看護師の働き方改革とは? 取り組みや注意点、事例を解説

From: 働き方改革ラボ

2022年12月01日 07:00

この記事に書いてあること

2019年4月、「働く人々が個々の状況に合わせた柔軟な働き方を自分で選択できる働き方」を推進する取り組みである働き方改革が施行されました。看護師もその例外ではなく、雇用する病院側の具体的な取り組みが求められています。

この記事では、病院の経営層と看護師に向けて、看護師の労働環境の現状と課題、注意点、業務改善の事例などを解説します。ぜひ参考にしてください。

※2021年9月に公開した記事を更新しました

看護師の労働環境の現状と課題

そもそも、看護師の労働環境は現在どのようになっているのでしょうか。この章では、看護師の労働環境の現状と課題について詳しく解説します。

人材の確保が課題

看護師を取り巻く環境の課題として、看護師の人材不足が挙げられます。

公益社団法人日本看護協会が2020年に発表した統計資料によると、2000年に76万7807人だった看護職員の数は、2020年には101万1778人と、およそ25万人も増えていることがわかります。

しかし、看護師の就労数が増えているにも関わらず、ニーズに対して需要が追いついていないのが現状です。

また、現在就労している看護師の離職が後を絶たないという課題があります。日本看護協会が2018年に行った調査では、正規雇用看護職員の離職率は10.9%と高い数字を示しています。

日本看護協会が2022年に発表した「看護師としての就業継続意向」によると、継続を「とてもしたいと思う」「ややそう思う」と挙げている回答者は合計67%と半数を超えていますが、一方で、「あまりそう思わない」「全くそう思わない」と回答した人が合計20%もおり、ばらつきがあることがわかります。

さらに、就業継続意向に「とてもそう思う」「ややそう思う」と回答した人に対して、どのような職場がいいのかという問いに対しては、複数回答で「医療機関」が最も多い2,526件で、「訪問看護などの在宅領域」は1,317件、「学校・幼稚園・保育所等」は824件と、医療機関以外の選択肢をとる看護師も一定数いることがわかりました。

このことから、離職率をこれ以上あげないための対策が求められていることがわかります。新型コロナウィルスの影響などもあり、人材不足は今後も続く課題だと考えられます。

人手不足の要因は

離職率が高く、人手不足となっている要因にはどのようなものがあるのでしょう。

超過勤務やサービス残業

超過勤務やサービス残業が問題視されています。2022年に日本看護協会が発表したデータでは、看護師のうち78%が「超過勤務をした」と回答しています。

また、実際に行った超過勤務時間として最も多いのが「6時間以下」の28%、次いで「6時間1分?12時間」と「12時間?24時間」が24%ということがわかりました。

なかには時間外の院内研修や申し送りなど、勤務時間前後に行われるものがサービス残業として処理されていることもあり、勤務時間の明確な記録といった対策が求められます。

ワーク・ライフ・バランスが整えにくい

いったいなぜ、ワーク・ライフ・バランスが整えにくいのか、詳しく解説していきます。

1. 看護師は夜勤が多い

ワーク・ライフ・バランスを整えにくい理由として看護師には夜勤が多いことが挙げられます。

2022年に日本看護協会が発表したデータによると、夜勤状況はさまざまで、「職場に夜勤はない」と「夜勤はあるが日勤のみ」が合計30%しかおらず、ほとんどの看護師が夜勤を経験していることがわかります。

2. 長期休暇が少なく負担がかかる

また、長期休暇が少なく負担がかかることもワーク・ライフ・バランスを整えにくい理由として挙げられます。

看護師はシフト制になっていることが多いため、決まった日に休みをとれるとは限りません。シフト調整前に申し出ることも可能ですが、入りたてや人手不足の場合、遠慮してしまうこともあるでしょう。

ライフステージが変化しても柔軟な働き方ができる、ワーク・ライフ・バランスの取れた職場環境づくりを実現することが必要とされます。

看護師の働き方改革が施行|5つのポイントを解説

ご紹介したように、看護師の職場環境にはまだまだ課題があります。しかし、2019年に施行された働き方改革によって定められた決まりによって、少しずつ緩和しつつあります。

労働時間や有休取得制度など、働き方改革で看護師の働き方が変わったポイントについて具体的に解説します。

1. 時間外労働の上限の設定

はじめに、時間外労働の上限の設定が挙げられます。超過勤務が問題視されていましたが、働き方改革により時間外労働に上限が定められ、原則45時間、年360時間以内に抑えなければならなくなりました。

労働基準法36条に基づく労使協定である「36協定」を結ぶことで原則を超える労働も可能ですが、年720時間以内などの要件があります。もしも36協定の届出をせずに上限以上の時間労働させていると、労働基準法違反となるので注意しましょう。

2. 労働時間の記録

次に、労働時間の記録も必要となりました。「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令のもとに置かれている時間を指し、朝礼や清掃時間なども含まれます。これらは客観的に判断されるものであるため、注意が必要です。

そして、記録する際も、ICカードや勤怠システムなど客観的なデータとして保存しなければいけなくなりました。保存期間も3年間と定められているため、気をつけましょう。

3. 有給休暇の取得の義務化

次に、有給休暇の取得の義務化です。人手不足の問題を解決し需要と供給のバランスを整えるためにも、看護師の有給休暇の取得は欠かせません。

たとえば年10日以上の有給休暇が付与される人は、年5日以上の有給休暇の取得が義務付けられています。有給休暇の取得は看護師側からの申出からなる「個別指定方式」だけでなく、病院側が時期を指定して取得してもらう「計画年休制度」など方法も複数あるため、合うものを選びましょう。

4. 同一労働同一賃金の導入

次に、常勤看護師とパート看護師の待遇差が禁止される同一労働同一賃金の導入が挙げられます。

そもそも同じ仕事をしているのであれば、同じ賃金を与えることが本来の在り方です。常勤看護師とパート看護師の待遇差が不満を生み、離職率を高めている問題点もあります。同一労働同一賃金の導入により、待遇差による不満をなくすことで、チームワークの向上も期待できます。

5. 勤務間インターバルは努力義務

最後に、勤務時間インターバルが努力義務となったことが挙げられます。勤務時間インターバルとは次の勤務までの時間のことです。

たとえば夜勤が終わり、次の出勤までの空いた時間が勤務間インターバルに該当します。働き方改革により、11時間以上の勤務間インターバルを設けるよう、制度導入を努めることが求められます。努力義務とはいえ、看護師の健康と、過労による医療ミスを削減することで患者の安全確保にもつながりますので、必須の取り組みといえるでしょう。

看護師の働き方改革に関する3つの注意点

働き方改革はすべての業種に当てはまるものですが、とりわけ看護職に関して気をつけたい3つの注意点をご紹介します。

1. すべての病院に適用される

まずひとつ目は、働き方改革は、病院の大小に関わらず適用されることです。そのため病院の規模は関係なく、業界に改革が求められているのと考えられます。個人の病院も例外ではなく、雇用者がいれば働き方改革をする必要があります。

また、現在適用が猶予されている月60時間を超える時間外労働に係る「割増賃金率」は、2023年4月に猶予期間が終了しますので注意してください。

2. 院内研修制度なども労働時間とみなされる

次に、賃金の支払いにおいて、院内研修は労働時間とみなされるため、支給が必要になる点に注意しましょう。

始業前の申し送りやケアについても、時間外勤務手当として支給するのが妥当でしょう。 また、以下の項目で超過勤務や時間外労働があった際に手当を支給しなかった場合、賃金未払いとしてカウントされます。賃金の未払いは、看護師との信頼関係を損なう要因ともなるので注意してください。

  • 時間外の院内研修

  • 申し送り

  • 看護記録

  • 持ち帰り残業

  • 「管理監督者」に該当しない管理職の時間外勤務手当

3. 有給休暇の計画的付与も許されている

入院患者や緊急外来を抱えている病院だからこそ、一斉に有給休暇を取得してしまうと対応に困ってしまう場合があります。そんなときにおすすめしたいのが、労使協定を結べば有給休暇の取得日を割り振ることができる有給休暇の計画的付与を活用することです。

有給休暇の計画的付与には、義務化された有給休暇の取得に漏れがなくなる、看護師がしっかりと休みをとれる、経営体制の問題をなくすなどのメリットがあります。看護師の希望する日に休みをとれるようにする体制づくりに加えて導入してはいかがでしょうか。

看護師の働き方改革の4つの取り組み

続いて、看護師の働き方改革を実現するためにできる具体的な取り組みを4つご紹介します。

1. ICTを導入する

まず、ICT(情報通信技術)の導入です。ICTを医療現場に導入することで、業務効率化や生産性向上が期待できます。

たとえば、音声入力アプリ、スマートフォンやタブレットを活用した電子カルテの運用、業務用SNS、院内マニュアルの電子化などが挙げられます。それ以外にも、医師、薬剤師、ケアマネージャーなどが保有する患者データを自動収集し、統合できる総合医療介護連携システムもあります。

2. 時間外労働を改善する

働き方改革では時間外労働の見直しも必要です。たとえば時間外労働が多い病院の場合なら、時間外労働の上限を超えないような見直しが求められます。

時間外労働を減らすためには業務の効率化が効果的です。医療ロボットやAIの活用、電子カルテ・タイムカードの導入など、看護師の負担を減らす取り組みをしていきましょう。

3. 多様な働き方を整える

働き方改革では多様な勤務形態を整え、受け入れることも必要になります。具体的には、短時間正社員制、フレックスタイム制、時差出勤、夜勤免除など、多様な勤務形態が挙げられます。

近年では、フリーランスの看護師もいます。さまざまな働き方を用意することで、いろいろな人材を集めることができます。雇用区分と副業の不可については違いがあるため、確認しておくとよいでしょう。

その他にも例として、子どものイベントに合わせた「スクールイベント休暇」やボランティア活動の参加を尊重する「ボランティア休暇」などの制度もあります。看護師それぞれのワークスタイルを尊重し、個々のワーク・ライフ・バランスを実現しやすい勤務形態を用意することで、離職率減少を目指しましょう。

4. 看護補助者を活用する

看護師の補助や患者の世話をする仕事を行う看護補助者を活用するのもおすすめです。看護補助者は看護師のように医療行為を行うことはできませんが、看護師の助手としてサポート業務を依頼することができます。

看護補助者を活用し、手間がかかる事務仕事や雑務など専門性の低い業務を減らすことで、看護師の負担軽減につながります。その結果、離職率の低下も期待できるでしょう。

看護師の業務改善の事例

医療法人社団 札幌道都病院による看護師の業務改善の事例を見ていきましょう。

札幌道都病院では、入院病棟で看護師が認知症によって徘徊してしまう患者を探すことが業務負担となり課題でした。しかし、屋内位置情報サービスを導入したことにより、業務負担が軽減されました。

具体的には、患者の在室状態がわかることで、訪問や回診が効率的に行え、担当の看護師に適切なタイミングで連絡できるようになったのです。また夜間でもスタッフの居場所がわかるため、応援を呼びやすい環境が整いました。

まとめ

厚生労働省が推進している働き方改革では看護師も対象とされています。すべての人が働きやすい環境を実現するための取り組みが推進されており、働き方のスタイルや時間外労働、労働環境の整備が進められています。

また、看護業界は需要と供給のバランスが崩れており、慢性的な人手不足に陥っています。この問題を解決するためにも、働き方改革の浸透は必須といえるでしょう。

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

「働き方改革ラボ」は、”働き方改革”が他人ゴトから自分ゴトになるきっかけ『!』を発信するメディアサイトです。
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