凸版印刷株式会社 生産性向上を軸に考える新しい働き方(後編)
2021年06月14日 07:00
この記事に書いてあること
新しい働き方を進めている企業の担当者に、導入までの道のりや成果についてお聞きするシリーズ『新しい働き方へ』
今回は凸版印刷株式会社 人事労政本部労政部部長の奥村英雄氏に、生産性向上という観点での勤務場所と勤務体制の変革についてお話を伺っています。前半では勤務場所やオフィスのあり方を見てきました。後編では勤務体制のスタイルを紹介します。
「在宅勤務制度」と「リモートワーク制度」は適用要件で分けている
―トライアルの話の際に、第1回と第2回は「テレワーク」と緊急トライアルでは「在宅勤務」という表現でしたが、使い分けた理由はあるのでしょうか?
はい。テレワーク、いわゆる「リモートワーク制度」と「在宅勤務制度」では適用要件、目的という観点で異なります。
リモートワーク制度とは、「在宅勤務」「サテライトオフィス勤務」「モバイル勤務」の 3 つの形態の総称で、「多様な人財が能力を発揮し、仲間と連携しながら、時間と場所を柔軟に活用し、自律的かつ効率的に働き、より生産性を高める事」を目的としています。
一方で、「在宅勤務制度」は、自分自身の障害や疾病、育児介護、自然災害に今回のコロナを踏まえて追加した事故や感染症の拡大の恐れがあることを適用要件とした制度で、「台風、地震、感染症を避ける意味合いで会社から命ずるもの」という使い分けをしています。
―リモートワーク制度には4つの勤務形態がありますが、適用要件がそれぞれ異なるのでしょうか?
アンケート結果やその後のヒアリングなどを通じて「業務の遂行能力」「担当する業務」の 2つの視点で在宅勤務の生産性や適応性が異なることを踏まえ、4つの勤務形態における適用要件を変えています。
「通常勤務」はまだ自立的な業務遂行が難しかったり、決裁権限もない従業員が対象で、週2日月8回を目安に残業は原則禁止とし、「スマートワーク勤務」は自立的な働き方が可能な従業員が対象で、7時から22時の間で3時間以上働けば勤務したと見なしています。
裁量労働制の営業、企画、DX部門、研究開発は回数制限なく深夜残業だけは禁止とし、フル在宅勤務も可能な勤務形態となっています。
―「通常勤務」と「スマートワーク勤務」の適用要件の明確な違いは何でしょうか?
従業員の業務熟練度によって職の等級制度があり「下位等級」「中位等級」「上位等級」と区分分けしているのですが、通常勤務は下位等級、スマートワーク勤務は中位等級以上としています。
―下位等級の目安はどこなのでしょうか?
上司からの業務指示を受けて遂行するという点で入社3年くらいですかね。
―組合からテレワークの制度導入の話が上がったとのことですが、会社として組合の声が届きやすい土壌なのでしょうか?
「働きがいのある会社づくり」をテーマに、組合と「労使働きがい推進委員会」を立ち上げています。これは労使交渉などではなく、会社と組合でフランクに考えていることを話し合いましょうという取り組みで、年に5,6回ほど会合を開いています。
これまで行なってきた内容としましては、時短推進や新たな勤務制度、メンタルヘルス、福利厚生、スポーツフェスティバルなど多岐に渡るテーマについて話し合ってきました。ここで話し合った内容を元に正式な労使協議に入っていく流れが一番多いですね。
時間に対してではなく、アウトプットに対して評価する仕組みづくり
―タイムマネジメントチャレンジ*についてお聞きします。効率的に仕事をした結果給与がさがるという点が中小企業では大きな課題と考えられていますがどういった施策でしょうか?
*「タイムマネジメントチャレンジ」とは、効率的に働くことで減少する残業代などを会社の利益にするのではなく、貢献した社員に還元する取り組みのこと
タイムマネジメントチャレンジ制度は全社で行なっていたわけではありません。情報コミュニケーション事業本部で行ないました。これは働き方改革が話題となる前後の2015年くらいに行なわれていました。
これは意識改革を狙いとしたもので、社員が働き方を見直して生産性を向上させて結果として時短につながることが目的です。
結果として残業は減少しました。ただ、質問の通り残業を減らせば減らすほど給与が下がるというジレンマがあります。本来はノーワークノーペイなので払う必要はないのですが、何かしらのインセンティブがないと取り組むモチベーションが起こりにくいので、奨励金などで補填しました。
―奨励金の仕組みを教えていただけますでしょうか?
直行直帰や朝方シフト、定時退社などの取り組みを総務部門で把握して、その中での生産性向上を達成できた場合に奨励金を渡す仕組みとなっています。
―現在もタイムマネジメントチャレンジは続いているのでしょうか?
役割を終えて、今は行なっていません。
―今後、再び適用することも考えていないのでしょうか?
今は全社的に取り組もうとしている内容として時間で評価するのではなく、アウトプットに対して評価していこうとシフトチェンジしているんですよね。
例えば、裁量労働制の場合、パフォーマンスが上げられるのであれば、極端な話ですが一日一分でもいい働き方としています。これから時間という概念はどんどん少なくなっていくと考えています。
コアタイムの廃止が従業員の自律を促す
―「スマートワーク勤務のコアタイムを廃止した」とのことですが、どのような狙いがあるのでしょうか?
個人の業務の内容やプライベートも含めて、コアタイムが時間的な拘束となり生産性を上げるという観点からネックになっていたのでは無いでしょうか。であるのであれば、それを廃止する事で、柔軟な働き方につながり、アウトプットの更なる向上ができると思います。また柔軟な時間管理が、例えば育児中の社員のモチベーションを上げ、生産性向上に繋がるとも思っています。
―コアタイムを廃止して、従業員の時間管理が煩雑になったりはしないのでしょうか?
今のところ煩雑になることはありませんね。むしろ、従業員側が自分たちで管理しないといけないという自律の促進に繋がっています。
新しい働き方の大事な要素「DXのあり方」
―DX推進部門に関して、部署ごとに現場を知る人がDX推進担当を担っているのか、それとも会社の一つの部署としてDX推進部門の設置をされているのでしょうか?
DXデザイン事業部という専門部隊が全社のDX案件のソリューションを提供しています。一方で、あくまでDXデザイン事業部はソリューションの提供を業務としていまして、お客様のDXの悩みをキャッチするのは各事業部の営業が行なっています。
新しい働き方は「生産性重視」で量より質の時代へ
時間(量)に対しての報酬では、残業の削減や多様な勤務形態を取り入れて生産性向上を目的とする新しい働き方に対応するのは難しく、今後はアウトプット(質)に対しての評価制度を取り入れる必要性がありそうです。また、コアタイムの廃止が多様な働き方を可能にするだけでなく、従業員の業務進行への自律を促し生産性向上に繋がることもあるようです。
社員一人一人が自分を管理するためにも会社が社員を信頼し多様な働き方の制度を取り入れていく準備を始めていきましょう。
<株式会社凸版印刷 生産性向上を軸に考える新しい働き方(前編)
記事執筆
奥村 英雄(おくむら ひでお)
1992年に入社。2001年4月?2013年3月まで人事部として、グループ会社を含む全社の組織・人事に従事しながら、「自己申告制度やセカンドキャリア支援制度」の制度構築、運用を担う。2019年4月より人事労政本部労政部長兼安全衛生・防火推進部長として、「ハラスメント防止協定」を労組と締結や「同性パートナー制度」の導入を推し進め、現在は、昇給・賞与や労働条件、福利厚生などの人事諸制度の組み立てや労使交渉業務に加え、グループ全体の安全衛生・防火の管理業務も兼務している。
新しい働き方へ
新しい働き方を進めている企業の担当者に、導入までの道のりや成果についてお聞きするシリーズ
記事執筆
働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
「働き方改革ラボ」は、”働き方改革”が他人ゴトから自分ゴトになるきっかけ『!』を発信するメディアサイトです。
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