建設業の電子契約が可能に!電子契約に必要な3つの条件や導入のポイントを解説

From: 働き方改革ラボ

2022年08月23日 07:00

この記事に書いてあること

ここ数年、さまざまな分野で電子化の流れが起こっています。従来は、請負工事の契約は書面が一般的でしたが、法規制によって導入が遅れていた建設業でも、請負契約や売買契約において電子契約を結べるようになりました。今回の記事では、建設業における電子契約の概要や、導入時に必要なもの、導入事例などを解説していきます。

※2021年11月に公開した記事を更新しました

電子契約とは

書面での契約を電子化したものを「電子契約」といいます。

書面契約は、契約書の作成、印刷、製本、郵送、返送、保管(ファイリング)の順に実施されるケースが一般的でした。しかし、電子契約ならデータをインターネット上で作成・共有できるため、それらのフローを簡略化できます。

新型コロナウィルス感染対策によるテレワークの増加により、電子契約を導入する流れは加速しました。非対面で契約締結まで進められることに加え、コストや作業工数の削減などさまざまなメリットから、今後も多くの企業が電子契約を導入すると考えられます。

建設業でも電子契約が可能に

建設業では、法規制の影響から電子契約の導入が遅れていました。しかし、法改正の結果、建設業の一部の契約において電子契約は可能となりました。

建設業で電子契約が導入されるようになった経緯

従来、建設業で契約を締結する場合には、請負業者、発注者、下請け業者を含む当事者同士による書面契約が義務づけられていました。しかし、後述するように、IT革命などのきっかけから国内での議論が深まり、電子契約の流れが加速しました。

建設業において電子契約が導入されるまでどのような経緯があったのか、振り返ります。

2001年、建設業における電子契約が可能に

IT革命並びに、国内経済の発展を阻害する要因になると懸念する声が挙がったこともあり、2001年4月に建設業法が改正されました。これにより、建設業務の請負契約を電子書面で交わせるようになりました。

2020年、グレーゾーン解消制度によって改正し、わかりやすく

法律上では電子契約が可能になったとはいえ、当時は書面契約が原則であることに変わりなく、「どこまで電子化が可能なのか」という議論が起こりました。その問題を解決したのが、グレーゾーン解消制度です。

グレーゾーン解消制度とは、経済産業省の主導のもとに行われている新規事業創出の一端を担っているものです。これまで市場に出ていない新サービスなどを提供する企業が、法律や規制に則ったサービスであるのか、いわゆるグレーゾーンを所轄の省庁に照会するために利用されています。

グレーゾーンの照会によって法の解釈が明確となり、2020年の建設業法施行の改正に明記されることとなりました。同年10月には建設業法施行規則が改正され、請負契約、発注書、売買契約、賃貸借契約、保証契約において電子契約を締結できるようになりました。

2022年現在、一部の契約では注意も必要

このように、さまざまな議論を重ねて建設業における電子契約は導入されました。

しかし現在においても、口頭での説明と書面での契約が義務付けられている定期借地契約や宅建業者の媒介契約書などは電子契約を結ぶことはできません。また、建設業法の必要な要件を満たさなければ、電子契約の締結ができない点も注意が必要です。

建設業の電子契約化に必要な条件

電子契約を締結するには、建設業法にて定められた、電磁的措置の方法、種類・内容、これらに適合する技術的基準などを満たす必要があります。

電磁的措置とは、Webサイトや電子メールなどによって電子契約を行う方法を意味します。たとえば、建設工事の請負契約を締結する場合には、工事の内容や請負金額などの記載が求められます。

また、電子契約を交わすためには、事前に契約相手から承認を得なければなりません。

他にも、電子契約を締結するための条件として、電子契約書のデータの記録だけでなく、契約相手が出力によって書面を作成できること、契約書の改ざん対策が行われていることが挙げられています。

建設業において電子契約を導入するメリットとは

次に、建設業において電子契約を導入するメリットについて解説します。

契約業務の効率化

電子契約を導入することによって、書面契約での作業工数の一部を削減できます。電子契約なら、インターネット環境が整備されていれば時間や場所を選ばずに契約業務を円滑に進められるのです。

具体的には、作成した契約書を印刷し、収入印紙を添付してから契約相手に郵送するといった作業のほか、印刷用紙や収入印紙の用意、郵送準備、返送後のファイリングなどの負担を減らせます。

経費コストの削減

上述したとおり、電子契約の導入によって印刷や郵送などの契約業務を削減できます。

削減可能なものは、契約業務だけではありません。これらの業務に付随するコストの削減も期待できます。たとえば、印刷コスト、収入印紙代、郵送料、保管コスト、人件費などが挙げられます。

なかでも、建設業の契約では莫大な契約金額がかかることも多く、金額に応じた収入印紙税を納める必要があります。電子契約書は収入印紙を添付する必要がないため、契約コストの削減にも有効です。

収入印紙が不要とされる理由は、印紙税法における課税対象に該当しないためです。書面そのものを契約相手へ交付したかどうかが、印紙税法において課税対象になるかどうかの分かれ目といえます。

たとえば、電子契約書をプリントアウトしてから紙面に押印して交付すると、課税対象になるため、収入印紙による納税が必要になりますので注意が必要です。

コンプライアンスの強化

電子契約は、セキュリティ面においても効果を発揮します。そのため、情報セキュリティ管理におけるコンプライアンスの強化につながります。

電子契約書の内容は、アクセス権を持つ人しか閲覧できません。アクセスログの取得が可能なため電子契約書へのアクセス管理がしやすくなり、改ざんや不正といったトラブルを防止できます。

また、電子契約書では印鑑の代わりに高い信頼性が確保された電子署名とタイムスタンプをセットで用います。そのため、コンプライアンスをさらに強化できるのです。

建設業における電子契約に必要な3つの条件

建設業での契約に必要な条件は、「見読性」「原本性」「本人性」の3つです。いずれか1つでも不足すると、作成した電子契約書が法制度や規制などに抵触する可能性が高まるため、注意しましょう。

見読性

「見読性」とは、契約を締結する相手方がデータを出力することで書面での作成が可能となることを指します。クラウド上にデータを保管するだけではなく、相手方が出力し、ディスプレイや書面などにわかりやすく表示できなければなりません。

また、契約に関わる人たちが同時にアクセスするため、アクセス管理はもちろんのこと、読み出し不能や破壊などのトラブルを防ぐためのシステムが必要です。

原本性

「原本性」は、電子契約書が改ざんされていないかどうかを確認できることを意味します。

改ざんされていないことの証明は、公開鍵暗号方式によって作成した電子署名を用いて行ないます。

公開鍵暗号方式による電子署名とは

公開鍵暗号方式とは、電子契約書の改ざんを防ぐうえで有効とされる暗号技術です。

電子契約書のデータを暗号化するためには「公開鍵」を使い、暗号化された電子契約書を閲覧する際は「秘密鍵」と呼ばれるものでデータの復号化を行います。秘密鍵・公開鍵ともに外部に流出しないようにしっかり管理しなければいけません。

本人性

「本人性」とは、電子署名した人の本人確認がなされていることを表します。

電子データには、公開鍵が当事者のものであることが確認できる電子証明書の添付が必要です。相手方のメールアドレスに送ったリンクをクリックしてもらうことで本人性を確認することもありますが、重要な契約では第三者機関が発行する電子証明書を添付します。

建設業における電子契約導入のポイント

建設業で電子契約を導入する際は、以下の3つのポイントに留意して進めましょう。

原本性・見読性・本人性の3点を確認する

電子契約を締結するにあたって電子契約サービスを導入する際は、上述した原本性・見読性・本人性の3つの要素を満たしているサービスかどうかの確認が大切です。

原本性・見読性・本人性の見極め方

見読性が確保されたものかどうかを見極めるためには、パソコン画面や書面のどちらも契約内容が明瞭に表示されるものであるかを確認しましょう。

また、原本性に関しては、公開鍵暗号方式の電子署名であること、信頼性が高い第三者機関による電子証明書があること、改ざん対策がなされているシステムであることの確認が求められます。

最後に、本人性については、電子署名が契約者本人であると確認できるかどうかが重要です。電子署名の種類は、認証局による本人確認がある「当事者型」と、クラウド上で署名できる「立会人型」があるので自社に合うものを検討してみましょう。

電子契約を導入する際の3つのステップとは

電子契約を導入するにあたって必要なステップをご紹介します。

現状把握と電子契約導入範囲の決定

まずは、現在の社内の契約書管理体制を確認し、どの契約書において電子契約を導入するかを決定します。

最初からすべての契約で導入せずに、請負契約や発注書といったものからはじめてみて、お客様に対する売買契約、賃貸借契約などは様子を見てから取り入れる、とステップを踏んでいくことが重要です。

電子契約・契約書管理サービスの選定

電子契約を導入する上で利用する電子契約サービスや、契約書管理サービスの選定を進めます。

電子契約を実際に運用する部署の担当者の意見もヒアリングした上で、契約書運用体制の現状を照らし合わせて、自社に合ったサービスを選びましょう。

電子契約のルール整備と導入の周知

サービスを決めた後は、電子契約についての社内ルールを整えます。電子契約を行う契約書の種類、承認フロー、業務フローを明確に定めておくことがスムーズな導入には不可欠です。

ルールを周知するための社員への説明会の開催や、運用時の問い合わせ対応に備えたマニュアルの準備も進めましょう。導入前に、社内や社外の取引先に電子契約を導入する旨の連絡も必要です。

建設業における電子契約の導入事例

実際に、建設業で電子契約を導入した事例をひとつ紹介します。自社で導入する際の参考にしてみてください。

電子契約で収入印紙代をコストカットした事例

注文住宅と戸建分譲住宅の販売をしているタマホーム株式会社では、書面の契約書の作成にかかる収入印紙代のコストに関する課題がありました。電子契約を導入する前は、印紙代だけで毎年8000~9000万円かかっていたそうです。

工事請負契約や一部変更合意契約、追加変更工事請負契約における電子契約が可能になったことによってそれらのコストが削減できたほか、お客様にとってのメリットもあったと言います。

具体的には、お客様の収入印紙代の削減、署名の時間短縮などが挙げられます。契約書一枚一枚にサインしなければならなかったところ、一度の署名がすべての契約書類に反映されるようになったため、満足度も上がりました。

また、住宅に関わる契約書は必要に応じて取り出さなければなりません。インターネット上に保管されていることで、災害時やいざという時、直ぐに照会できるのもメリットだと言います。

ただし、銀行や信用金庫といった取引先のなかには電子契約書をプリントアウトして提出しなければならないところもあれば、すべてインターネット上でできるところもあり、対応にばらつきがあるのも事実です。今後はさらに電子化対策を強めていきたいとのことです。

まとめ

法改正によって、建設業での電子契約化は加速しています。電子契約には、コスト削減やコンプライアンス強化などさまざまなメリットがあります。ご紹介したポイントに留意しながら活用してはいかがでしょうか。また、法制度は日々変わっていきます。最新の法制度に対応するためにも、最新情報を入手するように心がけましょう。

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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