【2022年版】不動産売買契約における電子化とは|最新の法改正や事例を解説

From: 働き方改革ラボ

2022年10月13日 07:00

この記事に書いてあること

ここ数年、デジタル改革関連法の成立や宅地建物取引業法の改正が続き、ペーパーレス化の流れが加速している不動産業界。新型コロナウィルス感染症対策における非対面契約の需要が高まるなか、販売機会を逃さないためにも電子契約化は急務でしょう。

この記事では、不動産売買の電子契約化の概要やメリット、事例を解説しています。不動産売買における電子化を進めたいと考えている企業はぜひ参考にしてください。

2021年9月に公開した記事を更新しました。

不動産売買における電子契約解禁までの経緯

ペーパーレス化や新型コロナウィルス感染対策におけるテレワーク導入などで、これまでの書面契約を電子化する流れが加速しています。さまざまな制約から導入が遅れていた不動産業界もそのひとつです。

2017年よりIT重説の運用実験開始

電子契約化を進めるうえで、国土交通省は段階的に運用実験を開始していました。2017年からは賃貸契約においてIT重説の運用が開始され、2年ほどかけて導入に問題ないことが実証されたため、さらなるステップアップとして2019年10月1日からは参加事業者に対し社会実験が行われました。

当初は、個人を含む売買取引におけるIT重説を1年間、賃貸住宅電子契約を3カ月間実施する予定でした。しかし、新型コロナウィルス感染症対策の影響で電子契約化を進めるのが急務となり、2021年4月にはIT重説が自由化し、同年5月にはデジタル改革関連法が可決されました。

2021年よりIT重説が自由化

先述したように、2021年4月には、どの宅建業者であってもオンライン上で重要事項説明書について説明するIT重説を自由に行えるよう改善されたことをきっかけに、当時、書面交付の義務がない賃貸契約の更新・退去に関してはペーパーレス化が進みました。

さらに、2021年5月にはデジタル改革関連法が成立し、同年9月1日より不動産取引における「押印義務の廃止・書面の電子化」が認められ、その勢いはさらに加速しました。

しかし、後述するように、一部の契約書では書類での送付・対面での契約が必須となっていたため、契約を完全に電子化するのは難しいという課題がありました。

2022年より電子契約が全面解禁

2022年5月には宅地建物取引業法が改正され、書面での契約が必須となっていた重要事項説明売買契約締結媒介契約締結の電子交付が認められ、不動産にまつわる電子契約が全面解禁されました。

この改正によって、契約書の送付から締結までをすべてオンラインでできるようになったため、非対面での契約が可能となったうえに、スケジュール調整や送付する用紙のコストなどが削減されました。

不動産売買を電子契約化する2つのメリット

それでは、不動産売買を電子契約化すると、具体的にどのようなメリットがあるのかご紹介します。

1.コストを削減できる

従来の不動産売買では、契約のために顧客の元を訪れたり、個別に時間を取ったりする必要がありました。電子契約化することで、オンラインツールやメールなどで書類を送付でき、好きなタイミングでやり取りできるため、成約にかける期間や手間を省けます。

また、電子契約化するメリットのひとつとして、郵送費・印紙税をカットできる点も挙げられます。郵送で契約書を送る際には、配達ミスに備えて配達記録付きで送るのが一般的です。配達記録が付く簡易書留・配達証明郵便・レターパックは普通郵便よりも割高で、郵送するほど経費がかさみます。

また、書面交付をすると必ず印紙税がかかり、不動産売買契約書に記載されている金額が大きくなるほど徴収額が増してしまいます。成約数が多いほどかかる郵送費・印紙税を削減できるなど、電子契約による恩恵は計り知れません。

2.文書ファイルを電子化して保存できる

電子契約書は、紙で交付する時と違いパソコン・サーバーで管理するため、保管場所に困りません。不動産売買契約書は、債務不履行による損害賠償ができる期間の10年間、あるいは不法行為による損害賠償請求権の期間となる20年間は保存を推奨されています。

これらの期間、紙で管理すると、内容を確認する際は大量にあるファイルから探さなければならず、手間や時間がかかってしまいます。業務効率が悪くなるため、膨大なデータの中から瞬時に探せる電子契約書が便利でしょう。

不動産売買を電子契約化する際の3つの注意点

続いて、不動産売買を電子契約化する際の注意点を解説していきます。電子契約化を進めるにあたってこれらに注意することで、トラブルを防ぐことができます。

業務フローの構築が必要になる

電子契約化を進める場合、電子化が解禁された重要事項説明・売買契約締結・媒介契約締結の書類だけでなく、更新・退去・駐車場の契約書類もまとめて置き換える必要があります。

一部だけ書面交付を続けていると管理に手間取り、社内に普及するのが難しくなります。余計な手間を省くためにも、現場に電子化導入のメリットを説明し、一斉に進めていくのが大切です。

そのためにも、今一度ネットワーク環境を確認し、万全の体制を整えることをおすすめします。

セキュリティ対策をしっかり講じる

電子契約化を図るうえで、セキュリティ対策は欠かせません。契約書の改ざんや漏洩を防ぐためにも、管理サーバーでデータを一括管理するのは避けるべきでしょう。契約書のデータを暗号化して保管したり、サイバー攻撃からシステムを保護したりして有事に備えるのが大事です。

また、サーバーのデータが消失しても復旧できるように、毎日バックアップしておく必要があります。過去には、クラウドサーバーの賃貸借契約をしていた会社のデータが、更新手続きミスで消失してしまった事故も起こっています。

取引先にもネットワーク環境を整えてもらう必要がある

電子契約が進められるなかで、セキュリティ面や保管方法に不安を感じ、書面交付にこだわっている企業は少なくありません。

電子契約サービスのなかにはアカウント登録が必要なサービスがあったり、セキュリティ対策を講じる必要があったりと、取引先に環境を整備してもらうことがネックになる可能性があります。取引先が乗り気でない場合は、電子契約のメリットを伝えて導入を検討してもらう必要があるでしょう。

ただし、どうしても電子契約を許可してもらえない場合は、自社で電子契約書を保管し、取引先には印刷物に押印して渡す方法もあります。

不動産売買において電子契約を締結するまでの3ステップ

不動産売買において電子契約を導入することで、契約締結までをオンライン上で完結することができます。どのようなステップを踏むのか、解説していきます。

1.IT重説の準備をする

IT重説とは、従来対面で説明しなければならなかった重要事項説明書をオンラインツール上で行なうことを指します。これらは事前申請をせずとも、国土交通省が定めた『ITを活用した重要事項説明 実施マニュアルマニュアル』に基づいた要件を満たせばいつでも導入できます。

IT重説を行なう際の具体的な要件としては、?契約相手と双方向でやりとりができるIT環境を用意すること、?重要事項説明書などを事前に送付しておくこと、?IT環境に接続後、説明をはじめる前に契約相手が重要事項説明書を準備しているか、ネットワーク環境は整っているかを確認すること、?宅地見物取引士章を契約相手に見せ、それがはっきり目視できたか確認することが挙げられます。

これらの要件を満たすために、まずはカメラやマイクなどを搭載した機器を準備したり、ネットワーク環境を整えたりする必要があります。

2.IT重説の同意を得る

IT重説に必要な準備が整ったら、契約相手にIT重説の事前同意を得ます。もし相手方の準備が整っていない場合、国土交通省のマニュアルに違反することになりますので、あらかじめ相手のネットワーク環境や機器についても確認しておきましょう。

同意を得たあとは、事前に宅建業者・取引士が押印をした重要事項説明書を含めた資料を送付します。これらにあわせて契約書類を送付することも可能です。

従来は紙での送付が義務付けられていた重要事項説明書も、2022年5月より電子送付することが認められました。これらは書面として出力できること、電子署名をした際に改ざんができない仕組みができていることなどの要件を満たすことでメールでの送付やWebサイト上からのダウンロードが可能となります。

ただし重要事項説明書の電子交付は義務ではなく、これまで通り書面を送付したものを見ながらIT重説を行なうこともできます。紙を使用する場合は、重要事項説明書を必ず2部送付し、IT重説を行なったのち、署名と捺印をしたものを返送してもらわなければならないため、注意が必要です。

3.IT重説を行ない、契約締結

ネットワーク環境の整備や機器の用意、事前に契約相手に同意を得たあとは、手元にある重要事項説明書を持って宅建業者・取引士がIT重説を行ないます。

重要事項説明書の説明を行なって双方が内容確認したのち、対面時の署名・捺印に代わって電子署名をすることで、当事者が契約に同意していることを証明できます。

電子契約を締結する際には電子証明書を持って本人性を担保することがほとんどです。会社によっては電子契約サービスを導入することによって、なりすまし対策をしているところもあります。

不動産売買を電子契約化した事例2つ

最後に、不動産売買を電子契約化した事例を紹介します。事例を踏まえて、電子契約化を上手にすすめましょう。

電子化でリモートの申請・承認が可能に

野村不動産株式会社では、コロナ禍で電子契約のニーズが高まっていることを受け、不動産契約一元管理サービスの「Musubell」を導入しています。

「Musubell」は株式会社デジタルガレージが提供しているサービスで、100種類以上の契約書の自動選別・自動作成に対応しています。

さらに、弁護士ドットコム株式会社のサービスである「クラウドサイン」との連携により、データの保管から契約書の締結まで全て電子化を実現しました。必要な契約書類のデータは、クラウドサインを経由して顧客へ送信できます。

契約書類や顧客管理のフォーマット・承認ワークフローといった実務の負担を軽くするシステムを構築した甲斐もあり、作業効率化の課題を解消しています。電子化で営業の半分をリモートワークに移行でき、遠隔でも申請・承認作業が容易となりました。

収入印紙代を削減し、利便性も向上

プロパティエージェント株式会社は、投資用マンションブランドである「クレイシア」の売買取引契約を電子化。ドキュサイン・ジャパン株式会社が提供するドキュサインのプラットフォームにより、様々なデバイスから電子署名が可能になりました。

一般的な契約に用いられる文書形式に対応しているため、Word・Excel・PowerPoint・PDFどれでも署名を自動生成できます。ハンコの印影データも簡単にアップロードできるので、都度押印する必要はありません。

収入印紙代の削減に成功したほか、場所・時間にとらわれなくなり、利便性が向上しました。成約までの作業負担を軽減できるのはもちろん、契約書類の管理が簡単になり、顧客満足度の向上につながっています。さらに、クラウド管理によって従業員による紛失・盗難がなくなるので、セキュリティ強化も見込んでいます。

まとめ

新型コロナウィルス感染症対策などの影響もあり、不動産業界では急速に電子化の流れが進んでいます。宅地建物取引業法の改正によって不動産にまつわる電子契約が全面解禁され、その勢いはさらに増すことが考えられます。

電子契約の導入によってコスト削減や業務効率化、契約にスピード感が生まれるといったメリットが得られる一方で、国土交通省のマニュアルに則った準備が必要であり、浸透までに時間がかかるのも事実です。そのため、あらかじめ注意点や契約締結までのステップを確認しておく必要があります。

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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