長時間残業社員の一掃とメリハリの効いた残業削減手法(事例編)/溝上憲文氏

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いよいよ2020年4月に迫った中小企業の時間外労働の上限規制。あなたの会社はもう準備できていますか?実は施行が目前に迫った今でも対策に悩んでいる企業は少なくありません。人事問題の著書を多数執筆してきた人事ジャーナリスト溝上憲文氏が、労働時間削減に向けた、中小企業の取り組み事例を紹介する連載企画、『目前に迫った中小企業の「時間外労働の上限規制」~労働時間削減をいかに進めるか~』

連載第3回は、実際に長時間労働を削減するには、どのような方法があるのか、業務実態に合った取り組みをご紹介します。

残業時間の削減は労働時間の把握に始まり、把握方法に基づいた自社の管理体制の構築が重要です。全社共通の残業時間達成目標をベースに繁忙期に応じた時間管理、さらにはノー残業デーなどのいくつかの施策を組み合わせた対策が求められています。

入館・退館時間、パソコンのログイン・ログオフ等による徹底管理を

残業時間を削減するには、実際の労働時間をしっかりと把握することが大前提です。そして労働時間の把握の仕方によって対策は異なります。把握方法の1つとして昔ながらの出・退勤時のタイムカードの打刻があります。しかし、長時間労働が当たり前の会社だとタイムカードを押してから残業する人もいるなど完全に把握するのは困難です。

その他有効な把握方法としては、まずIDカードによる入館・退館時間の記録、2つめはパソコンのログイン・ログオフの記録、3つめがパソコン上で始業・終業時間を入力させる“自己申告”です。

ただし、入館・退館時間を労働時間とみなせば、必ずしも仕事をしているとは限らず、支払う残業代が増加するというデメリットがあります。パソコンのログイン・ログオフについてもその可能性がありますが、ある医療機器メーカーでは19年の4月から労働時間とみなすように変更しました。

その理由について同社の人事部長は「PCのログイン・ログオフの時間を労働時間とみなすと当然、支払う残業代が増えます。社員の中には会社で時間を潰してから帰る人もいるでしょうし、始業前に会社に出社し、ログインしてから新聞を読む人もいるかもしれません。個人的にはそこまではやり過ぎではないかという気もしますが、リスク管理の観点から、この仕組みに変更した」と言います。

実際はパソコン上で始業・終業時間を入力させる企業が多いようです。しかし、自己申告である以上、厳格な管理が求められます。食品加工メーカーでは入館・退館記録とPCのログイン・ログオフ記録を見ながら実際の労働時間をチェックしているところがあります。

同社の人事部長は「自己申告だけだとサービス残業をやっているかもしれません。入館カードの記録を見て、社内にいる時間と申告時間の差を内部監査室でもチェックしています。あまりに差が大きい場合は管理職と本人に確認するようにしています。もちろん人事も見ていますが、監査室が動くのは法違反による会社のリスクが大きいからです」とその理由を説明します。

次の章からはこうした対策を基本に、社員が一人でも違法残業をしないために企業が行なった施策をご紹介します。

主なポイントは以下です。
1.全社共通の残業時間や退社目標時間を設定し、実現する
2.繁忙期など残業可能な時間を設定し、残業する場合は「事前承認制」とする
3.ノー残業デーの推進による残業している社員のチェック体制の強化

退社目標時間を設定し、「事前承認制」による残業時間の厳格化  

損害保険会社では全社共通の目標退社時間を設定し、自動消灯設備を導入しています。当初は22時消灯からスタートし、段階的に21時、20時と消灯時間を早め、現在は19時消灯になっています。繁忙期や突発的な事情により残業せざるをえない場合は、職場単位で月に8日を上限に消灯延長を認め、9日以上になる場合は事前に人事部に申請する必要があります。

情報通信業の会社では月20時間までの残業はグループ長の承認とし、月20時間~45時間までは部長の承認後、社長に報告。月45時間超は社長決裁を要するなど厳格にしています。また22時以降は原則残業禁止。やむをえない場合は部長の承認を得ることとしています。

最近は各種の出退勤アプリが登場しています。ある中小企業ではスマートフォンやパソコンから申請できる「残業申請アプリ」を活用。会社の設定時間を超えて残業する場合は、残業開始前にその理由と残業終了見込み時間を入力します。上長など管理者が社外にいてもスマートフォンから確認・承認が可能です。

ノー残業デーに合わせて「残業パトロール」を実施

さらにこうした施策と並行してノー残業デーを実施することも有効です。前出の損害保険会社では毎週水曜日を「早帰り日」(目標退社時刻18時)と設定。実効性を持たせるために当初は人事部と経営企画部が「残業パトロール」を実施。今では部門ごとに管理職が2人1組となり残業パトロールを実施しています。

同社の人事担当者は「人事主導だと人事部だけがやっていると受け取られかねないし、部門が自主的に取り組む姿勢が大事だと考えました。18時になったら部門の管理職が各フロアを巡回し、残業している社員が帰るまで退社を呼びかけます。最初は反発もありましたが、今では定着し、本社部門は9割5分以上が18時に退社しています」と言います。今では時間管理対象者の月平均残業時間を20時間未満に抑制するなど成果を上げています。

また小売業の会社では週1日のノー残業デーからスタートし、5年後には「毎日ノー残業デー」を実現しています。同社の出退勤時刻9時~18時ですが、残業が必要な社員は17時30分までに総務に申請し、18時30分に総務が巡回し、残業の実態を確認します。同社は経営課題として残業率7%以下にする数値目標を掲げ、その結果は半年単位で経営会議に報告されます。今では常に残業率7%以下(社内の残業申請率)を維持しています。

ソフトウェア開発会社では、ノー残業デーを推進するために、当初は経営トップ自らが残業している職場を抜き打ち的に訪問し、社員1人ひとりに声かけするなど積極的に動いたそうです。

「雰囲気づくりをしようということで社長から『どうしたの、今日は何時までかかるの、どんな仕事をしているんだ、教えてくれ』との声かけや、社員との会話から始まりました。そうした動きが大きなターニングポイントになり、社員も時間は有限であるという意識が生まれた」と人事担当者は言います。

「朝型勤務」と「時差勤務」の併用で大幅に削減

残業時間を抑制するには「朝型勤務」も有効です。あるソフトウェア開発会社では、経営トップ主導で20時~22時の勤務は原則禁止、深夜勤務(22時~5時)は禁止としています。仕事が残っている場合は「翌日朝勤務」(5時~8時)にシフトする「朝型勤務」を推奨しています。朝型勤務のインセンティブとして、かつての深夜勤務と同様の割増賃金(非管理所職の時間管理対象者50%割増、管理職の時間管理対象外25%割増)を支給しています。

最初に半年間のトライアルを実施しましたが、アンケート調査では7割以上の社員が「働き方が変わったと実感できる」と回答し、2014年7月から正式に導入しました。

それと並行して実施したのが時間単位有休制度と「時差勤務」の導入です。午前7時から10時の範囲で始業時刻を30分単位で繰り上げ、繰り下げが可能な仕組みです。週2日を上限に、事前に上司や同僚に伝えれば利用できます。同社の所定就業時間は9時〜17時30分の7時間30分ですが、「7時に出勤すれば15時30分に退社できます。例えば子供の父母会などがあり、2時に退社したいと思えば2時間の時間単位有休を取得すれば1時30分の退勤が可能になります。始業時間を30分単位でずらせるので導入後は混乱なく利用されています」(人事担当者)と社員にも好評です。

夜の残業から朝型勤務への切り替えによる仕事の効率化と、午後早く退社が可能な時差勤務という選択肢が広がる柔軟な働き方を整備してきた結果、今では月平均残業時間を20時間以下に短縮することができたそうです。

「残業あり」と「残業なし」チームに分けて管理

ところで残業は経験豊富で仕事ができる人に偏りがちと言われます。それを防止するために自動車整備業の会社では「残業チーム管理」というユニークな制度を導入しています。

従来は整備担当者をシフトによる時差出勤で夜間対応をしていましたが、マネージャーなどに業務負荷がかかり、恒常的な残業も発生していたそうです。それを避けるために整備部門の従業員を「残業可能性ありチーム」(待機)と「残業なしチーム」に分けます。チームはあらかじめ勤務カレンダー上に設定し、週1回ペースで「残業可能性ありチーム」が回ってきます。出勤時間は全員一緒ですが、残業の必要が発生した場合は「残業可能性ありチーム」が残業し、「残業なしチーム」は定時退社します。これによって社員の健康確保と質の高い整備の実現を目指しています。

業務の効率化と並行して制度を回す

以上の一連の施策による残業時間の削減は制度の導入だけで達成できたものではありません。言うまでもなくその背景には経営トップ主導の下に社員の意識改革を含めて部署ごとの労働時間を洗い出し、業務量や業務プロセスを個別に検証しながら解決するという取り組みがありました。次回は労働時間削減のための全社による「業務効率化」の取り組み事例を紹介したいと思います。

第2回 労働時間の“見える化”と部門別管理の徹底をいかに進めるか(事例編)

労働時間削減のための全社による「業務の効率化」を推進(事例編)>
2020年3月公開予定

著者プロフィール

溝上憲文(みぞうえ のりふみ)

1958年鹿児島県生まれ。人事ジャーナリスト。明治大学政治経済学部卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマに執筆。
『非情の常時リストラ』(文春新書)で2013年度日本労働ペンクラブ賞受賞。主な著書に『隣りの成果主義』『超・学歴社会』(以上、光文社)、『マタニティハラスメント』(宝島社新書)、『人事部はここを見ている!』『人事 評価の裏ルール』(以上、プレジデント社)など。

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