働き方の選択肢を広げたい! トレンドマイクロ社がテレワークを採用した理由

From: 働き方改革ラボ

2018年06月01日 07:00

この記事に書いてあること

「ウイルスバスター」をはじめとしたセキュリティ製品/サービスを、世界30カ国で提供するトレンドマイクロ社。今回は、同社が取り組んでいる"自由な働き方"について、テレワークを中心にご紹介します。

より"自由な働き方"の実現を目指して

かねてよりトレンドマイクロ社では、社員の"自由な働き方"を実現すべく、さまざまな取り組みを行ってきました。例えば同社はフレックスタイム制を導入していますが、仕事柄フレックスタイムを利用しにくい営業職には直行直帰を認めることで、効率的な働き方を支援しています。

このように先進的な施策を行ってきた同社ですが、まだまだ取り組むべき課題が残っているのも事実です。2014年に中途採用者として入社した人事総務本部 人事総務グループ グループ長 シニアマネージャーの堀川聡氏は、転職当時の印象を次のように語ります。

「例えばフレックスタイム制のコアタイムは11時から16時までと決められており、育児や介護のために日中の一部の時間に自宅で用事を済ませたくても難しいということが多々ありました。そこで、働き方の選択肢をもっと広げることができないかと考えたのです」

堀川氏は各部門の部門長に依頼し、社員の働き方について意見交換をする場を設けてもらい、今後の施策について検討を進めました。

「P=p-i」の理念のもと、テレワークの導入を提案

各部門長と働き方について意見交換を行ううち、堀川氏があらためて着目したのが、トレンドマイクロ社におけるマネジメントの基本理念「P=p-i」です。

これは「Performance(実績)は、potential(能力)引くinterference(障害)」という意味で、社員一人ひとりが高い能力を発揮して実績を上げるためには、マネージャーが「障害を取り除く」という役割を果たしていく必要がある...という考え方です。

この理念にもとづくならば、働く時間や場所に制限が存在するという状況は社員の能力を損なっているということを示しており、マネージャーは可能なかぎりそれを排除しなければなりません。

「そこでそのための施策のひとつとして、テレワーク制度の導入を提案することにしました」

利用目的を限定し、マネージャー層の懸念を払拭

テレワークの導入に際して、高いハードルとなるのがIT環境の整備です。社外の社員が安全かつ安定して社内システムへアクセスするためにはセキュリティ対策の揃った環境を用意する必要がありますが、それには少なからずコストがかかります。

この点、トレンドマイクロ社はセキュリティ専門の企業であることから、もともとそうした環境を持っていました。自宅や出先で仕事に使うPCやモバイル端末には、同社のウイルス対策ソフトがインストールされていますし、端末内にデータを保存しないため情報漏えい対策に効果的なVDI(Virtual Desktop Infrastructure)も申請があれば利用可能です。また、社外から社内ネットワークへアクセスするためのVPN(Virtual Private Network)も備えています。

とはいえ、導入はすんなりとは決まりませんでした。マネジメント層の一部から「出社しない社員を、どうやってマネジメントしたり、評価したりすればいいのかわからない」という声が上がってきたのです。

そこで堀川氏は、社内の意識改革を図りつつ、段階的に取り組みを進めることにしました。具体的には、希望者全員にテレワークを認めるのではなく、以下の目的に合致する場合のみ利用を上司が許可することにしたのです。

・ 育児・介護
・ BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)への備え
・ 多様な働き方の推奨

また、このしくみを柔軟に運用できるよう、「平日再勤務」と「終日利用」の2つの制度を設けることにしました。「平日再勤務」とは、早退した社員が家へ帰って用事を一通り済ませたあと、あらためて1~1.5時間を仕事に割けばフルタイムで働いたとみなす制度です。一方、「終日利用」は「平日再勤務」では時間の捻出が難しいケースを想定し、出社せずに自宅などで6時間以上働けば、出社して働いたのと同じ扱いにするという制度です。

「なお、終日利用に関してはマネージャー層の懸念を払拭する意味もあって、1週間で最大2回の上限を設けました」

スモールスタートゆえに、利用者が負い目を感じる

トレンドマイクロ社では2015年1月からテレワーク制度を開始。700名を超える国内拠点の社員のうち、数十人が参加しました。

その結果、これまで時短勤務だった社員がフルタイムで働けるようになりましたが、スモールスタートだったこともあり、利用者が心理的な負担を感じるようになってしまったのは誤算でした。「特例で制度を使わせてもらっている」という負い目からか、「上司・同僚からどのように見られているのだろう」と不安を抱くようになってしまったのです。

「例えば、オフィスで普通に働いているのであれば、上司からメールが届いても、取り掛かっている作業を優先し、返信を後回しにすることもあるでしょう。それがテレワークでは、上司の目が届いていないがゆえに、最優先で返信しなくてはダメだと思い込みがちです。これではかえって仕事のパフォーマンスが落ちてしまう可能性があります」

こうした問題を解決するためには、全ての社員に「テレワークは当たり前」という認識を持たせる必要がありました。

国が主催のテレワーク・デイに、全社的なテレワークを実施

そうした中、トレンドマイクロ社にとって大きなチャンスが訪れました。総務省や経済産業省などが主催する「テレワーク・デイ」に、全社を挙げて参加することになったのです。

「これは、2020年に東京オリンピックの開会式が行われる7月24日を『テレワーク・デイ』と位置づけ、さまざまな企業・団体が一斉にテレワークを実施し、混雑や渋滞を解消しようという試みです。ここで100人以上の規模でテレワークの効果検証を行える企業・団体を募集していたことから、テレワークへの全員参加を実践するよい機会だと考えました」

2017年7月に行われた「テレワーク・デイ」には、同社の国内の社員の約3割にあたる245人がテレワークに参加。そのうち198人が「終日利用」を行いました。この日、初めてテレワークを体験した社員も多く、また参加しなかった社員も、オフィスにほとんど人がいない状況で働くということを体感してもらえたといいます。

「テレワーク・デイ」の経験は同社の社員に心理面での変化を与えました。実施後のアンケートでは「意外と普段通りに仕事ができた」「とくに不便はなかった」という感想が多く寄せられ、中には「いつもより仕事が捗った」という意見もありました。また、出社した社員からの「いつもより人が少なく、静かで良かった」という声もあったといいます。こうして多くの社員が実際に社外で働くことを体験したことで、「テレワークは当たり前」というマインドが徐々に醸成されていったのです。

テレワークはあくまでも選択肢のひとつ

現在、トレンドマイクロ社におけるテレワークの利用者は100名を超え、当初の約5倍に増えています。その他にも取り組んだ働き方を再考する活動の効果は以下の通りです。


「中でも15人いた時短勤務者が2人に減ったことが大きいですね。時短勤務では給与が減るだけでなく、キャリアアップに対する不安も生じます。それがテレワーク制度の導入により、育児や介護に取り組みながら、安心して仕事を続けられるようになりました」

とはいえ同社もテレワークに過剰な期待を抱いているわけではありません。あくまで柔軟な働き方を実現するための選択肢のひとつであり、働き方の自由度が上がることにこそ大きな意義があると考えています。

「テレワーク以外にもさまざまな取り組みを行っています。例えばフレックスタイム制もより利用しやすいよう、コアタイムを11~15時と短縮しました。また、午前休や午後休といった既存の制度と柔軟に組み合わせることで、有給休暇の消化などに役立ててもらっています。今年はオフィスの一部改装も行い、多様な働き方をオフィス内でも体験してもらえるようにする予定です。
社員には、こうした制度を活用しつつ、ひとりのプロフェッショナルとして裁量をもって仕事に取り組んでいくことができる環境を提供していきたいですね」

なお同社はセキュリティ専門の企業ではありますが、今回の導入において特別な対策は行わなかったとのことです。

「機密情報の管理もテレワークだから特別に行うわけではありません。日常から行ってる普通のことを普通にやっていれば大丈夫ということを、本プロジェクトを通じて体現できたと思います。ですから、セキュリティ面を理由にテレワークの導入を躊躇している企業には、臆することなく取り組んでほしいですね」


※トレンドマイクロ社では、テレワークを「オフサイトワーク」という名称で導入・実施しています

記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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