働く場(オフィス)の仕掛けによる生産性向上/豊田健一氏

From: 働き方改革ラボ

2019年01月28日 07:00

この記事に書いてあること

生産性の向上を効率性と創造性に分解

生産性の向上。これをオフィスで実現するためには、生産性を二つに分解して考えます。

下記の言葉があります。立正大学の吉川教授によるものです。

「1時間あたりに作れるまんじゅうの数を増やすのが、技術的な意味での生産性上昇。世の中の変化に合わせて売れるまんじゅうを新たに作り出すという生産性の上昇もある」

一つ目が効率性の向上であり、もう一つが創造性の向上です。いわゆる、イノベーションの創造となります。

オフィスにおいては、テクノロジーを使い、最高のITインフラを構築し、業務の効率化の実現を目指します。そして、もう一つの創造性の向上については、社内コミュニケーションの活性化を目指すのです。

そのコミュニケーションも、部門の異なるメンバー同士によるものを増加させることが大事となります。イノベーションは新結合ともいわれるように、既にあるものの組み合わせにより生まれます。ですから、異なる部門、畑の違うメンバー同士をぶつけ、会話をさせることが重要となるのです。

しかし、ベースは、あくまでもコミュニケーションの活性化です。それをどのようにオフィスで実現していくか、それを考えることが大事となるのです。

社内コミュニケーション活性化のための施策

そもそも、社内コミュニケーションを活性化するには3つの施策があります。

一つ目は、社内報、Web社内報などの社内コミュニケーションメディアによるものです。直接コミュニケーションに資するのではなく、コミュニケーションのきっかけとなる「ネタ」を提供するものです。壁新聞の進化系、デジタルサイネージを活用する企業も出始めています。

二つ目は、食事会や飲み会、勉強会やプロジェクトなど、意図ある仕掛けによる社内イベントによるものです。これは直接コミュニケーションできる場を提供するものなので、その効果は高く、また、そのイベント以降も仕事の中でコミュニケーションは継続されるので長い効果が期待されます。

三つ目が今回紹介するオフィスによるコミュニケーション活性化、創造性の向上です。オフィスは毎日利用するものなので、日常的に活性化が図られる効果の高い施策となります。最大の目的は、社員が交わる場を作ること。例えば、あえて不便な状態にすることで、社内を歩かせたり、導線を交わらせたりして、会話に結び付く出会いの場を提供します。社内コミュニケーション活性化は、以上の3つの施策を効果的にリンクさせることが大切です。

「オフィスの見える化」による、クリエイティブオフィス

オフィスにおける社内コミュニケーション活性化には、「クリエイティブオフィス」の考え方が参考になります。クリエイティブオフィスとは、社員が持っているナレッジを表に出しやすいようにレイアウトを工夫し、創造的な仕事やイノベーションが起きやすい環境を整えることです。

具体的には「オフィスの見える化」です。どこで誰が、どのような仕事をしているかが、一目瞭然となるオフィスのことです。優れたオフィスとして表彰されるものの多くは、執務室内に視界を遮る什器や間仕切りがありません。会議室もガラス張りとなっていて、ホワイトボードに書かれている内容や集まっているメンバーを見れば、いまどのようなことが会社で動いているのかが理解できます。

このようにして、仕事の現場が見渡せることで、自らが抱えている課題やアイデアについて、それに関連するナレッジを持っているメンバーを見つけやすくなります。さらに対話がしやすい場が数多くあれば、それだけコミュニケーションは活性化していくというわけです。

すぐに会議ができる、「ちょいミーティングスペース」

気軽に対話できる場として「ちょいミーティングスペース」という場が活用されています。従来ですと、打合せや会議はしかるべき場所の会議室で行われることが多かったものです。しかし、会議室が埋まっていたり、そもそも数が足りなかったりすると、いま思いついたアイデアが生かされなくなってしまう可能性があります。

「ちょいミーティングスペース」が執務室内に数多く配置されていれば、打合せしたい時に打合せができ、また別段かしこまらなくても会話がしやすい雰囲気となります。優れたオフィスには、そのようなスペースがいたるところに配置され、ホワイトボードやモニターも常備されるなど、どのような打ち合わせにも対応できるようになっています。

「オフィスの見える化」と「ちょいミーティングスペース」はコミュニケーションを活性化するレイアウトであり、各人が保有する「知」を形式化するための工夫でもあります。見渡せるオフィスを歩くことで社内に眠るナレッジに出会い、それを素早く形式化しやすくするためにミーティングスペースを数多く配置しているのです。

「マグネットスペース」で人を集め、会話をさせる

このほか「マグネットスペース」と呼ばれるレイアウト方法があります。これはコピー機やプリンターなどの共用機材や備品をいろんな部署の人たちが使えるように一か所に集め、そこで偶発的な出会いや会話を生みだそうとする社内コミュニケーション上の工夫です。

コピーやプリンターの出力を待つ間、違う部署の同期社員が同じように横で出力を待っていたら、「久しぶり! 元気?」というような会話がされることでしょう。つまり、通常業務ではなかなか会話がされないような人たちを、この場所で会話させようとするスペースです。あくまでも可能性でしかないのですが、各部署にコピー機やプリンターがある状態ですと、このような会話はほぼされることはないでしょう。

ある企業では、ゴミ箱が執務室内の一か所に集約され、さらにそのゴミ箱の上には、壁新聞やお知らせを掲示するボードが立ててありました。ゴミを捨てに来る社員間での偶発的な会話、ゴミを捨てる際に必ず掲示物が目に入るという状態、さらに掲示物について、それをネタにしての会話、そのような可能性を提供する場として活用されていました。

このように、共用スペースを一か所に集約し、あえて不便な状態にすることで、執務室内を「わざと」歩かせ、交わらせ、会話がされるようなレイアウトとするのです。日常的に利用するオフィスですから、定期的に発行される社内報や定期、不定期に開催される社内イベントより、上手に活用されれば、その効果は大きなものとなるのです。

< 第3回 長時間労働削減。仕事の見直しが必須

> 第5回 ハードとソフトによる健康経営の進め方 (2019年2月公開予定)

記事執筆

豊田健一(とよだ けんいち)

現職
株式会社月刊総務 取締役
『月刊総務』 編集長

経歴
早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルート、株式会社魚力で総務課長などを経験後、ウィズワークス株式会社入社。現在、日本で唯一の管理部門向け専門誌『月刊総務』の取締役、事業部長兼編集長。一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアムの理事や、総務育成大学校の主席講師、All Aboutの「総務人事、社内コミュニケーション・ガイド」も務める。

著作物
『マンガでやさしくわかる総務の仕事』
『経営を強くする戦略総務』

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