成功事例に学ぶ残業削減の取り組み ポイントや注意点を解説

From: 働き方改革ラボ

2022年09月22日 07:00

この記事に書いてあること

2019年4月、時間外労働の上限規制が定められ、残業時間を減らす体制づくりが求められるようになりました。しかし、長年積み上げてきた業務体制を改善することは簡単なことではありません。そこで今回は、時間外労働を削減するためのポイントや、実際の成功事例をご紹介します。

※2021年6月に公開した記事を更新しました

時間外労働の規制とは

はじめに、2022年現在法律で定められている時間外労働の上限規制について、おさらいします。

時間外労働規制の目的

2019年4月、個人の柔軟な働き方を選択できるようにするための「働き方改革」の一環として労働基準法が改正され、時間外労働の上限が定められました。

時間外労働規制の目的には、これまで課題となっていた長時間労働を減らし、従業員のワークライフバランスを改善すること、長時間労働による健康障害を抑えることなどが挙げられます。大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から適応されました。

厚生労働省の『過重労働による健康障害を防ぐために』によると、時間外・休日労働時間が月100時間超、または2?6ヶ月の間に平均で80時間を超えると健康障害リスクが高くなると言われています。そのような事態が起こらないよう、事前の対策が求められます。

時間外労働規制の上限は月45時間

時間外労働の上限は、特別な事情がない限り、月45時間・年間360時間に決められています。

たとえ繁忙期といった事情があったとしても、「時間外労働が年間720時間以内」「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満」「時間外労働と休日労働の合計が、2~6ヵ月平均80時間以内」「月45時間を超えることができるのは年間6ヵ月まで」という制限を守る必要があります。

時間外労働に関する3つの注意点

先述したように、時間外労働には厳しい上限規制が設けられました。しかし、法改正後も規制の対象外となるケースもあります。

上限規制の本来の目的から逃れるための抜け道として利用しないよう意識しましょう。

みなし残業

まず注意したいのが「みなし残業」です。これは、実際の残業の有無に関係なく、一定の固定残業代を支払う制度のことを言います。

企業側にとっては毎月の支出が計算しやすくなるメリットもありますが、サービス残業につながる危険性が高いのも事実です。たとえみなし残業時間を超えたとしても、その分の残業代が支払われず、トラブルに発展することもあります。

みなし残業は、あくまで従業員の作業効率向上や、安定した収入を目的に設定されるものです。みなし残業をはるかに超える業務量の場合は従業員の圧迫にもつながるため、取り入れる際には注意しましょう。

裁量労働制

専門性が高い職種などを対象とし、従業員が自分の裁量で時間を使って働ける「裁量労働制」では、労働時間数に関わらず、「みなし労働時間」分が給与として支払われます。

深夜労働や休日出勤には割増賃金が支払われますが、法律で定められた時間外労働の上限を超えて働いても違反にはならず、残業代も支払われません。

裁量労働制導入の目的は、自由なスタイルが適した職種の人にとって働きやすい環境を実現することです。法律に対応するために裁量労働制を導入することは、長時間労働問題の解決策にはなりません。

変形労働時間制

「変形労働時間制」によって残業対策を行なう場合も、注意が必要です。

「変形労働時間制」とは、あらかじめ1週間や1年といった範囲内での労働時間を定め、日ごとの労働時間に条件をつけることで、週40時間や1日8時間を超えても、定めた労働時間内であれば残業代を支払わない制度のことを言います。条件を満たしていないなかでの運用、制度が適用されない出勤日にも関わらず残業代を支払わないなどは法律違反です。

残業上限規制に数字上で対応する仕組みに頼るのではなく、実質の労働時間を減らす取り組みこそが、働き方改革に必要なのです。

時間外労働削減の取り組みの実態

では現在、企業で時間外労働を削減する取り組みはどのくらい進んでいるのでしょうか。

HR総研が2021年4月に発表した『「働き方改革」に関するアンケート』によると、「働き方改革への取組み」の有無について、あると回答した企業は91%と、9割を超えていました。

あると回答した企業のうち、長時間労働の是正に取り組んでいる企業は71%と多く、規制の効果の高さを伺える一方で、まだしっかりとした対策を講じていない企業もいることがわかりました。

時間外労働の原因とは

いくら時間外労働を削減しようとしたところで原因がわかっていなければ改善につながりません。それでは、時間外労働の主な原因にはどのようなものがあるのでしょうか。

作業完了までの日数が足りない

作業完了までの日数が足りないと、労働時間内に終わらず、残業しなければならなくなってしまいます。作業完了に必要な時間を割り出せていないと、一日の業務量も不明確となり、従業員の負担にもつながります。

まずは作業完了に必要な時間や従業員数を計算したうえで、適正な業務量の割り振りをすることをおすすめします。また、手入力や目視確認など、人手が必要となる場面ではシステムを導入するなど、作業の効率化を図ることも重要です。

業務内容と従業員の能力が見合っていない

従業員ひとりあたりの業務量が多すぎる、または、能力が見合っていないと業務の効率が下がってしまい、業務時間内に終わらず、時間外労働につながる可能性もあります。

仕事の割り振りはマネジメント能力に関わります。まずは従業員の能力を見極めたうえで作業完了までに必要な業務内容を割り振ることが大切です。その上で、勤怠管理を行ない、定期的に進捗を振り返りながら業務量や割り振りの仕方を見直しましょう。

時間外労働を削減する3つのメリット

時間外労働を削減することで、企業に対するメリットもたくさんあります。今回は、3つのメリットをご紹介します。

時間への意識が高まる

時間外労働をなくすためには、効率的に仕事をこなし、業務時間内に仕事を終えなければなりません。時間外労働を削減することで、従業員の時間への意識が高まり、集中して業務に取り組むことができます。

また、従来残業に充てていた時間を使ってプライベートを充実させることもでき、従業員のモチベーション向上にもつながります。

人件費を削減できる

時間外労働を削減することで、従来支払っていた残業代がなくなるのもメリットと言えるでしょう。

時間外労働に対しては、割増賃金の支払いが必要となります。具体的には、1日8時間を超えた場合は通常の25%増し、22時以降はさらに25%増しで支払わなければなりません、また、法定休日に労働した場合や深夜労働との兼ね合い、1ヶ月間の労働時間によって割増金が変わるので、注意が必要です。

また、残業時間中の光熱費なども削減できるため、経営面でも大きな効果が期待できます。

会社の信用が上がる

新卒・中途入社問わず、会社選びの際に残業の有無を重視する求職者は多くいます。残業が少ない企業は信用できる会社として見られ、時間への意識が高い優秀な人材との出会いにもつながるでしょう。

また、時間外労働を削減することで既に働いている従業員の負担も減るため、離職率低下にもつながります。

時間外労働を削減するための3つのポイント

次に、時間外労働を削減するための3つのポイントについてご紹介します。

経営トップが時間外労働削減の発信をする

時間外労働削減に限らず、働き方改革のためには経営者や上司が自ら対策を進めなければなりません。企業によっては、毎朝の朝礼で意識共有をする、経営者自らが残業をなくすよう発信するなど、工夫をしています。

しかし、従業員のなかには残業時間を減らされることによって収入に影響が出ると不満を持つ人もいるかもしれません。その場合は、福利厚生を厚くするなど、新たな対策を練る必要があります。

勤怠管理を徹底し、残業時間を可視化する

時間外労働を削減できていない企業のなかには、勤怠管理があいまいなところがあるのも事実です。必要に応じて勤怠管理システムを導入し、従業員一人ひとりの労働時間を可視化することで、現時点での課題を見極めたり、従業員の適性を測ったりするといいでしょう。

システムで正確な勤務時間を測り、時間外労働を削減できた従業員に向けてインセンティブを準備している企業もあります。残業しないことで利益を得られる状況をつくるためにも、勤怠管理の徹底は必要です。

業務の効率化を図る

先述した通り、文書作成の際の手入力や、書類の目視確認などは、どうしても時間がかかってしまい、従業員の負担になります。専用のシステムを導入し、これらの作業を効率化することで効率化を図るのもおすすめです。

また、申請における承認フローやデータの管理方法などの見直しも求められます。現時点でどの作業にどのくらいの時間を割いているかを棚卸し、特に負担になっている部分から効率化を図るのもいいでしょう。

システムに集約することでペーパーレス化にもつながり、それまで必要となっていた紙や印刷代などのコスト削減にもつながります。

時間外労働削減の5つの成功事例

時間外労働を減らすための働き方改革は、多くの企業が必要性を感じているものの、実行への課題も挙げられています。これからご紹介する5つの成功事例を参考に、できる範囲から取り入れてみることをおすすめします。

フリーアドレスを徹底しイノベーションを促進

カルビー株式会社は、イノベーションが起きる職場環境を作るための働き方改革を推進。本社オフィスにフリーアドレス制を導入し、1人用の「ソロ席」や集中できる「集中席」、4人がけの「コミュニケーション席」などから働きやすい席を選べる仕組みを運用しています。

また、フリーアドレス制でも発生してしまいがちな「席の固定化」を避けるためにコンピューターが席を決める「オフィスダーツ」を導入。これはコミュニケーション活性化によるアイデア創出にも効果を促しています。また、出退勤時間や働く場所を選べるフレックスタイム制度やモバイルワーク制度も採用しており2020年7月からはモバイルワークを基本とする働き方「Calbee New Workstyle」をスタートしました。こうしたIT活用や新しいコミュニケーションスタイルの浸透によりさらなる業務効率化を目指しています。

業務を効率化する「レス活動」を推進

石川県の食品メーカーの株式会社スギヨは、「長時間労働を削減し、心身ともに健康な社員が喜びを持って仕事に携われる企業」を目指すため、長時間労働の是正に取り組んでいます

労働時間削減を促すルール整備のほか、事務・管理部門での3つの「レス活動」を実施。現金での経費精算を振込・カード決済に移行する「キャッシュレス」、代表電話番号を名刺に記載せずに総務担当者の電話取次業務を減らす「TELレス」、書類や社内規定を電子化する「ペーパーレス」によって、業務効率化を実現しました。負担が減った事務・管理部門から製造部門への応援も可能になり、業務が標準化され全社的に働き方改革に対する気運が高まりました。

サークル内での改善活動を実施

産業機械製造やメンテナンスを手がける石川県の株式会社鈴木鉄工は、良好な職場コミュニケーションや、チームワークによる生産性向上による働き方改革を目指しています。

社内を14のサークルに分けて、サークル内で安全活動やミクロ改善活動を実施。日常業務の問題やムダを解決することで時間や費用を削減する改善活動では、部課長が目標意識を持って活動を主導した結果、サークルから年間600件以上の提案書が出されました。

今後は、提案された改善案を着実に実施することで労働時間削減を目指しながら、年間優秀提案に対する表彰を行い、全社的に業務改善へ対する意欲や関心を高めていく取り組みを行っています。

IT投資による生産性アップを実現

モバイルゲームなどを手がけるIT企業の株式会社モバイルファクトリーでは、長時間労働や社員定着率の低さといった課題を抱えていました。社長面談やノー残業デーなど残業削減の取り組みを進めるものの、定着せず業務改善による働き方改革を推進。社員が使うパソコンやPCアクセサリーなどのオフィスファシリティを充実させる環境面の整備と、勤怠システムや文書電子化ツールなどのIT投資で社員の働きやすさ向上に注力しました。残業時間は全国平均の1/2にまで減り、有給取得率は39%から86.1%に上昇。生産性改善の結果、営業利益が2019年の2013年から約7倍に増加したことも評価され、東京労働局から、長時間労働の削減に向けて積極的に取り組む「ベストプラクティス企業」に選定されました。

週1日のノー残業デーを設定

運送業を行なっている日立物流ファインネクスト株式会社 館林営業所では、週に1日、全従業員の時間外労働をなくす「ノー残業デー」を設けています。一週間の業務を見直し、もっとも忙しい月曜日をあえてノー残業デーにすることで、業務効率化を図りました。

また、毎日の朝礼で管理職から従業員へ「ノー残業デー」の周知や意識共有をし、社内への浸透を徹底させました。結果、従業員が自ら業務効率化を考えて働くようになり、月曜日以外の時間外労働も少なくなっているそうです。

まとめ

労働時間削減の取り組みの成功には、労働形態の変更や数字上での制限だけではなく、職場環境や業務内容の見直しが欠かせません。他社の成功事例を知り、自社の実情に合った取り組みを探すことが、時間外労働削減の第一歩です。まずは週に一回ノー残業デーを設けてみる、とくに負担がかかるところをシステム化するなど、自社でもできることが見つかったのではないでしょうか。

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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