転勤制度のメリット・デメリットとは?これから企業が求められる対応をご紹介
2022年06月30日 07:00
この記事に書いてあること
大手企業や総合職で働く人の間で、長く浸透してきた転勤制度。引っ越しを余儀なくされる転勤は、本人だけでなくパートナーや子どもの生活にも影響を及ぼすため、働く人にとって負担が大きいととらえる意見もあります。一方、若い世代は半数以上が転勤制度を支持しているという調査も。そこで今回は、転勤制度のメリット・デメリットや、賛成・反対意見を紹介。転勤制度のあり方を検討している企業のヒントになる情報をお伝えします。
※2019年10月に公開した記事を更新し、資料化しました
日本に転勤制度が定着した背景
転勤制度は、欧米では一般的ではない日本独自の制度。長く続いてきた背景には、日本と海外の雇用スタイルの違いがあります。
日本は、職種や勤務地などを限定せずに新卒の学生を採用。定年退職までひとつの企業で、会社に命じられたポジションで働くという「メンバーシップ型」の雇用スタイルが浸透してきました。
一方で欧米の企業が採用しているのが、職務内容を限定してポジションや職務に人を振り分ける「ジョブ型」。仕事内容や勤務地を決めて雇用するため、転勤がありません。日本の転勤制度の一般化には、終身雇用を保障する代わりに、働く人が人事権を企業に委ねてきたという背景があります。
また、日本の高度経済成長に伴い、学生を大量に一括採用して人材を確保してから企業内で人員を調整するという人材供給スタイルが確立し、転勤制度が定着したと言われています。
特に若手の間は、ジョブローテーションによってキャリアを積ませて人材を育成するという考え方も日本企業に根付いています。本社などの中心的拠点だけでなく、地方の支店や工場での勤務を経験することで、会社の業務の流れを理解させるという意図があることも、転勤制度が浸透した理由のひとつです。
日本の転勤制度の実態とは
独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った2017年の調査によると、正社員(総合職)のほとんどに転勤の可能性があるという企業は33.7%で、転勤をする者の範囲が限られている企業は27.5%。転勤がほとんどないと答えた企業は27.1%でした。会社の規模が大きくなるほど総合職が転勤をする可能性が高く、1,000人以上の正社員を雇う企業の50.9%が、総合職のほとんどが転勤の可能性があると回答。制限があるが総合職は転勤するという1,000人以上の企業は、27.3%という水準でした。
また、リクルートワークス研究所が行った全国就業実態パネル調査(2019年)によると、2018年の1年間に引っ越しを伴う異動を経験した20~59歳までの会社員は、77万人。その中で、家族を帯同したのは31万人で、単身赴任をしたのは47万人でした。
転勤制度は働く人に支持されている?
では、転勤制度は働く人の間で今、どのようにとらえられているのでしょうか。
2022年に日経ビジネスが行った調査によると、転勤制度は『あった方が良い』と『どちらかというとあった方が良い』の合計は39.7%。『ない方が良い』『どちらかというとない方が良い』の合計は48.4%と、否定派が多いものの、4割程度は転勤制度を支持しています。
転勤に一定のメリットを感じる人がいる一方で、本人の希望に反する転勤を避ける動きもあります。
AIG損害保険株式会社は2019年1月から、本人が望まない全国転勤を廃止。社員を、転勤をしてもよいという「モバイル社員」と、希望勤務地で働きたい「ノンモバイル社員」に分けるためアンケートをとったところ、転勤なしを希望した社員が、モバイル社員の3倍という結果に。新入社員は3年間はモバイル社員として働くという条件があるものの、新制度開始後は、新卒の応募数が10倍に増えたそうです。
転勤制度のメリット・賛成意見
では、転勤制度が働く人や企業に与えるよい影響にはどのようなものがあるのでしょうか。メリットや、賛成意見をご紹介します。
働く人にとってのメリット
新しい環境での刺激が仕事の成果につながる
転勤によって新しいエリアや拠点で仕事をすることが、働く人にとっての刺激になります。さまざまな勤務地で働いて得た経験が、将来的な本人の成長や成果につながります。
視野が広がり仕事の可能性も広がる
ひとつの勤務地にとどまり続けるのではなく、さまざまな場所へ移り経験を積むことで視野が開けるというメリットもあります。同じ仕事を続けることで凝り固まった思考や仕事の進め方が、転勤によって変化し、仕事の可能性が広がります。
転勤先のエリアの実情を知ることができる
転勤先で一定期間働くことで、それぞれのエリアの実情を肌で感じることができます。本部や大規模な支店だけでなく、営業所や工場などで働くことも、販売や生産の現場を知るという経験につながります。
社内での人脈が広がる
さまざまな場所で仕事をすることで、社内の人脈が広がります。一つの会社で長く働きキャリアアップしていきたいという人にとっては、頼れる人やかつての上司や同僚が社内に多くいる状況を作れることはメリットです。
新しい場所で人間関係の構築ができる
転勤によって、それまで縁がなかった地域での出会いが生まれます。ひとつの拠点で働いているだけでは得られなかった人間関係を築くことができるのも、転勤のメリットです。
企業にとってのメリット
人の入れ替わりによって組織が活性化
企業にとっては、社員のジョブローテーションによって組織が活性化するというメリットがあります。営業所を各地に持つ企業にとっては、定期的な転勤で特定の社員と顧客の癒着を防ぐという目的もあります。
部署に新しい価値観が加わる
転勤は、異動してきた社員を受け入れる側にもよい影響を与えます。同じメンバーで長い間仕事をしてきた部署やチームにとっては、他のエリアや職種から配属された社員の新しい価値観が加わることが刺激になり、仕事内容やチームの雰囲気を変えるきっかけにもつながります。
人間関係のトラブルがリセットされる
同じ部署やチーム内で人間関係にトラブルがある場合は、転勤によって社員を入れ替えることで問題を解決できるというメリットがあります。
人員の偏りをならせる
社員の昇進や退職によって、ひとつの拠点の中でポジションの重なりや不足が生じることもあります。企業にとっては、転勤によって人員の偏りを均一にして、生産性の高い組織になるよう調整できるのもメリットです。
転勤制度のデメリット・反対意見
働く人にとって成長の機会でもあり、企業側は人員をコントロールできるというメリットがある転勤制度。一方で、転勤にデメリットや負担感を感じる人もいます。その主な意見は次の通りです。
家族の負担の増加
パートナーの家事・育児負担の増加
転勤によって単身赴任になった場合、残されたパートナーの家事の負担が増えるケースもあります。子どもがいる場合は、育児面でもパートナーを頼ることができなくなり、家庭内がワンオペ状態に陥るリスクも。
妊娠中や出産直後の転勤は家族への負担が大きい
パートナーの妊娠中や、出産直後に転勤の辞令を受けるケースもあります。配偶者と離れた妻がひとりで出産や育児を行わなければならなくなり、体調や精神面で不調をきたしてしまうことも。また、転勤に帯同する場合も、転居先で、出産する病院や育児の協力相手が見つからないというリスクも生じえます。
子どもの転校
子どもがいる場合は、転勤のたびに帯同する子どもを転校させなければいけないというデメリットもあります。同じエリアに腰を据えて長く住むことができないことが、家族にストレスを与えるケースも。
パートナーが仕事を辞めざるをえない
パートナーが仕事をしている場合は、相手の転勤と転居によって仕事を辞めざるをえないこともあります。転居先で再び仕事を始めようとしても、仕事が見つからない、また転勤先で一度無職になるため子どもを保育園に預けることもできないというリスクもあります。
転居することの負担・ストレス
転勤の内示から赴任までの期間が短い
転勤の内示は赴任の直前に出されるケースが多く、決定から新天地での仕事開始までの期間が短いことも、働く人の負担となります。すぐに引っ越しの準備を進める必要があり、パートナーや家族の帯同の時期が、本人より遅れてしまうことも。
住宅を購入しづらい
定期的な転勤がある人は住居をかまえるエリアを自分で決められないという点も、転勤を避ける人の意見のひとつです。住宅を購入しても転勤のため住むことができなくなる可能性もあるため、定住するエリアの判断が難しいというのも、転勤制度のデメリットです。
知らない土地での生活へのストレス
単身赴任によって一人暮らしになり、家族と生活ができないこともデメリットのひとつです。新たな土地で働くことは仕事に刺激を与えることもある一方で、知らない土地での生活や周りに知人がいないことをストレスに感じる人も。
転勤制度、このままでいいの?ヒアリングを進めよう
全国や海外に拠点のある企業に総合職として入社したら、転勤を受け入れるのは当然という考え方が一般的。とはいえ、終身雇用にこだわらない働き方への志向や、プライベートを重視する意識の高まりなど、働く人の価値観は変化しています。転勤制度を当たり前と思わずに、まずは制度に対する社員の意識を調査してみるのもひとつの方法です。社員の意見をふまえて、より働きやすい会社にするために、自社の転勤制度のあり方にじっくり向き合ってみてはいかがでしょうか?
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