働き方改革関連法で何が変わるの?長時間労働の是正について分かりやすく解説
2018年07月10日 07:00
この記事に書いてあること
働き方改革関連法と長時間労働を見直す動き
激動の時代を生きるビジネスパーソンとしては、社会情勢を反映する様々な要素に敏感でなくてはなりません。
労働環境に多大な影響を及ぼす労働関連法もまた、意識しておくべき要素の一つ。
本記事では、6月29日に成立した「働き方改革関連法」の中から、とりわけ重要な「長時間労働の是正」についてのポイントをみていきましょう。
1.時間外労働の上限規制
Point 時間外労働につき法律上の上限を設けることとなった。
(1)現行制度とその問題点
労働基準法(労基法)第32条の定めによると、「休憩時間を除いて、一週間のうち40時間まで、一日8時間まで」が原則的な労働時間です。
ただし同法第36条の、労使間によるいわゆる36協定の締結と届出により、時間外及び休日の労働が可能となっています。
もちろん36協定によって認められる残業にも上限があります。
「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」という告示があり、就業期間ごとに労働時間を延長できる限度が定められているのです。
具体的には、一般労働者であれば週に15時間、月に45時間、年に360時間となっています。
ところが、この告示には強制力がなく、しかも「特別条項付き36協定」という規定があります。
特別条項付き協定とは、年に6ヶ月以下を限度として、36協定の届け出に労働時間延長の理由と長さ、回数を明記することで、臨時的に限度を超えた労働をさせられるというものです。
さらに、一部の事業または業務については、限度基準がそもそも適用されないという問題もありました。
(2)働き方改革関連法による変更点
そこで働き方改革関連法では、こうした隙間を埋めるため、より明確な労働時間の上限を設けることとしたのです。
具体的には、原則は今までと同じ上限として、繁忙期でも単月に100時間未満、月平均で80時間以下、年に720時間未満とした上で、違反企業には罰則を設けるものとしました。
なお、この法律の施行は大企業が2019年4月から、中小企業が2020年4月からとなっています。
2.中小企業の時間外労働と割増賃金
Point 割増賃金率につき中小企業への猶予措置が廃止される。
(1)現行制度上の運用
2010年の労働基準法改正により、月に60時間を超える時間外労働については、5割の割増率を加えた割増賃金を払うこととされました。
これは、間接的に長時間労働を減らす方向へと作用する定めといえます。
ただ、中小企業(原則として、資本金額または出資総額が3億円以下で、常時使用する労働者数が300人以下の事業主)については、この割増率の適用が猶予されていました。
(2)適用猶予の廃止
2023年4月からは割増率の適用猶予が廃止されるため、中小企業においても月60時間を超える時間外労働には、5割の割増率を加えた割増賃金を支払わなければなりません。
中小企業の体力を考慮しての運用でしたが、これによって長時間労働を招いていたという側面もあったため、今後の労働時間の短縮が期待されます。
3.年次有給休暇
Point 一定数の年次有給休暇を確実に与えねばならないこととなった。
(1)現行制度での年次有給休暇
労基法第39条では、継続勤務年数に応じて一定の年次有給休暇(年休)を与えなければならないと定められています。
ところが、使用者側は年休を付与しておけば足り、実際に休むかどうかは労働者側に委ねられていました。
こうした運用では、職場の雰囲気や仕事の忙しさなどの事情により、年休を取得しづらくなっているという実態もあったのです。
これは、実際の年休の取得までは使用者側へ義務付けられていなかったことに一因があります。
「休みたい」となかなか言い出せない労働者側の心理を看過した定めといえるでしょう。
(2)年休取得の義務化へ
これに対し、2019年4月からは年10日以上の年休が付与される労働者につき、5日分は時季を指定して年休を取得させることが使用者側に義務付けられます。
労働者側にただ年休の権利があるというだけではなく、実際に休めるようにするにはどうすればいいか、という点を考慮した定めになったといえます。
4.確実な労働時間の状況把握
Point 労働時間を客観的な方法により把握しなければならない。
(1)勤怠管理の現状
長時間労働があるかどうかは、そもそも労働時間が適正に把握されていなければ判断できません。
現状では労働時間の把握や労働者の健康管理体制作りは使用者側に委ねられているのが実情でした。
(2)労働時間把握の義務化
当初は労働時間把握を省令にて規定する予定でしたが、これを法律化することとしました。労働安全衛生法に基づく、医師による面接指導を受けるための労働時間の把握という形で法改正を行っています。
改正法では罰則までは設けられていませんが、省令にて定められる客観的な方法で労働時間を把握する必要があるという点を条文化した意味は小さくありません。
長時間労働問題の今後
過労死などの社会的事件も問題になっており、これまで長時間労働が度々問題視されてきました。
これに対して、働き方改革関連法では労働時間に上限規制を設けることで対処しようとしています。
しかし、高度プロフェッショナル制度(高プロ制)など、一部の労働者を対象外とする制度も検討されており、全労働者に対する制度としては未だ議論の余地があるのも事実です。
労働時間の実態把握は困難なので、制度を変えるのみではなく、今後は継続的なチェック・監視が求められるでしょう。
また、より人手不足の課題が深刻な中小企業への施行が行われる数年後に、新たな問題が表面化することも考えられます。
長時間労働問題の解決への歩みはまだ始まったばかりであり、今後浮上する新たな課題への対応を含め、私達が長期的に向き合うべき課題であると言えるのでは無いでしょうか。
記事執筆
働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
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