株式会社タニタ 社員の個人事業主化への道のり(後編)日本活性化プロジェクトに学ぶ働き方のヒント / 二瓶琢史氏

From: 働き方改革ラボ

2021年02月12日 07:00

この記事に書いてあること

希望する社員が株式会社タニタを退職し、個人事業主として業務委託契約を結んで働く取り組みである「日本活性化プロジェクト」の運営と推進を担う株式会社タニタ経営本部社長補佐の二瓶琢史様へのインタビューを通して、社員の個人事業主化に着手する上でのヒントを探る当企画。前半では同プロジェクトの軌跡を伺いました。後半では、同プロジェクトに学ぶ働き方のヒントを紹介します。

タニタが取り組む「日本活性化プロジェクト」とは

日本活性化プロジェクトと事業継続対策の関係性

--会社と長く付き合ってほしいという意味も込めて「日本活性化プロジェクト」を発足したということですが、事業継続対策の一部としての側面もあると考えてもよろしいですか?

日本活性化プロジェクト自体が、BCP(ビジネス・コンテュニティー・プラン)を直接意識していることはありません。BCPは天災地変などを前提にどう備えていくかに主眼があると思います。その面では、2011年3月に起きた東日本大震災の1年前に、タニタでは社屋の耐震補強工事に着手していて、ほぼ完了する段階で震災が起きました。これは従業員が集まるスペースの安全性をいかに担保するかという社長の課題意識から取り組んだことです。

また、社屋の工事の時にその他の設備面でも見直しを行いました。全社員が統一規格の指紋認証付きのPCを持つようにして、セキュリティ面を確保した上で、震災が起きた時にどこでも業務が出来るような体勢を整えてきました。今もそのときの取り組みが、事業継続の意識として生きていると思います。

--今回のコロナ禍でもそれが役に立ちましたか?

はい。今のコロナ禍において、他の中小企業の方からは在宅でオンライン会議をするためのウェブカメラがないなどで右往左往したという話を聞きましたが、タニタはウェブカメラ搭載のPCを使って、セキュリティを確保した上でいつでもオンラインで接続できる環境がありましたので、そのような問題はなくスムーズにリモートワークに移行できました。

--働き方を変えること以前に、そういった環境を整えることが働き方を変える地盤となるということでしょうか?

そうですね。時間・場所に縛られずに働けて、不測の事態が起きても柔軟に対応ができる環境を整えておくこと、その柔軟性こそが働き方改革と事業継続に繋がると思います。

日本活性化プロジェクトと税務メリットの関係性

--「税務のメリット」は日本活性化プロジェクトの副産物でしょうか?

はい。副産物として、事業にかかる支出を経費として計上できるメリットは上げられますが、日本活性化プロジェクトで意識しているのは「自分の財布で仕事をする」ということです。仕事のための支出、成果につながる費用を、会社の財布ではなく、自分の財布で負担することが、自立的に働くことにつながると思います。その成果に報いながら、タニタで長く働いてもらえる環境をつくるための取り組みです。税務のメリットだけを目的として取り組もうとしても、きっとうまくいかないと思います。

--「税務のメリット」について学んだ資料などはありますか?

これが社長の谷田の愛読書の「金持ち父さん 貧乏父さん:アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学 / ロバートキヨサキ」 (*1)です。内容は税務の話ではないのですが、仕事やお金について考えるときに、日本的な発想を持つ昭和世代の人たちの心に響く一冊です。他には、谷田が「究極の就業体制を見つけました」と、この「日本活性プロジェクト」の取り組みについて細かい構想を聞く前に渡された本が、この「フリーで仕事を始めたらまっさきに読む 経理・税金・申告の本 / 笠原 清明」 (*2)です。中身は確定申告の話ですね。

--個人で勉強したことはありましたか?

法務系の職歴を重ねてきたので、法律に関しての抵抗感はありませんでしたが、税務関係のことは得意ではありませんでした。それまでは、その分野に深く入る気はなかったですし、入る必要もありませんでした。日々の支払い行動のどこまでが経費計上できるのかを勉強するために、何冊か書籍に目を通しました。

また、税務という話からは逸れてしまいますが、1年目にこのプロジェクトの募集に関する社内告知を行ったときに、社内で理解を得られなくて、結構心にこたえました。けれども、リンダ・グラッドンさんというアメリカの女性教授が書かれた「ワークシフト」「ライフシフト」 (*3)という本をたまたま読んでみたところ、まさに自分たちがやろうとしていることの延長にあるような未来像が書かれていて、とても勇気づけられましたね。

プロジェクトメンバーを支える「タニタ共栄会」

--タニタ共栄会*の設立にあたりタニタから人員の配置はありましたか?

*「日本活性プロジェクト」の仕組みで働く個人事業主の全員で構成する互助組織。「タニタ共栄会」が株式会社タニタと施設利用に関する契約を結び、施設利用料を「タニタ共栄会」から会社に支払う。そうすることで、「タニタ共栄会」のメンバーは、社員時代と同じように会社の設備を利用できる。また、共栄会が税理士法人と契約することで、確定申告のサポートを受けることなどもできる。運営資金は本会の収益金から支出されている。

特別人員配置はないですね。もともと、1期目のメンバーが個人事業主として働く中での課題を相談するなかで、つくった組織です。「日本活性化プロジェクト」の仕組みで働く全員がメンバーとなり、その中で1期生が理事会をつくり、活動しています。

--運営資金に「本会の収益金」とありましたが、共栄会として収益を出しているということでしょうか?

はい。実は、タニタから共栄会として業務を引き受けています。タニタでは年間を通して行うイベントがいくつかあるのですが、その中でも、CSRの取り組みとして行っている地域と連携したイベントに社員は業務として参加します。個人事業主の参加をどうするかを一人ひとり調整するのは会社にとって手間がかかるので、共栄会として会社から受託料を受け取り、それを共栄会の中で分配することで参加を促しています。それが共栄会としての収益に当たりますね。

--タニタ共栄会の会費は「基本報酬額の1%」ということですが、定額にせず、割合にしている理由はなんでしょうか?

助け合いの精神で、収入の多い人が、多く支払う形をとっています。1%が良いのかという話はありますが、今のところ運営していく上では問題ないですね。

--日本活性化プロジェクトを導入する上で、共栄会のような互助会は必要でしょうか?

あると便利なのは間違いないですが、なければプロジェクトが機能しないとは思わないので、必須ではないと思います。

他社が日本活性化プロジェクトを導入するなら

--向いている社内風土はございますでしょうか?

経営トップと社員の信頼関係があるとか、距離が近いというのは重要だと思います。また、この仕組みをつくって推進する役回りの人が、自らこの仕組みで働くことが大事だと思います。そういったことでこの取組みや仕組みに対する不安感が払拭(ふっしょく)され、信頼が醸成されていくと思います。これがプロジェクトの進行に大きく影響すると思います。

--タニタは社長と社員との距離が近いのでしょうか?

そうですね。もちろん職種にもよりますが、近い人は本当に近いと思います。物理的ないわゆる社長室といったものはなく、社長も社員と同じフロアの見える位置で仕事をしています。オープンな関係であると思います。

--最後に、日本活性化プロジェクトに大事な要素をあげるとしたらなんでしょうか。

経営陣と社員の信頼関係だと思います。社員にとって個人事業主化は大きな決断になりますので、会社への信頼、すなわちトップである社長や経営陣への信頼が、社員を動かす大きな要素だと思います。

株式会社タニタ 社員の個人事業主化への道のり(前編)
日本活性化プロジェクトの軌跡

*1
タイトル:金持ち父さん 貧乏父さん:アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学
著者: ロバート キヨサキ 著、白根 美保子 訳
出版社:筑摩書房

*2
タイトル:フリーで仕事を始めたらまっさきに読む経理・税金・申告の本
著者: 笠原 清明 著
出版社 : クロスメディア・パブリッシング(インプレス)

*3
タイトル:ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図
著者:リンダ・グラットン 著/池村 千秋 訳
出版社 : プレジデント社
タイトル:LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略
著者:リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット 著/池村 千秋 訳
出版社 : 東洋経済新報社

記事執筆

二瓶琢史(にへい たくし)

2003年に株式会社タニタに入社。2011年から総務部長となり人事・総務全般を統括。2016年より社員の個人事業主化の仕組みを作り上げ、2017年に自身も個人事業主として同プロジェクトの推進責任者を受託しつつ、社長補佐などの業務にも取り組む。

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