産業医が見るニューノーマル下のオフィス生活様式

From: 働き方改革ラボ

2020年06月30日 07:00

この記事に書いてあること

新型コロナウイルスの感染が拡大し、緊急事態宣言まで発令されました。ワクチンができるにはまだ時間がかかると予想され、その間に第二波が来る可能性も高いといわれています。コロナとともに過ごしていく、「ウィズコロナ」そして「アフターコロナ」という呼び方とともに「ニューノーマル( 新しい常識・新常態 )」という考え方も浸透してきています。新型コロナウイルス感染拡大以前の状態に戻るのではなく、新たな働き方に変わっていく時代に、企業人としてどのように過ごしていけばよいのか。産業医の末廣先生に語っていただきました。

新型コロナウイルス感染症感染の特徴

コロナウイルスは、風邪の原因ウイルスの一つです。新型コロナウイルスが広がり始めた当初は、「ほとんどの人にとっては風邪程度で済むらしい」と楽観的な見方がありましたが、だんだんとウイルスの性質、社会にもたらす影響について判明してきて、この「ほとんどの人にとって症状が軽く済む」という性質こそが、このウイルスの厄介なところであることが明らかになってきました。こっそり拡散して、こっそり生き残る生存戦略をとる、非常に狡猾なウイルスなのです。

2003年に流行したSARSウイルスと比較してみましょう。同じコロナウイルスの仲間ですが、SARSウイルスは感染するとほとんどすべての人が重症化します。致死率が高く恐ろしい反面、感染した人は症状が重く動けないため、そこで確実に隔離することが可能となり、一年を待たずに封じ込められています。ところが今回の新型コロナウイルスは、「8割の感染者が無症候もしくは軽症」と、一見油断してしまうこの性質ゆえに、感染者が元気で出歩けてしまう、だからどんどんこっそり拡散していく、つぶしこめたようにみえてもこっそり生き残っているというわけなのです。

加えてもうひとつの厄介な性質として、症状がでる前から人にうつす力、すなわち感染性をもっているということが明らかになりました。

この二つの厄介な性質が組み合わさったことで、ウイルスを徹底的につぶしこむことが極めて困難となり、日本をはじめ多くの国では経済活動との両立のために封じ込めをあきらめ、新型コロナウイルスと共存していく道を受け入れざるを得なかった、というのが現状です。

感染が収束したように見える今も、我々のすぐそばにウイルスが潜んでいます。そしてそのウイルスは感染性をもっています。第二波はおそらく来る、ということを前提に、その波をいかに小さな波でくいとめるかが重要です。そのために、一人一人が感染拡大を予防する新しい生活様式で再スタートすることが求められています。

感染予防行動三つの柱

新しい生活スキルとして感染予防行動の3つの柱を解説します。皆さん知っていることばかりだと思いますが、あらためて、コロナウイルスと生きる世界でのニューノーマルとはどんなものか、どのような働き方が求められるのか、の視点でみていきましょう。

身体的距離の確保と換気

ひとつめが三密対策となる身体的距離の確保と換気です。クラスター対策班の分析によると、新型コロナウイルス感染症患者の8割は人に感染させていませんが、残り2割の中に大勢の人に感染させる人がいました。大勢の感染者が確認された環境を分析すると、換気が悪く人が密集した環境で密接な会話が同時に重なった場という共通点が見つかり、そこから三密対策の概念が形成されました。クラスターを発生させないために、以下の行動をウィズコロナ時代の新しい習慣にしましょう。

・部屋にはいった瞬間、窓が開いて換気されているかを無意識に確認すること
・2mの身体的距離を確保すること

ビジネスの場面では、例えば名刺交換の場面で身体的距離が近くなりすぎてしまいます。距離を保ちながらの名刺交換、あるいはそれにかわる新しいビジネス習慣が求められています。

マスク(飛沫感染防止)

発症前から人に移す力のある新型コロナウイルスと共存する社会においては、症状がある時にマスクをつける「咳エチケット」だけではカバーできず、症状がなくても会話をするときにマスクをつける「会話エチケット」が求められます。

ウィズコロナの生活では、マスクのうまい使いこなしがキーになってくるでしょう。決して「常時マスク着用」がマストというわけではありません。飛沫感染防止という本質を理解して、様々な場面でご自身の行動を主体的に決めるスキルが求められます。

三密対策について前項で述べましたが、三つの密にもリスクの濃淡があり、「密接な会話」による飛沫感染リスクが特に高いことがわかってきています。声を発する場所、運動などで呼吸が増す場面、飲酒をする場所では、特に対策を強化する一方で、屋外で、人と2m距離を保ちながらの会話という場面ではマスクの必要はありません。これからの暑い季節、マスクが寧ろ健康を害する場面も想定されます。メリハリのあるマスクの使い方が、「コロナ疲れ」を防ぐサステイナブルな感染予防策のポイントとなってくるでしょう。

ビジネスシーンで考えると、会議や商談の場面では、身体的距離を保ちマスクを着用することで感染予防できますが、問題は会食の場面です。食事の際は、マスクを外しますし、会話しながらの会食は、飛沫が飛び交う可能性が高い場面です。大皿料理を取り皿に取り分けたり、お酌したり、対面で会話を楽しみながらの食事という飛沫感染リスクの高い従来の会食スタイルから、ニューノーマルの会食スタイル、もしくは会食という形式ではない接待方法への転換が求められています。

そして、なにより重要なのが、「体調が悪い時は出社しない」ということです。「体調が多少悪くても無理して出社する」という行動様式と、それを美徳とする価値観は、ぜひビフォーコロナ時代に置いてきてください。「体調が悪い時は出社しない」ことは、組織の危機管理行動であり、基礎疾患などで重症化リスクが高い人を守る配慮なのだ、ということがウイズコロナ、アフターコロナで、浸透し定着することを願っています。

手洗い(接触感染防止)

コロナウイルスは触っただけではうつりません。ウイルスを触った手で目や鼻や口などの粘膜をさわることで粘膜にウイルスが侵入して感染が成立します。顔回りをむやみにさわらないこと、もし触る必要があるとき、例えばタバコを吸うとき、メイクをするときなどにはその前に必ず手を洗いましょう。

外出したらそこはペンキ塗りたての世界であるとイメージしてみてください(参考・出典:コロナ感染から身を守る方法)。つり革をさわると手にペンキがつきます。あ、触っちゃった、と意識することが大切です。ペンキがついた手で携帯を触ったり、そのまま食事する気にはなりませんよね。電車から降りたら、あるいは会社に着いたら、次の行動に移る前に手洗いをすることは大変有効です。こまめな手洗いにより通勤電車での感染リスクを下げることができます。

ビジネスの場面においても、紙資料の手渡しなど、ペンキで手が汚れてしまう機会を極力排した、非接触で安全なビジネス様式が求められるでしょう。

感染予防行動の三本柱すべてを包含しうる、感染拡大防止のために最も有効な働き方は、在宅勤務です。すでに実践している企業はぜひ今後も継続して活用し、まだ導入していない企業も、検討してみていただければと思います。

第2波に備えて前倒しの健康管理を

こういった感染予防行動をニューノーマルとし、第二波をできるだけ小さく食い止めていきながら、大きな波に備えたご自身の健康管理の見直しも重要です。

もし仮に第二波、第三波で医療崩壊が起こると、新型コロナウイルス感染症以外の疾患でも命を失うリスクがでてきます。先ほど述べた新型コロナウイルスの特性「8割の感染者が軽症または無症候」は、裏返すと、2割が重症化するということです。重症化したときの経過は非常に早く、あっというまに全身状態が悪化し人工呼吸器を要する事態になります。一旦人工呼吸器を装着するとなかなか離脱できず、ICUから出るまでに期間を要します。ICUも人工呼吸器も、それを扱える医療従事者も、数に限りがあります。感染爆発してしまうと、必要な医療が必要な時に受けられない医療崩壊という事態が起こりうるということを想定しておかなければなりません。

このように医療提供体制が逼迫した状況下で、もし、あなたが、あなたの家族が、心筋梗塞を発症したり交通事故で大けがをしてしまったらーーーー。どこの病院のICUも満床で救急受け入れ停止で、命を落としてしまうかもしれません。平時なら救える命が救えない、家族にとっても医療従事者にとってもこれほどつらいことはありません。

このような状況下では、救急医療だけでなく、不要不急の検査や手術がストップします。たとえば、がん検診でひっかかって精密検査を受ける必要があるのに、検査がストップ、がんの手術が必要でもICUが満床なので手術ができない、ということも想定され、がんの早期発見の遅れ、治療の遅れが懸念されます。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、健康診断をいつ受ければいいか迷っている方、定期通院を中断してしまっている方、感染が落ち着いて病床数に余裕がでている今がチャンスです。完全終息をまたず、今のうちに健康診断や精密検査、治療を受けておいてください。ステイホームによる運動不足で糖尿病や高血圧などの生活習慣病が悪化している可能性もあります。通院を再開して基礎疾患を良好な状態にしておきましょう。

また、第二波とインフルエンザの同時流行に備え、インフルエンザワクチンの早めの接種も視野に入れておくとよいでしょう。

そして、禁煙。新型コロナウイルス感染症に強い身体づくりのため、医療提供体制が逼迫するときにも健康を維持しておくため、今からでも遅すぎることはありません。

第二波に備えて、私たち個人ができること、自分の身体を前倒しでメンテナンスする、これもニューノーマルとして定着することを願っています。

排除すべき対象は、感染者ではなくウイルスである

このような変化の時は、チャンスの時である一方で、心身が疲れやすい時です。最近よく、「ゆるみがみられている、けしからん」という声をテレビなどでよく耳にしますが、ゆるむなというのは体と心には酷なメッセージです。自粛をゆるめるな、ではなく、ニューノーマルに移行しようよ、の意識で、心身の緊張を時にはゆるめて、しなやかにニューノーマルに適応していきましょう。環境の変化につかれて心身の異変が見られた時には、産業医や病院で相談することもよいでしょう。

ゆるむなという過度な自粛の強制や感染者への糾弾はコミュニティの分断を招き、狡猾なウイルスに付け入る隙を与えます。感染者が非難への恐れから、感染の事実や行動履歴を隠すようになれば、ウイルスは水面下に潜り感染が爆発的に拡大するかもしれません。封じ込めでなくウイルスとの共存を選択した以上、目指すところは感染者ゼロではなく、感染者が出ても拡大させないこと、医療提供体制を維持することです。感染者や関連施設が、感染源を特定することに協力してくれた貢献に目を向け、次の感染者を生まないことに注力すべきです。

身体的距離は確保しつつも、精神的にはつながりを強め、支えあい、新しい価値観を共有し、このウィズコロナ時代を乗り切りたいものです。

記事協力

末廣有希子

株式会社リコー 人事本部H&S統括部 
リコージャパン株式会社 統括産業医
日本産業衛生学会専門医・指導医/社会医学系専門医・指導医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/日本内科学会認定医

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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