製造業のBCP対策とは?中小企業と大企業の対応の違いや課題、事例も解説

From: 働き方改革ラボ

2022年09月06日 07:00

この記事に書いてあること

震災や豪雨などの自然災害や、感染症拡大などのリスクへの対策が、どの企業にも求められています。なかでも緊急事態に企業が復旧や事業継続を行うためのBCP(Business Continuity Plan)の策定は、大手企業だけでなく、中小企業にも必要なものです。

今回は、中小製造業に必要なBCP対策について、大手企業との違いや、確認すべきポイント、中小企業のBCP成功事例を紹介します。

※2021年6月に公開した記事を更新しました

製造業に必要なBCP対策とは

BCPとは、事業継続計画(Business Continuity Plan)を略した用語です。

企業が、自然災害や感染症などの危機に遭遇した場合に、損害を最小限にとどめながら事業を復旧または継続していくため、平時の活動や非常時にとるべき対策などをまとめた文書を指します。

製造業においてBCP対策が必要な理由とは

日本は、震災や豪雨などの自然災害が多く発生します。そのため、どの組織においてもBCP対策が求められています。

なかでも製造業は、大手企業と中小企業が一体化したような構造で成り立っています。大手企業が販売する商品の一部の製造を中小企業に発注する形で分業化が図られているため、災害発生時に事業を守らなければ業界全体に影響が出てしまいます。

そのため、大手企業だけでなく、中小企業もBCPを策定する必要があるのです。

新型コロナウイルス対策も求められている

近年では、毎年のように地震や豪雨などの自然災害が発生しているほか、2020年からは、新型コロナウイルス感染症の影響も企業の間で広がっています。

製造業にとっては、事務所だけでなく工場が災害や感染症によって操業停止を余儀なくされるケースもあり、損害につながっています。

中小企業と大手企業 製造業のBCP対策の違いとは

大手企業に比べて拠点の数や規模が限られる中小企業には、とくに操業停止が経営に大きなインパクトを与えます。さまざまな危機が起こりうる今こそ、中小企業にも幅広いリスクを想定したBCP対策が求められています。

中小企業ならではのBCP対策のポイントを確認する前に、大手企業と中小企業との違いを見ていきましょう。

大手製造業におけるBCP対策

大手製造業におけるBCP対策のひとつとして挙げられるのが、部品の調達先を分散することです。

ひとつのサプライヤーに部品を発注するほうがコストを抑えられますが、依存度が高くなるため、いざ災害やトラブルが起きた場合、商品の製造そのものを止めなければいけなくなります。

国内ではもちろん、世界中のサプライヤーに分散して発注することで、製造が止まるリスクが減ります。

中小企業の製造業におけるBCP対策

帝国データバンクの行なった「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2020 年)」によると、BCP策定率は大企業が30%の一方で、中小企業は13.6%とあまり進んでいるとは言えません。

先述したように、中小製造業においてもBCP対策は必要となりますが、大手企業とは組織の在り方や規模が違うため、中小企業ならではの対策が求められます。

中小企業はまず、自社の経営を維持しなければなりません。そのためには、業務に関わるデータを分散する形でバックアップしておくといった対策が必要となります。

また、従業員の安全確保についても考える必要があります。非常時の連絡先をまとめておく、BCP対策のひとつとして怪我に備えたマニュアルを作る、などが挙げられます。

経営維持のためには情報の取り扱いはもちろんのこと、社員の安全も大切です。より具体的な対策のポイントは、後ほど解説します。

製造業におけるBCP対策のポイントとは

まず、大手企業・中小企業問わず、製造業全体におけるBCP対策で意識すべきポイントを解説します。

従業員の安否確認体制の整備

非常時に、復旧や事業継続を進める上で欠かせないのが従業員の安全確保です。

企業を動かす社員の身を守るため、また、事業の再開に向けた体制を早く整えるために、安否確認は最優先すべき取り組みです。

安否確認の方法としては、私用の携帯電話に送信するメールを使った安否確認システムや、安否確認アプリ、GPSを活用した位置確認ツールなどがあります。自社に合った安否確認の方法を定め、定期的に訓練を行っておくことが重要です。

災害対策と訓練の実施

災害が起きた際にもっとも打撃を受けるのは建造物です。被害を最小限にとどめるために、事業所や工場の耐震措置、防災設備導入などの対策を進めましょう。

具体的には、耐震措置や防災設備を強化する、地震時にガスを自動停止する設計を導入するといった対策を講じることで、非常時にも工場の生産をスムーズに再開することができます。

また、定期的な避難訓練を行うことも、従業員の安全確保と迅速な事業復旧のために欠かせません。

継続する業務の選択

BCP策定のなかで中核をなすのが、非常時に継続する業務の選択です。

災害が起きた際、業務を進められる社員数や、部品の調達や資金が制限される可能性があります。非常時の資源のなかで、自社が最優先で復旧・継続する業務を定めましょう。

継続業務は、売上高や利益率だけでなく、製品を納入すべき取引先の優先度など、経営や将来性に関わる要素を総合的に検討して判断する必要があります。

代替工場の確保

防災措置を万全にとっていても、工場が被災して操業できなくなるリスクもあり得ます。

工場の機能が止まった場合に備えて、事業を継続する代替拠点を確保しましょう。自社内の別の建物を生産拠点として活用する、非常時に支援し合う協定を結んだ企業の拠点を借りるなどの方法が可能です。

また、地震などエリアが限定される自然災害への対策として、1ヵ所の工場が被災しても別の工場で操業を続けられるように、拠点を各地に分散させておくことも有効です。

代替設備の確保

工場内の設備が破損した場合に備えて、代わりに製造を行える設備を準備しておくことも重要です。

非常時のためだけにコストをかけて代替設備を用意することが難しい場合は、保有している設備を他の用途に転用する方法を検討しましょう。

今後、新たな設備を導入する場合に、転用可能性をふまえて設備を選ぶという対応も可能です。

災害による不具合を迅速に整備できる社内メンテナンス体制の確保や、他社から非常時に設備を借りられる協力体制を構築しておくことも有効です。

資源や取引先の分散化

生産拠点だけではなく、在庫の保管場所や取引先を分散することもBCP対策として有効です。原料や商品の保管場所を分散しておくことで、1ヵ所が被災した場合に、事業や供給の停止を防ぐことができます。

また、サプライチェーンのなかで異なる地域に立地している複数の企業と取引がある状態を確保しておけば、被災した地域の会社からの原料供給が止まる事態を防げます。

幅広い所在地の顧客を持っていることで、被災エリアの企業の売上源による経営ダメージを軽減できるというメリットもあります。

中小企業が確認すべきBCP対策の4つのポイントとは

では、中小企業においてBCP対策を成功させるためにはどのような観点が必要なのでしょうか。4つのポイントに分けて解説します。

身の丈に合った取り組みをする

「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2020 年)」によると、BCPの策定状況について「策定している」と回答した企業は前年度より1.6ポイント増の16.6%、「現在、策定中」や「策定を検討している」と答えた割合も過去最大で、BCP の必要性を感じる企業が増えているのは事実です。

しかし、先述したように大企業と中小企業には意識に差があることがわかります。

またこのアンケートでは、企業がBCPを策定していない理由として「策定に必要なスキル・ノウハウがない」「策定する人材を確保できない」などが多数挙げられており、BCPのために、情報収集の時間や人材を割く余裕がないことが策定を妨げていることがわかります。

BCPを具体化するためには、中小企業の実態をふまえて、現実的に策定・運用ができるBCP対策が必要と言えるでしょう。

限りある人材や資金・資材の範囲内で、自社に合った取り組みを進めるという考え方が重要です。

復旧資金の確保をする

資金が限られる中小企業にとっては、被災した建物や設備の復旧にあてる資金の確保も課題となります。まずは非常時に必要になる資金を把握し、加入している保険や共済で受け取れる保険金を確認します。必要に応じて、保険の内容の見直しも検討しましょう。

中小企業は、災害対策資金の融資など中小企業向けの制度も活用できます。

策定した計画に基づいて防災のため施設の整備を行なう場合に、優遇金利で融資を受けられる「社会環境対応施設整備資金(BCP融資)」や、防災対策に取り組む事業者に優遇金利で融資する「防災・環境対策資金(環境対策関連貸付)」など、政府系中小企業金融機関の制度のほか、民間金融機関のBCP策定企業向け融資制度もあります。

BCPの一環として、中小企業が利用できる公的支援制度について情報を集めておきましょう。また、地域の中小企業支援センターや商工会議所でも、BCPに関する資金について相談ができます。

社内教育でBCPを定着させる

BCPを適切に運用するためには、策定して満足せずに定着させる必要があります。BCPを社員が理解しておらず非常時に運用できないという事態を避けるため、BCPの内容を社員に伝える研修を行いましょう。

また、年に一度は非常時を想定した訓練を行なうことも重要です。訓練を通してわかった不足や問題点をふまえて、定期的な見直しを行いましょう。

BCPを継続的に改善しながら、自社に合った計画として定着させていくことが大切です。

相互支援協定で他者との連携を図る

大規模な災害対策や代替施設の確保が難しい中小企業のBCP策定には、他社との連携も欠かせません。同業種企業と災害時にサポートし合う協定を結び、どのような場合にどういう支援を求めるかあらかじめ決めておきましょう。

地域限定の自然災害時に連携企業と同規模の被害に遭うことを避けるため、自社の周辺だけでなく、他のエリアの同業種企業とも連携するのがベターです。

代替工場や代替設備の面でサポートし合うために、企業単体でBCPを考えるだけでなく、組合単位や工業団地などの団体単位でBCPに取り組むことが有効です。

製造業におけるBCPの取り組み事例とは

最後に、製造業におけるBCP対策の取り組み事例についてご紹介します。

現状を見直した上で、備蓄や設備を確保

精密プレス型、精密工具などの設計製作及び技術サービスを行なう、神奈川県の昭和精工株式会社。三浦半島断層群から震度6強の地震が発生した場合を想定し、従業員・訪問者の安全確保と、生活基盤の保全を目的にBCP対策に取り組み始めました。

津波を想定して4階にしていた食堂を、津波リスクが少ないこと、火災発生時のルートの狭さなどから2階へ変更しました。ほかにも備蓄品を見直し、エレベーター内に閉じ込められた場合のことも考え、エレベーター内にも備品を置いています。

災害や火事など、複数のリスクを考慮し、優先順位をつけながらBCP対策を進めたことで、被害を最小限にするための予防策の有効性を検証できました。

BCP対策は「万が一」に対応できる自信につながる

株式会社 平山ファインテクノは、プリント配線板設計・製造を行なっています。震災で建物が破損した場合を想定し、従業員の安全確保、早期復旧を目指してBCP対策を進めました。

震災発生時には、あらかじめ作成した緊急連絡網を活用し、従業員の安全性を確認するほか、火災を防ぐために初期消火を実施、役職員の緊急招集などを行なっています。

また、早期復旧のためにも本社機能の一部を2工場に分散し、万が一出勤できない従業員がいた場合代替できる制度を構築しました。

緊急事態は予測できないものだからこそ、事前に想定し、対策をしておくことで「自分たちでもできることは多い」と自信を持つことができました。

非常時に備え、他社とノウハウを共有

包装資材や緩衝材の製造を手がける東京都の株式会社生出は、2009年の新型インフルエンザをきっかけにBCPを策定しました。

会社の近くを通る活断層である立川断層による地震を想定し、まずは施設内の危険個所の把握や機材の落下防止、ガラス飛散防止など工場の災害対策を徹底しました。

同時に、自社が被災した場合の生産継続のため、自社を含む同業者5社で「相互委託加工契約」を締結。非常時に他社でも自社製品が作れるように、抜型や材質などの生産情報を共有し、製品の品質テストも行っています。

まとめ

製造業におけるBCP対策は、大手企業だけでなく中小企業にも求められています。また、現状の設備を使った代替製造方法を検討したり、他社と協力体制を築いたりと、今ある資産で有効なBCP策定を進めることも可能です。

BCPを検討することは、社員ひとりひとりの防災意識の強化やコスト意識につながるといったメリットもあります。

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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