テレワークで創る強い組織・第3回 テレワークにおける仕事の管理・評価方法/比嘉邦彦氏

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新型コロナウイルスの流行で、思いがけず加速することになったテレワークの導入。
テレワークのメリットを多くの人が実感することとなり、「緊急事態宣言解除後もテレワークを続けたい」、「ウィズコロナ時代を見据え、テレワークを導入したい」と考えている方も多いでしょう。
テレワーク・クラウドソーシングをメインテーマに研究し、テレワーク関係省庁の各種委員会委員、テレワーク学会会長などを歴任してきた比嘉邦彦教授が「テレワークで創る強い組織」について連載します。
全3回を通じ、「テレワーク導入は目的ではなく、経営の目的を達成する為の手段である」とし、会社・管理職がやるべき事とやってはいけない事や、仕事の管理・評価方法について解説します。
第3回では仕事の管理・評価方法として有効な、仕事の見える化とそのメリットについて解説します。

1.「いきなり在宅勤務」で出た管理・評価の問題

日本労働組合総連合会が6月に行った調査によると、在宅勤務で残業した内の6割強が申告しなかったと回答、申告した5割強が認められなかったと回答しています。つまり、残業の8割程度がサービス残業となったことになります。(申告しなかった6割+申告した4割のうちの半分<全体の2割が認められなかった>=全体の8割)この残業に関する問題は、会社の制度の問題である可能性が高いと思われますが、部下の勤務ぶりが見えないので残業を認めないとする管理職者がいる可能性も否定できません。
また、複数の民間調査などで在宅勤務で生産性が低下したとの回答が6割を超したことも問題視されていますが、そもそも生産性が低いと言われている働き方を在宅勤務に移行しただけでは、従来型の劣化版になっていると考えられるため、生産性が下がるのは当たり前と言えるでしょう。
しかし、上司・部下ともにテレワークに慣れて行くことで、ある程度の生産性向上は期待できます。この予想を裏付けるように、グーグル合同会社が4月最終週に行った在宅勤務実施に関するアンケート調査では、在宅勤務実施期間が長いほど生産性が上がる傾向が明確に出たため、テレワークで生産性を上げるためには「慣れ」が必要と報告しています。
さらに、ホワイトカラー職種と時間管理の相性の悪さが在宅勤務での管理・評価の大きな阻害要因になっているとして、ジョブ型の採用を検討する企業(株式会社 日立製作所や富士通株式会社)も出始めています。ただ、ジョブ型への変更には、多大なコストが必要な上に、実施も困難であることが予想されます。そこで、お勧めするのが、時間管理から仕事の管理への変更です。次に仕事の管理・評価方法について述べます。

2.仕事の管理・評価方法

仕事を管理するためには何が必要でしょうか?それは、部下の見える化ではなく、仕事の見える化です。第二回で述べた監視ツールを使う事で仕事の見える化ができると思っている人もいるようですが、それはまったくの思い違いです。それらの監視ツールで行えるのは基本的に部下の見える化であり、仕事の見える化にはほとんど効果が無いと理解してください。

仕事の見える化と管理

仕事の見える化を行うためには、まず部下に割り当てる仕事がしっかりと定義されている必要があります。ここでは暗黙の了解は許されません。つまり、「これを何時までにやっといて」で、後は言わなくても分かっているよね、というような仕事の出し方ではダメということです。その仕事を遂行するためのリソース(何を使うべきか、どの程度まで使ってよいかなど)、求められている成果物の要件、期限、(必要に応じて)マイルストーンとマイルストーン毎のチェック項目等々を予め定義しておく必要があります。

仕事の詳細定義

次にその仕事の開始から終了までの工程を定義する必要があります。これは、実際にその仕事を進めて行く上でどの様な手順で何を行っていくかを定義して行けば比較的容易に行えるでしょう。実際に仕事を遂行する上で、新規の技術などが使われており、上司よりも部下の方が詳しいということも起こり得るでしょう。その場合は、ノウハウを持っている部下と相談しながら工程を定義すれば良いでしょう。
また、上司だけで工程を定義したとしても、仕事を実施する部下とその工程定義を確認し、必要に応じて修正する必要もあるでしょう。この工程定義は図式化しておくと上司・部下ともに理解し易くなり、後で問題や遅延が発生した時に対処すべき点が分かり易くなります。また、チームで行う仕事も図式化して置くことで、お互いの関係性が明確になり、自分のやっている仕事が次の誰の仕事に影響するのか、全体にどう影響するのかなどが理解し易くなり、責任感を含めた仕事に対する意識改革が期待できます。管理職者は、この工程図を使って、どこにマイルストーンを設定するか、その時点で何をチェックすべきかを明確に定義できます。

仕事を管理する上で注意すべきこと

工程を含めた仕事の定義が出来たら、いよいよそれを部下に割り当てることになりますが、割り当てた後に仕事の完了まで何もしなければ仕事の見える化は行えませんし、マイルストーンが設定されている仕事でも、マイルストーンまで待っていては、大きな問題が起きている事に気づかないかもしれません。同じオフィスに部下がいて、様子がおかしいようであれば声掛けをして、仕事で何か問題があることが判明すれば手を打つということと同様のことをテレワークで行うためにはコミュニケーションが重要なポイントとなります。部下とは、定期的なフォーマルコミュニケーション以外にも雑談などのインフォーマルコミュニケーションを取ったりして、様子を確認するとともに部下の方からも気軽に相談できる雰囲気を作ることに心掛けるべきです。また、会社としても各職場に任せっきりにするのではなく、情報収集をして有効な方法を社内で共有すべきです。

仕事の評価と求められる管理スキル

最後に仕事の評価については、前節で述べたように割り当てた仕事の成果物について予め定義してあるので、その定義に照らし合わせて成果物を評価すれば良いことになります。ここで予定されていた成果物の質を上回るものを出した場合や、予定していた期限よりも早く終わらせたなどの場合は、人事評価にプラスすれば良く、そのことを部下が知っていれば、仕事に対するプラスのインセンティブ効果にもなるでしょう。

今だからこそ行うべき仕事の見える化作業

ここまで、仕事の管理・評価方法について述べてきましたが、「テレワーク以外でも使えるのでは?」や「面倒くさそう」と言う読者の声が聞こえてきそうです。テレワーク以外で使えるかについては、その通りです。仕事の管理をすべきなのは従来のオフィスにおいても当然のことなので、この方法はテレワーク以外でも使えますし、使う事を強く推奨します。
次に「面倒くさそう」ですが、確かにその通りです。特に暗黙の了解で済む仕事については、今まで何の問題も起きていないのに、どうしてこんな面倒なことをしなくちゃいけないんだと思われるでしょう。ただ、現在の状況はこれらの定義作業を進めて行く上で適していると言えます。つまり、通常の状態であれば、仕事に忙しくこの様な定義作業は余計な仕事になってしまい、後回しにされがちです。その結果、定義作業は全く進まないかもしれません。しかし、全員が在宅勤務をしている状況での管理職者は、部下の様子がわからないと嘆いている暇に定義作業を進めることができるはずです。定義したものを部下と話し合う事で、コミュニケーションも活発に行えるようになるかもしれません。
また、テレワーク環境下でチームとしての信頼を構築し、効率よく作業をこなして行くためにはコミュニケーションとゴールの共有化が肝要と言われていますが、メンバー個々人に割り当てられた仕事とチーム全体の仕事を照らし合わせることでチームとしてのコミュニケーションの活発化とゴールの共有化も容易に行われることが期待できます。

管理職者に求められるもの

ただし、仕事と工程の定義がしっかり出来たとしても、上司が部下の能力などを正しく把握していなければ適切な仕事の割り当てが出来ないため、能力以上の仕事を割り当てるとオーバーワークになったり、期限までに仕上がらないなどの問題につながり、能力以下の仕事を割り当てると人材の無駄遣いになってしまいます。また、仕事に遅れなどが出た場合に、適切な手当て(例えばヘルプをアサインするなど)が出来ないことになってしまいます。つまり、この方法を実施して行くと管理職者側の不足している管理スキルも浮き彫りになって来るので、必要な管理スキルが明確になり、会社としても効率の良い支援が行えるようになるでしょう。

経営によしのテレワーク実現に向けて

最後に、ここで述べた仕事の管理・評価方法は、従来の職場でも有効に機能すると考えられるので、テレワークする・しないに関わらず、まず試してみてはどうでしょうか。成功すれば、あなたの会社の柔軟性と効率を劇的に向上することができるでしょう。まずは、対象となる職場を決めて試行してみてはどうでしょうか。時間管理から仕事の管理へと移行することで、劣化版の働き方では無く、「経営によし」それに続いて「働き手によし」のテレワークが実現できることでしょう。

参考・出典

世論調査│日本労働組合総連合会
テレワークに関する調査2020│日本労働組合総連合会
働き方のいま│グーグル合同会社

著者プロフィール

比嘉邦彦(ひが くにひこ)

米国アリゾナ大学から1988年に経営情報システム専攻でPh.D.を修得。以来、ジョージア工科大学、香港科学技術大学助教授を経て1996年に東京工業大学助教授、2016年より現職。テレワーク・クラウドソーシングをメインテーマとした21世紀の情報システムのあり方、組織改革、地域活性化などについて研究。テレワーク関係省庁の各種委員会委員およびテレワーク学会会長などを歴任。日本テレワーク学会の特別顧問である。

東京工業大学教授・日本テレワーク学会特別顧問

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