建設業事例から見るシニア人材活躍のポイントとは

From: 働き方改革ラボ

2021年05月25日 07:00

この記事に書いてあること

少子高齢化が進む中、人手不足が大きな問題となっています。特に建設業は55歳以上が就業者の約1/3を占めるほど高齢化が進んでおり、次世代への技術継承も大きな課題。その一方で、高年齢者雇用制度の整備や年金制度への先行き不安から働き続けたいと考えるシニア層は増えています。折しも2021年4月から改正高年齢者雇用安定法が施行され、企業側に「70歳までの就業確保」が努力義務として追加されることになりました。

シニアでも働きやすくやりがいを感じる職場にできれば、人手不足に悩んできた建設業界にとっては、人材確保のチャンス到来かもしれません。今回は、建設業をシニア人材活躍の場にするためのポイントを考えてみます。

シニア層が仕事に見いだす「目的」

内閣府の調査(令和2年版高齢社会白書)によれば、現在働いている60歳以上の人に仕事をしている理由を聞くと、男女とも年齢が高くなるに従って、「収入がほしいから」を選ぶ人の割合が減少し、「働くのは体によいから、老化を防ぐから」や「仕事そのものが面白いから、自分の知識・能力を生かせるから」を選ぶ人の割合が高まります。シニア層は年齢とともに、おカネより健康や生きがいのために働く傾向が強まるといえます。

また定年前後で仕事に求める対象が変わるのも興味深い点です。日本政策金融公庫総合研究所のアンケート調査?によれば、中小企業に勤務する65~70歳の男性の場合、定年前は会社の業績向上や自分の昇給・昇進に働きがいを感じたのに対し、定年後は自分の能力の活用、顧客の喜び、同僚・部下からの信頼などにより多く働きがいを感じることがわかります(図表1)。

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図表1
出所:「働くシニア世代、支える中小企業」(日本政策金融公庫 総合研究所 2017年3月)

つまり定年後は給料や会社内での地位より、自分の仕事が他者から評価されることにうれしさを感じるようになるということです。「自分の能力を活かしたい。納得の行く仕事をしたい。」こうした仕事観は建設業に長年携わってきたシニア層にも当てはまるでしょう。

建設業の経営課題

建設業界は、特に技能労働者の人手不足や高年齢層の退職、長時間労働のイメージで新規採用市場での不人気などの問題点が指摘される一方で、災害からの復興・復旧や社会インフラの維持・整備、また地域経済における雇用の担い手として、今後の社会になくてはならない業界でもあります。

加えて総合評価入札方式の導入により、公共工事では価格だけでなく技術力も重視されるため、技能と経験をもつ人材の採用、育成、定着を図り、コロナ後に向けて受注力を強化していくことが大きな経営課題です。

多様な働き方に対する労働環境や人事制度の整備を行い、シニア人材を戦力化する重要性がますます高まっているのではないでしょうか。

建設業でシニア人材を活躍するためのポイント

建設現場の業務では、安全対策としてシニア人材が就労しやすい環境整備が必要です。しかし体力面で工事現場での作業には一定の制約があるものの、シニア人材の高い技術・技能や経験を活かして受注活動、技術指導・後進教育等、力を発揮できる場は十分にあるはずです。

ここからは雇用管理の制度や仕組み、シニア人材の役割、コミュニケーションの場、健康・安全への配慮の4つの観点で、それぞれの取組みを行っている建設会社の事例を紹介しながら、ポイントをご説明します。

1.制度や仕組みづくり

シニア人材の戦力化を図るためには、意欲をもって働いてもらえる制度づくりがまず求められるでしょう。シニアが活躍している建設会社に共通しているのは以下の点です。

  • 定年や継続雇用上限の年齢延長
  • 短時間や時差出勤など、シニア社員の体力や生活リズムに合わせた柔軟な勤務形態
  • 働きぶりや貢献を評価し、契約や給与に反映

松川電氣株式会社(電気設備工事:静岡県浜松市)は定年制を廃止し、65歳を区切りに社員と会社が話し合い、それまでの役職も継続できるようにしています。賃金の昇給は65歳まで続き、それ以降も目標達成度に応じた人事評価次第で、現役時並みの賃金水準を得ることが可能。

また会社との相談の上で、シニア社員の役職、勤務日数、勤務時間が柔軟に決められる制度になっています。例えば弱視のため日没前に終業時間を設定する代わり、短縮分を土曜日の勤務でカバーする社員もいます。

2.活躍の場や役割の提供

シニア社員を一括りにして画一的に扱うのではなく、年齢を問わず各人の技能や適性にふさわしい仕事や役割を提供し、その後も見直すという形で個別管理することが、シニア人材のやる気を高めると考えられます。能力開発や自己啓発への支援も有効です。

株式会社ラックランド(商業施設設備工事:東京都新宿区)では、継続雇用の上限年齢を85歳まで引き上げ、シニア社員を若手・中堅社員の現場OJTへ起用しています。また現場作業に対して、Webカメラで遠隔指示できるようにしたり、若者との接し方・教え方の研修を行ったりなど、シニア社員への配慮をしています。

七欧通信興業株式会社(通信工事業:東京都荒川区)では、シニア社員を「技術指導員」という形で育成担当に任命し、任命された社員はプライドを持って取り組んでいるとのこと。また「私のメモ提案」と題した職場改善提案制度もあり、78歳のシニア社員から通信ケーブル工事の改善提案が出て採用された実績もあります。

3.コミュニケーションの場づくり

3点目は、シニア社員と若手・中堅社員が一体感を持って職場で協業し、技術・技能継承が円滑に行われるような組織風土づくりです。経営幹部が積極的に間を取り持ち、双方が自然に参加できるイベントや対話会など、コミュニケーションの場を作ることが効果的です。

株式会社テクノスチールダイシン(建築鉄骨工事 栃木県宇都宮市)では、シニア社員に対して毎年個人面談を行い、担当業務や体調など幅広い話題で意思疎通を図っています。そして職場環境改善のために社内に設置した安全衛生委員会に、シニア社員もメンバーに加え意見を述べてもらったり、若手とシニア、外国人研修生がそろって参加するスポーツ大会やさまざまな懇親イベントを開催したりしています。

4.健康・安全への配慮

そして最後に、シニア社員の加齢による身体能力の低下や、業務への慣れからくる注意力低下などに配慮した、健康管理や安全対策が欠かせません

株式会社忠武建基(とび・土木工事:東京都杉並区)では、危険度の高い現場業務以外の、工事用資材・機材リース業務を専門に行う別会社を設立し、シニア社員の受け皿として活用、安心して働ける環境を提供しています。また社員向けに夏と冬に定期健康診断を年2回実施しており、シニア層の安心感につながっています。

まとめ

建設業界は高年齢層の働く割合が高いので、もともとシニア人材活躍の素地はあると言えるでしょう。今回ご紹介したポイントと、事例企業の取組みを参考にしていただければ幸いです。

また、65歳以上への定年の引き上げや高年齢者の雇用管理制度の整備、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換等を行う事業者を対象に助成を行う、「65歳超雇用推進助成金」の制度もありますので、導入に合わせて利用を検討してはいかがでしょうか。

記事執筆

大橋 功(おおはしいさお)

中小企業診断士(2013年登録)。1960年生まれ。金融機関を経て通信業界の会社に勤務。
米国、欧州を中心に海外勤務を通算12年経験、国内外の法人向け融資、海外事業者との提携折衝、事業戦略・計画策定等に幅広く従事。診断士としては新規事業、販路開拓、ビジネスモデル、SDGs等の分野を中心に経営診断や執筆活動を行っている。
東京都中小企業診断士協会(城南支部)所属。

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