テレワークで創る強い組織・第1回 経営目的達成の為の攻めのテレワーク/比嘉邦彦氏

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新型コロナウイルスの流行で、思いがけず加速することになったテレワークの導入。テレワークのメリットを多くの人が実感することとなり、「緊急事態宣言解除後もテレワークを続けたい」、「ウィズコロナ時代を見据え、テレワークを導入したい」と考えている方も多いでしょう。
テレワーク・クラウドソーシングをメインテーマに研究し、テレワーク関係省庁の各種委員会委員、テレワーク学会会長などを歴任してきた比嘉邦彦教授が「テレワークで創る強い組織」について連載します。
全3回を通じ、「テレワーク導入は目的ではなく、経営の目的を達成する為の手段である」とし、会社・管理職がやるべき事とやってはいけない事や、仕事の管理・評価方法について解説します。
第1回はテレワークの短期・中期・長期的メリットと、柔軟で競争力のある「強い組織」をつくるために必要な「攻めのテレワーク」について説明します。

「経営によし」のテレワーク

テレワークは、社会・経営・働き手の三者にとってメリットがある、いわゆる「三方よし」と言われていますが、中でも「経営によし」のテレワークには大規模で本格的に導入することが必要となります。そのようなテレワークで期待できるメリットは、短期的には大幅なコスト削減、中期的には内部人材の確保と有効活用および人手不足の解消、長期的には生産性とイノベーション力の向上などがあります。

強い組織を創るテレワーク

ここでは、コスト効率が良く、柔軟で競争力のある組織を「強い組織」と称することとします。既存の組織はテレワークの本格導入により短期的・中期的・長期的メリットを得ながら、強い組織へと変えていくことが可能です。

具体的には、短期的メリットとして大幅なコスト削減があります。
東京都心に50名規模のオフィスを賃借しているIT系サービス業のスタートアップ企業は、全員テレワークでオフィスを大幅削減しました。これにより年間5千万円以上のコストカットになるとのことです。

次に中期的メリットとしては、育児・介護理由による既存社員の離退職抑制と中途・新卒者の応募増加による人手不足解消があります。
長期休職中にテレワークを実施することで職場復帰がスムーズに行えたという多くの事例報告があります。また、介護理由でテレワークする社員に対しては、職場復帰しなくてもテレワークでキャリア構築や継続ができるような仕組みも考えるべきでしょう。
2つ目の中期的メリットとして中途・新卒者の応募者増加による有能な人材確保があります。特に中小企業に有効なようで、例えば、向洋電機土木株式会社や株式会社 WORK SMILE LABOではテレワークの本格導入後に、応募者数が50~100倍以上に急増したそうです。

最後に、長期的メリットとしては、生産性とイノベーション力の向上が期待できます。
まずホワイトカラーの生産性の定義と測定方法については、企業内で実行可能な単位から管理職者と部下で話し合って、最低限合意できるものから始めて行くべきでしょう。実際に生産性が向上したかどうかを確認するのは、本格導入して1~2年経って、上司・部下ともにテレワーク環境に慣れてから行うべきです。ちなみに、グーグル合同会社が4月最終週にテレワーク実施者を対象に行ったアンケート調査によると、早い時期からテレワークを開始した人達は生産性が上がったと回答する一方で、緊急事態宣言発出後にテレワークを開始した人達は生産性が下がったと回答する人達が多くなっています。このことからも、生産性を上げるためにはテレワークに慣れることがポイントとなることがわかります。
次に企業のイノベーション力の向上について、必要な要因として知られているものが、バックグラウンドの異なる多様な人材の交流です。テレワークを導入している企業では、サイバースペース上でスムーズに多様な人材が自由に交流できる場や仕組みを作ることができるでしょう。このように柔軟で競争力のある「強い組織」をつくるために、短期的・中期的・長期的に見てもテレワークは有効な手段だと言えます。

柔軟な組織

1990年代に欧米では市場変化に素早く対応できるように組織のフラット化に取り組んで来ました。また、2010年頃からは組織外の人材を含むリソースを活用するオープンイノベーションの活用も活発になっています。日本でもこれらの改革(組織のフラット化やオープンイノベーションの必要性)についての掛け声は聞かれたものの、ほとんどの組織で進んでいないのが実情と言えるでしょう。確かに、イノベーションは結果が出て初めて評価されるものであり、その過程だけでは「外れたことをしている」ようにしか見えないからです。
しかし、フラット化されていない組織、つまり階層型組織では前例主義になり易く、日本の企業でイノベーションが起き辛い大きな要因の1つであると思われます。
一方、テレワーク化が進み、適切な仕事の割り当て、仕事の管理・評価が共有できている組織では、遠方にいる人材に仕事をアサインすることも容易にできます。この様な組織では社内人材が物理的にどこに居ようと有効活用可能となるため柔軟性が高まり、前例主義からの脱却が進むでしょう。それだけでなく、管理職者・ワーカーともに意識改革が起きてプロ化が進むことも期待できるのです。

競争力のある組織

既存の社内人材で新たな分野に取り組むには量・質ともに足りないという経験を多くの企業がしているのではないでしょうか。既にAI、データサイエンス、ITの各分野での人材不足は深刻化しており、今後ますます人材獲得競争が激化すると予想されています。どの様な分野であれ、社内人材を教育して専門家に育てるのでは時間的に間に合わず、変化が激しい市場における競争から脱落してしまいかねません。海外の企業では社内で不足する人材を補うために外部人材を活用する方法がとられており、特にオープンイノベーションでは多様な外部の専門人材の活用が進んでいます。
オープンイノベーションとは、簡単に説明すると、社内資源だけに頼らず、外部人材や組織などが持つ技術・知識などを利用してイノベーションを起こすことを指します。

マサチューセッツ工科大学のトーマス・マローン教授らも、世界は超分業の時代に入っており、この流れは不可逆的なものであって、外部の専門家を有効活用できるかどうかが企業の存続に直接影響して来ると述べています。これを実証するようにオープンイノベーションで有名なInnoCentiveというサイトを世界中のトップ企業が活用し続けており、NASAやDARPAなど多くの米国連邦政府機関もユーザとして知られています。
また、データサイエンス関連の仕事に特化したKaggleというサイトも世界中の企業が問題解決に活用しています。
これらのサイトでは、世界中の専門家に仕事を依頼するだけでは無く、そこで実績を積んだ人材を専属契約や正規雇用する企業も増えて来ています。日本では株式会社ディー・エヌ・エーがデータサイエンティストの採用と採用後の育成にKaggleを活用していると公表していますが、それ以外の企業で目立った外部専門家サイトの活用事例は見当たらず、世界的潮流から取り残されつつあることが分かります。ただし、日本企業においてもテレワークが進み、組織が柔軟化した先にオープンイノベーションの活用も見据すえることで、世界的にも競争力のある組織をつくることが可能となるでしょう。

攻めのテレワーク

経営的メリットを得るためにはテレワーク実施の規模が重要となります。経営目的を達成するための大規模で改革を伴うような テレワークを「攻めのテレワーク」と称します。テレワーク導入企業の中で圧倒的に多いものが、対象社員が週に平均で1日か2日テレワークを実施すると言うものですが、その程度のテレワーク実施では生産性向上は望めず、オフィスコストに至っては、テレワークを支援するためのコストが新たに発生するため増加します。同業他社で攻めのテレワーク導入を実施する企業が出てきた場合、中長期的には、優秀な人材はその様な企業に流れて行くと想像されます。
最近実施された在宅勤務経験者を対象にしたアンケート調査では、少ないもので6割、多いものでは9割がアフターコロナにも在宅勤務を継続したいという結果になっています。また、あるアンケート調査では、2割がテレワークを導入している企業を働き先として選ぶと回答しています。少なくとも、テレワークを継続したいと希望しているワーカーが多くいて、就職先を選ぶ際の条件の1つになることは間違いないでしょう。このような状況でコロナ禍終息後に多くの企業が元の出勤形態に戻り、少数が大規模で本格的テレワークを継続したとすると、1~2年後には、攻めのテレワークを導入している企業は同業他社よりも新卒・中途採用ともに優秀な人材をひき付ける上で優位に立てることでしょう 。

次回は、テレワーク導入を成功に導くための「やるべきこと」と「やってはいけないこと」について解説します。

参考文献

■Thomas Malone, Robert Laubacher, and Tammy Johns, “超分業の時代 , ”Diamond Harvard Business Review,ダイヤモンド社, pp94-107, November,2011

著者プロフィール

比嘉邦彦(ひが くにひこ)

米国アリゾナ大学から1988年に経営情報システム専攻でPh.D.を修得。以来、ジョージア工科大学、香港科学技術大学助教授を経て1996年に東京工業大学助教授、2016年より現職。テレワーク・クラウドソーシングをメインテーマとした21世紀の情報システムのあり方、組織改革、地域活性化などについて研究。テレワーク関係省庁の各種委員会委員およびテレワーク学会会長などを歴任。日本テレワーク学会の特別顧問である。

東京工業大学教授・日本テレワーク学会特別顧問

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