テレワークは誰もが成果を出せる働き方(前編)  日本型テレワークが会社を成長させる理由/田澤由利氏

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新型コロナウイルスの感染拡大の影響で急速に普及したテレワーク。今回をきっかけにテレワークの本格導入に踏み切る企業もある中で、テレワークによる課題も浮き彫りになっています。2008年にテレワーク専門のコンサルティング会社を設立して以来、多くの企業の働き方改革を支援してきた株式会社テレワークマネジメント代表取締役の田澤由利氏は、日本型テレワークの必要性を提言。テレワークの壁にぶつかる企業によくあるトラブルや、その具体的な解決方法を詳しく聞きました。

人材難の時代に欠かせない働き方
日本型テレワークが企業戦略になる

―田澤様は、まだテレワークという言葉が今ほど浸透していなかった2008年にテレワークマネジメントを設立されました。その理由からお聞かせいただけますか。

当時、ワイズスタッフという会社で、企業から業務を受託して全国のテレワーカーさんと一緒に仕事をするという事業をしていました。私自身、大学卒業後に勤めたシャープを夫の転勤のため辞めなければいけないという経験をして、会社に行かなくても働ける社会を作ることを目指していました。ただ、それまでワイズスタッフを10年やってきて、在宅で働くスタッフの数は150人程度。あと10年これを続けてもその数が300人になるだけだと。日本の働き方を変えることを実現するには企業を変えるのが早いということに気付いたんです。

テレワークマネジメントを立ち上げる前後に、アメリカの国務省からの招待で、アメリカでテレワークを勉強させていただく機会がありました。アメリカは、アウトプットさえ出せばいいというジョブ型の働き方で、雇用や報酬のあり方も日本と真逆です。テレワークは浸透していましたが、テレワーク中の従業員に対するマネジメントやコミュニケーションの体制も整っていませんでした。

その現実に触れて改めて、日本では日本型のテレワークが必要だと痛感したんです。それが浸透すれば日本はテレワーク大国になる。そんな思いから、企業に対してテレワークのコンサルティングを行う会社を作ろうと、テレワークマネジメントを設立しました。でも当時、日本のテレワークは、前向きに仕事をするための制度ではなく、大企業が子育て中の社員に提供する福利厚生というイメージが強かった。周りからは、会社設立はちょっと無茶じゃないか、と止められました(笑)。

―田澤様は、テレワークは会社が成長するための企業戦略として取り組むべきだとおっしゃっています。そのもっとも大きな理由は何ですか?

テレワーク導入による企業の最大のメリットは人材の確保です。少子高齢化によって、子育てや介護をしながら働く人も増えますし、出勤が困難な人も働ける社会にする必要があります。また、ICTが使える若い人たちの中には、コロナ禍でも出社を強いる会社に不満を感じて転職する人も増えるでしょう。実際にシャープは、テレワークという制度がなかったせいで、私という人材を失ったわけです。そんなにたいしたことではないかもしれませんが(笑)。

人材を失うということは、これからの人材難の時代の大きなリスクです。人材を失わない、そして良い人材を得る施策は企業戦略以外の何物でもありません。テレワークにしっかりと取り組めば、IT活用が進んでコストも削減できますし、感染症や災害などの危機管理の面でも役に立ちます。テレワークが大企業の福利厚生でしかなかった頃から、なぜこれが企業戦略ではないと言えるのか?という気持ちで会社をやってきました。

感染症対策で広がったテレワーク
今は本格導入への分かれ道

―今、テレワークのコロナ対策という側面が注目されている状況は、どうとらえていますか?

以前から私は、地方創生や女性活躍というテーマでテレワークを語る講演によく声をかけていただいていました。ただ、それらはテレワークのメリットの一部でしかない。テレワークのような働き方ができることで、さまざまな課題を解決することができるんです。

ところで、テレワークとリモートワークの違いをご存じですか? リモートワークは離れた場所で働くことですが、テレワークは国が定義したコンセプトワードで、場所や時間を有効に活用できる柔軟な働き方のこと。場所だけでなく、時間も含まれているんです。そのメリットのひとつが感染症対策です。

今、テレワークをコロナ感染防止のためだけに利用している企業も少なくありません。コロナのリスクが去った後に元の働き方に戻してしまうと、ほかのいろいろなメリットを捨てることになります。コロナ対策のためにテレワークを導入するのは大賛成ですが、その場しのぎではなくしっかりと導入することで、人材不足や災害対策、社会問題も含めて、あらゆる課題が解決できるということを知っていただきたいです。

テレワークのさまざまなメリット(時間が場所を有効に活用する柔軟な働き方) │ 田澤由利氏

―緊急事態宣言が解除されてから、出社体制に戻る企業もあります。その主な理由は何だととらえていますか?

緊急事態宣言解除後にテレワークをやめた企業も多いと報道されていますけど、ビフォーコロナと比較すると、テレワークを導入する企業は確実に増えています。企業の意識や、働く人のニーズも含めて、コロナをきっかけに意識が変わったことは確かです。

ただ、今はちょうど「やっぱりテレワークは無理だよね」とやめてしまう企業と、「大変だったけど、もう少し工夫すればいけそうだよね」という実感を得てテレワークを続けている企業が、分かれ道に立っているところだと思います。

やめてしまう理由は簡単に言うと、テレワークのやり方が悪かったから。テレワークだと仕事が進まずに、多少リスクがあっても出社に戻ってもらわないと会社の経営に響くという事情があるわけです。仕事が進まない原因としてよく挙げられるのが、まずはテレワークできない業務が多いということ。部下をマネジメントできない、離れているとコミュニケーションがとれないから仕事がスムーズに進まないというのも主な理由です。

離れていてもみんな一緒に働く
日本型テレワークを実現するには?

―コミュニケーションの課題を解決するためには何が必要なのでしょうか?

テレワークを適切に進めるための考え方として不可欠なのは、テレワークでは仕事が限られると思わないこと。もちろん、テレワークでできない仕事は間違いなくあります。でも、できないと思い込んだら何もできませんので、今の仕事のやり方と道具、流れを見直して、これらをテレワークでできるようにするにはどうすればいいか、みんなで考えて工夫することが大切です。

―では、具体的にどのような方法を取り入れていけばよいのでしょうか?

会社にある仕事道具を、ICTで持って帰って仕事をするというのがこれまでの一般的なテレワークの考え方でした。ただ今回のコロナで皆さん、それでは十分ではないということがわかった。私たちがこれまでも目指してきたテレワークは、仕事道具や仕事仲間を全部クラウド上に置いて、どこからでも通常の仕事ができるというスタイルです。

私たち自身も、Sococoというツールのクラウドオフィスで働いています。私たちの会社は北海道と東京と奈良にオフィスがあって実際は1300kmほど離れているんですが、クラウドオフィス上では全員が同じフロアに机を並べている状態です。

ルールとして定めているのは、毎日クラウドオフィスに出社すること。集中して仕事をするときは、レイアウト上の自席に自分のアバターを置きます。会議をするときは会議室へ。そしてポイントがこのフリースペースです。ここは、社員がオフィスで机を並べて仕事しているのと同じ環境です。ここで仕事をしている人はスピーカーがオンにしてあるので、いつでも話しかけることができます。「ねえ、あれどうなってる?」「私、それ知ってます!」というやりとりができる空間です。会社にいるときも、周りの人にちょっと話しかけたいことはありますよね。それと同じで、別の場所で仕事をしているけど、みんなで一緒に仕事をしている感覚が持てます。

Sococoの画面イメージ

テレワークが一気に普及する中で、孤独を感じた人がたくさんいました。コミュニケーションの方法は、ウェブ会議やチャットだけではありません。気軽に声をかけられる安心感や関係性も大切。コミュニケーションってそういうものですよね。では、テレワーク中はなぜ気軽に声をかけられないかというと相手が見えないから。ならば、この部屋にいたら声をかけてもいいという状況をビジュアル化すればいいわけです。急ぎの要件なら、別の部屋にいても「ちょっといいですか?」と声をかけますよね。テレワークを適切に進めるために、働く人の様子を可視化したのがこのオフィスです。

ジョブ型のテレワークは日本の働き方にそぐわない

―気軽に声をかけられる職場が、日本企業に合っているわけですね。

たとえばアメリカは、「あなたはこれをやってくれたらいいよ」というジョブ型で成果報酬型の働き方ですから、ひとりで働くテレワークのスタイルが適していますが、日本はそうではありません。みんなで一緒に働くというのが日本の働き方ですし、いいところでもあります。ジョブ型のテレワークを進めようとするからうまくいかないんです。

―クラウドオフィスと実際のオフィスはどう使い分ければ良いのでしょうか。

日本型テレワークを成功させるために大切なのは、実際のオフィスに出社している人もこのクラウドオフィス上で働くことです。できる仕事や道具を、クラウド上に置いていく。そしてセキュリティをかけて、在宅の人も、会社に出社している人もそれを使います。つまり、会社に行くことと並列でテレワークがあって、オフィスがテレワークで働く場所のひとつになる。それが実現すれば、テレワーク社員と出社する社員の評価の公平性も保てます。テレワークがうまくいかない理由として挙げられる、オフィス出社組とテレワーク社員の間の溝や、お互いへの不満も解消できるわけです。

※このインタビューはWEB会議システムを活用して行いました。

後編「今すぐできる日本型テレワーク実践法」>

著者プロフィール

田澤由利

株式会社テレワークマネジメント代表取締役。株式会社ワイズスタッフ代表取締役。

1962年奈良県生まれ。上智大学卒業後、シャープでパソコンの商品企画を担当するが、出産と夫の転勤で退職。その後、パソコン関連のフリーライターとして働く。1998年、夫の転勤先の北海道北見市で株式会社ワイズスタッフを設立。2008年、柔軟な働き方を社会に広めるために株式会社テレワークマネジメントを設立。企業へのテレワーク導入支援やセミナー、国や自治体による事業への参画で、テレワークの情報発信・普及活動を行う。

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