現場主義を貫くミサワホームの働き方改革(後編)社員のITスキル底上げで生産性を向上
2022年02月24日 07:00
この記事に書いてあること
内定時から30歳までの「プロ化」を見据えた一貫した研修制度や、「健康経営優良法人2021 ホワイト500」の認定を受ける健康経営をはじめとした取り組みで、働き方改革を進めるミサワホーム株式会社。
人事総務部担当部長の高橋幸男氏とITソリューション部部長の高島巌氏に、ミサワホームの徹底した現場主義に基づく働き方改革について聞くインタビューの後編では、デジタル活用の取り組みを中心に伺いました。
現場主義を貫くミサワホームの働き方改革(前編)30歳までにプロを育てる研修体系
数値目標なしに効率化を進めた結果、労働時間の削減が実現
―子育て中の社員や、介護などの事情と仕事を両立したい社員の支援のために取り入れている制度はありますか?
高橋:介護を理由とした退職者に、介護が終了したタイミングでもう一度ミサワホームに戻ってきて働く機会を提供するウェルカムバック制度や、家庭事情の転居で現在の会社で働き続けることが困難な場合に、全国のミサワホームグループ内で継続勤務できるよう支援するMGファミリー全国転勤制度などがあります。
たとえば、実家で介護が必要になった社員が別の拠点に移動し、介護が終了してまた元の職場に戻るなど、あるいは結婚や育児などの理由で、転居が必要なケースも利用可能です。
育児中の社員を支援する制度としては、前編で紹介した定休日の振替制度のほか、時短勤務は小学6年生まで利用可能です。また、有給休暇を取得しやすいように、家族のイベントで休みたいときに使える月1ファミリー休暇を設けたり、資格取得のためのスタディ休暇、ボランティア活動をするためのボランティア休暇なども、社員からの意見をふまえて取り入れました。
―生産性向上によって労働時間を減らす取り組みとしては、どのようなことをされてきたのでしょうか。
高橋:IT活用を中心に、仕事の効率化を進める取り組みを行ってきました。何十時間削減という時間的目標を掲げるのではなくて、効率化による生産性向上の結果、残業時間が減ることを目指してきましたね。
実際、新制度の導入や効率化の取り組みで残業時間はかなり減りました。現場の声としても、特に建設業界の他社の状況について知っている社員たちからも、喜びの声や働きやすくなったという反響はよく聞かれます。
―コロナによる緊急事態宣言のときは、スムーズにテレワークに移行できましたか?
高島:ITソリューション部としては、2020年のオリンピックイヤーに向けて全社的なテレワークの導入準備を進めていましたので、テレワークにすぐに切り替えることができました。そして、その際に対応を迫られたことは、緊急事態宣言で出社を控える必要性があるなかで、会議もまた必要だという課題です。
そこで、当社は、Google:Workspaceというクラウドサービスを使っているのですが、その中のMeetというウェブ会議のシステムとZoomを導入し、会議はすべてオンラインに移行しました。
ITスキルと業務効率化の土台を作る「ミサワデジタルスタンダード」
―具体的に、働き方改革を進めるために、どのようなIT化の取り組みを行ってきたのでしょうか。
高島:テレワークを進める際に取り組んだことは、社員のITスキルの向上です。在宅でもオフィス環境と同等のセキュリティを維持しなければいけませんし、ITスキルがなければ在宅で効率よく働けません。また、周りに社員がいるオフィスとは違って、機器やツールの使い方に困っても他の人に直接聞けません。
そこで、「ミサワデジタルスタンダード」という教材とテストを作り、ITについて1から学べる環境を整えました。たとえばGoogle Workspaceだと、メールは使えても、Google Workspaceに含まれる他のアプリケーションを幅広く扱える人は多くありません。
ただ、これらを使いこなせばすごく仕事の効率が上がるわけです。テレワークでそういったツールの使い方も学んだ上で、3級、2級と段階的にテストを受けてもらいました。いまさら人に聞きづらい内容から効率化につながるノウハウまで、幅広く学ぶことのできるミサワデジタルスタンダードを、全国に展開しました。
―IT活用による業務効率化については、どのような取り組みをされたのでしょうか。
高島:テレワークを進めたことで、結果的にペーパーレスが進みました。それまで大量に用意していた紙の会議資料の代わりに、パワーポイントの資料が主流になりました。電子化された資料は共有ファイルサーバーに保存されるため、見返したいときにいつでも見られますし、紙で用意する手間もなくなりました。
またテレワークの普及に伴って、本社をはじめオフィスにフリーアドレスを導入しました。それと同時にオフィスでの仕事も、デジタル化、ペーパーレスの方向にシフトしました。あわせて現在は業務を自動化するRPAの導入も進めています。
―RPAの取り組みは、具体的にどのような内容なのでしょうか。
高島:実はコロナ前から、ITソリューション部が主導して、各部門の業務を分析してRPA化を進めようとしていたのですが、なかなかスピードが上がらないことが課題でした。原因としては、やはり実際の業務がわかっているのはその部門で働く人ですから、システム部門で業務分析する方法は時間がかかりすぎました。
ただ、それぞれの部門の社員からすれば、業務はわかるけれどRPAの仕組みがわからないわけです。そこで、各部門のデジタル人材を育成する取り組みを行いながら、現場主導でRPAに向けた業務分析を進めてもらい、それを全面的にITソリューション部がサポートする形に切り替えたところ、現在はRPAの導入やそのスピードが徐々に増しています。
今後、営業や設計、建設などの現場にも、今はどういったIT技術があるのか、動画などで改めて伝えていきたいと思っています。現場社員がそれを知ることで、「ここで活用すれば仕事が効率化する」といった新しい知恵が生まれてくるはずです。本社主導では視点が偏ってしまうことからも、現場主導の取り組みに注力していきたいですね。
その点でも、ミサワデジタルスタンダードが、IT活用による効率化を支えるベースになっていくと思っています。
―施工管理に関しても、ITによる効率化は取り入れているのでしょうか。
高島:以前は紙を使って行っていた業務を、iPadで完結できるよう機能を整えています。チェックした箇所の写真をiPadで撮影するだけで、報告書に自動的に組み込まれる仕組みを採用しています。
以前から機能はあったのですが、コロナによって建築現場から会社に戻って紙で報告書を作る業務ができなくなり、現場で完結できるiPadの活用が急速に広がりました。
また、リフォームやアフターメンテナンスなどの少額の工事に関して、お客様とのメールのやりとりで完結する電子契約も試行しており、移動時間や郵送の手間などを省けて効率が上がると好評です。ITソリューション部として、コロナという外圧をチャンスに変えて、ITによる効率化をもっと進めていきたいですね。
効率を追求しすぎることなく、現場目線の改革を
―働き方改革や業務効率化について、次に取り組むべき課題やこれから注力したいことは何ですか?
高島:今後、オフィスとテレワークのハイブリッドな働き方を実現していく上で、コミュニケーションは課題ですね。会社にいればちょっと声をかけるとか、廊下で立ち話をするとか、そういう形でできるコミュニケーションがテレワークでは難しいわけです。あえて電話するほどでもないし、チャットも使いにくいという人もいるので、さまざまな形の社内コミュニケーションをより円滑化する方法を考えていきたいですね。
新しいツールも次々と出てきますが、一度導入すると柔軟性がなくなってしまったり、部門ごとに合うもの、合わないものがあったりしますので、ツールを判別しながら、より良い方法を模索していきたいです。
高橋:今、非対面が進んでいますが、私自身、企業は「人」だと思っています。やはり会うことで生まれるコミュニケーションの大切さもあると思います。デジタルや、効率性に行き過ぎることのリスクもありますので、そのバランスのとり方が課題ですね。
テレワークに関しても、本社と、対お客様の仕事をしている支社支店の温度差は、どうしても生まれてしまいますし、しっかり進めるべきところと、抑えなければいけないところを見極めながら、新しいものを取り入れて進んでいきたいです。闇雲に突っ走ることなく、何が一番良いかを見つけていくことが大事だと思っています。
高島:全社員のうち、9割が対お客様の仕事をしている社員ですからね。現場視点を大切にして、当社の多くを占める現場の社員の働きやすさを実現する制度やIT化を進めることが必要だと思っています。
後編まとめ
「いつでも、どこでも、いつまでも、いきいきと」働ける環境づくりのために、現場で働く社員と向きあって生まれた勤務制度やミサワデジタルスタンダード。ITを活用した業務効率化を進める中で、対面のコミュニケーションの重要性も再認識されているようです。
どんな会社でもミサワホーム株式会社のように働く人の声にしっかりと耳を傾ける姿勢があれば、自社にとって最適な働き方改革の方法がきっと見つかるはずです。
<現場主義を貫くミサワホームの働き方改革(前編)
30歳までにプロを育てる研修体系
※本記事に掲載の会社名および製品名はそれぞれの各社の商号、商標または登録商標です。(Zoom、Google Workspace、iPad)
記事執筆
高橋 幸男(たかはし ゆきお)
1991年に入社。2005年から東京・神奈川エリアの人事に従事した後、2015年より本社の人事総務部・人事課長として会社全体を担当。2017年には新設された「BR働き方改革推進室」を兼務し、健康経営への着手や様々な制度導入に携わった。現在は人事総務部長として感染症への対応を含む労務管理を担っている。
記事執筆
高島 巌 (たかしま いわお)
1989年に入社。11年間の営業経験を経て、2000年からITソリューション部へ。販売店の基幹システムの構築、現場導入を担当するなど情報システムに従事。2017年には「BR働き方改革推進室」を兼務し、RPAなどのツール導入を推進。現在はITソリューション部長として、フレックス制度や在宅勤務など新しい働き方の導入をITの面からサポートしている。
新しい働き方へ
新しい働き方を進めている企業の担当者に、導入までの道のりや成果についてお聞きするシリーズ
・式会社タニタ 社員の個人事業主化への道のり 前編 日本活性化プロジェクトの軌跡 / 二瓶琢史氏
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・株式会社ぐるなび 新しい働き方への環境整備 (前編)
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・凸版印刷株式会社 生産性向上を軸に考える新しい働き方(後編)
記事執筆
働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
「働き方改革ラボ」は、”働き方改革”が他人ゴトから自分ゴトになるきっかけ『!』を発信するメディアサイトです。
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