中小企業が対応すべき働き方改革のポイントとは?課題点やヒントなど詳しく紹介

From: 働き方改革ラボ

2021年01月26日 07:00

この記事に書いてあること

多様な働き方の推進や長時間労働の是正のため、働き方改革関連法ではさまざまな規定が定められ順次施行されています。そこでこの記事では、中小企業にとって必要な働き方改革の施策について、法律の内容を中心に解説。中小企業が働き方改革に対応するための課題の整理や、具体的な取り組みの検討にお役立てください。

働き方改革関連法と中小企業について

働き方改革の取り組みについて解説する前に、まずは働き方改革関連法の概要と、法律で定められている中小企業の定義をお伝えします。

働き方改革関連法とは?

働き方改革関連法とは、長時間労働の是正や多様な働き方の推進、また雇用形態に関わらない公正な待遇の実現を目的に実施された法改正の総称です。労働基準法、労働安全衛生法、労働時間等設定改善法、パートタイム労働法、労働者派遣法、労働契約法、雇用対策法、じん肺法の8つの労働関連の法律が改正されました。

中小企業・大企業の定義

働き方改革関連法の規定は、企業規模によって適用の時期が異なるものがあります。法律上は、下記のいずれかに該当する企業が中小企業。これらのどれにも該当しない企業は大企業と見なされます。

  • 小売業 … 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人

  • サービス業 … 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人

  • 卸売業 … 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人

  • 製造業その他 … 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人

中小企業が対応するべき働き方改革の内容とは?

次に、中小企業にとって対応が必要な働き方改革について、具体的に内容を解説します。

残業に関する改正

残業時間の上限時間

働き方改革関連法で、初めて罰則付きの時間外労働の上限規制が設けられました。上限は原則として、月45時間、年360時間。臨時的な事情があり労使が合意する場合でも、複数月平均80時間以内、月100時間未満、年720時間を超えることはできません。違反した場合は、6ヵ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が課せられます。大企業は2019年4月1日から、中小企業は2020年4月1日から適用されました。

月60時間超の残業への割増賃金率

2023年4月から、中小企業を対象に、月60時間超の残業割増賃金率が引き上げられます。月60時間以下の残業割増賃金率は、企業規模に関わらず25%。月60時間を超える時間外労働の残業割増賃金率は、2010年に法改正で大企業は50%に引き上げられましたが、中小企業に対しては猶予期間が設けられ25%のままでした。2023年4月からは中小企業も大企業と同じ、50%に引き上げられます。

労働時間の的確な把握

2019年4月1日から、中小企業、大企業ともに、労働時間を客観的かつ適切に把握することが義務化。労働時間の客観的な把握は通達で定められていたものの、裁量労働制を採用する労働者などは対象外でした。改正後は、管理監督者を含むすべての労働者の労働時間を客観的な方法で把握することが義務付けられました。

フレックスタイム制の上限延長

中小企業、大企業ともに、2019年4月1日からフレックスタイム制の清算期間が延長されました。フレックスタイム制とは、会社が定めた労働時間の範囲内で、繁忙度によって働く人が始業・終業時間を変えられる仕組みのこと。これまでは労働時間や割増賃金が清算できる期間が1ヵ月でしたが、改正後は3ヵ月に延長されました。

勤務間インターバル制度の導入

勤務間インターバル制度導入の努力義務が、2019年4月1日より中小企業、大企業ともに施行されました。勤務間インターバル制度とは、退勤後から翌日の勤務開始までに一定の時間をおいて出社時間を後ろ倒しにすることで、働く人の休息時間を十分に確保する仕組みです。罰則なしの会社の努力義務として規定されました。

年次有給休暇の取得に関する義務

年5日の有給休暇取得義務化も、中小企業、大企業ともに2019年4月1日に施行されました。企業は、年10日以上の有給休暇が与えられる労働者に対して、希望を聞いた上で時季を指定して、年5日以上の有休を与えなければいけません。違反すると、従業員1人あたり30万円以下の罰金が課されます。

高度プロフェッショナル制度の導入

専門知識を活かして働く年収要件を満たす労働者に対して、労働時間・休日・深夜割増賃金などの労働基準法の適用を除外する高度プロフェッショナル制度。中小企業、大企業ともに、2019年4月1日からこの制度の導入が規定されました。労使間の合意や、年間104日以上の休日確保、必要な健康・福祉確保措置を講じることを条件に実施が可能です。

産業医・産業保健機能の強化

中小企業、大企業ともに、2019年4月1日から産業医・産業保健機能を強化する法律が適用。これまでは、労働者の健康確保を目的にした産業医から事業者への勧告、また事業者に対する産業医からの勧告の尊重義務などが定められていました。改正後は、産業医への情報提供が拡充・強化されたほか労働者の健康相談の体制整備など、労働者の健康を維持するためのルールが強化されました。

同一労働同一賃金の適用

正規雇用社員と非正規雇用社員の間の不合理な待遇差を防ぐ、同一労働同一賃金のルールが定められました。大企業は2020年4月1日から、中小企業は2021年4月1日から適用されます。雇用形態を理由にした不合理な待遇差が禁止されたほか、企業は労働者から求められた際に待遇に関する説明をすることが義務付けられました。また、非正規雇用社員に対する待遇差の問題が、行政が解決に向けてサポートを行う行政ADRの対象となるという規定が整備されました。

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中小企業が働き方改革に対応するうえでの課題点と解決策

時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金など、法律適用までの猶予期間が設けられている中小企業。ただ、国内雇用の約7割を担う中小企業こそ、働き方改革が求められています。中小企業は大企業に比べて生産性が低く、日本全体の生産性の低下にも影響を与えているという問題も。成果が上がる職場環境作りを行うためには、中小企業はどのような課題を解決すべきなのでしょうか。

慢性的な人手不足

中小企業で働き方改革が進みにくい理由のひとつが、慢性的な人手不足です。中小企業は、大企業と比べて人材を豊富に確保することが難しくなっています。人材不足解消のためには、労働時間削減や職場環境の見直しを行うことが必要です。働きやすい会社となることで、離職の防止や、多様な人材の活用が進むでしょう。

売り手市場による人材獲得の難しさ

労働人口が減少する中で、就職市場は「売り手市場」となり、採用人数ひとりあたりの賃金も高騰しています。大企業と比較して資金力が低い中小企業にとっては、特に若手の人材確保が困難な状況があります。一定の人材を採用するための人事戦略や、利益によって人件費を確保するための戦略をより明確に立てていくことが必要です。

残業時間の規制による受注量の変化

時間外労働の上限規制がなかった法改正前は、繁忙期に従業員が長時間労働をすることで限られた人員で事業を回していた中小企業もあるでしょう。そんな会社にとっては、残業時間の上限規制によって受注できる仕事量が減る可能性があります。働き方改革を進めるためには、労働時間削減を見据えた経営戦略の見直しが求められます。

中小企業が働き方改革に対応するには?

人材や労働時間に関する課題を抱える中小企業が、法改正に対応して働き方改革を進めるためには何が必要なのでしょうか。

多様な働き方を受け入れるために多様な人材を採用する

労働意欲の高いものの、フルタイムでの勤務が難しい女性や高齢者など、多様な人材を採用することで人材不足を解消できます。テレワーク・時短勤務など時間や場所にとらわれない働き方に関する制度導入と同時に、上司の理解や従業員同士の円滑なコミュニケーションの確保など、多様な働き方を許容する風土作りによって、多様な人材の活用が進みます。

適切な勤怠管理で時間外労働への対策を講じる

時間外労働の上限規制に対応するためには、労働時間に関する自社の現状を把握することが不可欠です。勤怠管理システムの導入によって労働時間を適切に把握することで、各部署の生産性の課題を整理しましょう。残業の申請制やノー残業デーの設定など、労働時間削減に向けた具体策を講じることができます。

ITツールやアウトソーシングの利活用で労働時間制限に対応する

人材不足や長時間労働の問題を抱える中小企業の働き方改革には、ITツールやアウトソーシングの活用が有効です。ITツール導入で業務効率化が進めば、労働時間削減が期待できます。また、社員以外に任せられるノンコア業務をアウトソースすることで、社内の限られた人的リソースを活用できます。利益につながる仕事や創造性の高い仕事に社員が集中できるため、生産性が向上します。

中小企業での働き方改革導入事例

中小企業で実際に進められ、成功した働き方改革の具体的な取り組みについて、事例をご紹介します。

クラウド連携ソリューション活用によるテレワーク推進

ウォータージェット工法による産業設備のメンテナンス事業を行う日進機工株式会社。データを保存するサーバーのひっ迫解消や業務効率化を目的に、クラウドサービスを導入しました。システムと親和性の高いデジタルカラー複合機も導入することで、スキャンデータのスムーズな取り込みも可能に。社員がテレワークを余儀なくされた状況でも事業を継続できるなど、BCP対策の効果もあがっています。

カンタン&スムーズな帳票作成で作業時間を半分以下に削減

香川県高松市で浄化槽の設備管理と養蜂事業を行う株式会社ミネック。商品や取引先増加に伴って業務を圧迫する請求業務の時間短縮のため、帳票作成業務から請求書送付や入金消込などの一連の請求業務を効率化できるクラウド経理サービスを導入しました。月末の請求書作成の作業時間が50%以下に減ったほか、税率の仕分けなどの重要業務にミスが減り、安定した経理業務が実現しました。

「IT点呼システム」の導入で運行管理者の負担軽減を実現

静岡県浜松市の食品運送会社・株式会社内藤物流は、安心して働ける会社を目指して労働環境の改善を進めています。2017年には、運行管理者の負担を軽減するため、健康状態や酒気帯びの有無などをドライバーに確認する点呼をオンラインで行う「IT点呼システム」を導入。担当者の合理的な勤務ローテーションと負担軽減が実現し、1ヵ月あたり約300時間の労働時間削減につながりました。

ケアマネジャーのリモートワーク|介護記録の遠隔入力で残業時間を削減

茨城県坂東市の特別養護老人ホーム「恵愛荘」では、訪問介護を担当するケアマネジャーの負担を軽減するため、施設のパソコンを施設外から操作できるシステムを導入しました。これまでは外回りが終わった後に施設に戻って行っていた事務作業を、外出先での仕事の合間を使って効率的に行うことが可能に。自宅への持ち帰り仕事がなくなり、残業時間も大幅に削減されました。

まとめ

人材不足や長時間労働などの課題が多い中小企業の働き方改革には、大企業にはない視点や解決策が必要です。法改正に対応するだけでなく、従業員にとって働きやすい職場環境を実現するためにも、法律適用の時期や、自社に必要な解決策を知って働き方改革を進めましょう。

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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