テレワークで創る強い組織・第2回 テレワーク導入を失敗させる方法と成功させる方法/比嘉邦彦氏

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新型コロナウイルスの流行で、思いがけず加速することになったテレワークの導入。テレワークのメリットを多くの人が実感することとなり、「緊急事態宣言解除後もテレワークを続けたい」、「ウィズコロナ時代を見据え、テレワークを導入したい」と考えている方も多いでしょう。
テレワーク・クラウドソーシングをメインテーマに研究し、テレワーク関係省庁の各種委員会委員、テレワーク学会会長などを歴任してきた比嘉邦彦教授が「テレワークで創る強い組織」について連載します。
全3回を通じ、「テレワーク導入は目的ではなく、経営の目的を達成する為の手段である」とし、会社・管理職がやるべき事とやってはいけない事や、仕事の管理・評価方法について解説します。
第2回は攻めのテレワークを成功させるために、会社や管理職が抑えるべきポイントを解説します。

経営的メリットを追求するための攻めのテレワークでは、大規模で、かつテレワークを主な働き方とすることが求められます。そのようなテレワークを実施する上で、会社・管理職がやってはいけないこととやるべきことについて説明します。

1.テレワーク勤務規定

テレワークでの勤務場所や業務の開始・終了方法など、勤務規定については作るべきではありますが、できるだけシンプルなものとすべきです。テレワーク独自と思われることであっても、従来の規定を使えないか、あるいは、従来の規定を変更してテレワークの規定と統一した方がより良いものになるのではないかという意識を持って勤務規定を作るべきです。なぜなら、複数の勤務規定は管理職者の負担を増やし、複雑なテレワーク規定はワーカーにとって利用しづらいものになってしまうからです。
勤務規定でシンプル化すべきものにテレワークの事前申請・承認手続きと事後報告があります。承認を現場裁量としている企業がほとんどですが、上司が部下のテレワークに前向きでないことがわかっている場合、申請そのものを諦めてしまう社員も多いようです。事前申請(業務計画を含むことが多い)や事後報告については、テレワークする・しないに関わらず、全ての社員に毎日の勤務について事前申請・事後報告を課すことも検討に値するでしょう。
例えば、明豊ファシリティワークス株式会社では、テレワーク導入当初はテレワークする社員にのみ事前申請・事後報告を課していましたが、この方法により勤務状況がわかり易くなるということで、全ての社員に課すように変更したとのことです。
また、ビフォーコロナから事前申請・事後報告を廃止していたアフラック生命保険株式会社や、ウィズコロナで出勤を事前申請とした株式会社デサントのような先進的な企業も出てきています。これらの取組みもシンプル化の正解例と言えるでしょう。

2.勤務時間管理

ホワイトカラーの業務と時間管理の相性の悪さは、ほとんどのホワイトカラー業務者が実感しているところでしょう。しかしながら、勤務時間については、法律で管理することが求められており、報酬も時間ベースになっていることから現時点で時間管理をやめることはできません。現実として、多くの企業が在宅勤務でも時間管理を試みているようです。
例えば、ある企業ではオンライン会議システムでの朝礼による始業確認や、日中に何度か勤務確認のメール返信を要求するなどがあります。終業時間についても、多くの企業が在宅勤務での残業を認めていない事から、定時で終業報告メールを出させる、会社のサーバーアクセスを時間で遮断する、予め決めておいた勤務終了時間に貸与したノートPCを自動シャットダウンするなどして時間管理を行っているところもあります。ただ、これらの方法で実際の勤務時間を管理する事は難しいでしょう。
サービス残業を止める方法としても有効ではありません。例えば、2人の部下に同じ様な難度の仕事を割り当てたとします。1人は、日中は休憩などをはさみながら仕事をし、定時までに仕事を完了しました。2人目は日中もみっちり働き、2時間サービス残業をして仕事を完了しました。この場合、会社は2人とも通常どおりに勤務し、定時で終業したとするでしょうが、実際の内訳は大きく異なります。
本質的な勤務時間の管理を行いたいのであれば、上司が部下の能力を正しく把握して適切な仕事を割り当てることが必要となります。すぐに実行するのは難しく感じるかもしれませんが、今後も時間管理が続く限り、上司が適切な仕事を割り当て、管理することは重要視されていくでしょう。

3.在宅勤務者の見える化

管理職者によるテレワーク反対の理由に「見えない部下の評価・管理はできない」や「見ていないと仕事をサボるのではないか」というものがあり、それらの不安・不満を解消するためのICTツールを導入している企業もあります。
例えば、在宅勤務中はwebカメラをオンにする、キーボード操作やマウスの動きのログをとる、定期的に画面の静止画をとるなどが実際に行われていることです。しかしこれらの行為は管理職者を安心させる効果はありますが、在宅勤務者からは、「会社・上司は自分のことを信用していないから監視している」と受け取られることもあるでしょう。これでは、上司・部下間の信頼構築を阻害し、部下のやる気や満足度を低下させることで、生産性にも悪影響が出るかもしれません。また、上司・部下ともに監視ツールありのテレワーク環境ではプロ化に必要な意識改革が起きないと思われます。ただし、「監視目的」ではなく、単にお互いの様子確認をするために双方向で画像共有することは、コミュニケーションの活性化として有効であり、信頼構築にも役立つと考えられます。実際に上司とテレワーカーの両方から「様子がわからないので話しかけるタイミングがつかめない」や「ちょっとした相談がしづらい」などの不満の声が出ていますが、webカメラでお互いの様子確認が出来る様にしたことでこれらの問題が解決したとの報告もあり、実証実験による研究でも同様の結果が確認されています。

4.イノベーションを起こすための環境づくり

多くの経営者は、イノベーションを起こすためには直接対面による交流が必要と誤解しているようです。例えば、Yahoo! Inc.の元CEOマリッサ・メイヤー氏は、在宅勤務制度を廃止する理由の1つとしてイノベーションを起こすためには従業員同士の対面によるコミュニケーションが必要だからとしていましたが、制度廃止後も目立ったイノベーションが起きることはありませんでした。日本の某大手企業の経営者も、今回の非常事態宣言下で約90%の社員が支障なく在宅勤務できたことから、オフィスの大幅削減を検討するが、イノベーションを起こすために社員同士の直接的な交流の場としてのオフィススペースは残すと発言していました。イノベーションにはバックグラウンドの異なる多様な人材の交流が有効とわかっていますが、交流は直接対面であるべきかについてはわかっていないのです。さらに、イノベーションは成果が出て初めてイノベーションと認定されるわけですが、ほとんどの取組みは成果が出ないルーティンから外れた行動として終わってしまっています。もちろん、イノベーションを起きやすくするための環境づくりは重要ですが、それはテレワークでも十分に可能なはずです。むしろテレワークだからこそ、多額のコストをかけずに、より多くの多様な人材の継続的交流が可能な環境づくりができます。

テレワークは経営目的達成のための手段のひとつ

最後に「テレワークで働き方を変える」や「テレワークで組織を変える」は、間違いとまでは言えませんが、前提条件が抜けています。つまり、最初に経営としての目的があり、その目的を達成する為の手段としてテレワークが適切であることが確認されて初めて期待される「変化」に至るわけです。もしテレワークを導入すれば変化が起きると考えているのであれば、過去にあった多くのICTツール導入失敗例の轍を踏むことになってしまいます。多くのツール導入の過去ケースにおいては、期待された効果をかなり下回っているばかりか、費用対効果でマイナスになっているものも少なくないでしょう。テレワークの場合、導入費用はかなり抑えられるため費用対効果がマイナスになる可能性は低いはずですが、前提条件をしっかり理解した上で導入することで、期待どおりの効果が得られることでしょう。

次回は、多くの企業を悩ませているテレワークで仕事を管理・評価する方法について解説します。

著者プロフィール

比嘉邦彦(ひが くにひこ)

米国アリゾナ大学から1988年に経営情報システム専攻でPh.D.を修得。以来、ジョージア工科大学、香港科学技術大学助教授を経て1996年に東京工業大学助教授、2016年より現職。テレワーク・クラウドソーシングをメインテーマとした21世紀の情報システムのあり方、組織改革、地域活性化などについて研究。テレワーク関係省庁の各種委員会委員およびテレワーク学会会長などを歴任。日本テレワーク学会の特別顧問である。

東京工業大学教授・日本テレワーク学会特別顧問

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