36協定に違反しないための5つの注意点|違反してしまったときの対応方法や罰則も丁寧に解説
2022年11月22日 07:00
この記事に書いてあること
企業が労働者に時間外労働をおこなわせるためには、必ず事前に「36協定」の締結・所轄の労働基準監督署長への届出が必要になります。同時に企業側は「36協定」違反とならないよう順守しなくてはなりません。もし違反した場合は罰則もありうるため、注意が必要です。
この記事では、企業の経営層や人事担当者に向けて、36協定に違反しないための注意点や、万が一違反してしまった場合の対応方法を解説しています。ぜひ役立ててください。
「36協定」とは
36協定とは、時間外労働・休日労働に関する労使協定のことです。正式名称を「時間外労働・休日労働に関する協定」といいますが、労働基準法第36条に定められているため、通常「36(サブロク)協定」と呼ばれています。
労働者には、時間外労働時間の上限が定められています。36協定はこの上限を超えて、企業が労働者を働かせることがないように抑制する目的で定められています。
時間外労働時間の上限とは
前述したように、時間外労働時間は上限が定められています。まず、働いてもよい時間とされている法定労働時間は、1日8時間、週40時間以内です。これを超えた部分が、時間外労働としてカウントされる部分です。
時間外労働時間の上限は、原則として1週間で15時間、月45時間、年360時間となっています。
「特別条項付き36協定」になるケース
何らかの「臨時的な特別な事情」があり、かつ労使が合意する場合は、36協定の上限を引き上げられることが認められています。
ただし、事前に取り決めが必要で、限度時間(原則として月45時間、年360時間)を超えられる回数は年6回以内、時間外労働と休日労働の合計について、2~6カ月のすべての平均労働時間がひと月あたり80時間以内にするなど、いくつかの条件があります。
残業時間の上限が適用されない4つの職種
残業時間の上限が適用されない職種は、以下の4種類です。
・建設事業:災害の復旧、復興事業に携わる場合、必要に応じた労働時間を確保するため、上限は適用されません。
・自動車運転の業務:2024年4月1日以降は、特別条項付き36協定を適用した場合の時間外労働の上限を年960時間としますが、その他の特別条項は適用されません。
・新商品・新技術等の研究開発業務:一定の時間を超えた労働者に対しての医師の面接指導、代替休暇の付与等の健康確保措置を講じた場合は時間外労働の上限規制は適用されません。
・季節的要因で業務量の変動が著しく労働基準監督署に指定された業務:具体的には、造船事業の一部、年末年始の郵政事業など、厚生労働省によっていくつかの業務が定められています。
「時間外労働」と「休日」の考え方
時間外労働と休日には、それぞれ定義があります。時間外労働、休日の考え方についてそれぞれ解説します。
「時間外労働」の考え方
時間外労働とは、労働基準法で定められた「法定労働時間」を超えた労働時間のことをいいます。法定労働時間とは1日に8時間、週40時間以内です。つまり1日の勤務時間が7時間と定められている会社で2時間残業した場合、8時間を超えた1時間が法的に時間外労働となる計算です。
ただし、このケースでは職場の勤務規定では1日7時間と定められている状態のため、残業代は2時間分発生します。
「休日」の考え方
休日には、法定休日と法定外休日とがあります。
法定休日は、労働基準法において義務付けられている、1週間のうち少なくとも1日は付与する休日のことを指します。法定外休日は上記以外の休日のことで、法律で義務化されているわけではありません。
法定休日の労働は時間外労働に含まれるのに対し、法定外休日の労働は時間外労働には含まれません。
36協定違反の罰則
36協定に違反したことが露見すると、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられます。また厚生労働省の「労働基準関係法令違反に係る公表事案」に企業名が公表され、社会的制裁を受けることとなります。
リストは求職者なども見ることができるため、優秀な人材が集まりにくくなるなどのデメリットが発生する可能性があります。
罰則の対象
36協定違反の罰則の対象となるのは、社長など会社の代表者のほかに、労務管理の担当者、直属の上司などの管理職です。会社に罰金が課せられる以外に、代表者や上司が個人的に懲役や罰金の責任を負う可能性があるため注意が必要です。この規定を両罰規定といいます。
36協定違反となる主な事例
実際に36協定違反となる事例について、いくつか具体的に解説します。
そもそも36協定を結んでいない
労働者を雇用して時間外労働をさせる場合には、必ず36協定を締結した上で、所轄の労働基準監督署長への届出が必要になります。したがって、たとえ労使間で合意していて、なおかつ残業代を支払っていたとしても、届出がなければ違反となってしまいます。
サービス残業を行っている
サービス残業とは、時間外労働や休日労働などに対して残業代が支払われていない状態をいいます。「賃金不払残業」はすべてサービス残業とみなされるため、残業時間の端数切捨てもサービス残業の一種です。
業務が残っているが残業をつけると管理者から責められるという理由で、労働者が管理者にわからないようサービス残業をおこなうケースもあり、注意が必要です。
上限規制を超えてしまった
上限規制を超えた残業という場合、この「上限」とは、労使間で結んだ36協定の上限であり、労働基準法上の上限ではありません。
具体的には、36協定における時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間です。これらの時間数を超えてしまうと36協定違反となります。
特別条項付き36協定の「臨時的な特別な事情」に当てはまらない
特別条項付き36協定では、臨時的な特別な事情として残業時間の上限規定を超えることが認められています。
臨時的な特別な事情とは、たとえば予算・決算業務やボーナス商戦などによる業務、予定外の大規模なクレームや機械のトラブル対応、納期のひっ迫などがありますが、あくまでも日常業務ではないことが条件で、当てはまらないものについては違法となります。
36協定に違反しないための5つの注意点
36協定に違反しないために留意したい注意点は、以下のとおりです。
時間外労働の管理を徹底する
まずは従業員の時間外労働について、徹底した管理をおこないましょう。手入力だとミスが起こりやすく、労務担当者でも気付かないうちに上限を超えてしまうことがあります。勤怠管理システムの導入を検討し、徹底して時間外労働の管理をおこなえるような環境が必要です。
労働者の健康と福祉を確保する
特別条項付き36協定を結ぶ場合、限度時間を超える労働者の健康・福祉を確保するための具体的な措置が必要です。36協定では、健康・福祉を確保する措置としていくつかの措置内容が定められています。
たとえば医師による面接指導、産業医等による助言・指導や保健指導、代休や特別休暇を付与する、健康診断を実施する、心とからだの健康についての相談窓口を設置する、といった内容です。
労働者の休息を確保するよう努める
企業には安全配慮義務があります。残業が多くなると安全性にも問題が生じる可能性が高まることから、企業は労働者の休息を確保しなければなりません。「残業」はやむを得ない場合のみに限定し、極力残業を減らして、労働者の休息を確保するよう努めましょう。
また残業が発生したときも、休憩時間を取るようにし健康リスクの軽減に努めることが大切です。
テレワークのルールを整備する
テレワークは勤務時間の把握が難しい働き方であるといえます。そのため、テレワークを続けさせてしまうと、知らないうちに36協定違反となってしまう可能性があります。
いつの間にか残業時間が増えてしまうのを防ぐためには、勤怠管理システムの導入や、必要に応じた「みなし労働時間制」や「専門型裁量労働制」の導入などを検討するとよいでしょう。
パートや契約社員も考慮する
パートや契約社員も、契約条項の中に残業規定がある場合は、状況に応じて残業をおこなう必要があります。同時にパートや契約社員が時間外労働をおこなう場合は、36協定の届出の際、協定を締結している従業員の人数に含めなくてはなりません。
したがって、パートや契約社員も正社員と同様の条件で、残業に対する制限があることを考慮しましょう。
36協定違反が発覚したときの対応方法
36協定違反が発覚したときは、状況に応じて適切な対応方法を取らなければなりません。社内で36協定違反が発覚した場合、労働者に36協定違反を通報された場合、それぞれについて対応方法を解説します。
社内で発覚した場合
残業にはさまざまな理由やパターンがあるため、注意していても意図せずして、結果的に36協定違反になってしまうこともあります。この場合の対処法は以下のとおりです。
報告義務はない
勤務時間をチェックした結果、36協定の上限時間を超えた労働者がいても、基本的に労働基準監督署への報告義務はありません。
ただ状況によっては、労働基準監督署からの監査が入ったり、労災事故の発生によって調査が必要になったりした場合など、労働基準監督署への報告義務が生じることもあります。この場合は速やかに報告ができるような準備を整えておきましょう。
企業内で是正する
報告義務がないからといって、36協定違反の状況をそのままにしていいわけではありません。36協定違反が生じた部署を担当する管理者に労働状況などを確認し、再度36協定違反が発生しないよう調整する必要があります。
また現状で違反まではいかなくても、今後違反の可能性がある労働者についてもチェックし是正することが重要です。
労働者に通報された場合
36協定違反は、労働者によって労働基準監督署に通報されてしまう場合もあります。36協定違反を労働者に通報された場合の対処法を解説します。
労働基準監督署の調査が入る
労働者から36協定について通報されると、労働基準監督署の調査が入ります。
この場合はまず、労働基準監督署から指定された書類を漏れのないよう用意しましょう。書類の内容はタイムカード、業務月報、就業規則などです。これらの書類をもとに、タイムカードでの労働時間の確認や、労働者への聞き取りなどがおこなわれます。
「是正勧告」を受ける
書類や聞き取りなどから、調査によって36協定違反が認められた場合は、「是正勧告」を受けることになります。このとき、是正勧告だけでは罰則はありません。
是正勧告を受けたら、労働環境を速やかに改善し、その旨を報告する必要があります。また調査の結果、違反とまでいえないと判断された場合、「指導票」で改善指導を受けることもあるため、労働基準監督署の指示にしたがって対応しましょう。
書類送検され罰則を受ける
是正勧告に従わないなど、悪質と判断された場合は書類送検される可能性もあります。書類送検に至った場合には、先述のような罰則を受けることも考えておかなければなりません。極力このような事態を避けるため、36協定違反にならないような労働環境を整えましょう。
まとめ
36協定は労働者を守るために定めた協定で、違反をすると罰則が科されることもあります。時間外労働・休日労働が協定で定められた時間を超えていないか、常に確認しながら業務を進めていく必要があります。
記事執筆
働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
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