なぜ「サマータイム」は見送られたのか?EUでは84%が反対!日本の働き方への影響は?

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今回、取り上げるのは「サマータイム」。日本では、2020年までの導入は見送られる見込みですが、引き続き導入に向けた議論は活発に続いています。一方で欧州連合(EU)が、サマータイムに関する"パブリックコメント(意見公募)"を実施し、回答者の84%が廃止を支持。本格的な廃止検討に入ったことも話題になりました。

日本の議論では、導入時のシステム変更に関わる問題がフォーカスされている印象ですが、導入された場合に、実際の自分の生活や働き方にどんな変化が起こるか、イメージはついていますか?

今回は「サマータイム」の概要とEUでの議論のポイントを押さえたうえで、「働き方」にどういう影響が起こりうるかを考えたいと思います。

改めて「サマータイム」とは

「サマータイム」は、日照時間が長くなる主に夏の期間に、国や地域の単位で、時計を標準時より一定時間(主に1時間)進める制度のことです。

日の出が早い時期には早い時間から生活を始めることで、太陽の出ている時間を有効に使うことを目的とし、海外では「Daylight Saving Time」と呼ばれます。

どれくらいの国で導入しているの?

歴史的経緯

「サマータイム」は、第一次世界大戦中のドイツやフランスで、石炭の消費、特に灯りとして使用する石炭を節約するために始まり、同盟国間で広まったと言われています。

第二次世界大戦が終わると、廃止する国が相次ぎますが、1970年代にイタリアやギリシャで近代的なサマータイムが開始され、オイルショックを背景としたエネルギーの節約や、近隣諸国との調和を目的に導入が進みました。

現在、ヨーロッパや北米、オセアニアを含む、約60カ国で「サマータイム」が行われています。夏と冬の日照時間の差を利用するため、差が大きくなる高緯度の国(北半球)が中心です。

導入している国では、どういう評価なの?

EUでは84%が「サマータイム」反対?

欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は、2018年7月4日〜8月16日の期間で、「サマータイム」の廃止について、オンラインの"パブリックコメント(意見公募)"を実施。460万件の回答が寄せられ、「回答者の84%が「サマータイム」の廃止に賛成」という結果を発表しました。回答は、EUの28の加盟国すべてから寄せられ、回答期間が、標準的な期間である12週間の約半分であったにも関わらず、過去最高の回答数であったことも併せて発表されています。

*参考 EUROPEAN COMMISSION - Press release "Summertime Consultation: 84% want Europe to stop changing the clock"

ちなみに、EUの人口は5.12億人。回答率は1%弱であり、もちろんこれがEUの総意とは言えません。しかし、人口1.27億人の日本に置きかえると、政府主導の意見公募に約110万人がに参加したことになり、関心の高さがうかがえます。

どこが論点で、なぜ反対されているの?

廃止に賛成する理由として、健康への悪影響や、交通事故の増加、照明技術の進歩により「サマータイム」導入の主目的であるエネルギー節減がさほど期待できないこと、などが挙げられています。

*参考 EUROPEAN COMMISSION - Public Consultation on summertime arrangements

欧州委員会は、パブリックコメント実施にあたり、論点となる複数の項目について、下記のような調査の結果を掲載しています。

国内市場

EU加盟国間で非統一の標準時を使用する場合、国境を越えた貿易に関わる費用が増加したり、輸送、通信および旅行で不便が生じたり、国内市場における財とサービスの生産性を下げる可能性がある。

エネルギー

調査によると、エネルギー節減効果は「サマータイム」を推進する大きな要因であるにも関わらず、わずかである。但し、結果は地理的要因によっても変化する傾向がある。

健康

「サマータイム」は、より多くのアウトドアレジャー活動に関連する肯定的な効果を生み出すと推定される。

一方、年代学的研究の結果は、これまで考えられていたよりも深刻に、人間の生体リズムに影響を与える可能性があることを示唆している。全体的な健康への影響(すなわち、仮定される好影響と悪影響のバランス)は確定的なものではない。

道路の安全性

交通事故との関係については、未だに判明していない。原則として、春に時計を進めることによる睡眠不足は、事故のリスクを増加させる可能性がある。同時に、夏に昼間の時間が延長されることは、道路の安全性にプラスの効果をもたらすと考えられている。しかし、一般的に「サマータイム」の影響を他の要因と比較して、事故率に直接関連付けることは困難である。

農業

新しい機器、人工照明、自動技術の導入により、動物のバイオリズムの混乱や、時間の変化による搾乳スケジュールの変更に関する以前の懸念は大きく消滅したように思える。夏季に昼間の時間が延長されることは、野外での作業や収穫といった活動の時間を延長できる利点にもなる。

日本で導入されたら、私の働き方はどう変わる?

ここまで、「サマータイム」の概要とEUでの議論のポイントについて紹介しました。

ここからは、「サマータイムが」実際に導入された場合に、私たちの「働き方」に与える影響について考えてみましょう。

今回は、リアリティのあるイメージを持ってもらいたく、まずは現在の案である2時間の「サマータイム」が導入された場合を、日本で1番日が長い「夏至」の頃でシミュレーションしてみたいと思います。

日本で2時間の「サマータイム」が導入された場合

前提

  • 日の出:4:25/日の入:19:00とする(東京の2018/6/21(夏至)の時刻より)
  • 勤務時間:9:00-17:30(実労7時間30分)とする

開始日

  • 「サマータイム」の開始日に、皆さんの腕時計や家庭用電子機器はもちろん、国中の時計を一斉に進めます。
  • 例えばアメリカでは、毎年3月の第2日曜日の2:00が開始日時と決まっており、1:59の次は2:00ではなく3:00に針を進めます。馴染みのない私たちからすると、なんとも不思議な仕組みですね。
  • アメリカに倣って、今日の夜中、1:59の次を4:00にすると仮定します

「サマータイム」がある世界

「サマータイム」がある世界もない世界も、生活の基準となる時間(例えば9時始業など)は変わりません。但し、「サマータイム」がない場合の実際の時間と、2時間の差が生まれます。(括弧の中が実際の時間)

  • 起床     6:30(実際は、4:30)※日の出 4:25
  • 午前勤務   9:00-12:00(実際は、7:00-10:00)
  • 昼食    12:00-13:00(実際は、10:00-11:00)

つまり今日から「サマータイム」が始まり、いつもと同じように「6:30に起き、9:00から働き、12:00から昼食を食べる」ためには、昨日までの「4:30に起き、7:00から働き、10:00から昼食を食べる」ことを実行しなければなりません。少し乱暴な言い方ですが、"国民全員が、強制的に2時間前倒しで生活をする"、というとイメージが掴みやすいでしょうか。

先述のEUでの議論で挙げられていた、"人間の生体リズムへの深刻な影響"はこの点についてですね。そもそも、「明日から、毎日2時間早起きする」ということ自体を、深刻な問題に感じる方も多いのではないでしょうか。

残業時間は増えるのか?

  • 午後勤務  13:00-17:30(実際は、11:00-15:30)
  • 残業    17:30-21:00(実際は、15:30-19:00)※日の入 19:00
  • 夕食    22:00(実際は、20:00)
  • 就寝    24:30(実際は、22:30)

続いて午後〜夜を見ていきましょう。終業の17:30が実際の15:30にあたり、例えば21:00まで残業しても実際は19:00。その頃にやっと外は夕暮れ時となります。この「早く終わる」印象が、終業後の残業増加を懸念させているのではと思います。

では、「サマータイム」は、残業を増加させるのでしょうか?

答えは"No"。正確には、「サマータイム」を直接の原因に残業が増えることはない、と考えます。

まず、残業コントロールがある程度できている企業・個人について考えます。「サマータイム」がある世界もない世界も、所定労働時間(例えば7時間30分)と「決められた時間で成果を出す」という点に変化はありません。業務改善や企業制度、企業・個人の意識によって、所定労働時間内に仕事を完了する習慣があれば、残業が増える可能性は低いと考えます。(但し「サマータイム」に体が慣れるまで能率が落ちる可能性や、「サマータイムに関連する業務が増える」ことは考えられます。この点では"YES"ですね。)

次に、残業が常態化している企業・個人について考えます。「サマータイム」は、"それまでの生活を、2時間前倒しで行う"という概念に近く、当然ですが、業務量や業務効率、会社の風土や個人の習慣はそのまま引き継がれます。よって、毎日5時間残業しないと仕事が終わらないのであれば、導入後も5時間かかる可能性が高いです。しかし、もちろんこれは「サマータイム」によるものではありません。また「外が明るいことで上司(もしくは同僚)が帰らず、残業時間が増えるのでは」といった意見も目にしますが、ここで解決すべき原因は、「上司が帰らないと帰り辛い風土」や、「タイムマネジメント意識の欠如」であり、「サマータイム」が直接の原因ではないと考えます。

終電についての補足

当然ですが、終電の時間も前倒しになります。例えば、毎日23:30退社の方の場合、「サマータイム」の世界の23:30=実際の21:30と聞くと、更なる残業が可能になるように感じるかもしれませんが、この場合は、終電も23:45=実際の21:45となるイメージです。

2時間早く働き始めたからといって、必ずしも2時間労働時間が増えるわけではない点がポイントです。

余暇時間が増えてワークライフバランスが改善する?

先述の、「終業 17:30、就寝 24:30」という生活の場合、終業後に使える時間は「サマータイム」があってもなくても同じ7時間です。ただ「サマータイム」によって、その中で日の出ている明るい時間が、1.5時間から、3.5時間に増加します。

よって正確に言えば、"余暇時間は増えないが、日が出ている時間が増えることで、余暇の選択肢(野外活動やレジャーなど)が増える可能性がある"と言えます。これは、直接的にワークライフバランスを改善するものではありませんが、今までとは異なる予定を立てるすることで、"残業をせずに帰る"という意識をもつ機会にはなるかもしれません。

朝型勤務との違いは?

「2時間早く働く」と聞くと、朝型勤務と似た印象を持つ方もいるかもしれません。大きく異なるのは、朝型勤務が、全社員共通の始業時間を前提に、個人のライフスタイルに合わせ変更を行うものであるのに対し、「サマータイム」が、全国民が一律で2時間前倒しの生活をするという点です。近年、フレックス制やリモートワーク、時差出勤など個人に合わせた柔軟な働き方が推進されてることと比較すると、画一的なこの制度はやや逆行しているようにも感じられますね。

特に、既に早朝の時間帯を自分のプライベートや学習時間、消化できなかった業務の解消に当てているような人にとっては、選択肢が削られることにもなりかねません。

まとめ

「サマータイム」が導入された場合、自分の実際の生活や、働き方にどんな変化が起こるか、イメージは湧きましたでしょうか?

今回ご紹介したのは「サマータイム」議論における一部であり、今回挙げた以外にも、議論すべきメリットとデメリットがあります。私たち一人ひとりの生活に直結する議題であり、慎重な検討が必要な分、興味が湧いた方は、ぜひご自身でも調べて頂けたら思います。

また「働き方」という視点で考えると、「サマータイム」が直接的に変化を起こすことは少なく、あくまで現在の企業・個人の「働き方」が継続する、ということをご理解頂けたかと思います。やはり「働き方改革」は、それぞれの企業が、自分たち自身で自社の状況を理解し、ゴールを何とするか、その為にどんな取り組みをするかを丁寧に考えていくことが重要です。

情報出典

EUROPEAN COMMISSION discontinuing seasonal changes of time and repealing Directive 2000/84/EC

Daylight Saving Time Around the World 2018

外務省 欧州連合(EU)の概況

国立天文台 東京の日の出入り

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