情報管理で業務効率化! ナレッジマネジメントの導入方法を解説

From: 働き方改革ラボ

2022年12月26日 07:00

この記事に書いてあること

今、従業員の持つ知識やスキルを社内で共有し、生産性や競争力の向上を図るナレッジマネジメントを導入する企業が増えています。しかし、ナレッジマネジメントを進めるためには、従業員の協力が欠かせません。また、ナレッジを蓄積しておくための情報管理能力も求められます。

そこでこの記事では、ナレッジマネジメントの導入方法や、従業員が今すぐ実践できるおすすめの情報管理術をご紹介します。

ナレッジマネジメントとは

はじめに、ナレッジマネジメントの定義や理解するための用語についてご紹介します。

ナレッジマネジメントの定義

ナレッジマネジメントとは、名前の通り、従業員の持つナレッジ(知識や情報)を社内で共有し、生産性や競争力の向上を図る経営手法を意味します。このナレッジには経験やスキルなど業務に関わるもの全般が含まれています。

暗黙知と形式知とは

ナレッジマネジメントを理解する上で欠かせないのが、言語化されていない知識やスキルを意味する「暗黙知」と言語化されている「形式知」です。

暗黙知

「暗黙知」とは、個人の持つ知識やスキルのうち言語化されていないものを指します。車の運転でたとえるなら、車に乗った際のハンドルの切り具合や雪上でのブレーキ、コーナーでのスピードコントロールなど、本人がこれまでの経験を踏まえて感覚的にしている行動に付随する知識が暗黙知です。

暗黙知は知識や経験から染み付いているもののため、行動をするときには勘や過去の経験による推測など、個人の感覚に委ねられています。言語化されていない、もしくはできないものであるため、他者への共有が難しいという特徴があります。

形式知

一方で「形式知」とは、知識やスキルが言語化されており、他者に共有できるものを指します。たとえば、車の標識は「車両進行禁止」「指定方向外進行禁止」など名前がついており、それぞれの持つ意味も含めて運転手の共通認識とされています。このような、意味や内容がしっかりと言語化されており、説明を受ければ誰でも理解できるものが「形式知」と言えるでしょう。

マニュアルや作業手順書なども「形式知」のひとつです。それらを読むことで理解が深まり、他の従業員の持っている知識やスキルを自身に取り入れたり、活用したりすることができるものを形式知と呼びます。

仕事において、暗黙知を形式知にすることは業務の属人化を防ぐ役割を持ち、形式知を暗黙知に変えていくことは得た知識を自分自身に落とし込む役割を持ちます。そして、そこからさらに生まれたアイディアやスキルもまた、暗黙知にすることで生産性の向上などが図れるのです。

この暗黙知を形式知に、形式知を暗黙知にする過程をまとめたのが、「SECIモデル」というフレームワークです。

フレームワーク「SECIモデル」の4つの“場”

「SECIモデル」とは、一橋大学の野中郁次郎教授が提唱したナレッジマネジメントの枠組みで、個人の持つ「暗黙知」を社内で共有できる「形式知」に変えるまでの4つの過程をまとめたものです。共同化(Socialization)、表出化(Externalization)、連結化(Combination)、内面化(Internalization)の頭文字をとって名付けられました。

SECIモデルに密接に関わっているのが、“場”です。4つの過程には適した環境が必要であり、共同化のためには「創発場」が、表出化のためには「対話場」が、連結化のためには「システム場」が、内面化のためには「実践場」が必要とされています。

1. 共同化と創発場

「共同化」とは、共同作業を通じてまだ言語化できていないスキルなどを習得する過程を指します。たとえば、新入社員が上司や先輩の隣で作業をすることで仕事の進め方やコツを学ぶこと、弟子が師匠の動きを見て真似をすることなどが挙げられます。

共同化のために必要な場は、「創発場」と呼ばれています。社内のフリーアドレス制や会社のデスクといった業務中の姿を見られる場はもちろん、ランチや飲み会など雑談をする場も含まれています。

2. 表出化と対話場

共同化を通して身につけた知識を言語化し、社内やチーム間に共有する「表出化」では、マニュアル作成などを通して暗黙知を形式知に変えます。個人の内側にあった暗黙知が言語化されることで、他の人と共有することができるのです。

表出化のために必要な場は「対話場」と呼ばれており、ディスカッションや会議などが該当します。創発場には雑談など気軽に繰り広げられる会話が含まれる一方で、対話場は、参加する従業員の知識やスキルを言語化し、形式知にするための真剣な会話が中心となっていることに注意しましょう。

3. 連結化

表出化された形式知同士を組み合わせる「連結化」によって、新たな知識やスキルを生み出すこともできます。これはイノベーションにもつながる、大切な過程です。

連結化のために必要な場は「システム場」と呼ばれ、さまざまな知識やスキルが集まった場、すなわちチャットツールやナレッジマネジメントツールが該当します。ただナレッジを集めるだけでなく、それらを組み合わせるきっかけになる場づくりをすることが大切です。

4. 内面化

結合化で生まれた新しい知識やスキルを個人に落とし込む「内面化」によって、形式知が暗黙知へと変換されます。はじめは見よう見まねで実践していたもののコツを掴み、自分のなかで咀嚼していく過程です。

内面化で必要な場は「実践場」と呼ばれ、個人のデスクや作業場などあくまで個人的な場となっています。

ナレッジマネジメントは内面化して終わりではありません。「内面化」で暗黙知となった知識は「共同化」でまた共有され、「表出化」、「連結化」、「内面化」と繰り返されていきます。

ナレッジマネジメントはなぜ必要なのか? 3つのメリット

続いて、そもそもなぜナレッジマネジメントが必要なのか、3つのメリットをご紹介します。

1. 人材育成に使える

第一のメリットとして、従業員の持つ知識やスキルを集約し言語化したものを人材育成に活用できることが挙げられます。

先述したように、新入社員に向けたマニュアルは、言語化された知を意味する「形式知」のひとつです。マニュアル作成にあたって、従業員の持つ知識やスキルといったナレッジをかき集めなければならないため、情報管理能力も大切になってきます。ナレッジマネジメントや後述する情報管理を徹底することで、新入社員の育成や、部署を横断する教育に活用できます。

2. 業務の効率化につながる

次に、業務の効率化につながることが挙げられます。

従業員の持つ知識やスキルが属人化されてしまっていては、その従業員の異動や退職によって積み上げていたものがなくなってしまう可能性があります。ナレッジマネジメントを通じて属人化を防ぐことで、他の従業員もいいところを取り入れることができ、結果として業務効率化につながることが期待できます。

3. 生産性が向上する

業務効率化によって生産性が向上することもメリットと言えるでしょう。

たとえば、同じ作業に時間がかかってしまう従業員と、スピード感を持って仕上げられる従業員がいたとします。後者の従業員がどのようなことを心がけているか、どのような取り組み方をしているかを共有することで前者の従業員の作業スピードがあがり、生産性が向上することが見込めるのです。

ナレッジマネジメントの導入方法

先述したように、ナレッジマネジメントを導入することでさまざまなメリットがあります。しかし、従業員にとって自らの暗黙知を形式知にすることは困難かつ負担のかかるものです。

そこでこの章では、スムーズにナレッジマネジメントを導入するための方法をご紹介します。

1. 導入目的を明確にする

はじめに、ナレッジマネジメントの導入目的を明確にすることが大切です。先に挙げたように、ナレッジマネジメントは従業員の協力が前提にあるため、従業員が必要性を感じられるように説明しなければ進みません。

業務効率化を図れる、新人教育に活用することで教える手間が減るなど、本人にとってのメリットを提示し、やる気をコントロールしましょう。

2. SECIモデルについて全体に周知する

ただ「ナレッジマネジメントを導入しよう」と告げたとしても、やり方がわからなければ停滞してしまいます。SECIモデルの存在を周知し、積極的に“場”を作ることで、うまく導入できるでしょう。

具体的には、週に一回の定例会議やチャットツールの導入などが挙げられます。また、フリーアドレス制を導入することで共同化を促すこともおすすめです。

3. 社員に対してルールを設ける

SECIモデルに則ってチャットツールを導入したところで雑談ばかりになってしまっては、有益なナレッジの蓄積・共有にはつながりません。社員数が多い場合や不慣れな社員が多い場合は、共有していい内容を決める、雑談用のスレッドを設ける、日報の投稿を日課とするなど、ルールを設けるといいでしょう。

その際に、個人で実践できる情報管理術について教えることも効果的でしょう。日頃から収集した情報はブックマークをつけておく、チャットツールなどでシェアをして蓄積と共有を同時に行なうなど、日常業務の一環としてナレッジの蓄積・共有を進めるのもおすすめです。

4. 課題が見つかったら改善を繰り返す

導入したとしても、はじめのうちから有益なナレッジが集まるとは限りません。また、効果測定ができるまでに時間がかかるのも事実です。SECIモデルを周知する、ルールを設けるなどできることを取り入れながら、課題が見えたらその都度改善を繰り返し、軌道修正をしていきましょう。

はじめのうちは定期的に従業員から意見を募る、振り返るタイミングを作るなど工夫することも大切です。ナレッジマネジメントは従業員の協力がなければはじまりません。急かすのではなく、適切な対応をとっていきましょう。

ナレッジマネジメントに欠かせない情報管理の重要性

これまで、ナレッジマネジメントの概要やメリットを解説してきました。

ナレッジマネジメントにはさまざまなメリットがあるとはいえ、いきなりはじめようと思っても、そもそもどのようなナレッジが“有益”なのか、迷うことがあるかもしれません。そんなときにはまず、すでに「形式知」となっている情報を集めることをおすすめします。

情報収集することで新たな知識を得られる上に、個人の持つアイディアと「連結化」する機会にもなります。また、情報収集と管理を継続していくことで有益なナレッジが生まれることもあり、ナレッジマネジメントの場にも活かされます。

情報管理をする媒体は、書籍やウェブサイトの記事、ニュースなどがおすすめです。情報には、業務内容に直結するものに限らず、競合他社の動向、経済や社会といった時事問題なども含まれます。次章で詳しく解説していきますが、気になった情報はブックマークしておく、情報管理ツールを使うなど工夫するといいでしょう。

個人で今すぐできる!おすすめの情報管理術2つ

先述したように、ナレッジマネジメントと情報管理は切っても切り離せない、重要な関係があります。ナレッジマネジメントを導入する際に、従業員が個人で実践できる情報管理を薦めることで、社内のナレッジマネジメントも活性化するでしょう。。また、業務でわからないことがあった際に調べたこと、ふと目にしたニュースといった情報を溜めておくことで、有益なナレッジがどのようなものか、判断しやすくもなります。

この章では、個人で今すぐできるおすすめの情報管理術を2つご紹介します。

1. ブラウザのブックマーク機能で保存する

もっとも簡単に始められる情報管理術が、パソコンやスマートフォン、タブレットで使っているインターネットブラウザのブックマーク機能を活用する方法です。

自分の仕事やアイデア収集に役立つ情報を見つけたら、お気に入りサイトとしてブックマークに保存しましょう。ブックマークにフォルダを作ってサイトを分類しておくと、あとで見直してチェックするときに便利です。

2. 情報管理ツールを使う

情報管理ツールを使って記録したりメモをとったりするのもおすすめです。

OneNote

OneNoteは、マイクロソフトのメモアプリ。「ノートブック」「セクション」「ページ」という階層を使って、文字入力や手書きのメモ、画像などをノートに書きこむように、自由に記録して保存することができます。検索も簡単にできるため、情報の取り出しもスムーズです。

Evernote

Evernoteは、ビジネスで広く活用されているポピュラーなメモアプリのひとつ。メモだけでなく、スマホで撮影した画像や音声などを保存できます。撮影した画像の文字を自動でテキストに変換する機能や、トークアプリのやりとりを保存する機能も。オンラインストレージのOneDriveに保存することで、データを他の人と共有することも可能です。

Pocket

Pocketは、ニュース記事や動画などの気にいったコンテンツを、ウェブからブックマーク保存できるアプリです。複数の端末から同じアカウントを開けば、いつでも同じ情報をチェックすることができます。タグ付けや検索、オフライン閲覧など機能も充実。

仕事に活かすための情報収集・管理のコツ

最後に、仕事やナレッジマネジメントに活かすための情報収集・管理のコツを3つご紹介します。

1. タグを使ってデータを活用する

メモアプリを使って情報を管理するときは、タグをつけて保存しましょう。あとで情報を探したいときに、キーワードで検索してすぐに取り出せるため効率的です。

ツールのなかには投稿にタグづけができる、フォルダを分けられるものもあります。「雑談」「プロジェクト」「アイディア」などタグをつけることであとから検索がしやすくなるでしょう。

2. 自分の意見や考えを記録する

保存する情報に対する自分の意見や考えを付け加えておくと、振り返るときに便利です。「〇〇のアイデアに役立ちそう」「〇〇を加えて発展させる?」といった具体的な活用イメージなどを、メモアプリに入力したりして残しておきましょう。

言語化する練習にもなる上、他の人の形式知を掛け合わせて新たなイノベーションが生まれるきっかけになるかもしれません。

3. 不要な情報は定期的に整理する

情報が煩雑になってしまっては、有益なナレッジが埋もれてしまう危険性があります。そのため、定期的に見直して、整理することも大切です。

具体的には、鮮度が落ちて不要になった情報やプロジェクトの終了など重要度が低くなった情報は削除し、情報量が増えすぎないようにしておくことで、質の高い情報を早く取り出すことができるでしょう。

まとめ

ナレッジマネジメントによって業務の効率化、人材育成への活用など、さまざまなメリットがあります。ナレッジマネジメントを円滑に進めるためにも、日頃から情報管理をする環境を整えておくと、情報を集めるときの姿勢も変わります。

とはいえ、情報管理に時間をかけすぎてしまったり、ストレスを感じたりしては、習慣化しません。無理なく始められることから、情報管理術をルーティーンに取り入れて、ナレッジマネジメントに活かしてみてはいかがでしょうか。

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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