テレワーク。その導入でのポイントとは/豊田健一氏

From: 働き方改革ラボ

2018年11月20日 07:00

この記事に書いてあること

テレワークにおける国の目標と企業事例

安倍内閣では、2020年に向けて、テレワーク導入企業を2012年度比で3倍、週1日以上終日在宅で就業する「雇用型在宅型テレワーカー」数を全労働者数の10%以上にすることを目標としています。

また、「世界最先端IT国家創造宣言」においては、2020年までに「世界最高水準のIT利活用社会の実現」を目標としています。

その中において、特に「就業継続が困難となる子育て期の女性や育児に参加する男性、介護を行う労働者」などを対象に、「週一回以上、終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーク」の推奨モデルを産業界と連携して支援する、としています。

テレワークとほぼ同意義で使われる言葉に「在宅勤務」「モバイルワーク」「リモートワーク」などがあります。制度面としては「在宅勤務」が使われていることが多いようです。

日産自動車は、2014年に全社員を対象に在宅勤務制度を導入しています。チャット・音声テレビ会議システムをフル活用し、業務中はリアルタイムでパソコン画面に社員の顔を映し、仕事の状況ごとに「連絡可能」「取り込み中」「応答不可」「一時退席中」などの表示切り替えができます。

日本航空は、2014年に在宅勤務制度を導入後、トライアルと制度改善を繰り返し、現在は自宅のほか、カフェ、図書館などでも制度の利用が可能となり、一般的な「在宅勤務」よりも自由度の高い制度です。

人材確保のためのテレワーク

最近は、中小企業でテレワーク導入が進みつつありますが、その背景として優秀な人材の継続雇用が挙げられます。育児休業が当たり前になり、晩婚化によって中堅の人材が育休をとることが多くなっているのが一つの要因です。もう1つの背景としては介護に関する問題です。介護対策は大企業でも進んでおらず、介護休業制度の利用者はわずか数人、ということも少なくありません。

中小企業でも、介護に直面しそうな社員や実際に介護に取り組む社員のために在宅勤務を進めたい、という企業が増えつつあります。親が突然倒れ、在宅介護を担う社員は今後ますます増えるでしょう。優秀な人材の介護離職を防ぐための1つのツールとしてテレワークが見直されているのです。

大企業に比べ、中小企業で在宅勤務導入が進まない理由としては、「(費用面・人材面の)余裕がない」という声が多いようです。しかし、「余裕がない」中小企業だからこそ、育児や介護を理由にした退職を防ぐ対策が必要なのです。

在宅勤務制度を検討する際の手順は下記の通りです。

在宅勤務の対象者を明確にする

育児・介護支援の制度であれば、対象者はそうした事情がある人になります。対象を限定せずに個別に許可する方法もありますが、この場合も許可の基準を明確にします。自律的な働き方ができない社員に在宅勤務を適用するのはリスクが大きいため、年次や役職などの基準を明確にしましょう。

在宅勤務の期間と頻度を決める

期間を限定するかどうかは、在宅勤務導入の目的・対象によります。また、パソコンなど業務上必要な機器は会社が貸与します。

福利厚生型テレワークと人事戦略型テレワーク

中小企業では、育児や介護者を対象にした福利厚生型テレワークと、全社員を対象にした人事戦略型テレワークの2つの方向があります。

福利厚生型は対象者がいなくなると使われなくなり、全社員対象に比べて不公平感も生まれやすくなります。結果として必要な人が利用できなくなる場合もあります。不公平感を払拭するため、施行時にも全社員を対象にすることを見据え、部署単位で実行します。人事評価・労務管理上、上司と部下がセットで試行することも必須です。

テレワーク導入の目的として「従業員の継続雇用」に次いで多いのが「生産性の向上」です。ただ、生産性向上といっても、指標を一律に決めることは難しく、管理職ごとの評価もまちまちで不公平感が起きやすいものです。

テレワークにおける生産性は「成果/総労働時間」となり、職種別の「成果」は以下のようにも示せるでしょう。

  • 営業:顧客対応(回数、時間、新規獲得数)
  • 事務職:事務処理の効率(作成時間・件数)

そのほか、時間あたりの生産性を考えると、「〇〇を今までより短い時間で行う」、「個人の業務プロセスを改善する」、「無駄な作業を削減する」などの指標でも評価できます。会社・部署ごとに出すべき成果とかけるべき時間について、指標を定める必要があります。

テレワーク推進のためのポイント

事業所移転やレイアウト変更を機にテレワークを行う場合、まずはペーパーレス化で不自由な環境からの脱却を図り、袖机を無くし、フリーアドレスにすることが必要です。

次にクラウド化でどこからでも社内情報アクセスできるようにします。これにWeb会議や労務管理の仕組みを入れ、研修を行うことで全社員対象にテレワークが出来るようになります。

情報セキュリティ対策は性悪説で考えることが浸透していますが、テレワークの労務管理は考え方が分かれるところです。性善説で「裁量労働制」「事業場外みなし労働制」を採用するところ、性悪説で「8時間拘束型勤務(8時間勤務で給与が支払われる雇用契約)」で接続・操作ログをとり、業務時間を確認するところなどがあります。

ログで勤務時間は追えますが、「働き過ぎ」の把握は即時にしなければなりません。システム的ではなくとも対話で補える部分も大きいので、テレワーク導入を機にチーム内のコミュニケーションを深めましょう。

テレワークを成功させる鍵は最初から関係者を参加させることです。経営者はもちろん、総務、人事、情報システム、管理職、労働組合などの関係者に「聞いていない」と言われないよう、担当者はしっかり説明し、参加させるようにしましょう。

> 第2回 テレワーク。その導入でのポイントとは

記事執筆

豊田健一(とよだ けんいち)

現職
株式会社月刊総務 取締役
『月刊総務』 編集長

経歴
早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルート、株式会社魚力で総務課長などを経験後、ウィズワークス株式会社入社。現在、日本で唯一の管理部門向け専門誌『月刊総務』の取締役、事業部長兼編集長。一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアムの理事や、総務育成大学校の主席講師、All Aboutの「総務人事、社内コミュニケーション・ガイド」も務める。

著作物
『マンガでやさしくわかる総務の仕事』
『経営を強くする戦略総務』

関連サイト
『月刊総務』 編集長Twitter
月刊総務オンライン

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