中小企業のパワハラ防止法への対策方法|罰則や予防策も解説

From: 働き方改革ラボ

2022年11月17日 07:00

この記事に書いてあること

パワハラ防止法は大企業だけでなく、中小企業も遵守するべき法律です。中小企業がパワハラの対策を怠ると、従業員の離職や生産性の低下にもつながり、企業経営への影響も少なくありません。この記事では、経営層や総務・人事部門の担当者に向けて、パワハラ防止法の概要から対策方法、リスクや予防策までを解説しています。ぜひ参考にしてください。

パワハラ防止法とは

パワハラ防止法とは改正労働施策総合推進法の通称で、職場におけるいじめや嫌がらせを防止するための法律です。2020年6月の改正労働施策総合推進法によって大企業の対応が義務化し、2022年4月からは中小企業にも義務化されました。

都道府県労働局に寄せられる相談件数が増加したことにより制定されたもので、事業主はパワーハラスメント防止のための措置を講じなければなりません。

パワハラの現状

厚生労働省が2021年に公表した「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、2020年度までの過去8年連続で「いじめ・嫌がらせ」に関する助言・指導の申出が最多となりました。

2020年度の総合労働相談件数が129万782件で、13年連続で100万件を超えて高止まりとなっています。そのうち「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は7万9190件、労働局長による助言・指導は1831件です。

パワハラ防止法は2020年に大企業を中心に施行されましたが、中小企業は2022年3月まで努力義務とされていたこともあり、いじめや嫌がらせの抑止には繋がっていません。従業員規模が小さいほどハラスメント予防・解決のための取り組み評価は下がっているといえます。

パワハラの定義

パワハラに認定されるものとして3つの要素が挙げられます。それぞれについて解説します。

優越的な関係を背景とした言動

優越的な関係とは、言動を受ける者が行為者に対して抵抗・拒絶できない確率が高い関係を指します。上司と部下をイメージしがちですが、同僚や部下による言動でもパワハラになる可能性があるため注意しましょう。

優越的な関係を背景とした言動として、次のような例が挙げられます。

・業務上必要な知識や経験を持つ人がいなければ、業務の円滑な遂行が困難な社員への言動
・職務上の地位が高い人から新入社員への言動

業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

業務上明らかに必要のない行為や、目的を大きく逸脱した行為もパワハラの要素として挙げられます。例えば、社会通念上許容される限度を超えた仕事の指示や、威圧的な態度などが当てはまるでしょう。

ただし、業務の過失やミスに対する叱責などは、教育的な意味合いが強いため該当しません。「お前はバカだ」「頭が悪い」のような人間性の否定など、業務に関係のない言動がパワハラに認定されます。

就業環境を害すること

就業環境を害するとは、身体的もしくは精神的な苦痛を与えることにより「就業意欲が低下する」「業務に専念できない」など、就業する上で支障が生じる状況を指します。苦痛を与えるとは、次のような言動です。

・長期間にわたって無視や能力にふさわしくない仕事を与える
・厳しい叱責を執拗に繰り返す

言動の頻度や継続性などが考慮されますが、強い身体的苦痛あるいは精神的苦痛を与えた場合は、たとえ一度でもパワハラに認定されます。

パワハラに該当する6つの言動の類型

パワハラ認定される代表的な言動は、以下のような6つの類型に分類されます。

  1. 1.

    身体的な攻撃:叩く、殴るなど暴行や傷害など

  2. 2.

    精神的な攻撃:同僚の目の前で人格を否定するような言動、名誉毀損や長時間にわたる侮辱、暴言など

  3. 3.

    人間関係からの切り離し:仲間外しや無視など、職場での孤立を招くもの

  4. 4.

    過大な要求:業務上不要なことや不可能なことの強制など

  5. 5.

    過少な要求:本来の業務以外の程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと

  6. 6.

    個の侵害:私的なことに過度に立ち入るこ

これら6つの類型以外でもパワハラだと認められる場合があり、かつ前述したパワハラの定義に当てはまることが前提です。また、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係などさまざまな角度から総合的に判断する必要があります。

中小企業のパワハラのリスク

中小企業がパワハラに対して、対策を講じなかった場合のリスクを4つお伝えします。

生産性が低下する

パワハラによって仕事の効率が低下し、生産性が落ちることで業績悪化に繋がる可能性があります。またパワハラがある職場は、ストレス・集中力の低下・欠勤・働く意欲の低下などの原因になりやすい環境です。

人材が定着しない

体調不良やメンタル不調により欠勤や休職が増加すると、人材不足になりやすく他の従業員への負担が増加します。また、口コミや評判が出回ると新しい人材の獲得も難しくなり、事業の存続が危ぶまれるかもしれません。

被害者の心身に影響が出る

パワハラ被害者がうつ病などの精神疾患を患う、あるいは暴力によってケガをしてしまう可能性が考えられます。パワハラの後遺症に悩まされて出社できない従業員が出ることもあるため、会社への影響は避けられないでしょう。

損害賠償に発展する

企業には労働者にとって働きやすい職場環境を保つように配慮する「職場環境配慮義務」があるため、パワハラを放置または黙認した場合には企業責任を問われることも考えられます。万が一、従業員が自殺を図ってしまうと遺族から損害賠償を請求されるケースもあり、企業イメージのダウンになりかねません。

パワハラ防止法の罰則

本格的に義務化されたパワハラ防止法ですが、罰則は定められていません。ただし、厚生労働大臣が必要だと認めた際は、指導・勧告の対象になる可能性があります。規定違反に対する勧告に従わない場合は、社名や勧告に従わない旨が公表されることもあるため、罰則がなくても遵守する必要があります。

中小企業のパワハラ防止法への対策方法

パワハラを防止するために事業主が行うべき具体策として、4つの措置を説明します。

事業主の方針等を明確にする

組織のトップが中心となってパワハラを防止するための方針を明確にしましょう。就業規則などでパワハラの禁止や処分に関する規定を設け、従業員への周知・啓発が必要です。社内報や社内ホームページなどを活用したり、パワハラに関する研修や説明会などを実施したりするとより理解が深まります。

相談内容を否定しない

従業員から相談があった場合は中立の立場を保ち、加害者と被害者どちらか一方だけに肩入れせず相談を受けましょう。最初からパワハラを否定してしまうと、相談者の事実関係を確認しにくくなります。また、精神・肉体にダメージを負っている被害者を追い詰めることも、パワハラに該当する言動になるため注意が必要です。

相談に対して適切な対応をする

相談窓口を設置する、または、担当者が相談内容や状況に応じて適切に対応できるよう整備します。パワハラの事実確認ができた場合は、被害者に対しての配置換えや謝罪など、速やかに配慮のための措置を行わなければなりません。加害者に対しては、就業規則に則った処分を下し、加えて再発防止対策を作ることも重要です。

相談者の匿名性・第三者性を確保する

社内でプライバシー保護の体制を整えることも大切です。相談内容が外部にバレた場合、犯人探しや報復などに繋がることもあります。また、相談内容を理由として、解雇や降格など相談者に不利益な取り扱いをすることは禁止されています。その点についても就業規則などに明文化しておくと、パワハラに悩んでいる従業員も相談しやすくなるでしょう。

中小企業のパワハラ予防策

中小企業におけるパワハラの予防策としては、「経営層からの発信」「パワハラに関する教育」「コミュニケーション」が挙げられます。

経営層が積極的に発信する

経営層がパワハラに関するメッセージを発信し、明確な姿勢を打ち出すことで社員の意識が高まります。会議や啓発ポスターなどを利用して企業全体に周知しましょう。パワハラに該当する行為や具体例を掲載した冊子の配布も有効といえます。また、パワハラ行為が発覚した際の社内ルールや罰則を設定し、パワハラに関する正しい知識を認知させることも重要です。

パワハラに関する教育を行う

パワハラに関する研修などを実施し、ハラスメントに関する正しい知識を定着させましょう。定期的に従業員教育を行い、全員が正しい知識を持つ組織にすることが理想といえます。特に管理職は、指導とパワハラの線引きが難しいケースもあるでしょう。部下がミスをしたときの指導方法などと合わせて取り組む必要があります。

社員とのコミュニケーションの機会を増やす

従業員同士が意思疎通しやすい組織作りを意識しましょう。こまめなコミュニケーションを図ることで話しかけやすい雰囲気を作っておくと、相談しやすいうえに素早い対応が可能になります。また、良好な人間関係によって意識のギャップや誤解も少なくなるはずです。従業員同士でお互いの変化に気づきあえる風土を作れると、パワハラの兆候も把握しやすくなります。

まとめ

パワハラ防止法は、2022年4月から中小企業にも義務化されました。パワハラによるトラブルは個人だけでなく、企業経営にも影響しかねない問題です。前述した行うべき対策を参考に、パワハラ行為がない職場作りに取り組みましょう。

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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