クラウゼヴィッツのビジネス戦略

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戦略論において、東洋における『孫子』の兵法と並んで有名なクラウゼヴィッツの『戦争論』。ナポレオン戦争以降の近代戦争を初めて体系的に研究したものです。時代の変革期に執筆されたこの『戦争論』は、既存の競争秩序が大きく変わる現代日本のビジネス環境における、意思決定論としても参考になるといわれています。

今回はクラウゼヴィッツの『戦争論』から、ビジネスのヒントを学んでいきましょう。

クラウゼヴィッツと戦争論

カール・フォン・クラウゼヴィッツ(Carl v. Clausewitz)は、19世紀初頭にプロイセン王国(現在のドイツ)の軍人としてナポレオン戦争に参加し、その後陸軍大学校長などを務めながら『戦争論』を執筆しました。

『戦争論』は、それまで「どのように戦うか」を論じていた軍事学において、初めて「戦争とはなにか」という本質的な問いから軍事理論を組み立てた画期的な著作です。

戦争の本質に対する哲学的な考察に基づきながら、戦略において相互に影響し合う要素の分析や、思い通りには進まない戦場の困難さにどのように対応するかを描き出しており、現代でも古典的名著として世界中の士官学校で教科書とされたり、多くのビジネスマンに愛読されています。

現在のビジネス戦略との共通点

『戦争論』が執筆されたころのヨーロッパの状況と、現代のビジネス環境とは、「変革期」という点で共通しています。

この時代のヨーロッパは、ナポレオン戦争に前後して国民国家が成立しはじめ、戦争が領土の取り合いから国家同士の戦いに変革しつつある時代でした。封建的で安定した時代から新たな国民国家が立ち上がる混乱期において、戦争とはなにかという本質的な問に基づいて戦略論を組み上げたところに、クラウゼヴィッツの『戦争論』の価値があるとされます。

クラウゼヴィッツは著書の中で、以下のように戦争を定義しています。

戦争は政治的手段とは異なる手段をもって継続される政治にほかならない

しかし、目的が定まっていても実際の戦争は不確定であり、規模や状況が相互に影響してカメレオンのように変化しており、計画どおりには進まないもの、と喝破しています。

このような状況は現代のビジネスにも共通します。ビジネスでは経営目的を達成するために経営計画によって商品やサービスを市場に送り出します。しかし、市場には様々な障害や競合が相互に影響しあって急速に変化し続けており、経営計画どおりに進むことはほぼありません。

特に現代では、思わぬ競合が異業種や海外から加わったり、技術や規制によって市場が変化するなど、市場=戦場の変化が大規模かつ急速に起きています。

このようにビジネスを戦争となぞらえてみると、変化する状況において原理原則を定義し、変化の要因を分析して、どのように競争に向き合うかを体系的に理論立てた『戦争論』は、ビジネスに大きな示唆を与えてくれます。

 

戦略例「戦場の霧と摩擦」

ビジネスにも示唆がある例として、クラウゼヴィッツの代表的な戦略例「戦場の霧」と「戦場の摩擦」を見てみましょう。

『戦争論』では、事前に収集できなかった情報や天候、人的ミスなどのあらゆる不確定要素のことを「戦場の霧」、戦場の霧を含む計画や目標の達成の障害や脅威となることを「戦場の摩擦」と表現しています。

クラウゼヴィッツは、この「戦場の摩擦」を取り除く才能として、「状況を迅速・的確に把握する能力」と「決断する能力」を挙げており、これを獲得するには、そのジャンルでの長い修練と幅広い教養が必要になるとしています。

現代ビジネスでは、ITやテクノロジーの活用によって膨大な情報を収集分析し、かつてなく詳細に市場=戦場を把握できるようになりました。一見、不確定要素である「戦場の霧」は消えつつあるように思えます。

しかし判断する情報が膨大となり、要素ごとの相互作用の複雑さが明らかになることによって、市場を把握したり行動を判断することはより困難になりました。むしろ「戦場の霧」は深まっているのです。

このような状況で不確定要素を客観的な対象である「戦場の霧」として把握することは、市場に対して迅速な判断と実行を起こすために有用な方法となります。

同様に市場の把握が進むことにより、計画や目標の達成の障害となる「戦場の摩擦」も増えました。摩擦は、複雑に相互に影響し、全く競合と考えていなかった異業種やサービスから生じるため、的確に判断したり対応を決断することも困難になっています。

そんな「戦場の摩擦」への対応するためには、市場の経験による深い知見と幅広い教養が必要とした『戦争論』は、多くの示唆を与えてくれます。

 

戦争論から学ぶこともできるビジネスへのヒント

『戦争論』というと、今の時代やビジネスに関係なく思えますが、実はビジネスと共通している部分が多くあることがお分かりいただけたでしょうか。

現代におけるビジネスは、様々な参加者がこれまでにない不確実性や、膨大な選択肢に対峙しながら、経営目的を達成するための競争を繰り広げています。

古典や戦争論などに於ける、その普遍的な思想や考え方は、現代ビジネスにも大きなヒントを与えてくれるのです。

 

参考図書:岩波文庫「戦争論」<上><中><下>(岩波文庫)文中の引用はすべて同書による

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