「2025年の崖」が働き方改革に及ぼす影響とは?

From: 働き方改革ラボ

2020年02月28日 07:00

この記事に書いてあること

デジタルトランスフォーメーション(以下DX)レポートが経済産業省から発表されてから1年が経過しました。新たなデジタル技術の活用が進む現代、具体的にどのような問題が起こると予想されているのでしょうか。

今回は、働き方改革にも影響を及ぼす「2025年の崖」について考えていきましょう。

「2025年の崖」とは?

「2025年の崖」とは、旧式のITシステム(レガシーシステム)が、DX実現の足かせとなり、2025年に大幅な経済損失が生じる可能性があるということを指します。これは2018年9月に公開された経済産業省のDXレポートで指摘され、問題化しました。

レガシーシステムとは、技術面の老朽化、システムの誇大化・複雑化によりブラックボックス化している既存のITシステムのこと。日本情報システム・ユーザー協会の調査では、約8割の企業がこれを抱えていると回答しています。また、DXレポートによると、21年以上稼働しているレガシーシステムが、2025年においてもシステム全体の6割を占めるという予想も。

多額の運用コストや人的リソースがかかるだけでなく、データ連携の困難さ等を抱えているともいわれているこのレガシーシステム。システム刷新のために先端的なデジタルテクノロジーを導入しようにも、部分的な最適化にとどまるため、全体を俯瞰した最適化を難しくしています。そして、これらの課題を克服できなかった場合、DX実現が危ぶまれるだけでなく、2025年以降、年間最大12兆円(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性も指摘されているのです。

レガシーシステムの問題の背景

「2025年の崖」の大きな原因となるレガシーシステムが生まれてしまった背景には、大きく分けて4つの問題点が挙げられます。

1つ目は、既存のシステムが事業部門ごとに構築されたために、全社横断的なデータの利活用が困難となってしまったこと。各事業の個別最適化を優先したことでシステムが複雑化し、企業全体での情報管理やデータ管理が難しくなっています。

2つ目は、ユーザ企業とベンダー企業の関係性が挙げられます。日本では、ユーザ企業のために下請けであるベンダー企業がITシステムを開発するケースが多いため、ベンダー企業にITエンジニアが多く所属しています。そのため、システムのノウハウがベンダー企業に蓄積され、ユーザ企業側には残りづらい状態となっています。

3つ目は、システム開発担当者の退職等によるノウハウの喪失です。これまで大規模なシステム開発を担ってきた人材(有識者)が定年退職の時期を迎えると、それに属していたノウハウが失われ、ブラックボックス化してしまいます。2007年問題(団塊の世代の退職)を経て、すでに多くの企業でブラックボックス化していると考えられます。

4つ目は、スクラッチ開発の多用によるブラックボックス化です。日本には、システム開発の雛形であるパッケージなどを利用せず、オリジナルのシステムを開発するスクラッチ開発を好むユーザ企業が多いうえ、汎用パッケージやサービスを活用する場合でも、自社に合わせたカスタマイズを好む企業が多い傾向にあります。そのため、各システムに独自のノウハウが存在しており、これが消失したときにブラックボックス化します。

基幹系システム(SAP)のサービス終了と新規システムの参入

「2025年の崖」に関連して、「SAPの2025年問題」という問題も存在します。

SAPとは、ドイツを拠点としたソフトウェア会社、SAP社が提供している基幹系システム「SAP ERP」を指します。ERP(Enterprise Resource Planning)とは、全社の情報を統合化し最適化するという経営概念で、そこから生まれた「SAP ERP」は世界でも圧倒的なシェアを誇ります。

日本でも2,000社以上の企業がこれを利用しているといわれていますが、2025年に「SAP ERP」の保守サポートが終了する予定。そのため、後継製品にあたる「S/4HANA(エスフォーハナ)」へ移行するか、ほかの手段に切り替えるかという選択を迫られています。

これを既存システムの最新化の問題として捉えた場合、「2025年の崖」と同様の問題といえるでしょう。さらに2025年には、PSTN(固定電話網)のサービスも終了することが発表されています。

このように、既存の基幹系システムのサービスが終了の一途をたどる一方、5Gの実用化やAIによる自動化といった先端テクノロジーの開発が進んでいます。これらの新規サービスを導入し、継続的に活かすためには、基幹系システムとうまく連携させる必要があるでしょう。そのためには、レガシーシステムの課題を解決しなければ、限定的な効果しか見込めないということです。

2025年の崖の働き方改革への影響

「2025年の崖」は、働き方改革にも影響を及ぼすと考えられています。

「2025年の崖」への対応に社内リソースが逼迫し、システム人材の労働環境が一時的に悪化することが予想されているからです。このシステム対応に追われたまま「崖」を乗り越えられず、恒久的な業務対応が増える可能性もあるかもしれません。

一方、人材不足が問題となっている現代では、低コストで多くの売上や利益を生む仕事に人材をシフトさせたいもの。そのためには、完成度の高い基幹業務システムが必要不可欠といえます。システム運営の人的リソースを減らすことで、ほかの業務への人的リソースの捻出も可能でしょう。少ない人数で業務が回る仕組みを作ることで、デジタル時代に乗り遅れずに競争力を高めることが期待できるのです。

とはいえ、働き方改革に直結するような、より効率的な新たなシステムの導入にはまだ大きな壁があるのが現状です。既存のシステムとの共生が難しく、システムの導入自体ができないケースもあるかもしれません。

今後、「2025年の崖」のような問題を引き起こさないためにも、先を見据えたシステム開発環境を整えることが必要です。そして、ユーザ企業とベンダー企業の関係の見直しや、DX人材の育成確保を考えることも大切になってくるでしょう。

「2025年の崖」に備えて

一見働き方改革とは関係ないように思える「2025年の崖」。しかし実際は、人材面における問題も大きく関わっているのです。デジタル技術が発展し、さまざまなことが自動化され始めているのにも拘わらず、レガシーシステムによって効率的なサービス運用ができていないのが現状。IT人材の育成は引き続き重要ですが、アウトソースできる業務は切り分け、コア業務に専念することを真剣に考えなければならないときが来ているのです。そのためには、まず自社のシステムの現状を見直すことからはじめる必要がありそうです。

記事執筆

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