物流業・建設業の2024年問題とは?|働き方改革を実現するための取り組み・事例解説
2024年02月02日 07:00
この記事に書いてあること
物流業・建設業で今話題となっているのが、これまで猶予されていた働き方改革関連法の適用が開始することで生じる「2024年問題」です。適用が間近に迫った現在、物流業・建設業では新しい制度を整える必要があります。
では、具体的にどのようなことをしたらよいのでしょうか。この記事では、物流業・建設業において働き方改革を実現するための取り組みについてご紹介します。
2024年問題とは
2024年問題とは、物流業や建設業において、働き方改革関連法の適用が2024年に開始されることで生じる問題をいいます。
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2024年問題と働き方改革の関連性
そもそも働き方改革は、2016年9月に設置された「働き方改革実現会議」を起点にまとめられた「働き方改革実行計画」からはじまりました。その後、長時間労働の是正などを目的に2019年4月より順次施行された「働き方改革関連法」によって本格化されています。
「働き方改革関連法」は、2019年4月より大企業・中小企業には適用されてきましたが、物流業・建設業においては、2024年4月までの5年間、時間外労働の上限規制など一部には猶予期間がありました。それが、2024年4月にいよいよ解禁されるため、業界全体に対応が迫られている問題を「2024年問題」と呼ばれています。
なぜ5年の猶予期間があったのか
物流業や建設業において5年もの猶予期間があった理由として、物流・建設業の労働環境に関する問題が挙げられます。物流業・建設業は、長時間労働や休日を取りづらい状態が常態化しており、法律の適用の準備が間に合わないと判断され、猶予期間が与えられていました。
法令違反した場合の罰則
2024年4月以降は、法令違反をしてしまうと、労働基準法に違反したとして、6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金の罰則が科せられる可能性があります。また、トラック事業者に関しては貨物自動車運送事業法によって車両停止などの行政処分が下されることも考えられるので、注意が必要です。
2024年問題で企業側が対応しなければならないこと
では、具体的にどのような点に注意する必要があるのでしょうか。この章では、物流業・建設業に影響を与える「2024年問題」で企業側が対応しなければならないことを解説します。
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1. 36協定で時間外労働の上限規制が設けられる
まず、36協定によって時間外労働の上限規制が設けられます。
2024年4月1日から、労働時間は原則として月45時間、年360時間となり、単月では100時間未満、複数月平均80時間以内、年720時間を超えて働いてはなりません。これらの条件は36協定によって、罰則付きで法律に規定されています。ただし、災害時や復旧事業など、特別な事情がある場合は例外となります。
2. 同一労働同一賃金によって賃金の見直しが必要になる
次に、同一労働同一賃金により、正規・非正規社員の雇用条件が違う場合でも、同じ仕事に従事している労働者には同額の賃金が支払われます。
同一労働同一賃金とは、派遣社員やアルバイト、業務委託など、どの雇用形態でも同一の賃金が支払われる仕組みです。この仕組みによって、企業側は、賃金だけでなく、賞与、作業手当、通勤手当、家族手当など、各種手当ての見直しが求められます。
物流業における2024年問題|2つのポイントと懸念点
前章では2024年問題全体におけるポイントを見てきましたが、物流業においてはとくにどのような懸念点があるのでしょうか。この章では、物流業における2024年問題を解説していきます。
1. ドライバーの時間外労働に上限規制が設けられる
1つ目が、ドライバーの時間外労働に関する上限規制が設けられることです。物流においては、1年・1ヶ月・1日に分けて、ドライバーが労働時間などを改善するために必要な目安を示した「ドライバーの改善基準告示」が国土交通省から発表されています。
拘束時間はあまり変化がないように見えますが、たとえば、1カ月の拘束時間は原則284時間、310時間と時間が短縮されたことに加え、「1年の拘束時間が3,400時間を超えない範囲」で「年6回」の文言が付き、条件がさらに厳しくされています。また「月の時間外・休日労働時間が100時間を超えないように努める」など、努力義務も課されました。
時間外労働に関する上限規制によって、物流業でとくに問題が起きるのが、下記の2点です。
1. モノが運びづらくなる
1つ目が、モノが運びづらくなることです。これまでは一泊二日で輸送できていたものが、時間外労働の上限規制によって出勤時間が限られてしまったり、休憩を長く設けなければならなくなったりして、長時間・長距離の輸送はとくに、これまでのペースでの輸送がしにくくなります。
2. ドライバーの給与が減る
2つ目が、ドライバーの給与が減ることです。これまで時間外労働の給与を目的に働いていたドライバーは、上限規制によって働ける時間が減り、必然的に給与が減ることになります。2024年問題によってドライバーの肉体的・精神的な負担は軽減できるかもしれませんが、給与を目的に働いていた人たちにとっては不満につながるでしょう。
2. 4時間を超えて連続した運転ができなくなる
時間外労働の上限規制に加えて、4時間を超えて連続した運転ができなくなる点においても注意が必要です。
これまでも同じ規定はありましたが、以前よりも厳しくなり、「10分未満の運転の中断が3回以上を連続しないこと」などの条件が加わりました。そのため、休憩時間を考慮した輸送スケジュールを見直す必要があります。
物流業・建設業の2024年問題にある3つの背景
そもそも、物流業・建設業の2024年問題は、業務に携わる労働者不足が主な原因です。この章では、二つの業界の背景にある問題について解説します。問題を適切に捉えることで、労働環境の改善につながるので、ぜひ参考にしてください。
1. 業界全体の人手不足
物流・建設の仕事は体力が必要になります。さらに、作業には危険が伴うため、労働者が集まりにくいという問題もあります。それらの理由から、なお人手が足りていない状態にも関わらず、新型コロナウイルスによる宅配需要の増加、大阪万博や高速道路リニューアルの建設工事など、物流・建設需要は増大していく一方です。そこでさらに、早く工事を終わらせるべく、仕事内容が重労働化してしまうという負のループが起こっています。
厚生労働省が毎月発表している一般職業紹介状況では、令和5年9月時点で、輸送・機械運転の職業の新規求人(ハローワークにおいて、その月のうちに受け付けた求人数)が44,782人のうち、新規求職(ハローワークでその月のうちに受け付けた求職者の数)は13,957人、建設・採掘の職業の新規求人が42,638人のうち、新規求職は4,830人でした。これらのことから、求人は出ているのにも関わらず、応募者が少ないことが伺えます。
2. 職人の高齢化と若者の建設離れ
物流業界や建設業の職人たちは高齢化しており、2020年の国土交通省の算出によると、10年後は3割以上の人材が引退すると言われています。「団塊世代」と呼ばれる人口が多い世代の方々が大量に離職するため、今後さらに建設業の人口は大幅に減少するでしょう。
また、若者の物流業・建設業離れも深刻化しており、経済産業省・国土交通省・農林水産省が2022年9月に発表した『我が国の物流を取り巻く現状と取組状況』では、年齢構成は全産業平均より若年層と高齢層の割合が低く、中年層の割合が高いという調査結果も出ています。
3. 恒常化している長時間労働
物流業・建設業は長時間労働が恒常化しており、労働者の休みが取りにくい業界です。現場に従事する管理者や作業員は休みが取りにくい環境で働いており、1週間のうち全てが勤務日の場合もあります。
国土交通省によると2015年で週休2日が取れる建設業の企業は全体の1割以下となっており、実労働時間について全産業平均で比較すると、他の産業よりも年間360時間以上の長時間労働となっています。建設に携わる下請けの中小企業の多くは、短納期の仕事に追われており、休日が取れずに働いているのが現状です。
2024年問題がなぜ起こっているのかを適切に捉え、これらの問題を解消するように取り組んでいくことをおすすめします。
物流業・建設業者に必要な2024年問題への取り組み
続いて、物流業・建設業において必要な2024年問題への取り組みを解説します。前章でご紹介した問題をどのように解決していけばよいのか、業種ごとでご紹介しますので、ぜひ実践してみてください。
物流業界に必要な2024年問題への3つの取り組み
まず、物流業界に必要な3つの取り組みから解説していきます。
1. 荷待ち時間・待機時間の削減をする
1つ目が、荷待ち時間・待機時間の削減をすることです。
通常は、荷待ち時間・待機時間など、業務に関わる内容はすべて労働時間となります。貨物自動車運送事業輸送安全規則によって、ドライバーの安全を確保するために、荷主の都合で荷待ち時間が30分以上経過した場合には乗務記録に荷待ち時間を記録することがすでに義務化されています。しかし、ドライバーがコントロールできる範囲ではないため、完全に削減できているとはいえない状態です。残業時間や疲労の増加にもつながるため、改善の努力が必要といえるでしょう。
これらの対策は、GPSを装着しリアルタイムでトラックの動きを把握し管理することで、積み下ろし場所でトラックが混み合う時間を防ぐ、荷物の準備を間に合わせられるよう手配するなどの取り組みが挙げられます。
2. リレー輸送・ミルクラン方式を導入する
2つ目が、ドライバーの負担を減らすためにリレー輸送・ミルクラン方式を導入することです。
リレー輸送とは、長距離輸送の輸送時間を減らすために、異なる拠点から出発をした2台のトラックが中継地点でドライバーを乗り換えさせ、出発した地域に戻ることで、ドライバーの負担を軽減する方法です。実際に、2023年6月にはカゴメ株式会社と株式会社日清製粉ウェルナが共同でリレー輸送を行っており、従来は一泊二日かかっていた輸送を日帰りで達成できました。
続いて、ミルクラン方式とは、メーカーが必要とする原材料や部品を巡回しながら回収する輸送方法のことです。おもに牛乳メーカーなどで使用されていましたが、他の業種にも広まっています。
原材料や部品を製造する工場から出荷すると、到着時間がバラバラになったり、検品に時間がかかったりしてしまいますが、ミルクラン方式では一度に回収するため、それらのデメリットをなくすことができます。
3. 業務の効率化など職場環境を改善する
3つ目は、業務の効率化など職場環境を改善することです。ICT活用やDX化など、テクノロジーの力を活用することで、業務効率化を図り、従業員の負担を減らすようにすることが大切です。
物流業・建設業には3K(きつい、汚い、汚い)というネガティブな印象がついています。さらには収入の見込みがないと考えているひとも多いため、給与や保険などの見直しも行うと良いでしょう。
建設業界に必要な2024年問題への2つの取り組み
次に、建設業界に必要な2024年問題への取り組みを2つご紹介します。
1. 福利厚生を充実させ、人材確保につなげる
1つ目が、福利厚生を充実させ、人材確保につなげることです。
先述したように、物流業・建設業には3K(きつい、汚い、汚い)のイメージがついています。工事現場で危険にさらされる可能性があるにも関わらず、保険などの福利厚生を充実させていなければ、求職者からの不安にもつながりかねません。
そのため、人材確保のためにも、すでに働いている従業員の身の安全を守るためにも、福利厚生の充実は欠かせない取り組みといえるでしょう。
2. 建設業でのキャリアアップの仕組みを活用する
2つ目が、建設業でのキャリアアップの仕組みを活用することです。
建設業界の賃金は他の製造業と比べて、賃金が低い傾向にあることが問題とされています。そこで、技能や経験に応じて給与が上がる仕組みを設けると、若年層の獲得につながりやすくなると考えられます。
具体的には、建設従事者の能力を評価する制度である建設キャリアアップシステムを導入して、そのキャリアに応じた適切な賃金の支払いを行うなどです。また、日給制ではなく月給制にすると安定した雇用が実現でき、より人材を獲得しやすくなるでしょう。
物流業・建設業の作業効率化につながるIT活用例
最後に、物流業・建設業の作業効率化につながるIT活用の企業事例をそれぞれ2件ご紹介します。
物流業
ICT活用で「2024年問題」を乗り切り、成長につなげる
香川県の小河運送株式会社では運行管理システム、デジタコ、ドライブレコーダーでドライバーを支援。クラウド型の業務システムで業務の属人化の解消を進めています。
60年超の実績で地域の主要産業を支える運送会社ICT活用で「2024年問題」を乗り切り、成長につなげる小河運送(香川県)
車両運行方法を工夫し、運送業の「2024年問題」への対応急ぐ
群馬県の新田産業株式会社では2024年問題対応で中継地点を確保。荷役作業を行う社員に大型自動車免許、けん引免許の資格の取得を推奨し、ドライバーの荷待ち時間短縮に取りくんでいます。
車両運行方法を工夫し、運送業の「2024年問題」への対応急ぐ。ICT活用を進め一層の業務改革を目指す新田産業(群馬県)
建設業
設備や技術力、ICT導入などの機材や人材への投資で成長路線を走り続ける
岡山県の株式会社エイチでは足場の図面を3Dで描ける3D-CADや写真撮影するだけで正確な測量ができる写真計測図化システムなどのほか、現場関連の事務作業でも建設工事積算ソフトや土木工事施工管理システムなどを導入。それらが連動して効率を大きく向上させています。
時代と共に仮設工事の変化を捉え、設備や技術力、ICT導入などの機材や人材への投資で成長路線を走り続けるエイチ(岡山県)
勤怠管理と工事台帳システム導入で建設業界の残業規制に対応する
滋賀県の有限会社裕花園ではIT導入補助金を活用して工事台帳と勤怠情報連動システムを導入。手作業が減ったことで時間が削減されただけでなく、リアルタイムに状況がわかることでその後の見通しを立てやすくなっています。
勤怠管理と工事台帳システム導入で建設業界の残業規制に対応する地元の「花やさん」裕花園(滋賀県)
まとめ
物流業・建設業の2024年問題は、業界の構造を変えるための有効な施策です。法令に沿って取り組むことで雇用環境が改善され、従業員の確保や賃金の問題を解決しやすくなります。2024年の4月までに企業の体制を整えて、新しい労働環境への準備をしておきましょう。
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記事執筆
働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
「働き方改革ラボ」は、”働き方改革”が他人ゴトから自分ゴトになるきっかけ『!』を発信するメディアサイトです。
「働き方改革って、こうだったんだ!」「こんな働き方、いいかも!」
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