品質問題予防集会、過去の失敗を将来の成功の教訓に/大嶽充弘氏

From: 働き方改革ラボ

2019年09月05日 07:00

この記事に書いてあること

ひとくちに働き方改革と言っても、課題の性質は千差万別。日本の経済を支える製造業ではどのような課題があり、どのような取り組みを行ってきたのか。NECグループのものづくりを一手に担う、NECプラットフォームズ株式会社 大嶽充弘氏が自社での経験をもとに働き方改革の本質に迫ります。
第2回では社員の意識改革のための様々な取り組みについてご紹介いただきました。

多くのIT、ネットワーク製品の開発・生産部門とシステム・インテグレーション部門を組織統合した結果、1つの会社として、製品・サービスの品質向上に対する共通意識を持つことが、予想以上に難しくなりました。
品質はバラツキとの戦いです。
統合前の各会社・各部門は、長い間、独立組織として考え、行動してきた歴史を持っています。統合前の各部門としては均一だった考え方が、統合後に行動差として顕在化し始めました。そうした実態を鑑み、全社最適で行動できるよう、品質管理システム (QMS) を統合し、全社横断の品質保証組織を設置しました。
しかし、ルールや管理体制を標準化しても、現場の意識や運用のバラツキは容易に解消しません。横軸組織のもう一段上の頑張りや、お客さまに満足頂ける品質水準を全社員が目指せるようにするためのもう一歩の踏み込みが必要になったのです。

品質への取り組みの原点

今から50年以上前の1965年、NECは「ZD活動」に取り組みました。ZDとは「Zero Defect」の略で、製品の無欠点を目指そうというものです。

小林宏治社長(当時)が、経営改革の一環として、全ての社員の社業への参加意識を高めることを目的に始めました。「欠点は高価なもの」という意識を全社員が共有し、欠点のゼロ化を目指します。結果のゼロよりも、ゼロを継続的に追求する姿勢が大事という経営トップのメッセージは、社内の団結を生みました。
1972年には「クオリティ作戦」という全社活動が開始されました。これは、現在のTQM (統合的品質管理) に相当するもので、製品品質に加え、社会との関係や従業員の満足といったことに踏み込んで企業経営のクオリティを上げていく活動です。1970年代以降の低成長時代を乗り越えるにはこうした取り組みが不可欠だという経営トップの見識がありました。

グローバル化に伴ったフレキシブルな対応の重要性

こうした方針に基づく諸活動は大きな成果を生みましたが、1990年以降、NECの「品質は自分自身で守る」という信念が揺らぎ始めました。為替環境が大きく変化し、台湾、中国を始めとしたアジアの製造企業が躍進し、結果的に、我々の電機業界ではグローバルな水平分業が加速しました。

それまでは自社工場で製造する製品の品質は自らの意識と行動で管理できたのですが、1990年代以降は、グローバルなサプライチェーン全体の品質に視野を広げ、関係する多くの取引先と連携する必要が生じました。また、各国が定める技術や環境の法規制にも配慮せねばなりません。こうした課題も、20年ほどかけてようやく克服してきたのです。

品質とはお客さまとの約束の達成度

しかし、昨今、製造業における品質不祥事が数多く報道されました。
「品質」とは何か?何を今更と思われるかもしれませんが、改めて「品質」が問われるようになりました。
過去の価値観や意識を見直し、この言葉を現在の事業の内容に合わせて定義することはとても重要です。

NECは、2015年に、「品質とはお客さまとの約束の達成度」と定義し、「品質のNEC」行動宣言をまとめました。NECの事業内容がハード、ソフトを包含したソリューションへとシフトし、品質に対する意識合わせが必要になっていたのです。

ソリューション事業では、自社製品と購入品をインテグレーションし、システムとしてお客さまに納めます。また、システムの納入段階で発生する問題のほとんどが、お客さまへの提案時に内在しているという事実も明らかになりました。
提案時の想定や検証が不十分だと、自社でコントロールできないところに歪が出て、最終的なシステムの動作や性能がお客さまの期待に満たないという問題に発展することがあります。

また、サービス事業では、お客さまとの整合内容をSLA (サービス・レベル・アグリーメント) で記述しますが、SLAは品質目標ではありません。SLAよりも高い水準にお客さまの期待があることを意識せねばなりません。取引を重ねる中でお客さまの要求水準が高くなっていく場合もあります。

品質に対する認識を企業文化に

このように、事業のソリューション化やサービス化が進んだ結果、お客さまから信頼される品質を提供するには、営業、開発、生産、サービス部門の品質に対する意識合わせが重要になりました。その点を強く意識し、2019年4月、TQMに取り組むことを社内に宣言をしました。
お客さま第一を念頭に置き、全員参加で絶え間ない改善活動を進めていけば、品質第一が企業文化になっていくように思います。

日本科学技術連盟が主催している品質管理シンポジウムでは、同じ意識で議論を進める為に、品質と品質保証を以下のように定義しています。

■品  質 … 顧客及び社会のニーズを満たす度合い
■品質保証 … 顧客及び社会のニーズを満たすために組織が行う体系的活動
→「品質」は、モノの出来栄えのことではない。
第107回品質管理シンポジウム 報文集

この定義を読み込むことで、様々な部門がそれぞれ続けてきた試行錯誤は、同じ方向を目指していたのだと確認することができました。

全社で失敗事例から学ぶ

品質第一を企業文化とする為に、特に力を入れているのが、失敗事例から学ぶ全社予防集会です。この集会は、過去に起こした失敗事例の中から全部門に横展開すべきものとして選定された案件を、全事業部の幹部参加の下で、真因の追求と予防措置について議論する場です。
失敗学のステップを使って、失敗の真因を整理し、将来の成功に向けた教訓を導き出します。この全社予防集会案件から得られた教訓と、事業部毎に実施するミニ集会で得られた身近なリスク(教訓を自分事に置き換えた内容)を紐づけることで、教訓を一過性ではなく、いつでも全社で活用できる行動に落とし込もうとしています。

この集会は、NECグループのソフトウエア開発会社が実施していた活動をベンチマーキングし、約半年間の準備期間を経て、NECプラットフォームズ流にアレンジし、導入しました。すでに、この活動を始めて1年が経過しようとしていますが、人の失敗を真摯に学び、自らに活かす品質意識はかなり定着してきたように思います。

Qualityは、日本語で品質と訳されていますが、「品」は製品やモノだけを対象にしていないと思っています。社内の先輩から「品質の“品”は、品格の“品”でもある」と聞かされた時、すっと腑に落ちま した。

社員全員で品質経営する

我々は、TQMを品質経営という平易な言葉に言い換えて、推進しています。新年度が始まると、全ての執行役員と事業部長が「品質のNEC」行動宣言を読み込み、品質への思いを語り、誓いのサインをします。

今年は、これらのメッセージを冊子にし、同じ層の仲間が品質をどう捉え、行動しているかが分かるようにしました。私も全員のメッセージを読み、多くの気づきがありました。

品質経営は事業の変化に合わせ、常に進化し続けねばなりません。NECプラットフォームズの社員全員が「品質はお客さまとの約束の達成度」を絶えず意識して行動できるようになった時、一人ひとりの働き方のクオリティがレベルアップしていくと思っています。

第2回 意識の改革、「千本桜」の横展開

第4回 GOOD FACTORY賞へのチャレンジで、視線は外向き、心は情熱的>

記事執筆

大嶽 充弘(おおだけ のぶひろ)

1982年4月、日本電気株式会社入社。NECパーソナルプロダクツの資材部長、日本電気のソフトウエア資材部長を歴任し、2012年4月に同社執行役員(サプライチェーン統括ユニット担当)に就任。その後同社執行役員常務(サプライチェーン統括ユニット長)を経て2018年、NECプラットフォームズ取締役執行役員専務に就任し現在に至る。

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