性善説の働き方改革。日本HPの「フレックスワークプレイス制」

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シリコンバレーの礎を築いた、ヒューレット・パッカード社。その日本法人では、40年も前からより良い働き方に向けての取り組みが行われていました。

今回は、ヒューレット・パッカード社を前身とするHP Inc.の日本法人、株式会社 日本HP(以下日本HP)の「働き方改革」をご紹介します。

 

好きな時間に、好きな場所で働く

現在日本HPで主流となっているのは、「フレックスワークプレイス制」と呼ばれる働き方。これは、週に最大4日まで自宅で仕事ができるというもの。前日までに上司とチームにメールで申請すれば、自宅勤務と半休を組み合わせたり、クライアント先に直行直帰するなど、自分の業務や生活に合わせた働き方を選択することが可能です。

「現在、社員の7割が自分の座席を持たないフリーアドレス制で働いています。実は全社員が出社すると座席が足りなくなるんですよ」

そう語るのは、クライアントソリューション本部の松本英樹氏。実際には、フレックスワークプレイス制がうまく機能しているため、不具合なく業務が進められているといいます。

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フレックスタイム制のパイオニア、HP

実は、世界で初めてフレックスタイム制を導入したのはヒューレット・パッカード社。今から50年以上も前の1967年、働き方が世間の話題に上り始める遥か以前に導入に至ったのです。

理念を同じくする日本法人でも、1977年にフレックス制を導入。そこから、2001年にフリーアドレス、2007年にフレックスワークプレイスと、段階的に改革を進めてきました。

「HP Inc.は世界170カ国で事業所を展開する多国籍企業。事業所間の連携を考えると、そもそも勤務時間を日本のビジネスアワーに合わせる必要はありません。それもあって、現在のような働き方をごく自然に導入することができたのではないかと思います」

 

イノベーションを促進する、「弱い紐帯」

2001年のフリーアドレス制の導入は、働き方の視点にも変化をもたらしました。

それ以前の日本HP(当時は日本ヒューレット・パッカード)では、組織図と同じような席順レイアウトで業務を行っており、そこでは「どこで働くか」が重要で、一般的な日本企業のように「何時間働いたか」が重視されていました。

それが、フリーアドレス制導入後は、「どこで働くか」を重視するのではなく、「何をやるべきか」を最重視するようになったのです。

「部下を管理する働き方から、部下と合意しモチベートする働き方に変わり、遠隔の地でもチーム協業で仕事を行うようになりました。オフィス内もそれまでは常に余裕を持ったレイアウトで設計されていましたが、必要な時だけスペースが提供されるようになり、無駄のない空間が生まれました」

フリーアドレスの推進の元には、社会学者のマーク・グラノヴェッター博士が唱えた「弱い紐帯」という考えがありました。

チームなどの「強い紐帯(=社会的なつながり)」で結ばれるコミュニティは同質性や類似性が強いため、そこだけにいると新しい情報が入りにくくなります。フリーアドレス化によって、たまたま隣に座った他部署の人とリラックスした状態で会話をすると、自分たちの部署では出てこなかった気づきが出てくることがあります。日本HPでは、このような「弱い紐帯」を自然発生させることで、イノベーションの促進を狙ったのです。

 

「どこにいるか分からないなら、社外でも一緒じゃないの?」

外資系企業という背景もあり、積極的に働き方改革を実践してきた日本HP。しかし、実は日本HPの社員は全員日本人。新たな制度を導入するタイミングでは、議論や反対意見が多く上がりました。

フリーアドレス制の導入時にも、「同じ部署の仲間がどこにいるか分からず困る」という声が挙がりました。その会議の中で出たのが、

「社員の所在が分からないのであれば、社内にいても社外にいても同じなのでは?」

という意見。なんとそれがきっかけとなり、フレックス、フリーアドレスに加えて今度はテレワーク、つまりフレックスワークプレイス制を推進するための制度構築に乗り出すことになったのです。

 

震災の体験が、働き方を変えた

これまでにフレックスタイム、フリーアドレスと導入をすすめてきた日本HP。フレックスワークプレイスの制度自体を整えるのは順調でした。しかし、実際に活用までにはなかなか至りませんでした。それが定着した最大のきっかけは、震災での体験。

震災後、数日間は計画停電等でオフィスに出社できない中、遠隔操作によって通常業務を行わざるを得なくなりました。3月という年度末、混乱の中で業務をやり遂げるのは、簡単なことではありません。この時の体験が、働き方に対する世の中の流れが加速度的に変わり、日本HPも変革の時を迎えたのです。2007年から導入していたフレックスワークプレイス制度は、こうしてようやく定着を迎えました。

 

当たり前になったフレックスワークプレイス

現在、全体の8割の社員がフレックスワークプレイス制を利用しているといいます。

「子供を持つ女性社員からは、子供の学校行事と仕事を両立できて周りのママ友から羨ましがられるという声をよく聞きます。また多くの社員が、個人に任せてもらえる部分が増え、会社と対等な信頼関係が築けていると実感しているようです」

もちろん周囲から働きづらい、非効率という声が上がれば、管理者は利用者への指導や利用制限等の対応を行います。これまでに、少数ながらも「連絡が取りづらい」、「会議中に子供の泣き声がうるさい」などの声も上がったそうですが、現在はフレックスワークプレイスが当たり前となり、これらの問題も部署内で解決できるようになりました。

パートナー営業統括の山田梨花氏は、2009年に第一子、2011年に第二子を出産。その際、時短勤務を選ぶという考えはなかったといいます。

「時短勤務だと働く時間が制限される上、長い目で見た時にキャリアに響いたりお給料が減ってしまったりと、マイナス面が目立ちます。フレックスワークプレイスであれば子供が寝たあとに働くこともできますし、仮に子供が風邪をひいてしまっても引け目を感じることなく在宅に切り替えることができます。この10年で格段に働きやすくなりましたね」

導入時は週最大2日だったフレックスワークプレイス制も、今では週4日に拡大。裁量労働制の拡大もあり、社内では時短勤務を選ぶ社員は減ってきています。

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日本HPが追い求める働き方改革の今後

これまでの改革は、外資だからできたわけではない。松本氏はそう言い切ります。

「働き方改革というと、どう管理するかなど性悪説になってしまうことが多いですよね。日本HPでは、『人は誰でも良い仕事をしたいと願っていて、それにふさわしい環境に置かれれば誰でもそうするものだ』という性善説で社員を捉えることで働き方改革を進めてきました。そして今、働き方に関する制度とツール、つまりインフラは成熟のフェーズにきています。今後は従業員の幸福度を高めていくことが重要です」

幸福度が高い人はイノベーションを起こしやすいという説もあり、会社がさらなる発展を遂げるには、仕事に対する社員の満足度を高めていくことが必要不可欠です。

日本HPの働き方に対する追求は、これからも続いていきます。

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