福祉・介護職の企業と政府の取り組みとは?福祉・介護業界特有の施策もご紹介

From: 働き方改革ラボ

2022年02月25日 07:00

この記事に書いてあること

低賃金や過酷な労働環境、そして介護を必要とする高齢者の増加などの理由から人手不足が深刻化する福祉・介護業界。今後さらに高齢化が進む中で、福祉・介護業界の働き方改革や人材の確保は急務と言えます。今回は、福祉・介護業界の働き方の実態と、問題解決のために企業や政府が進める取り組を紹介します。

福祉・介護業界では深刻な人手不足の状態

厚生労働省が発表した「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」によると、2025年時点で約37.7万人もの介護職人材が不足する予測が報告されました。この介護職人材不足は増え続け、2040年には日本全国で69万人もの介護職員が不足するという試算を発表しました。

厚生労働省の試算に対して、実際の現場ではどの程度の人手不足が発生しているのでしょうか?介護の現場で働く方へのアンケート結果を元に実態を見ていくことにしましょう。

現役介護職の約97%が人手不足を感じると回答

株式会社ウェルクスが新型コロナウィルスが流行する前の2017年に実施した全国の現役介護従事者160名へのアンケート調査によると、「あなたの職場では、人材不足を感じますか?」の質問に対して、97.5%の方が「人材不足を感じる」と回答しました。

あなたの職場では人材不足を感じますか?という問いに97.5%が「人材不足を感じる」と回答

このデータが示すことは、ほぼ全事業所で人手不足に陥っていることがわかります。地域や事業所によっては、厚生労働省が発表した数値よりも深刻な人手不足が発生している可能性があります。

現役介護職の60%以上が「1人あたりの業務量が多い」と回答

同じく株式会社ウェルクスが実施したアンケートによると、「どんなときに人材不足を感じるか」という質問に対して、過半数を超える60%以上の方が「1人あたりの業務量が多い」、「休みがとりにくい」と回答しました。

人材不足をどんな時に感じますか?という問いに「一人当たりの業務量が多い」という回答が一番多く63.2%、続いて61.8%が「休みがとりにくい」と回答

このアンケート結果からわかることは、福祉・介護の現場では、働き手の不足によって代わりのスタッフを確保できないために、少ないスタッフで膨大な業務をこなす必要性が生じ、なかなか自由に休みを取れない状況が常態化している、ということです。

福祉・介護という仕事柄、業務プロセスを分散させるなどの改善がしにくく、さらに人材確保ができない状況が続くことで、ハードで切れ間のない勤務状況になっているのが現状でしょう。

少子高齢化によって、さらに深刻な人手不足に陥る可能性が高い

2020年に公益財団法人介護労働安定センターが発表した「介護労働実態調査」結果によると、全国67.2%の介護事業所で人材不足であると回答しました。コロナ渦を背景に未経験者の介護業界への転職者が増えたことにより、前述のウェルクス社が実施したアンケートよりは一時的に人手不足と答える事業所数は減少したものの、依然として需要に対して70%近くの事業所で供給が足りていないことがわかります。

人材が不足している理由として、90%の事業所が「採用が困難である」と回答しました。福祉・介護業界の採用状況の確認のために、厚生労働省が発表している職業別の有効求人倍率を見ていきましょう。

2021年3月時点での介護職の有効求人倍率は「3.70倍」となっています。これは1人の求職者に対して、3~4社の求人があることになります。日本の全事業の有効求人倍率が「1.09倍」であることを考えると、介護職は他の職業よりも3.4倍ほど需要に対して供給が間に合っていない業種であるといえます。

全職種平均と介護関連職種の有効求人倍率比較 多職種と比較して、約3.4倍の人手が不足している

なぜ人手不足が深刻化?福祉・介護業界で人手不足が起こる理由とは?

福祉・介護業界において、人材不足感を感じる事業所の割合は増え続けています。なぜ福祉・介護業界における人材不足がこれほどまでに深刻化しているのでしょうか。その理由を見ていきましょう。

主な原因は低賃金による成り手の少なさ

介護職に人材が集まらない理由としてまず考えられるのが賃金の低さです。公益財団法人介護労働安定センターの調査によると、2020年の介護職に従事する正規雇用者の所定内平均賃金は23万4,439円であると発表しました。2014年の平均賃金が21万7,894円だったことを考えると6年間で約1万6,000円程度の平均賃金の底上げがされたことになります。

しかし厚生労働省が発表した「令和2年賃金構造基本統計調査」によると、日本の全産業の平均賃金が約307,000円であると報告しています。介護職の平均賃金は全産業の平均賃金よりも、月間約7万円ほど賃金が低いことがわかります。

介護職の平均賃金は年々上昇傾向ではあるものの、全産業平均にはまだ届かないのが現状です。福祉・介護職の収入の低さが、成り手が少なくなる主な原因と言えるでしょう。

低賃金でも労働環境はハード

さらに介護職への人手が集まらない要因として、職種自体の厳しい労働環境もあげられます。介護職は多くのお年寄りの身の回りの世話をするため、夜勤などを含めた変則的な勤務や、足腰が不自由なお年寄りの移動を手伝う移乗介助など体力が必要な業務も多く、肉体的にも精神的にもハードです。

多くの介護事業所では業務プロセス改善に乗り出そうとしてはいるものの、人と人が関わりあう職種のため、抜本的解決には至らないケースが多いのです。このように介護職は24時間毎日休みなく稼働する必要があり、なかなか働き手が集まりにくい状況になっているのです。

成り手の少なさは社会的評価の低さも大きい

賃金の低さとハードな労働環境の他に、日本社会の介護職に対する社会的評価の低さもあります。

かつての日本では、夫側の両親と長男夫婦が同居するケースが多く、要介護となった親の世話は長男の配偶者が行うのが一般的でした。

しかし日本社会全体の核家族化や平均寿命の伸長による介護期間の長期化などの時代の変化と共に、身内への介護が負担となるケースが急増しました。そのため高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして介護保険が創設され、現在の介護事業へと繋がります。

日本社会の歴史背景を見ると、どうしても「介護職=家族の代理」というイメージが根強く残ります。そのため2000年の介護保険制度の実施から20年以上が経過した現在においても、介護職がプロフェッショナルとしての地位を確立できていないのが現状です。

人手不足に対する企業の取り組みは?現場で起こるリアルな実態と課題

日本全体の介護事業所で人手不足が問題視されていますが、実際の現場ではどのような取り組みをしているのでしょうか?

福祉・介護の現場では人手不足の対策が打てていないのが現状

株式会社ウェルクスが介護従事者160名に実施したアンケートによると、「自らの職場で人材不足解消のために実施している取り組みは何か?」という質問に対して、40.9%の方が「特になにもしていない」と回答しました。

「実際に職場で実施されている取り組み」という問いに対し、一番多い回答は「特にしていない」が40.9%

全国の事業所では人手不足による労働環境がハードになっている状況を知りつつも、事業所レベルでの抜本的な解決となる取り組みに注力ができておらず、慢性的な人手不足は解消されない状況が続いています。

現場で課題解決へ乗り出せない理由

実際の介護現場で人手不足改善に向けた取り組みに注力できない理由はなんなのでしょうか。介護制度と事業所運営の観点で見ていきましょう。

介護報酬に上限がある

現場で人手不足解消に向けた具体的な取り組みに注力できない理由としてあげられるのが、「介護保険の介護報酬」の上限です。

介護報酬とは、事業者が各種介護サービスを提供した場合に、その対価として事業者に支払われる報酬のことです。原則として、介護報酬の7割?9割程度が介護保険から支払われるため、介護サービスの利用者の自己負担は1割?3割程度となる仕組みです。

この介護報酬はサービスごとに厚生労働大臣が定める基準によって算定され、事業所のサービス提供体制や利用者の状況に応じて、介護報酬の加算・減算が決定します。

介護事業所の多くは、介護事業収入の6割?7割を人件費が占めており、介護報酬のほぼ全額が人件費に充当されているのが現状です。特に2018年から高齢者の増加による介護保険の財源不足によって介護報酬割合が引き下げられ、介護サービス利用者の負担が大きくなりはじめています。このような状況では事業者としても料金の引き上げができずに、結果として介護従事者の収入上昇が見込めない状況に陥っています。

介護保険制度による人員配置の規定がある

介護報酬と並んで介護現場の労働環境への取り組みに注力できない要因のひとつが「介護保険制度による人員配置の規定」です。

介護保険制度による人員配置の規定とは、一般的に「3:1」と呼ばれるもので、介護ホームの入居者3人に対して1人の介護職員、または看護職員を配置しなければならない義務制度です。この必要配置数は介護保険法によって定められており、万が一配置人数が下回った場合には、事業者の介護報酬が減額されることになります。

しかし前述の通り、介護職は業界全体で人手不足のため、1人の求職者に対して3社が獲得しあう状況。事業所によって規定人数ギリギリで運営しているところも少なくないため、介護の現場では人手不足が解消されずに、結果として従業員1人に対する業務量が多くなり、ハードな労働環境になっているのです。

多くの介護事業所が赤字の状態

介護の現場の労働環境改善には、介護事業所の利益を高め、業務効率化への施策や施設の修繕、消耗品の購入など積極的に取り組むべき課題が多くあります。

しかし福祉医療機構が発表したデータによると、全国の介護事業所のうち2020年度の赤字収支の事業所は前年比6.0ポイント増加の42.5%にのぼることがわかりました。赤字事業所の増加の要因は、新型コロナウィルスの流行による介護施設の利用減少が響いています。しかしコロナ渦がない2020年以前でも全体の35%以上の介護事業所が赤字運営の状況を考えると、決して介護事業所が楽な運営ではないことがわかります。

事業所自体が赤字運営であれば、介護の現場での業務改善や人手不足解消に向けた取り組みに注力できなくなり、現場の労働環境が悪化。事業所自体の収益も改善されないため、介護職員の給料アップも見込めない負のスパイラルに陥ってしまうのです。

福祉・介護業界における政府の取り組み

高齢者の増加によってサービスを必要とする人口が増える一方で、給料の低さと労働環境のハードさにより、介護職員の人材不足は今後も続くことが予想されます。

では、政府や自治体はどのような取り組みをしているのでしょうか?日本政府が取り組む働き方改革全般への取り組みと、福祉・介護業界特有の取り組みの2つにわけてご紹介します。

働き方改革関連法の施行

政府の取り組みの一環としてまずあげられるのが、2019年に試行された働き方改革関連法です。ここでは福祉・介護業界に関連する主要3点の改定内容を見ていきましょう。

年次有給休暇の確実な取得

働き方改革関連法でまず注目すべき規定は、年次有給休暇取得に関する規定です。年次有給休暇の取得は、2019年4月1日の施行後、全事業主が守るルールとして定められています。

内容は、全ての企業において年間10日以上の年次有給休暇が付与されている労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち、年間5日の取得を義務とするというものです。

福祉・介護業界では365日動いている現場が多く、配置人数もギリギリで運営している事業所も少なくないため、従業員がスムーズに有給休暇取れる仕組みつくりが必要になります。

時間外労働の上限規制の導入

次に「時間外労働の上限規制」の導入です。

時間外労働とは労働基準法で定められている1日8時間、週40時間を超えた労働時間のことを指します。働き方改革関連法によって時間外労働の上限規制が導入されたため、

・原則:月45時間、年間360時間
・臨時的な特別な事情がある場合:月100時間未満(休日労働含む)、年間720時間、複数月平均80時間(休日労働含む)

上記2点を限度にそれ以上の時間外労働を禁止する規制を導入しました。

働き方改革関連法施行以前はあくまで公示として定められたものでしたが、今回の規制によって罰則付きの上限が法律に規定され、臨時的な特別な事情がある場合にも上回ることができない上限として設けられました。

また労働安全衛生法の改正によって、管理監督者や、みなし労働時間制が適用されている労働者にも、労働時間の状況について把握しなければならない規定が定められました。

管理職であっても、労働安全衛生法の改正によって労働時間の管理が必要になり、事業所全体でタイムカードやPCなどを使用した労働記録の客観的な現認が必要になりました。

同一労働同一賃金

働き方改革関連法で改正されたものは労働時間に関する項目だけではありません。大企業では2020年4月より正社員と非正規社員(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)の間で、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに不合理な待遇差が禁止されました。これが「同一労働同一賃金」です。

「同一労働同一賃金」は給与だけでなく、福利厚生や教育訓練にも適用される項目です。もし非正規社員が正社員との間に待遇差が生じていると感じた場合、事業主に説明を求めることができます。

中小企業での施行は2021年4月からの導入となり、大企業への施行から1年間の猶予を持って実施されました。具体的にどのようなケースに対応が必要かなどは厚生労働省がガイドラインで示しているので、下記のページを参考にするとよいでしょう。

同地労働同一賃金特集ページ(厚生労働省)

福祉・介護職特有の取り組み

ここからは働き方改革関連法とは別に、福祉・介護業界特有の3つの取り組みについてご紹介します。

2022年2月から政府による賃上げ実施

閣議決定により2022年2月から介護職員の給与を3%程度(月額9,000円)引き上げる措置を決定しました。合わせて継続的な賃上げ促進を目的にさらに介護職員の収入を3%程度(9,000円)を2022年2月?9月にかけて実施することが決定しました。

これによって一時的にではあるものの、介護職員の給与が月間ベースで1万8,000円ほど上昇します。政府は今後も継続的なベースアップを視野に、2022年10月以降の賃上げを検討しています。

AIやICTによる業務効率化を促進

厚生労働省は2018年10月「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」を設置しました。2040年に向けて、誰もが長く元気に活躍できる社会の実現のため、?多様な就労・社会参加の環境整備、?健康寿命の延伸、?医療・福祉サービスの改革による生産性の向上、?給付と負担の見直し等による社会保障の持続可能性の確保を行うとしています。

その中で、医療・福祉サービスに関する取り組みとして、ロボットやAIの活用や、介護助手としてシニア層を活用すること、またICTを使った業務効率化、組織マネジメント改革といったプランが発表されました。

介護施設の大規模化を推進

2040年を展望した社会保障・働き方改革本部は、同時に医療・福祉サービス改革のための医療法人や社会福祉法人の経営統合や、運営共同化を進めると発表しました。

大規模統合の際にはインセンティブを付与することで、赤字経営が続く事業所を吸収し、大規模経営によるノウハウの普及と運営体制の安定化による提供サービスの向上を目指します。

福祉・介護職の働き方改革のために必要な具体策とは?

働き方改革関連法の施行と政府を主体とする福祉・医療業界特有の取り組みによって、労働環境改善への動きが高まってきています。

では、具体的に労働環境を改善するために、どんな取り組みが行われているのでしょうか。企業で採用されている具体策を紹介します。

ITツールの導入

人材の不足を補い、働く人の労働環境を向上するための代表的な取り組みがITツールの導入です。介護記録を入居者のケアをしながらタブレットを使って入力し、データをケアプランと同期して作業を効率化する介護記録の自動化。また利用者の転落などのリスクを軽減しながらベッド上での動きを記録してレポートに活用するベッドセンサーなど、介護現場にもITソリューションが取り入れられています。

ユニットケア

ユニットケアとは、介護施設において入居者10人程度をひとつのユニットとして、固定の介護職員が共同生活をしながら入居者をサポートする介護方法です。顔なじみのスタッフが入居者の個性や生活リズムに応じた暮らしをサポートできるというメリットがある一方で、介護職員がユニットごとに権限を持ち固定のスタッフと働けるため、働く人の人間関係のストレスや業務負担の軽減にもつながります。人間関係の改善による、介護職員の定着率の向上が期待できます。

女性が働きやすい環境の整備

介護業界では女性の比率が高いため、女性のライフステージの変化に対応できる制度を整えることも重要です。重労働で人材不足が常態化する介護業界では、私生活を理由にした休暇取得や時短勤務が困難なため、出産を機に退職する女性が多いのが現状です。女性の産前産後休暇や育児休暇、また時短勤務制度だけでなく、妊娠中の体調不良や子どもの病気などの理由で休暇を取得できる制度や、取得しやすい職場環境作りを進めることが、女性を活用するための急務です。

外国人材の活用

人材不足への対策として、外国人材の活用も有効な手段です。これまで介護業界では、在留資格「介護」、EPA(経済連携協定)、技能実習生という3つの制度によって外国人を活用してきました。新型コロナウィルスの流行後は、各自治体が主体になり、感染症対策に協力しながら外国人材を受け入れる事業所に補助金の支給を行っています。

待遇改善と業務効率化が福祉・介護職の未来を支える

福祉・介護業界の働き方改革は、人材の確保と、労働環境改善というふたつの方向からアプローチして進めていく必要があります。特に、働く人の過重労働を防ぎストレスを軽減させるためには、ITツールを含む業務効率化対策が有効です。これまでの業務の在り方にとらわれない大胆なソリューションの導入を進め、働き方改革を実現させましょう。

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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