2022年から中小企業の社会保険の適用範囲が拡大。今から必要な対策を解説。
2021年11月18日 07:00
この記事に書いてあること
現在、大企業のみが対象の短期間労働者の社会保険加入の義務化が、2022年から順次、中小企業に対しても適用されます。
このコラムでは、年金制度改正法による企業の保険料負担額の変化など、中小企業にとって気になる社会保険適用拡大について解説します。法改正の内容や、会社側やパート社員側に与える影響、さらに適用スタートに向けて必要な準備について確認しましょう。
※2021年7月公開の記事を資料化しました
現行の社会保険加入の適用範囲は?
社会保険(厚生年金・健康保険)は、現在すべての企業に対して、正社員と、週の所定労働時間数および月の所定労働日数が正社員の3/4以上であるパート社員を加入させることが義務付けられています。
2016年10月からは、従業員501人以上の企業に対して、以下の条件を満たすパート社員の加入も義務付けられました。
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週の所定労働時間が20時間以上
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賃金の月額が8.8万円以上であること
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1年を超える雇用期間が見込まれること
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学生ではないこと
上記のような、短時間労働者の社会保険加入義務の対象となる企業が、2022年10月から次のように変わります。
2022年10月|社会保険加入の適用拡大の内容
2022年10月から、従業員数が101人以上500人までの企業に対して、下記の条件を満たすパート社員を社会保険に加入させることが義務付けられます。
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週の所定労働時間が20時間以上30時間未満(週の所定労働時間が40時間の企業の場合)
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賃金の月額が8.8万円以上であること
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2ヵ月を超える雇用期間が見込まれること
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学生ではないこと
また、従業員数が51人~100人の企業に対しても、2024年10月からこの条件を満たす短時間労働者の社会保険加入が義務付けられます。
社会保険適用拡大のポイント
社会保険適用拡大について理解し、対策を進める上での重要なポイントを整理してお伝えします。
従業員数の計算方法に注意
適用拡大時期の対象の基準となっているのが、会社の従業員数です。
従業員数は、すべての正社員、パート社員数ではなく、現在の厚生年金保険の適用対象者でカウントします。正確に適用時期を把握するためにも、この計算方法に注意しましょう。
具体的には、フルタイムの従業員数と、週の労働時間がフルタイム勤務者の3/4以上のパート・アルバイト従業員数を足した合計です。
期日前に適用拡大すると申請できる助成金も
101人~500人までの企業は2022年10月から、51人~100人の企業は2024年10月からという義務的適用のスタート時期が定められていますが、この日時より早く社会保険加入範囲を拡大することで、申請できる補助金もあります。
従業員500人以下の企業は、現在も労使が合意すれば、新たに短時間働くパート・アルバイトを社会保険に加入させることができます。
2022年10月からは100人以下の企業、2024年10月からは51人以下の企業も対象になります。この「選択的適用拡大」を行った企業は、生産性向上に取り組む中小企業を支援する「中小企業生産性革命推進事業」が用意する、ものづくり補助金、持続化補助金、IT導入補助金の審査で有利になります。
選択的適用拡大を行った企業は、応募条件が緩和されたり、審査で加点されたりと、優先的に支援が受けられます。
短時間労働者のキャリアアップの機会にも
非正規雇用社員の企業内でのキャリアアップを促進する「キャリアアップ助成金」にも、選択的適用拡大を行った企業を対象にした次のコースが用意されています。
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社会保険労務士等の専門家を活用して従業員とコミュニケーションをとり適用拡大を実施……19万円
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さらに、パート従業員の社会保険加入の際に基本給も増額した場合…1人あたり1.9万円~13.2万円
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さらに、短時間労働者に関する人事評価の仕組み・研修制度を整備した場合…10万円
また、キャリアアップ助成金には、短時間労働者の労働時間延長、正社員化を行った企業を支援する「短時間労働者労働時間延長コース」「正社員化コース」も用意されています。社会保険の適用拡大をきっかけに、短時間労働者のキャリアアップ促進を実施しながら、法改正への準備費用を用意するのもおすすめです。
適用拡大による働き方への影響
では、社会保険適用拡大は、事業主、そして短時間労働者の働き方にどのような影響を与えるのでしょうか。主なポイントを解説します。
事業主負担額の増加
適用拡大が企業側に与える影響のひとつが、社会保険料の企業負担額の増加です。
新たに加入する従業員の社会保険料のうち、半分が会社側の負担になります。新たな加入対象者の数と増える社会保険料を概算した上で、必要な対策を検討する必要があります。
厚生労働省の「社会保険適用拡大特設サイト」では、「社会保険料かんたんシミュレーター」で、会社が負担する社会保険料の試算ができます。対象人数や給与額などの入力することで保険料の目安がわかるので、参考にして準備を進めましょう。
社保完備によって求人の魅力アップ
企業側にとっては、社会保険の適用を拡大することで人材が集まりやすくなるというメリットが期待できます。
厚生労働省によると、「社会保険に加入できる求人」をどう思うかというアンケートに対し、約60%が「魅力的」と回答。パート・アルバイトでも条件を満たせば社会保険に加入できるという条件は、求人としての魅力度をアップするため、応募数が増えるという影響も見込めます。
パート社員の年金と医療保険が充実
パート・アルバイトで働き、会社の社会保険に加入していない人は、現状は口座振替などの方法で、自分で国民年金や国民健康保険料を支払っています。勤め先で社会保険に加入すると、保険料の半分は会社が負担し、保険料は給与から天引きされます。
また、勤め先の社会保険に加入することで、受け取れる年金の金額が変わります。
老齢年金、障害年金、遺族年金については、基礎年金に厚生年金の給付が上乗せされます。また、病休期間中に給与の2/3相当を受け取れる傷病手当金、産休中に給与の2/3相当が受け取れる出産手当金など、医療面の保障が充実することも、従業員側が受ける影響のひとつです。
パート社員が扶養基準額に縛られにくくなる
配偶者の扶養の範囲内の収入で働いていた従業員にとって、年収130万円という基準に縛られにくくなるという点も、社会保険適用拡大で起こる変化です。
これまでは、配偶者に扶養されている従業員の年収が130万円を超えると、支払うべき保険料が発生するにも関わらず、保障内容に変化がありませんでした。そのため、パート社員が130万円を超えないように仕事をするというケースがありました。
適用拡大後は、月収8.8万円(年収106万円)を超えるなどの条件を満たせば、厚生年金保険や健康保険に加入できるようになります。
そのため、会社と折半する保険料が新たに発生するものの、厚生年金分の受取額が増えるなど、保障が充実。扶養基準とは別の判断基準を持って、パート・アルバイト従業員が仕事をすることができます。
適用拡大に向けて必要な準備
では、社会保険適用拡大に向けて企業は何をすべきなのでしょうか。必要な準備を解説します。
加入対象者の把握
まず必要なのは、新たに社会保険に加入する対象者の把握です。改めてその条件を詳しくお伝えします。
週の所定労働時間が20時間以上30時間未満(週の所定労働時間が40時間の企業の場合)
この時間数は契約上の所定労働時間で、臨時で発生した残業時間は含みません。契約上の所定労働時間が20時間に満たない場合でも、実労働時間が2カ月連続で週20時間以上となり、その状況が引き続くと見込まれる場合には、3カ月目から保険加入対象です。
賃金の月額が8.8万円以上であること(基本給及び諸手当を指し、残業代・賞与・臨時的な賃金などは含まない)
2ヵ月を超える雇用期間が見込まれること
学生ではないこと(休学中の学生や、夜間学生は加入対象)
社内への通知
加入対象となる従業員を確認したら、社会保険の適用拡大について、社内へ周知しましょう。
新たに社会保険の加入対象になるパート・アルバイト従業員に、法律改正の内容、対象となった理由、また適用拡大にとって変わることを伝えます。メールや社内イントラネットを活用して、正確に通知しましょう。
説明会や面談の実施
新たに加入対象となる従業員に正しく情報を伝えるため、必要に応じて、説明会や面談を実施しましょう。
面談では、社会保険に加入することで天引きの保険料が発生すること、また加入で得られる保障やメリットについても説明が必要です。
年収130万円の扶養基準に沿った働き方をしているケースなど、今回の適用拡大をきっかけに、働き方の変更を希望する従業員もいるでしょう。会社側と従業員側で、今後の働き方や、労働時間の変更について話し合うことも大切です。
被保険者資格取得届の届出
適用拡大の対象となる企業は、被保険者資格取得届の提出が必要です。従業員数101~500人の企業には、2022年8月までに適用拡大となることを知らせる書類が届きます。
被保険者となる日や報酬月額等を記入した被保険者資格取得届を用意し、2022年10月5日までにオンラインで提出しましょう。なお、従業員数51人~100人の企業の届出の提出時期は、2024年10月です。
社会保険適用拡大は働き方を見直すチャンス
101人以上の規模の企業にとって、2022年10月の社会保険の適用拡大のスタートまであと1年あまりです。
事業主負担額によっては、パート・アルバイトの働き方や、労働時間を見直すなどの対応が必要になるでしょう。ただ、社会保険適用拡大は、働き方や雇用形態に関わらず、傷病手当金や出産手当金など適切な保障を受けられるようになる制度です。働き方改革を進める上で、パートやアルバイト従業員にとって安心して働ける環境を整えることは不可欠なはずです。
アドバイスやサポートが必要な場合は、専門家活用支援事業やよろず支援拠点の支援など、中小企業が無料で利用できる制度もあります。必要な対策を行うためにも、早めに準備を進めましょう。
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