日本経済のトレンドと働き方改革「人口減少と労働市場」/伊藤元重氏

mail_hatarabo_archives_8.jpg

mv_no3.jpg

人口減少は日本にとってマイナス要因なのか

団塊の世代が70歳を越えようとしている。

15歳から64歳の人口である生産年齢は、毎年大変なスピードで減少を続けている。現時点ではまだシニア層の労働参加率は高いので、日本の労働力は若干ではあるが増え続けている。しかし、近い将来、少子高齢化がさらに進むことで、日本の労働供給が減少に転じることは間違いない。

人口減少ということで、多くの人は日本経済の将来に対して悲観的な見方を持つようだ。

この悲観的見通しには、人口減少によって国内市場が縮小するという見方と、人口減少によって労働力が縮小するので将来が厳しいという二つの見方がある。どちらも重要な論点であるが、人口の市場規模についてはこの連載の論点とは外れるので、ここでは取り上げない。以下ではもっぱら労働力の縮小という視点で議論することにする。

労働力が縮小すれば、経済成長率は下がってしまうのだろうか。人口構造悲観論者はそう考えるだろう。日本にはそうした見方をする人が少なくない。しかし、一般的に言えば、この議論はあまり正確ではない。過去の多くの国の人口増加率と成長との関係を見れば、人口が増えている国の方が経済成長率が高いとは言い切れないのだ。

かつてのインドや今のアフリカ諸国のように、人口が増えて行くことが、経済成長の足を引っ張ることも少なくない。人口が増えるほど、その人口を食べさせて行く必要があり、こうした負荷がしばしば成長の足を引っ張るのだ。

経済成長率を高めるためには、全要素生産性と呼ばれるものを引き上げることがより重要である。全要素生産性の中には、労働生産性や資本生産性が含まれていると考えればよい。その意味では労働生産性を高めることは、労働力が増えること以上に重要であるのだ。

技術による代替

労働の絶対量が減少していくとすれば、経済もそれに合わせて調整するはずだ。労働力の不足を補うような動きが顕著になる。その中でも重要なものが、労働から資本への代替、そして新しい技術の導入による労働投入量の縮小である。

すでに前回に述べたように、AI(人工知能)やIoTなどの技術革新の影響を考えれば、潜在的な人余りとなっている業種は少なくない。少子高齢化によって労働人口が縮小していくスピードも速いが、それ以上のスピードで技術革新が進み、人余りになる可能性が高いのだ。

もっとも、技術進歩は天から降ってくるものではない。日本の産業界に新しい技術が根付き、それが企業の生産性の上昇や労働力の節約に繋がるためには、個々の企業がそうした技術を取り込むような動きをしなくてはいけない。これは新技術への投資であり、働き方の改革であり、そうしたことが全体としてより高い生産性を実現するようなより高度なビジネスモデルの導入に繋がるのだ。

日本の将来を心配するのであれば、人口減少によって労働力が縮小することを嘆くのではなく、企業による技術の取り込みや新しいビジネスモデルへのチャレンジのスピードが遅いことを懸念しなくてはいけない。

脱デフレの経済政策の結果、企業部門に蓄積する余剰貯蓄資金は巨額な規模となっている。毎年、GDPの5%を超えるような余剰貯蓄が企業部門に蓄積し続けている。この資金が賃上げや投資などにもっと回っていくことが重要であるとすでに述べたが、労働力不足を解消するような生産性の上昇を実現するためにも、こうした資金の動きは重要である。

一般論として言えば、日本はこうした新しい技術にチャレンジする上で有利な位置にあるとも言える。AIやIoTの活用が拡大すれば、労働者の仕事を奪ってしまい、失業率が増えるのではないか。そうした批判はどこの国でも聞かれる。特に失業率が高い国では、そうした声は大きい。

ただ、日本の場合には、当面は技術によって人々の仕事が奪われるということよりも、労働力が不足して経済が回らなくなるということの方が、より大きな懸念事項ともなっている。有効求人倍率が40年来の高さであるということも、労働力の不足感を強めている。こうした経済状況は、AIやIoTなどを積極的に導入する追い風ともなっている。つまり、現在の日本では新しい技術の導入によって職が奪われるという懸念よりも、新しい技術を積極的に入れていかないと人手不足で大変なことになる、という心配の方が大きいのだ。

国際化と労働力

国内での労働力の不足は、その相当部分が経済のグローバル化によって調整される。外国人労働のより積極的な活用については、後の回で取り上げる予定である。ただ、日本に外国人を入れるか否かに関わらず、国際分業によって日本は海外の労働力を積極的に利用することができるのだ。

労働集約的な分野を行う事業所を海外に移したり、あるいは労働集約的な分野で国内での産業活動が縮小して、それを海外からの輸入によって代替する。国際貿易や投資では当たり前のことのように起きていることは、実は日本の労働力の縮小に対応する重要な動きであるのだ。

詳しい数字を持ち出して議論するスペースはないが、労働集約的な分野が国内から出ていくことは、労働力の節約効果だけでなく、国内労働がより高い生産性とより高い所得を実現するために必要な展開でもある。

< 第2回 なぜ賃上げなのか

> 第4回 社会保障改革とシニアの働き方

著者プロフィール

伊藤元重(いとう もとしげ)

現職
東京大学 名誉教授
学習院大学 国際社会科学部 教授

税制調査会委員、復興推進委員会委員長、経済財政諮問会議議員、社会保障制度改革推進会議委員、公正取引委員会独占禁止懇話会会長などの要職を務める。
著書に、『入門経済学』(日本評論社、1版1988年、2版2001年、3版2009年、4版2015年)、『ゼミナール国際経済入門』(日本経済新聞出版社、1版1989年、2版1996年、3版2005年)、『ビジネス・エコノミクス』(日本経済新聞出版社、2004年)、『ゼミナール現代経済入門』(日本経済新聞出版社、2011年)など多数。

mail_hatarabo_archives_8.jpg

この記事に関連するタグ

前へ

【保存版】仕事自動化に役立つ148サービス総まとめ

次へ

法制度から考える、今すぐ取り組めるペーパーレス化