デザイン経営とは?中小企業の価値を高める経営手法と具体策を解説

From: 働き方改革ラボ

2021年08月16日 07:00

この記事に書いてあること

海外の大手企業は、自社製品の魅力や技術をデザイン力で伝えることで成功を収めています。製品品質のレベルが世界的に向上している中、日本企業にとってもデザインの考え方を取り入れた経営による競争力獲得が課題です。

そんな状況を受けて、特許庁は中小企業に必要な「デザイン経営」推進プロジェクトを実施しています。

今回は、この言葉に馴染みがない方のために、デザイン経営とは何なのか、特許庁がまとめた報告書やハンドブックの内容をふまえて解説します。

また、働き方改革との関係や、デザイン経営の意義や具体的な取り組みについて、参考になる企業事例も交えてお伝えします。

「デザイン経営」とは?

デザイン経営という言葉は聞いたことがあっても、詳しくは知らないという人も多いのではないでしょうか。デザインを経営資源にするという説明を聞いても、具体的にどういう手法なのかピンと来ない方もいるかもしれません。そこでまずは「デザイン経営」という言葉について解説します。

「デザイン経営」の概要

「デザイン経営」とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法です。企業の経営においてデザイン的な思考を活用することで、デザイン力を高めていく取り組みを指します。

特許庁は、デザイン経営を検討している企業のために「デザインにぴんとこないビジネスパーソンのための“デザイン経営”ハンドブック」をまとめています。

この中で、デザイン経営について解説しているデザインコンサルティングファームのトム・ケリーは、デザインシンキング(デザイン思考)を、これまでデザイナーが仕事の中で培ってきた手法や考え方を、プロダクトデザインだけでなく企業がサービスやシステムを設計するために利用することだと、説明しています。

プロダクトやサービスの開発はこれまで、会社の技術やイデオロギーを起点としていることが多くありました。デザインシンキング(デザイン思考)は、こうしたプロダクトやサービスを供給する側の視点ではなく、受ける側の立場から出発して、新しい価値を作り出していこうとする考え方です。

そして企業のさまざまな課題に対して、人間中心の考え方を軸とするデザイナーの思考様式で経営に取り組むことが、デザイン経営です。デザイン力とは、製品をきれいに形作ることだけでなく、人間を起点にした考え方で市場ニーズを適切にとらえ、必要な製品・体験を考案する能力です。

デザイン経営のステップとしては、まずはデザイン部門の予算増加、デザイナーの育成プログラムの充実などデザインへの投資を実施することで、デザイン力を向上します。そしてこのデザイン力によって、自社の資産を活かしながら市場ニーズに合致した新商品やサービスを生み出し、企業の競争力を高めていきます。

グローバル競争力向上を目指す「デザイン経営」宣言

経済産業省と特許庁は、日本企業のデザイン力による競争力強化に向けた課題の整理と対策の検討を行うため、2017年7月に有識者を集めて「産業競争力とデザインを考える研究会」を発足。11回の議論を経て、日本のデザイン経営に対する意識を高める取り組みの出発点として、報告書である「デザイン経営」宣言を取りまとめました。

「デザイン経営」宣言は、デザイン経営の意義や、中小企業が、デザインを経営資源とするための具体的取り組みを示したものです。

この報告書では、デザインの定義を、企業が大切にしている価値や、それを表現しようとする意志を表現するための営みと説明し、デザイン経営が生み出すものは、「ブランド力の向上」と「イノベーション力の向上」の主なふたつと解説しています。その内容は次のとおりです。

デザイン経営が実現するブランド力の向上とは?

製品作りや、顧客へのメッセージ発信においてデザインを活用することで、企業のブランド力を向上できます。

企業が提供する製品の見た目を魅力的にして、顧客の印象を良くすることもデザインのひとつです。また、顧客が企業と接点を持つあらゆるシーンにおいて、企業が大切にしている価値や、それを表現しようとする意志を徹底させることも、デザインの役割です。

それらが一貫したメッセージとして顧客に伝わることで、ブランドの価値が生まれます。

デザインが実現する「イノベーション」とは

デザインは、企業のイノベーションを実現する力でもあります。

イノベーションとは、企業が開発した優れた技術を、ユーザー視点によって、社会で便利な価値ある商品として形にすることです。

『「デザイン経営」宣言』は、デザインやデザイナーには、供給側の都合や思い込みを排除して、人を純粋に観察して隠れたニーズを発掘し、企業の価値に照らし合わせて、事業を構想する力があるとしています。

デザインには、人間中心的視点から得た発想と企業の価値を結び付けて、世の中に役立つものを生む「イノベーション」の力があるのです。

たとえば『「デザイン経営」宣言』では、逆さに立てて置く自立型の歯磨き粉チューブの開発エピソードを紹介しています。

以前、歯磨き粉チューブは、細長いチューブの先についた小さな蓋から中身をしごき出すタイプでした。出すのに時間がかかり、最後までキレイに使いきれないこのチューブに代わるものとして、デザイナーが自立型チューブを開発。企業の技術と人間中心視点をうまく組み合わせて、使い勝手を改善するというイノベーションを起こしました。

「デザイン経営」の定義とは?

では、どんな企業がデザイン経営を行っていると定義できるのでしょうか。その条件は、次のとおりです。

経営陣にデザイン責任者がいること

ひとつめの条件は、経営陣にデザイン責任者がいることです。

デザイン責任者は、製品やサービス、事業が、ユーザー起点で考えられているかどうか、また、それがブランディングに役立っているかどうか判断します。その上で必要な業務プロセスの変更ステップを具体的に構築できるスキルが、デザイン責任者に求められます。

事業の戦略構築段階にデザインが関与する

事業戦略の構築段階から、デザイナーが計画に関与する必要があります。企業のビジネスの最上流からデザイン思考が取り入れられていることが、デザイン経営の条件です。

今、デザイン経営が必要な理由と背景

経済産業省や特許庁が主導して普及を推進しているデザイン経営。その背景にはどんな社会の変化があるのでしょうか。

日本は今、人口や労働力が減少局面にあり、国内の市場規模は限界を迎えています。また、さまざまな産業が次々に生まれる新技術の影響を受けるなど、社会は日々大きく変化をしています。

その変化には歴史ある企業やブランドでも苦境を強いられている現状があります。また、海外製品の品質が日本製品と同レベルにまで高まる中で、商品やサービスの質に加えて、顧客体験の質やブランドの価値が、ビジネスの成功に影響を与えています。

成功している欧米企業は、明確な企業理念に裏打ちされた自社の強みや技術力をデザイン力で表現することで、ブランド価値を高めています。アメリカのDesign Management Instituteの調査では、デザインに注力する会社は過去10年で2.1倍成長しているという報告があります。

デザインを重視する会社は、国際社会で高い競争力を持っていることが数字に表れています。

デザイン思考を取り入れたデザイン経営で競争力を高めるグローバル企業が増える中、日本でも経営陣にデザイナーを加えるなどの取り組みを進める大企業やスタートアップ企業も出始めています。

一方、日本の中小企業では、デザイン経営に対する認知や取り組みがまだ進んでいないのが現状です。そんな課題を受けて特許庁は、中小企業がデザイン経営を身近なものとしてとらえ、具体的な取り組みを進めるための「中小企業におけるデザイン経営ハンドブック」を公開しています。中小企業がデザイン経営を進められない原因をふまえて、中小企業が自社に合ったデザイン経営の第一歩を踏み出すための入り口としての取り組みを事例を交えて紹介しています。

デザイン経営の具体的取り組みとは?

では、デザイン経営を進めるためには、具体的にどんな取り組みを行えばよいのでしょうか。特許庁が『「デザイン経営」宣言』や「中小企業におけるデザイン経営ハンドブック」でも紹介している取り組みを中心に、中小企業が始めやすい施策を紹介します。

デザイン責任者の経営チームへの参画

デザイン経営の定義として解説したとおり、デザイン経営の実践の第一歩となるのが、経営チームにデザイン責任者が参画することです。経営メンバーは、デザイン責任者と共に企業戦略に関して密にコミュニケーションをとる必要があります。

製品・サービス開発のスタートからデザイナーが参加

デザイン経営の定義である事業戦略構築からデザイナーが参加するという条件に加えて、自社の製品やサービス開発のスタートからデザイナーが加わることも重要な取り組みです。計画の最上流からデザイン思考を持って、プロジェクトを進めることが大切です。

デザイン経営を推進する組織体制

デザインを重要視する風土を作るためにも、デザイン経営を推進する組織体制を整えることも重要です。会社の組織図の重要な位置にデザイン部門を位置づけ、社内のさまざまな部署とデザイン部門が横断的に関わる組織を作ることで、デザイン経営が推進できます。

デザイン人材採用の強化

経営視点を持ったデザイナーや、デザイン経営による競争力獲得を推進してきた人材の採用を強化します。また、一般社員やIT人材に対しても、デザインシンキングや、デザイン手法の教育を行うことで、デザイン経営を主導する人材を育成できます。

歴史や強みから自社のキャラクターを確立する

デザイン経営の軸となる自社のキャラクターを確立するところから、デザイン経営を始めることもできます。自社の歴史や強み、そして創業者の思いを再認識して、言語化します。社員たちが自社の存在意義に目を向けて実現するために行動することで、会社の文化やカラーが確立されていきます。

企業カルチャーの醸成

自社らしい意思決定をして人に寄り添った新サービスや事業を作り出すために、企業風土を醸成することも重要です。デザイナーと共に自社のビジョンを改めて組み立てたり、自社の魅力を物語として伝えるウェブサイトを整備したりと、会社のカルチャーを確立して社内外に浸透させる取り組みを進めましょう。

新しいサービス・商品を作ってみる

自社のキャラクターやカルチャーの確立が難しい場合は、まずは新サービスや新製品を作ってみることが、デザイン経営の入り口になります。自社製品を通じてユーザーとの接点を得ることで、その反応や動向から学び、デザイン経営で重視されている人間中心の発想を持つことができます。失敗と実験を繰り返すことで、ユーザー起点でビジネスを考えるデザイン力が身に付きます。

デザイン経営が推進する働き方改革

デザインの力でイノベーションを起こすデザイン経営は、企業の働き方にも影響を与えます。

会社の存在意義を捉えなおし、ユーザー目線で製品改良や新規事業を行うデザイン経営によって、資金力や規模が限られた中小企業も、自社ならではの価値に基づく競争力を獲得できます。

また、長時間労働や価格競争に陥ることなく、自社の行動指針に沿った無理のない働き方が可能になります。

デザイン経営の取り組みのひとつとして、自社の強みやビジョンの明確化と社内での共有があります。ユーザーに価値ある体験をもたらすために必要な強みや会社の魅力が社内で共有されることで、仕事に対するモチベーションや、会社へのエンゲージメントが向上すると考えられます。それだけで無くコミュニケーションの活性化や、仕事の効率化にもつながります。

魅力的な物語を発信することも、人材不足という働き方の問題への取り組みになります。社会への思いや物語を持っている企業であると社外に発信することで、優秀な人材が集まりやすくなります。

デザイン経営に取り組む中小企業の成功事例

次に、デザイン経営を自社に合ったスタイルで取り入れている中小企業の成功事例をご紹介します。

経営者がデザインを学び新ブランド開発

北海道の紙箱メーカーであるモリタ株式会社は、それまで包装するだけの脇役であったパッケージにデザイン性を取り入れることで販路を拡大しました。

就任した新社長は新ビジネスのため専門学校でデザインを学び、北海道内のデザイナーとネットワークを構築。自社の技術とデザインを組み合わせて生まれた「エゾマツクラフト」などのオリジナルブランドが、会社の事業の柱として成長しました。

ブルーボトルコーヒーなど国内外の企業から多くの指示を得るなど、デザイン経営導入後の新規顧客が現在の取引先の半数を占めるほど、事業を広げました。

ロゴや企業理念をデザイン思考から刷新

大阪で測量機器レンタル業を営む株式会社ソーキは、社会の変化に対応するため、自社の強みを社員が自ら提案できる社内風土を作る目的で、デザイン経営を導入しました。

全社を挙げてデザイン思考を用いた改革を進めました。ロゴのデザインを一新し、社員の声を反映して「『はかる』の未来を創起する」という新たなタグライン(企業理念)を作成。デザイン思考を通じて自社の強みの再定義を行ったことで、自信を持って顧客対応ができるという社員の声が上がるなどの効果が出ています。社内外に企業価値を浸透させる取り組みは、今後も続けられる見込みです。

伝統に価値を見出しブランド再構築

秋田県で150年以上続くヤマモ味噌醤油醸造元は、自社の歴史をベースとしたブランディングに成功しました。7代目の高橋泰氏は自社の伝統に着目し、自らウェブサイトやパッケージデザインを担当し2013年にはグッドデザイン賞を受賞しました。

現在は、ギャラリーを併設したカフェを拠点に、アーティストや建築家、シェフなどとコラボレーションを実施。ウェブサイトでは、日本語に加えて英語でも自社の歴史やビジョンを発信するなどして、世界に目を受けたビジネスを展開しています。

中小企業こそ取り入れやすいデザイン経営

ユーザーを起点に、デザインの力で企業のブランド強化やイノベーションを実現していくデザイン経営。デザイン経営の導入も、デザイン思考を活かした新事業のスタートも、フットワークが軽くカルチャーの浸透がしやすい中小企業にはより向いています。

まずはデザイナーや専門家を交えて、自社の課題を整理するところからデザイン経営を取り入れてみてはいかがでしょうか?

「働き方改革ラボ」は、働き方改革に役立つ情報を、業界を横断して幅広く発信しています。まずは自社に必要な取り組みは何か、診断チャートで確認してみませんか?まずは資料の無料ダウンロードをお試しください。

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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