なくなったり、育児の協力相手が見つからなかったりというリスクが考えられます。さらには子どもの転校などの問題も考えられるでしょう。
他にも、パートナーが妊娠中や出産直後に転勤の辞令を受けるケースもあります。単身赴任の場合、残されたパートナーがひとりで出産や育児を行わなければならなくなり、体調や精神面で不調をきたしてしまうことも考えられます。転勤に帯同する場合でも、転居先で、出産する病院やパートナー以外の協力相手が見つからないというリスクなどが考えられます。
2.転居することの負担・ストレスがかかる
2つ目のデメリットが、転居することの負担・ストレスがかかることです。転勤の内示は赴任の直前に出されるケースが多く、決定から新天地での仕事開始までの期間が短いことも、働く人の負担となります。すぐに引っ越しの準備を進める必要があるため、パートナーや家族の帯同の時期が、本人より遅れてしまうこともあるでしょう。
単身赴任によって一人暮らしになり、家族と生活ができないこともデメリットのひとつです。新たな土地で働くことは仕事に刺激を与えることもある一方で、知らない土地での生活や周りに知人がいないことをストレスに感じる人もいると考えられます。
3.住宅を購入しづらい
3つ目のデメリットが、住宅を購入しづらいことです。定期的な転勤がある人は住居をかまえるエリアを自分で決められません。住宅を購入しても転勤のため住むことができなくなる可能性もあるため、定住するエリアの判断が難しいというのも、転勤制度のデメリットです。
企業にとってのデメリット
続いて、企業側のデメリットを2つ解説していきます。
1.引越しなどの費用がかかる
1つ目が、従業員の引越しなどの費用がかかることです。転勤制度を設けている企業のなかには、引越し費用を負担したり、単身赴任手当を設けたりしていることもあります。全国転勤の人数や規模が大きくなればなるほど企業側が負担するコストが増えることは、企業側にとってのデメリットといえるでしょう。
2.従業員が退職する可能性がある
2つ目が、従業員が退職する可能性が考えられることです。転勤は、従業員の生活に大きく関わることです。そのため、プライベートも大切にしたい、安定した場所で働きたいと考えている従業員が、転勤の命令をきっかけに退職する可能性が考えられます。
人材確保に与えられる影響をなるべく少なくしたい企業は、従業員に早めに打診する、話し合いをするなどサポート体制を整えることをおすすめします。
全国転勤制度のある企業が対応すべき2つのこと
最後に、全国転勤制度のある企業が対応すべきことをご紹介します。
1.転勤させる時期の配慮を欠かさない
まず、転勤させる時期に関してはできるだけ配慮をしましょう。
以前は企業が強い立場にあり、従業員は辞令に従うことが当たり前という風潮がありましたが、近年では働き方に関する価値観が大きく変化しています。ワークライフバランスを重視している従業員も増えているため、離職率低下を防ぐためにも、従業員に早めに相談する、本人の希望を尊重するなどの姿勢を見せることが必要です。
2.転勤の理由を説明し納得してもらう
2つ目が、転勤の理由を従業員に説明し、納得してもらうよう心がけることです。
やむを得ず直前に辞令を交付することになったとしても、転勤の理由はしっかり説明しましょう。「スキルアップのため」「新しいプロジェクトの立ち上げのため」といった理由はもちろんのこと、その従業員だからこその理由を提示することで、本人のモチベーション向上にもつながるかもしれません。
まとめ
終身雇用にこだわらない働き方への志向や、プライベートを重視する意識の高まりなど、働く人の価値観は変化しています。転勤制度を当たり前と思わずに、まずは制度に対する社員の意識を調査してみるのもひとつの方法です。社員の意見をふまえて、より働きやすい会社にするために、自社の転勤制度のあり方にじっくり向き合ってみてはいかがでしょうか。
記事執筆
働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
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