BCPとは?介護事業所で義務化されたBCPの概要と策定するメリットを解説

From: 働き方改革ラボ

2022年10月25日 07:00

この記事に書いてあること

BCPとは、Business Continuity Planの頭文字を取ったもので、災害や感染症などの緊急事態が起こった際に企業が事業を継続していくための計画のことです。介護事業におけるBCPは、2024年より本格的な義務化がスタートするため、それまでに策定を行う必要があります。

この記事では、介護事業を行っている企業の経営者や人事、総務などの担当者に向けて、BCP策定の概要と策定するメリットを解説します。BCP義務化にあたってどのように対応したらよいのかと悩んでいる人は、ぜひ参考にしてください。

※この記事は2022年10月時点の情報を基に作成しています。最新の情報や詳細については該当の省庁の情報をご確認ください。

BCPとは

BCPとは、Business Continuity Planの略したもので「事業継続計画」と呼ばれています。昨今では、地震や津波、豪雨などの自然災害や、新型コロナウイルス感染症をはじめとした感染症のまん延など、予測不可能な事態が頻繁に起こるようになりました。

企業が自社の社員を守り、事業の復旧と継続をスムーズに行うためには、起こりうる被害を想定し速やかに対応できるよう、方針・体制・手順などの具体的な計画を立てておくことが必要不可欠です。

BCPと勘違いしやすい用語

BCPについて詳しく解説する前に、BCPと勘違いしやすい2つの用語について触れておきます。区別することでよりBCPへの理解を深めることができるでしょう。

BCM

BCMとは、Business Continuity Managementの略で、「事業継続マネジメント」と呼ばれています。BCPを策定したうえでBCPを運用し、マネジメントすることまでを含めた内容です。マネジメントの内容には、以下の項目が含まれます。

  • BCPの維持・更新

  • 事業継続のための予算と資源の確保

  • 被害を防ぐ、もしくは軽減するための事前対策

  • 緊急事態が発生した際のマニュアル作成などの事後対策

  • 企業内にBCP の取り組みを浸透させるための教育・訓練

BCP対策は策定するだけでなく運用することが重要なため、BCP対策を行う際はBCMも同時に考えなければなりません。

防災

災害に備えるという意味では防災という言葉も使われますが、BCPは防災だけでなく、事業継続の対策が上乗せされたものとなります。防災は「人命や建物を守るもの」、BCPは「人命や建物を守るだけでなく、事業の継続を守るためのもの」であることを押さえておきましょう。

介護事業所にBCPとBCMが義務化された

厚生労働省は2021年に「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」を公表し、すべての介護事業所においてBCP策定が義務化されることが明らかになりました。BCPとBCMの義務化については3年の経過措置期間があり、2024年までに準備を行わなければなりません。

BCPを策定するだけでなく、緊急事態が起こった際のマニュアル策定や研修・訓練の実施などさまざまなことが求められているため、介護事業所はすぐにでも準備を始める必要があります。

BCPを策定するメリット

BCPが義務化されたことで負担を感じる担当者もいるかもしれませんが、BCPを策定することで多くのメリットがあることも事実です。BCP策定の主なメリットを5つ紹介します。

人命と会社の事業を守れる

BCP策定の大きなメリットとして、入居者や職員の命を守れることが挙げられます。緊急事態の際は人命を守ることが第一であることはいうまでもありませんが、人命を守ることによって事業の早期回復に繋がることも押さえておきたいポイントです。緊急事態が起こった際に迅速かつ適切な対応ができれば、経営面の被害も最小限に抑えられるでしょう。

税制優遇がある

BCPを策定し国の認定を得ると、「中小企業防災・減災投資促進税制(特定事業継続力強化設備等の特別償却制度)」という税制優遇を受けられます。防災・減災に関わる対象設備を導入することで、「特別償却最大20%の税制優遇」が受けられるという内容です。

補助金がもらえる

自治体によっては、BCP策定や実践する際にかかるコンサルティング費用や、設備の導入費用を一部補助してくれるところもあります。また、再エネや省エネにかかわる設備を導入する際は、国からの補助を受けられることもあります。

ワクチン接種が優先される

BCP対策を行っている介護事業者は、感染症が拡大した際にワクチンを優先的に受けられます。ワクチン接種が優先されることは「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の第28条で規定されており、介護事業者も対象となっています。

多くのリスク回避に繋がる

BCP対策は緊急時に問題が起こった際に、法的・社会的な責任を追求されたり、賠償を負うことになったりするリスクも軽減することが可能です。従業員の健康と安全に配慮するための安全配慮義務をしっかりと果たし、起こり得るリスクに備えましょう。

介護サービスの3つの種類

介護事業所の具体的なBCPの策定方法について解説する前に、介護サービスの3つの種類について簡単に説明します。

入所系介護サービス

入所系介護サービスは、特別養護老人ホームや介護老人福祉施設とも呼ばれます。施設で寝泊まりする利用者に対し、食事・入浴・排泄などの日常生活をサポートします。

通所系介護サービス

通所系介護サービスは老人デイサービスセンターと呼ばれ、利用者が施設を訪れ、決まった時間日常生活の介護を受けるものです。要介護と認定を受けた人が利用できます。

訪問系介護サービス

訪問系介護サービスでは、介護福祉士などの訪問介護員が利用者の自宅に訪問し、日常生活の介護を行います。通所系介護サービスと同様に、要介護認定を受けた人が利用できます。

【自然災害】BCPの策定方法

ここでは、自然災害と感染症に分けてBCP策定方法を解説します。まず自然災害から見ていきましょう。

自然災害発生時は、職員と利用者の安否確認を行うことが第一優先です。場合によっては、サービスを停止する必要も出てくるでしょう。重要な業務をピックアップし、安全の確保と同時に復旧作業を行います。通所系と訪問系で対応が異なるため、それぞれの場合について解説します。

通所系介護サービス

通所系介護サービスでは、BCPを以下のように策定します。

平時対応

緊急事態発生時にスムーズに家族と連絡が取れるよう、あらかじめ緊急連絡先を把握しておくと同時に、安否確認方法を整理しておきましょう。また、自施設では対応しきれない問題が起こることを想定し、日頃から居住介護支援事業所と連携を取れる体制を整えておくことも重要です。

災害が予測される場合の対応

台風や豪雨などで被害が想定される場合、サービスの一時停止や縮小を検討します。その際、あらかじめ基準を定め、利用者や利用者の家族、居住介護支援事業所に共有しておきましょう。

災害発生時の対応

災害発生時には安否確認を行った後、緊急連絡先に安否状況を連絡します。利用者や家族の状況に合わせ、帰宅の準備を行いましょう。場合によっては施設に宿泊したり、近くの避難所に退避したりする選択肢も視野に入れておきます。

訪問系介護サービス

訪問系介護サービスでは、職員が利用者宅を訪問中の場合や移動中であることも想定したBCP対策を策定する必要があります。

平時対応

通所系介護サービスと同様に、サービス提供中に災害が発生したことを想定し、利用者の緊急連絡先の把握と安否確認方法をまとめておきます。また、移動中の対応方法や、避難先でサービスを提供する場合を想定した対策を練っておきましょう。合わせて地域の避難方法や避難先の情報をまとめておくと、いざというときにスムーズに行動できます。

災害が予測される場合の対応

災害が予想される場合、あらかじめ決めた基準に合わせ、サービスの一時停止や縮小を検討します。場合によってはサービスの前倒しなど、柔軟に対応することも大切です。

災害発生時の対応

災害による被害が大きい場合、他施設でのサービスに移行したほうがよい場合もあります。万が一に備え、日頃から他施設と連携を取っておきましょう。場合によっては避難先でサービスを提供することも考えられるため、地域の関係機関や居住介護支援事業所との協力も必要です。

【感染症対策】BCPの策定方法

感染症が発生した際には、利用者や他の職員への影響を最小限にとどめるため、業務縮小や一時閉鎖などを検討する必要があります。厚生労働省老健局が公開している新型コロナウイルス感染症に関するBCPのガイドラインを参考に、策定方法を解説します。

※参考:介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省老健局

入所・訪問系介護サービス

まずは、入所・訪問系介護サービスにおける対応方法を解説します。

平時対応

平時対応で行う項目は以下の通りです。

  • 意思決定者や各業務担当者の役割を整理する

  • 感染者の早期発見のため、利用者の体調評価を行い、日々記録する

  • 消毒液等の備蓄品の確保と発注ルールを取り決める

  • BCPの研修・訓練の実施方法を決める

  • BCPを定期的に見直し、改善する

感染疑い者の発生、初動対応

利用者の体調不良が見られる場合、感染症にかかっている可能性を考慮し対応する必要があります。感染症の疑いがある人を見つけた際の初動対応は以下のように行いましょう。

  • 報告ルート、報告先、報告方法を整理する

  • 感染の拡大を防ぐ方法をまとめる

  • 消毒と清掃方法を決定する

検査、感染拡大防止体制の確立

検査結果を待っている間、該当者が陽性だった場合に備えて感染拡大防止体制の確立に向けた準備を行います。感染拡大防止体制を確立するための項目は以下の通りです。

  • 保健所と連携し、適切な対応をするための内容確認を行う

  • 濃厚接触者の対応方法をまとめる
    ・職員確保の方法をまとめる

  • 消毒液や防護具などの備蓄量を決めておく

  • 感染者が発生した際の情報共有先を整理しておく

  • 業務内容の優先順位を決め、職員の数に合わせた業務調整を検討する

  • 利用者のストレスの軽減や解消する方法を検討する

  • 情報発信時の対応方法と注意事項をまとめる

通所系介護サービス

通所系介護サービスの場合は入所系・訪問系介護サービスと同様の内容に加え、以下の項目も検討する必要があります。

休業の検討

休業を検討する条件や、休業を通知する際の案内方法についてまとめておきます。休業の条件を決める際は、感染者数や濃厚接触者の体調、稼働できる職員の人数を基準に考えるとよいでしょう。

BCP義務化に対して介護事業所が取るべき対応

前述した通り、BCP 策定は2024年には義務化されます。緊急事態に備えてサービスを維持できる体制を整えるためにも、早急な対応を行う必要があります。補助金や税制優遇をうまく活用すれば経費も抑えられるため、ぜひ早めの調査とBCPの策定を検討してみてください。

まとめ

自然災害や感染症のリスクが年々高まりつつある昨今、緊急事態を想定した対策を練っておくことは企業の存続にとって重要な項目です。BCP対策を行うことは緊急事態に備えられるだけでなく、さまざまな副次的メリットをもたらします。早めの対策を行い、緊急事態に備えましょう。

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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